【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話   作:れべっか

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余話26 新潟行きリヤカーの旅(3)

前回の荷役馬納品の際には祭神の出迎えはなかったのに、今回はアメノウズメが出迎えたその意図とは。古式ゆかしいはずの挨拶をしたに関わらずアメノウズメがひきつった笑顔をして取り繕えなかった理由は。

そこら辺が気になったので、こちらに敵意がないことを示しながら何か思い違いをしているのでないかとやんわり問いただしたところ、アメノウズメは黒札相手に下手な隠し事は逆効果だと事情を話してくれた。

なんでも、神がわざわざ出張る必要はないと今回の取引も戸隠神社の担当者に任せるつもりだったが、その担当者が『浦野牧』の人間を荷運び人夫・肉体労働者と見下して賄賂を要求する心づもりであり、それを察知して慌ててアメノウズメが飛び出してきたのだとか。

 

「このご時世、護衛もつけずに戸隠神社(ここ)まで来れる相手はもれなく強者よ。それすら気づかぬ愚か者を不相応の地位につけねばならぬ、我らの力不足を嘆くばかり」

「まぁ、人材不足は『浦野牧』(うち)もですね。組織のトップがどっしり構えることもできずにあちこち御用聞きみたいなことやってるんで、それが勘違いを助長させたなら、俺の貫目が足りないってことでしょう」

 

もしかしたらアメノウズメは丸っきり嘘を言っており賄賂を要求しようとした愚か者は存在しないのかもな、とふと思った。金札の宮下周が口を酸っぱくして疑えと言い続けた成果が出たのかもしれない。でもそこを追及しても戸隠神社と『浦野牧』の双方が幸せになれないと直感したので、そこで思考を打ち切って素直に騙されることにした。

 

「じゃあ、神様に実務を仕切らせるのもあれですが、そば粉の荷積みをですね」

「うむ、倉庫に案内しよう」

 

互いに話題を切り上げたい思惑が一致して、馬ニキは倉庫に案内された。

蕎麦は米と比べて土地面積あたりの収穫量が二割ほどと少ないため、アメノウズメが見守るなか馬ニキと式神<ヒメ>の二人がかりであれば積み込み作業はすぐに終わる。

 

「本来であれば茶菓子なりで持て成すところだが、機を逸したな」

「それは次の楽しみに取っておきましょう、また来ますよ。オタッシャデー、サヨナラ!」

 

リヤカーを牽引するため馬型悪魔(スレイプニル)に変身している馬ニキはぺこりと頭を下げるにとどまり、古事記に記されているはずの丁重な別れの挨拶はアメノウズメには通じなかった。

 

*

 

戸隠神社から旧・長野市内に戻り、その足で新潟の玄関口となった十日町市シェルターへと向かう。【スレイプニル】の健脚であれば戸隠神社への寄り道込みでもお昼過ぎに十日町シェルターへ到着できる。

馬ニキは月に二回のペースで十日町を訪れるので、シェルターへの出入りも顔パスである。これは人が往来するという概念で新潟・山梨間の霊道を維持するための儀式であり、道中に湧いた野良悪魔の駆除、結界の綻びや土砂崩れなど霊的・物理的な欠損を早期発見する作業でもある。デビルシフト能力を得て、新潟・山梨の往復を一日でこなすことが可能になった馬ニキならではの仕事であり、道の補修に必要な人員・資材は十日町市シェルターに発注されることも多い。

 

「そんな訳で、俳人蕪村も一句詠んだ戸隠産の蕎麦粉を仕入れてきたんですよ」

「ええ、魚沼・小千谷・十日市はへぎ蕎麦が有名ですけど、うちは霊衣とキクリ米をメイン*1でやってますから、助かります」

 

何がそんな訳だ、と内心で突っ込みつつも、ここ十日町シェルターの運営側である金札である重下某*2はにこやかに応対する。

通常であれば霊道の補修が必要かどうか報告を受けるだけで済むのだが、今日の馬ニキは牽引してきた特注のリヤカーを自慢したくて堪らないようだ。黒札の機嫌を損ねないよう、しかし露骨なおべっかになってもいけないと、彼は内心で気を引き締めた。

 

「正直、【終末】後もここまで文明が維持できるとは思わなくて。ずっと前から労働力としての馬に賭けてたから、今更路線変更もできなくって……」

 

黒札なんだからターミナルの物質転送料をけちけちする必要ないだろ、今までの投資が無駄になるからって損きりできないからお前のシェルターは繫栄してないんだ、と口に出かかった正論をぎりぎりで飲み込み、彼は相槌を打ちながらこの雑談が早く終わらないかと祈った。

その祈りが通じたのかは不明だが、突然町内の電波塔から一神教の讃美歌が流れだし、未覚醒者たちが急に棒立ちになって意志薄弱な様子を見せ始める。

 

「なんだこれは?! テロか?!」*3

 

覚醒者ではあるが実戦経験が薄い重下*4が、不安な顔で周囲を見回す。テンパった様子の彼に馬ニキがそっと助け船のアイデアを出す。

 

「このシェルターは防衛用にシキオウジロボが配備されていますか?」

「そうです! あります!」

「じゃあ急ぎましょう。何処にあります?」

「十日町総鎮守・諏訪神社です!」

 

シキオウジロボは動力として地脈に接続されていることがあり、十日町シェルターではそこにあるようだ。

馬ニキはロボへの興味が勝ったのか、町内のいたるところで発生している散発的な騒動よりも彼についていく方を選んだ。

 

*

 

十日町市を見渡せる高台の上に諏訪神社は鎮座している。息せき切って到着した二人だが、パッと見てシキオウジロボは見当たらない。

金札・重下が腕時計を操作すると、時計の蓋がカパッと開いて何かのギミックが剥き出しになる。

 

「おっ、ジャイアントロボっぽいコンソール!」

「シキオウジ、起動せよ」

 

重下が命令を口にすると、神社の境内にある池が突然二つに割れて、池の底からシキオウジロボがせり出してくる。

 

「登場シーンはマジンガーZ! うーん、新潟のロボチームは分かってるねぇ」

 

うんうんと頷く馬ニキと、緊張でだらだらと汗を流している重下。

 

「どうした、シキオウジ! 動け! 動かないのか!」

「待機もーどカラ起動もーどヘノ切リ替ワリマデアト15分……」

「あ、シキオウジって起動まで時間かかる*5んだっけ」

 

頼みの綱のシキオウジがすぐには動かないと分かり、緊張の糸が切れたのか重下はがっくりと膝をついた。それに対し、楽観を崩さない馬ニキはシキオウジに興味津々。

 

「胸の放熱板といい、どう見てもマジンガーだよなぁ。ブレストファイヤーとか打てるの?」

「ハイ、【アギ】系ヲ胸カラ放射可能デス」

「パイロットはパイルダーオンして乗り込むの?」

「ノー、ソノ機能ハおみっとサレテイマス。音声指示ヲ受ケテ自律稼働シマス」

「──なに悠長な会話しているんです! こうしているうちにも、シェルター内の被害は広がっているんですよ!」

 

高台から市内を一望できるだけあって、巨大な天使【フラロウス・ハレル】と【ヴァーチャー】が大暴れしている様子もよく分かる。

 

「ゴ安心ヲ。私ガ起動用えねるぎーヲ地脈カラ吸イ上ゲルコトデ、アレラ狼藉モノヘノえねるぎー供給ヲ間接的ニ妨害シテイマス」

「それに援軍も来たようです」

 

空の彼方から轟音とともに来る物あり。鳥か飛行機かスーパーマンか、それは平べったい戦闘機のような、スペースシャトルの翼だけを独立させたような形状の『フライングアーマー』であった。

 

「善因には善果あるべし! 悪因には悪果あるべし! 害なす者は害されるべし! 災いなす者は呪われるべし! 因果応報・天罰覿面(マイティ・ブロー)ッ!!」

 

歌住桜子の活躍により、十日町シェルターの平和は守られた。

 

「シキオウジロボの出番はありませんでしたね……」

「切り札を温存できたとポジティブに考えましょう」

*1
故郷防衛を頑張る俺たち「近隣シェルターとの状況など。」

*2
勝手に捏造しました。九重家の分家という設定

*3
故郷防衛を頑張る俺たち「 シスターフッドと電子洗脳《サイコトロニクス》の危機。後編」

*4
ショタオジのダンジョンで鍛えられたLv40オーバーの黒札と比べたら仕方ない

*5
小ネタ「終末後のゆかりさんとあかりちゃん」

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