ある日、山梨・星霊神社に所要があり立ち寄ったところ、技術部のエドニキから相談を受けた。
「【アガシオン】の不良在庫をどうにかして売りさばきたい?
「いや、あれとは危なさのベクトルが違うっていうか…… まぁ実物見てもらうのが分かりやすいか」
エドニキはそう言うと、手のひらサイズの陶器の一合炊き釜を取り出した。
「それは…… 駅弁『峠の釜めし』の容器?」
「ああ、そうだ。製作者がグルメにこだわって、これにアガシオンを入れたんだ」
エドニキが釜の蓋をひょいと取り外すと、背に羽の生えたデフォルメ体型のワニらしきものが中から出てきた。
「なかなかユーモラスで愛嬌のある外見をしてますね。ぱっと見では問題なさそうですけど」
「まぁ問題はここからだな。少し待てば分かる」
ふよふよとエドニキの周囲を漂っていたアガシオンだが、観察しているうちに突然歌うように喋りだした。
『好きな惣菜を発表します。唐揚げ。なめろう。豚肉と厚揚げの中華風旨煮』
「あの、これって……」
「うん、
「無許可でパクったから売るのが
「いや、
アガシオンは惣菜名を三つ連続で喋った後、押し黙った。それだけかと思ったら、少し間をおいて再び喋りだす。
『牛すね肉とパプリカをトマトで煮込んだやつ*2』
「発表する品名、数とインターバルはランダムだ。不意の飯テロで集中力が削がれる上に、【終末】前の豊かな頃のメニューを伝えるからタチが悪い」
「終末後の物資不足のご時世でそれは厳しいですねぇ。あー、日本語の分からない外国人に売るなら飯テロにならないかも?」
「ダメだ、こいつはその料理を知らない人にはテレパシー能力で伝えるから、日本語が通じないやつとか、終末後に生まれた終末前を知らない世代とかにも飯テロる」
困ったねぇと肩をすくめるエドニキ。
『おきゅうと』
──おきゅうとは、九州・福岡の郷土食でありコンニャクやトコロテンに似た海藻加工食品。からし酢味噌で食べるのが一般的だが胡麻油ネギの中華風、青じそドレッシングやポン酢などもあう──
突如脳内に流れ込む、食べたことのない料理の情報。外見イメージだけでなくうっすらとではあるが味覚や口触り感まで伝わってきたあたり、ガイア連合の黒札が趣味全開で作成したことがよくわかる。
『根深汁。昭和の文豪、池波正太郎は鶏皮を少し入れた葱の味噌汁で酒も飯もすませてしまうほど好物だとエッセイに書いている』
「お、惣菜名だけでなく解説がつくようになりましたね」
「知名度が低い料理を説明したり雑学知識を披露する、一言コメント追加モードに入ったか」
エドニキが言うには、アガシオンを戦闘に使うだけでなく日常から触れ合って欲しいという製作者の願いから搭載された機能だそうだ。
『モツ焼き、特にハツ。テスカポリトカいわく生贄に捧げられた勇者の心臓が一番美味い』
「ん? ちょっと、AI学習データに変なの混じってますよ」
「学習データの一部をピンポイントで削除できないんだ。やるなら完全リセット・データ全削除だけど、料理データベースとして価値があるからそれはしない方が良いとジャンニキには言われた」
先程のおきゅうとの感触を体感しているので、ジャンニキが勿体ないと言ったのも理解できる。
『鮎のテンプラ。これに比べると山岡はんの鮎はカスや。山形・庄内の芋煮。仙台の芋煮はエセ芋煮』
「ヘ、ヘイトスピーチ…… 一言コメントが完全に悪い方向へ向いてしまってますね」
『お好み焼き。広島焼はお好み焼きとちゃうで。御座候。これは今川焼でも大判焼きでもベイクトモチョチョでもないが、府中競馬場で売られるときのみGⅠ焼きという例外を許す*3』
「これはAI学習時に悪意ある奴のオモチャにされたかな」
エドニキは頭痛を堪えるように額に手を置き、アガシオンを容器の中に戻した。
「アガシオンがレベルアップして【カンバリ】に変化した*4前例があるように、【ハトホル】などの食物を生み出す存在になってくれることを期待して作られたんだけど」
「【オオゲツヒメ】など食物神になる可能性はありますが、確実に変化するとは限らないうえに、変化するまでが苦行ですね。この学習データのままでは売れないと思いますよ」
やっぱそうだよね、とエドニキはがっくり肩を落とした。