黒姫山の登山ルートは、黒姫山の東にある黒姫里宮からの表参道ルートと、黒姫山の南西にある戸隠からの大橋林道ルートの2つがある。
そのうち大橋林道ルートは登山好きのハイカーであれば往復7~8時間とされており、【終末後】は人が住まぬ地となり登山道整備も望めないが、高Lv覚醒者の身体能力ゴリ押しで藪を突っ切って2時間かけずに馬ニキは山頂へと登坂した。
黒姫山の山頂には小さな石祠があり、そこには『大毘沙門天、黒姫弁財天、七ツ池龍王』と刻まれた石板が江戸時代に設置されている。七ツ池龍王は黒姫伝説の黒龍を、毘沙門天は越後の上杉謙信をそれぞれ連想させる。
「黒姫、いまここに」
ヌナガワヒメが感極まった様子で石祠を抱きしめると、周囲のマグがヌナガワヒメに集まっていく。
「これが黒姫山の主になるってことか」
見届けると言い張ってここまで付いてきたアメノウズメが、羨望と嫉妬が入り混じった表情でヌナガワヒメを見つめている。
うーん、つい最近、十日町の機神社で
「助力していただいた平田殿には深い感謝を。代わりに其方が北信濃を支配する一助になりましょう」
霊脈との一体化が終わったヌナガワヒメがこちらに振り返って深々と礼をする。
あれ、ヌナガワヒメ、若返ってない?
「ほほほ、『黒姫』としての側面を強めればこの通り、美姫としてそこな天女*1にも引けを取らぬであろう?」
うわ、口喧嘩でBBAと呼ばれた意趣返しかよ。はいはい、そこのアメノウズメさんも喧嘩を買おうとしない。
「ついでと言ってはアレだがな、長野市街から国道18号線を北上して上越市までの街道整備をお願いしたい。鉄道でいう黒姫駅のあたりに黒姫弁財天を祭る里宮の別当・雲龍寺を復興してシェルターとすれば、街道宿場町として役に立とう」
「ちょ、ちょーっと待ったーっ! いくら平田さんがお人よしでも、それは要求しすぎでしょ! 何それ、零細神霊が【ガイア連合】支援のもとシェルターの主祭神として成りあがるって、
アメノウズメが食ってかかるが、ヌナガワヒメ/黒姫は鷹揚に構えて相手にしない。
「今すぐとは言いませぬ、其方が東信濃の支配を固めて余力ができてからで構わぬとも。それに新潟までの新街道は
ぐぬぬ… と唸るアメノウズメの百面相を見ながら、馬ニキは考えを巡らせる。
田舎ニキとのプロレスに負けて*2長野県北部の管理を主導することに決まったので、ヌナガワヒメの言い分はある意味で渡りに船ではあるが。
「そうだな、今すぐにという余裕はない。単なる流れで黒姫山を押さえたが
ヌナガワヒメ/黒姫は満面の笑みで彼の返答に同意する。
「前向きな回答をここで得られただけで充分です。五年でも十年でも、何なら子の代・孫の代になるまで待ちますとも」
「子の代ねぇ。あまり先の未来は保証できない」
「あらあら、わらわは諏訪で子宝安産の神として祀られているのですよ? 何なら大きめのガイア連合支部のスラムで燻っている女に『俺の子を3人産んだら黒札シェルターの戸籍を与える』とでも声を掛ければ入れ食いでしょうに*3」
「なんとまあ、自作自演だこと」
ヌナガワヒメ/黒姫の発言に何かしら噛みつくアメノウズメだが、ガイア連合に【種乞い依頼】*4して複数女性を孕ませているので、他人をとやかく批判できる立場じゃないと思う。
「それは今すぐ決めることじゃないから、今日は解散しよっか。あ、リヤカーの残骸は回収しないとな」
「あそこまで破損すると、修理より新品買い直しのほうが早いと思いますが」
「キングギドラ討伐に役立ったしさ、スクラップをリサイクルしたらドラゴンスレイヤーの概念がワンチャン付与されるかも?」
後日、修繕されたリヤカーに『ドラゴンスレイヤー』でなく『ドラゴンカーセックス』の概念が付与されたことで、馬ニキは自身の浅慮を後悔することになる。どっとはらい。