【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話   作:れべっか

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余話32 黒姫伝説(3)

キングギドラを苦難の末に撃破した馬ニキ一行。

(推定)リカームドラにより肉体的疲労はないのだが精神的疲労が積み重なっており、後始末は戸隠神社に任せてこのまま家に帰って寝てしまおうかとぼんやり考えていたところ、喜色満面の奴奈川姫命(ヌナガワヒメ)が小躍りしながら現れた。

 

「さすが平田殿! 邪龍を退治した今が黒姫山を押さえる好機です! 何者かに先を越されるぬよう、今から押さえに行きましょう! さあ、さあ!」

「えー…… 今から登山かよ」

 

戸隠神社から黒姫山山頂まで直線距離で8~10kmほど、ロープウェイ*1などショートカットできる要素もない。

 

「大沼池の主である龍を討った今なら道中の障害も大したことがありません、身体能力に優れる【覚醒者】であればピクニック気分で登頂できます! それに、こうしてのんびりいるうちに、戸隠神社が空き巣する可能性が高いのですよ!」

「はぁ~~? 言いがかりは止めてください!」

 

戸隠神社の祭神の一柱、アメノウズメが現れてヌナガワヒメに食ってかかる。

 

「お? 根も葉もない言いがかりだと? それは戸隠神社(そちら)が黒姫山をこちらに譲るという意思表示ですね?」

「それとこれとは話が別です! 黒姫山は戸隠・妙高・飯縄・斑尾と北信五岳を構成する要地、なんでぽっと出の貴女に譲るとお思いで?!」

「ぽっと出じゃないです、元から黒姫山の主です!」

「それは新潟県糸魚川市の黒姫山でしょ!」

「黒姫三山*2という概念もあるし、そもそも同名なら縁があるのは呪術の基本です! それに援軍要請の電話でこちらが黒姫山を押さえることを歓迎していたではないか!」

「歓迎したのは援軍であって、黒姫山を押さえることは違います! そもそも、援軍の見返りに何でもするとは言ってませーん!」

「そっちが前から黒姫山を押さえていたなら大沼池の主が暴れることもなかったでしょうに、未支配地を漁夫の利で掠め取ろうだなんて盗人猛々しい!」

 

アメノウズメとヌナガワヒメは互いに掴みかかってキャットファイトせんばかりの血相で言い争っていたが、くるりと馬ニキへと振り向いた。

 

「こんなBBAの言い分より、ピッチピチのわたくしを選んでくださいますよね?!」

「は~ぁ?! 彼の周りは美人で溢れているので、おかんポジションを敢えて取っているだけなんですけどー?! こう見えても脱げば凄いんですけどー?!」

 

低俗な口喧嘩に馬ニキは頭を抱え、ついでにヌナガワヒメの子であるタケミナカタも母親の醜態に顔をしかめている。

 

「ああ、もう! 戸隠神社(そちら)の要望で援軍を出したのだから、その代価として、黒姫山をこちらが押さえます!」

 

面倒になった馬ニキは半ば自棄になってそう宣言し、ガッツポーズを取るヌナガワヒメと、力なくうつむくアメノウズメ。

 

「よょょ…… 妙高戸隠連山国立公園の一角が越後からの侵略者に奪われるなど……」

「いや、ヌナガワヒメは諏訪にも祀られているから、侵略者ではないのでは?」

「機織りの守り神『黒姫』はどう考えても越後の概念です……」

「ふふふ、そもそも糸魚川も柏崎も戸隠と距離は近く、昔から人の往来は盛んでした。ですから概念が交わるのも当然で、侵略というほど苛烈な塗り替えではありません。わらわが黒姫山の主と化したら伝説にある高梨氏の黒姫とも合一しますので、土着の信仰のままですよ」

 

勝ち誇ったヌナガワヒメと、がっくり肩を落とすアメノウズメ。

 

「アメノウズメの敗因は、先に色仕掛けで話を逸らそうとしたことかな」

「ぅぐぅ……」

 

ぐうの音も出ないと思いきや、最後にぐうの音を絞り出すアメノウズメ。

おもしれー女。馬ニキはそう感じた。

 

戸隠神社(とがくし)は天津神系だから、祭神が国津神系のガイア連合派出所(うらのまき)に頭下げられないって変に意地張るからですよ、もう」

 

ヌナガワヒメの指摘に今度こそぐうの音も出せなくなったアメノウズメは押し黙った。

*1
終末前は中腹までロープウェイがあったが終末後は稼働していない

*2
糸魚川市、柏崎市、北信濃町の3つ

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