「かつて霊山同盟支部と魚沼支部がトラブルになった際、両者の代表がプロレスで決着をつけるという
「解説のくそみそニキこと阿部です」
「さて、あっくん。今回は魚沼支部の田舎ニキと上田市派出所の馬ニキの一騎打ちということですが、いざこざの原因は?」
「新潟県を支配下に置く魚沼支部と、長野県東部を支配下に置く上田市派出所の間、長野県北部の管理権でモメているようですね」
「それは…… いわゆる領地争いですか?」
「逆です。シェルター防衛の観点から野良悪魔が湧く原因となっている手つかずの霊地を制御する必要があるが、互いに余力がないからと押し付けあってます」
「あっ(察し)」
ウサミミネキが一瞬言葉に詰まり、生配信している中継枠のコメント欄がお悔み系のコメントで埋まる。
「気を取り直して、青コーナー*2、馬ニキの入場です!」
「入場テーマ曲は府中のG1ファンファーレか。懐かしいな」
「おおっと、馬です! 馬が出てきました! デカぁい! ばんえい競馬なみの大型種が通路を歩いています」
「体高(首の付け根から地面まで)180cm、体重1トンはありますね。馬ニキは後天的にデビルシフター能力を得たので、今日はこっちの姿で戦うようです」
「セコンドとして【シキガミ】の<川上姫>がジョッキーとして背に、同じくセコンドの金札・宮下知佳が厩務員として轡を取っています」
「終末前の競馬を思い出させますね、尻からトモ(後ろ脚の付け根部分)にかけての筋肉が惚れ惚れするような仕上がりで、これがレースなら単勝1.1倍のド本命ですよ」
「中継のコメント欄も盛り上がってます」
「続いて赤コーナー*3、田舎ニキの入場です。こちらもセコンドとして【シキガミ】の<破裂の人形>と金札・九重静が付き従っています」
「入場が地味ですね、チャンピオン側*4なのに興行を盛り上げようという気概がないのは駄目です」
「あっくんは辛口評価ね。試合展開はどう見る?」
「馬ニキがLv40に対して田舎ニキは倍以上、でも田舎ニキは魔特化なので力・体力ステータス自体は両者にそこまで大きな差はありません。馬型悪魔の姿で大きな体格という奇策に出た馬ニキを、ひょろっとした体*5の田舎ニキがどうさばくか。良いレスラーは箒相手にもプロレスできるという格言がありますが、いかに名勝負を演じてくれるか田舎ニキの立ち回りに期待ですね」
「レフェリーのカズフサニキが両者のボディーチェックをして、凶器を隠し持っていないことを確認しています。……カズフサニキの月架手町シェルターも長野県のどこかにあるんだっけ?」
「長野県に関する黒札の『プロレス』ですからね、彼も関係して当然です」
双方のボディーチェックが終わり、今、試合開始のゴングが鳴る!
「まずは両者がリング中央でにらみ合い。というか、田舎ニキはやり辛そうです」
「人相手の練習しかしてこなかったのでしょう*6」
「人同士ならまずは首相撲から始まるところですが、あっ、田舎ニキがエルボー! 馬の首に肘を叩きつけます! 半歩下がった馬ニキがお返しのタックル! 田舎ニキは体格差で大きく吹き飛びました」
「受け身をしっかりとってます。挨拶代わりのムーブとしてはまずまずですか。しか馬ニキの巨体だと、リング横断を三歩くらいでしょうか? 体当たりにあまり勢いを乗せられないのは欠点ですね」
田舎ニキはゆっくり上体を起こすが立ち上がらず、尻もちをついたままの姿勢でかかってこいと挑発する。
「これは! モハメド・アリに対するアントニオ猪木の作戦ですね」
「ほー、田舎ニキはそうくるのか」
馬ニキは後ろ脚で大きく立ち上がって、前脚でのストンピングを狙う。しかし田舎ニキは滑るようにするりと躱し、寝そべった体勢からお返しのスライディングローキックを叩き込む。
「アリキック! 馬ニキは露骨に嫌がってますね」
「馬にとって脚は命だから、そりゃそうでしょ」
「このまま両者にらみ合いか? プロレス的には塩試合になってしまうのか?! おっと、馬ニキが舌をペロペロする変顔で挑発! まるでゴールドシップです!」
「田舎ニキは挑発に乗りませんね」
らちが明かないと見た馬ニキは後ろ脚で立ち上がって後ろに下がり、ロープに尻と背を預けて反動で勢いをつけてダッシュ。三歩でリングを横断してまた立ち上がって反転、またロープに体を預けるというロープワークを行う。
「これは勢いのまま踏んで駆け抜けることでローキックを喰らわないというアピールですね」
「馬ニキがダッシュで踏みつぶし! 田舎ニキはなんとか躱すが、ロープワークから往復の、二発目! これも躱す! もう一回! 三発目も躱す、いや田舎ニキもんどりうった!」
「すれ違いざまの尻尾パンチが決まった」
仰向けに倒れた田舎ニキを馬の巨体が跨いで、そのまま両脚を折りたたみ座る体勢で腹から押し潰す。
「ボディプレス! 1トンの体重で抑え込みにかかります。レフェリーのフォールカウント始まった、1,2,田舎ニキ、跳ね返す!」
「高レベルの能力者は見た目と違って膂力ありますね」
「ここで畳みかけるか、馬ニキが尻もちついた田舎ニキの後ろに回って、前脚を振った! 田舎ニキの背中にバシーンと快音! サッカーボールキック!」
田舎ニキはごろごろ転がってリング下に降り、一息ついて仕切り直しを試みる。
「リングアウトのカウント20までじっくり時間を使う作戦ですか。セコンドの九重静がタオル片手に駆け寄ります、汗を拭く田舎ニキ、まだ余裕が見て取れます。それをリング上から見下ろす馬ニキ」
田舎ニキがタオルを九重静に返してリングに戻ろうか、というタイミングで、馬ニキのセコンドである<川上姫>がそこに突っ込んできた。
「試合中のセコンド介入はズルですわーっ!」
乗馬鞭をぶんぶん振り回す<川上姫>、九重静を守ろうとする田舎ニキとそこに割り込む<破裂の人形>。黒札1人とシキガミ2人が団子になって押し合いへし合いとなり、九重静は団子から押し出される。
それを好機と見た馬ニキが、リング上で助走をつける。
「まさか、飛ぶのか?! ロープワークで反動をつけ、今、踏み切ってジャンプ! 跳んだーーっ!」
高く放物線を描いた1トンの巨体が、くるりと体を丸めて背中から降ってくる。隕石となったそれは田舎ニキとシキガミ2人をまとめて押しつぶした。
「トペ・コンヒーロ炸裂! 3人そろってペシャンコ! ビックバン・ベイダー以上の体重とレイ・ミスレリイオJr.以上の高さが合わさった、馬ニキの必殺技が決まったーっ!」
「高所から飛び降りて全身を強く打ち付けるんだから当然ですが、攻撃を仕掛けた馬ニキもダメージを負ってます」
リング外で痛みにのたうち回る黒札2人、それに対してピクリとも動かないシキガミ2人。
馬ニキが場外に出たことで改めてリングアウトの20カウントが開始され、巻き込まれなかったセコンド金札2人がそれぞれの主人を介助してどうにかリング内に押し戻す。
「二人ともリングに戻りましたが、どちらも大きく消耗しています。それでも先に動いたのは馬ニキ、先ほどのように伸し掛かってさらなるスタミナ消耗を強いる作戦でしょうか?」
「いや、彼はアリキックのときに塩試合を嫌ったから同じことはしないと思う」
四つん這いになって何とか立ち上がろうとする田舎ニキの頭部に、するりと馬の尻尾がまとわりつく。
「ああっと、首絞め! 尻尾を使った首絞めだ! 田舎ニキは尻尾と首の間に指を入れて、なんとか窒息は免れています。さぁ、絞殺刑を田舎ニキはどうしのぐ? ロープに逃れようとするが、ぐいっと引き戻される! 馬力では勝てないのか? このままリング中引き回しの刑になってしまうのか? 空いた片手で馬の尻を叩いて悪あがきする田舎ニキ、ああっと、馬ニキが何かに驚いたのか拘束を解いた」
「田舎ニキ、ブフの力を手に込めましたね。異能を使うのはルール違反です*7」
「馬ニキのセコンドがエプロンに立って、レフェリーにクレームつけています」
「5秒以内の反則は反則じゃないのでセーフ」
「馬のプリ尻にくっきりモミジ型の霜焼けが浮かび上がっています、馬ニキにとってこれは屈辱」
レフェリーから田舎ニキに口頭注意が入りって両者仕切り直し。
「馬ニキ、ドゥラメンテのように前脚を高く上げるステップを踏んでます」
「今の反則技でかなり苛立ってる」
「馬ニキ、ゆっくり近づいてからのノーモーション体当たり! 田舎ニキ、吹っ飛ばされた! さあ馬ニキが背後に回っての、これはサッカーボールキックではない、後ろ脚キック狙いか」
「冷静を欠いたのか攻撃の組み立てが雑。さっきの吹っ飛び方といい、これは罠」
「後ろ脚を大きく振りかぶって…… 田舎ニキ、ひらりと交わした! そのまま後ろ脚に組み付いて、全身をかけて捻った! ドラゴンスクリュー! 体重1トンの巨体が崩れ落ちる! リングが衝撃で波うってます」
これがチャンスとばかりに、田舎ニキの逆襲が始まる。
「ダメージを与えた脚に追撃! 馬相手だと膝十字だかアキレス腱固めだかよくわかりませんが、田舎ニキが関節技で馬の脚を絞っています! 馬ニキの悲鳴? いななきが会場内に響き渡るが、まだ粘ります。馬力を生かして馬ニキがロープまでにじり寄りました。ロープブレイクです。おっと田舎ニキ、ロープブレイクの指示に従わない! レフェリーが反則カウントを、1,2,3,4! ぎりぎりで技を解きます。ロープブレイクとなりましたが、馬ニキは立ち上がるのに手間取ってますね、ビッコ引いてます」
最後の力を振り絞った馬ニキが体当たりを試みるが、それは田舎ニキに読まれていた。
「ジャンプ一閃、馬の首に両腕でしがみ付いた田舎ニキがぐるりと体を一回転してのスリングブレイド! 馬の巨体が再び崩れ落ちる!」
「これは決まったかな」
「首を跨ぐようにして背後を取った田舎ニキ、馬ニキのあご下に手を掛けて、仰け反ります。チンロックとキャメルクラッチの複合技でしょうか? 馬の首をねじ切らんとぐいぐい締める!」
「田舎ニキ、地味に片手で馬ニキの鼻を押さえてるね。馬は体の構造として口呼吸ができないからキっつい」
「あっ、馬の尻尾が力なくマットを叩く! ギブアップ、ギブアップしました! 決着、けっちゃーく!!」
「いやぁ、人と馬で試合が成り立つか危惧してたけど、二人とも思ったより真面目に『プロレス』してた」
「試合結果はレベルの高い田舎ニキが順当勝ちでしたね。それじゃ、第二回ガイアプロレスin新潟の中継はここまで。さよならー」