「崩壊した世界でもファミチキ食べたい」
【ガイア連合】の【黒札】のスローガンだというジョークだが、半分は当たっている。
黒札が豊かな食生活を送りたいなら、山梨・星霊神社のお膝元である山梨支部に詰めるのが良いだろう。ショタオジ謹製の
【終末】後の世の中では、終末前と同じ食生活を維持するには膨大なマッカが必要にあるが、修羅勢の中にはこの『食』を楽しみとしている人も少なからずいるのだとか。
そのような世情で、山梨支部ではなく全国各地の支部・派出所に居を構えている黒札はどうかというと、某漫画食材の再現に勤しむ探求ネキ*2を筆頭にグルメに目がない連中が多い。
かくいう馬ニキこと平田維茂も、食い倒れというほどではないが粗食と美食なら断然美食派である。小なりといえどガイア連合【派出所】のトップであり、Lvも40を超えて【シキオウジ】を倒せないもののそれなりに実力がある。彼は稼いだマグを基本的に派出所に投資しているが、その中に『長野県産の食材復興』が含まれるのはご愛敬。
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「いただきます」
一日の活力は朝食から。馬ニキは手を合わせて軽く目をつぶり、日々の恵みに感謝してから箸を手にする。
彼と一緒に食卓を囲むのは汎用スキル・食事を持つシキガミの<ヒメ>と地元霊能組織の霊能者であり彼の妻である宮下千佳(終末後は日本国の戸籍システムが滅茶苦茶なので内縁の妻という形で姓変更していない)の3人で、飲食不要である彼の仲魔たちは一家団欒に顔を出さないことが多い。
まずは味噌汁の椀に手を伸ばし、箸先を軽く湿らせてから信州味噌の香りを感じながら椀に口をつける。
切干大根と
続いてはメインディッシュであるハムエッグ。胡椒やウスターソースなどの調味料はかかっておらず、付け合わせの千切りキャベツにもドレッシングのない素ハムエッグだが、オレンジがかった半熟の黄身と白磁のような白身の対比が目に鮮やか。
目玉焼きの白身が千切れないよう慎重に摘まんで丼茶碗の白米の上に乗せる。半熟の黄身を箸でつついてトロリと流れ出たところに醤油*4を一滴。黄金色に塗れた銀シャリと白身の切れ端をまとめて頬張り、黄身の濃厚な味と醤油のアクセントをじっくりと咀嚼しながら味わう。
お次はハム*5、厚切りのそれを端っこから齧り、付け合わせの千切りキャベツもちょいと取って、豚肉+キャベツ+ご飯のコンビを完成させる。
梅干しと味噌汁で口内を適宜リセットしながらハムエッグを片付け、白米のお代わりを盛り付けたら今度は納豆に芥子と醤油を入れてかき混ぜ、納豆ご飯にする。薬味の刻みネギは少しだけ取り分けて味噌汁にトッピングするのも乙なもの。
終末前であればありきたりの朝食、しかし終末後では限りなく豪華な食事。
佐渡島支部のパピヨンニキも支部長という絶対的権力に付随する余禄*6と認識しているほどの贅沢。
「ごちそうさまでした」
食後のお茶を片手に食休み。空になった食器をぼんやりと見つめていると、<ヒメ>が不安そうな表情で聞いてきた。
「あの、主様? メニューに何か不満でも?」
「いや、不満というほどではないんだけど…… 味噌汁の出汁が、ね」
贅沢なのは分かっているんだが、と前置きしてから馬ニキは心のもやもやを吐き出す。
「出汁が魚樫*7なのが」
「便利ですし、美味しいですよね!」
探求ネキが開発した改変植物のうち、幹枝を削れば鰹節になり肉厚の葉は刺身になるという、鰹と樫のハイブリッドである魚樫。海のない長野県では海産物を味わえる貴重な存在であり、馬ニキは探求ネキに頭を下げて譲ってもらい育成していた。
「いやー、終末前には存在しなかった謎食材を使うと、地産地消100%とは言えないというか、こう、何か負けた気になるんだよな」
「今更そんなことを気にするんです? この前も笹茶をメンマ竹*8製にして効能アップと喜んでいたじゃないですか」
馬ニキはかつて田舎ニキへ勝手な対抗心を燃やした挙句勝手に負けた気になったこともあり、またか、と呆れながら<ヒメ>は彼のよく分からない拘りをばっさり切り捨てた。
「そもそも主食のヒノエ米を瀬戸内から輸入している時点でねぇ? 七味唐辛子の陳皮(温州蜜柑の皮)も
「まぁ食料自給率は大事だから……」
「自給率アップとかいって、【女神ハトホル】にマグを捧げて得たパンと水だけで生き延びる*9ようになるのはちょっと嫌かな」
なんとなくの反抗心を素直に捨てられない馬ニキに、<ヒメ>だけでなく千佳も参戦して二人がかりで説得しようとする。
「自給率なんてほどほどでいいから、海なし県でももっと海産物が食べられるように交易すべきです」
「板海苔でしょ、昆布の佃煮でしょ、アジの開きでしょ。煮干し出汁のワカメの味噌汁、タラコ、しらす干し…… 食べたいなー♡」
指折り数えあげられるおかずの名を聞くと、飯テロを浴びせられているような気になる。朝食を済ませたばかりでなければ屈していただろう。
「……合言葉はファミチキ食いたい、か」
黒札【俺たち】の行動理念に深く共感した馬ニキは、愛妻のおねだりにお手上げのポーズで応じるのであった。