【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話   作:れべっか

91 / 148
余話40 デュエルしようぜ

【ガイア連合】には遊戯王をモチーフにしたカードゲームやビーダマン・ベイブレード系のテックギミック玩具を取り扱っている【ホビー部】*1が存在する。

それに対し、馬ニキは一歩離れたところから静観していた。なぜなら、彼は前世でTCG(トレーディングカードゲーム)の原点にして頂点*2、Magic: the Gatheringにドはまりしており、遊戯王は彼にとって数ある後追いの一つにすぎなかったからだ。

 

そんな馬ニキであるが、ホビー部主催のカードゲーム大会に参加することになった。

ホビー部では常に初心者を呼び込んでゲームを衰退させないことに気を配っていて、新規集客につながる他IPとのコラボも積極的だ。このたびギャザのカードをコラボで取り込むことになり*3、それに釣られたというわけだ。

 

大会の会場でお上りさんよろしくキョロキョロと落ち着きのないムーブをしていると、アメリカ国旗柄のバンダナとサングラスをしたキースという男に声をかけられた。

 

「ヘイ、何か探し物でも?」

「あー、いや、こういう大会は初参加なんでな。全てが物珍しいっていうか」

「初参加! 素晴らしい! 分からないことがあるなら何でも聞いてください」

 

キースは大げさなジェスチャーで馬ニキを褒める。もちろんこれは初心者を優しく沼に引きずり込む策略であり、雑談で彼の緊張をほぐしにかかる。

 

「どうです、大会の開始までまだ時間はあります。フリープレイで対人戦の感触を確かめてみませんか」

「そいつは有難いけど、俺は弱いぞ。あんたのような強者には歯が立たないだろう」

「心配ご無用!」

 

キースは着ているベストの前をガバっと広げて、デッキをいくつも持ち歩いていることをアピールする。

 

「そっちに合わせます。ガチでもファンでも大丈夫です!」

「じゃあ、お言葉に甘えて…… ギャザコラボデッキの試し切りにお付き合いをお願いします」

 

キースはこの界隈で有名人らしく、幾人もの観戦者(ギャラリー)が二人を遠巻きに囲み始める。

大会初心者の馬ニキは目の前のキースに手いっぱいでそれに気づいていないが、キースは目ざとく周囲を見回し、見知った顔にアイコンタクトを飛ばす。

 

『初心者に気持ちよく遊んでもらうために、悪質なギャラリーは排除してくれよ?』

『もちろん! 盛り上げ役だって任せてちょうだい!』

 

そんなやり取りがされているとはいざ知らず、馬ニキは丁寧に自分のデッキをシャッフルし、キースのデッキをカットする。

 

「じゃあ、まずはアンティ*4を公開します」

 

馬ニキはデッキの一番上をぺらりとめくり、そして露骨に顔をしかめた。

 

「<セラの天使(Serra Angel)>!…… しかも【エンジェル】が宿っている魂のカード! これを使えないのは相当の痛手!」

 

仕込みのギャラリーであるショタコンお姉さん(サイカネキ)が解説すると、他のギャラリーもざわざわとどよめく。

そして対戦相手のキースもかなり動揺していた。それはキースがデュエリストの直感でデッキ内のキーカードに目星をつけ、そのカードが初手に来るようなデッキカットをするという、初心者接待のための半イカサマ行為をしたからである。

初手にあるはずのキーカードがいきなりゲームから除外されるのは、キースとしても想定外であった。

 

『なにぃ~、アンティだと! そんな古いルールを持ち出すなんて予想外だぜ! しかもお高い! くそっ、どうすんだ!』

 

馬ニキがマグをつぎ込んでチューンしただけあって、そのカードには【エンジェル】Lv20が封じられている。それを転売するだけでキースにとって数か月の生活費に相当するだろう。

 

「そちらがカードを公開してから言うのもアレですが、フェイク・アンティ*5ですよね?」

「私はどちらでも構わないので、そっちが決めてください。大会前にパーツを失っても予備がありますので、私は大丈夫です」

 

それを聞いて、キースは闇デュエリストとしての血が騒ぎだすのを感じ、ぶるっと身震いした。

 

「無知なガキからむしり取る(シャーク・トレード)のとは違いますぜ? リアル・アンティ、真っ向から受けて立ちましょう!」

 

キースはにやっと笑い返してから、自分のデッキトップをめくりアンティ札を示す。

 

「こちらは<生命吸収(Drain Life)>! コモンだがクリーチャー除去にもフィニッシャーにもなる使い勝手の良いパーツが1枚消えて、どうなる?!」

 

馬ニキとキースは互いに初手をめくり、マリガン*6がないことを確認してゲームスタート。

 

「平地セット、召喚(サモン)、<ツンドラ狼(Tundra Wolves)>!」

「ほぅ、ビートダウン*7ですか。白単色なのか多色なのか。ウィニー*8なのか、ミッドレンジ*9なのか。それではこちら後手、ワンドロー! 沼セット、召喚(サモン)、<羽ばたき飛行機械(Ornithopter)>! そして<邪悪なる力(Unholy Strength)>をエンチャント!」

『おおっと、キース、0マナカードを絡めて手札を1枚多く消費して、いきなり2/3飛行! ツンドラ狼の1/1先制攻撃では突破できない大きな壁! 挑戦者、どうする?!』

 

馬ニキは額に皺を寄せながらドロー、引いたカードを手札に入れた後一度手札を軽くシャッフルし、引いたカードが手札のどの位置にあるのかを分からなくする。それを見たキースは、馬ニキが初心者ではなくカードゲーム引退復帰勢だと見抜き、余計な手加減は不要と判断する。

 

「平地セット、召喚(サモン)、<ライトバー騎士団(Order of Leitbur)*10! 攻撃なしでターンエンド」

『プロテクション黒! 小粒ながらマナを注げばパンプアップする、黒いデッキ相手の2T目にはうってつけのクリーチャー! さあキースはこれにどう回答するのか?』

「ドロー、沼セット、飛行機械で攻撃して2ダメージ。その後、召喚(サモン)、<アーグの盗賊団(Erg Raiders)>!」

『キースの回答は殴り合い! クリーチャーでの殴り合いです!』

「ドロー、平地セット、<十字軍(Crusade)>をプレイ! 騎士団で攻撃して3ダメージ。その後<アイケイシアの投槍兵(Icatian Javelineers)>を召喚(サモン)してターンエンド」

『挑戦者、全体強化エンチャントを引いて圧を掛ける! 盗賊団は攻撃して狼と投槍兵ダブルブロックで1:1交換するか、攻撃せずブロックに回る代わりに2ダメージ貰うか悩ましい選択です』

 

キースはドロー後、どや顔をしている馬ニキに申し訳なさそうな顔をしてみせた。

 

「フルタップしての横展開が仇ですね。山セットからの<地震(Earth Quake)>をX=2でプレイ」

『おおっと、キースのビッグプレイ! 黒単色と思わせて黒赤2色、カード1枚で狼・騎士団・投槍兵の3枚を除去する1:3交換は挑戦者に手痛いアド損*11!』

 

わずか一手で自身の盤面を一掃され、ぐにゃぁという擬音が聞こえるほどに劣勢に追い込まれる馬ニキ。

その後は<白騎士(White Knight)>に<稲妻(Lightning Bolt)>、<惑乱の死霊(Hypnotic Specter)>に<剣を鍬に(Swords to Plowshares)>と1:1交換が続くが盤面は変わらず、盗賊団と飛行機械により馬ニキのライフが削れていく展開となる。

 

『再度の圧を掛ける白騎士と、ヒッピー*12を除去する剣鍬(けんすき)*13、どちらもノータイムで叩きつけています。挑戦者のドローも悪くないというか、上質の部類なんですが、先手後手で手札1枚の差があるのに1:3交換まで追加されると、苦しいですね』

『そうですね、キースはこれからも1:1交換を続けていけるなら盤面有利のままですから』

 

いつのまにか、サイカネキだけでなくホビー部に投資しているゆかりさんまでやってきて、解説役が2人に増えて賑やかになっている。

ゲームに集中してよそ見する余裕のない馬ニキに対し、キースは見知った観客に挨拶として軽く手を振るだけの余裕がある。

 

「ドロー!! <魔力の櫃(Mana Valut)>からの召喚(サモン)、<セラの天使(Serra Angel)>!」

『挑戦者、賭け札(アンティ)にもなっている天使の2枚目を引き込んだ! 土地3枚からの5/5飛行警戒は強烈! 一気に盤面が動きます!』

『対するキースも、想定より1T早い天使に思わずしかめっ面! 5枚目の土地を伸ばしてターンエンド、盗賊団が攻撃せずに2ダメージ』

『挑戦者はアップキープに櫃の1ダメージ、そしてドローは2枚目の十字軍! 2ターン連続の良ツモ、6/6天使のえぐい攻撃をキースはボディで受けます。飛行機械を温存したことは天使への回答策があるのでしょうか』

『キースのターン、ドロー! 土地セットから召喚(サモン)シヴ山のドラゴン(Shivan Dragon)>、大物投入で戦況は再び膠着状態に戻ります。盗賊団が攻撃せずに2ダメージ、これでライフは互いに7です』

『挑戦者は櫃でライフ6にしてドロー。お見合いしても仕方がないとばかりに天使で攻撃! キースはドラゴンと飛行機械のダブルブロックを…… いや、キースはブロックせずにボディで受けます! 残りライフ1! これはいったい?!』

『返しのターン、キースはドラゴン・飛行機械・盗賊団でフルアタック。ドラゴンが赤マナ投入でパンプアップできるから、天使とドラゴンが相打ちせざるを得ません! おっとここで挑戦者が<解呪(Disenchant)>! 盗賊団の2ダメージのみ通ってこちらも残りライフ4』

『なるほど、キースは解呪を読んでいたのですね。あのターンはドラゴン召喚にマナを使い切っているから、天使の攻撃をダブルブロックすると、解呪で飛行機械を割って天使が一方殺を取れる。挑戦者の仕掛けた罠をキースが搔い潜りました』

『おぉっと、キースが戦闘後第2メインで<黒騎士(Black Knight)>! ここで満を持してのプロテクション白!』

『馬ニキは櫃でライフ3に削れます! 黒騎士と盗賊団の2体を同時に対処しないと片方の2ダメージに櫃で終わってしまいます! 白単に対するプロテクション白は圧が強すぎる!』

 

馬ニキは祈るようにデッキトップからドローすると、深呼吸して意図的に低い声を出した。

 

「──<天秤(Balance)>」

『ここで白の最強リセット呪文が飛び出す! 対象を取らないのでプロテクション白もお構いなし! 挑戦者の引きの強さ(トップデッキ)が際立ちます!』

 

キースの土地3枚とクリーチャー2枚が吹き飛び、お互いに出札はゼロ。それでも馬ニキは盤面リセットしただけでターンを終了するので、手番が回ってきて先にアクションを取れるキースが断然有利。

 

「ふっ、普段は頼りにならない奴でも、こんな状態じゃ心強い── 召喚(サモン)、<沼のインプ(Bog Imp)>」

 

苦境を脱したはずなのに、直前のターンとまるで同じシチュエーション。馬ニキはドローカードをちらりと見た後、負けを認めて場に展開されている自分のカードを搔き集めた。

 

投了します(グッドゲーム)。残りライフを1に追い詰めてからが遠かった…… 全除去あるデッキにウィニーで挑むのは相性不利だけど、まぁ食らいつけたな」

「そちらの引きもかなりのものでしたね、地震もドラゴンもあと1ターン遅かったらどうなっていたことやら」

 

簡単な感想戦を交わし、馬ニキとキースはがっちり別れの握手をした。

 

「その賭け札(アンティ)は勝者の取り分だ、持っていきな。売れば大会後の打ち上げ代になるだろ」

「ごっつあんです」

「ふふふ、メーカー・ユーザーどちらも手探りだったあの頃のカオスな雰囲気を思い出せて、楽しかったぜ」

「そろそろ大会受付の締め切り時間です、受付を済ませていないなら余韻に浸るのもほどほどに」

 

キースのアドバイスを受けて席を立った馬ニキに、それまで観戦していた中学生くらいの女の子が近寄って声をかける。

 

「あのっ、さっきのデュエル、惜しかったですね」

「ああ、ありがとう」

 

カードゲームをやれば女の子にモテモテなんて、ホビーアニメの中だけの出来事だと思ってたけど、現実でもあるんだな。

馬ニキは非現実的な出来事を前にして、ぼんやりと変なことを考えた。

 

「あのぅ、デッキに、天使とか、白騎士とか、十字軍とか、使ってましたよね?」

「そうだけど」

「良かったー、メシア教のお仲間が増えて、私、安心しました! よろしければ今日はずっと、ご一緒しませんか?」

 

キラッキラな雰囲気をまとって話しかけてくる美少女、しかしその実態は訳アリの厄ネタであった。

 

「いや、俺はメシア教徒じゃないけど」

「またまたー、カードを深く信頼しているからこそカードも引きに応えてくれるんですよ、常識です! あれだけ天使や十字軍を引き込めるんですから、さぞかし名のあるお方とお見受けしました。どこの教会に所属してらっしゃいます? 連絡先を交換してもいいですか?」

「はいそこっ、大会中の宗教勧誘は禁止です!」

 

サイカネキが大急ぎで割り込み、馬ニキはメシア教徒に粘着されるという非常事態から逃れることができた。

しかし大会開始前にテンションがだだ下がりした馬ニキは、『デッキが応えてくれない』状態となって本戦を散々に負けるのであった。

*1
小ネタ「ホビーものの悪役やりたい系俺たち」

*2
原点はともかく頂点は異説あります

*3
デュエルマスターズやロードオブヴァーミリオンはコラボしている

*4
M:tGの初期にのみ存在したルール。ランダムで公開したカードを互いに賭け、負けたらカードの所有権を失う

*5
カードを見せるだけで実際には賭けないルール。両者合意の上でカード所有権を賭けても良いし賭けなくても良い。

*6
何もできずに一方的に負けることを防ぐ、初手をやり直すルール

*7
クリーチャーで殴りきる戦略のこと

*8
小型クリーチャーを並べて数で押すタイプ

*9
序盤は小型クリーチャー、中盤からは中型クリーチャーと、横並べより1体の質を重視するタイプ

*10
フォールン・エンパイアに収録。日本語名は仮訳

*11
アドバンテージを失うの意味

*12
惑乱の死霊の俗称

*13
正式な日本語名は"つるぎをすきに"だが俗称は"けんすき"




馬ニキが4ED+FEMの白単、キースが4EDのみの赤黒。
天秤と露天鉱床は1枚制限です。

初手
馬ニキ:平地、平地、平地、狼、投槍、ライトバー、十字軍
キース:沼、沼、沼、山、飛行機械、邪悪な力、盗賊団

馬1Tドローなし
場:平地、狼
手札:平地、平地、槍男、ライトバー、十字軍

キ2Tドロー地震
場:沼、飛行機械&邪悪な力
手札:沼、沼、山、盗賊団、地震

馬3Tドロー天使
場:平地、平地、狼、ライトバー
手札:平地、槍男、十字軍、天使

キ4Tドロー稲妻
場:沼、沼、飛行機械&邪悪な力(ATK)、盗賊団
手札:沼、山、地震、稲妻
馬Life20->18

馬5Tドロー白騎士
場:平地、平地、平地、狼、ライトバー(ATK)、十字軍、投槍
手札:天使、白騎士
キLife20->17

キ6Tドロー山
場:沼、沼、山、飛行機械&邪悪な力(ATK)、盗賊団(ATK)
手札:沼、山、稲妻
地震X=2で馬のクリーチャーが全滅、その後に攻撃
馬Life18->16->12
キLife17->15

馬7Tドロー剣鍬
場:平地、平地、平地、十字軍、白騎士
手札:天使、剣鍬

キ8Tドローヒッピー
場:沼、沼、沼、山、飛行機械&邪悪な力(ATK)、盗賊団(ATK)、ヒッピー
手札:山
稲妻で白騎士、ヒッピーは剣鍬される
馬Life12->8
キLife15->17

馬9Tドロー櫃
場:平地、平地、平地、十字軍、天使、櫃(T)
手札:なし

キ10Tドロー沼
場:沼、沼、沼、沼、山、飛行機械&邪悪な力、盗賊団
手札:山
キLife17->15(盗賊団攻撃せず)

馬11Tドロー十字軍
場:平地、平地、平地、十字軍、十字軍、天使、櫃(T)
手札:なし
天使の攻撃はブロックなし
馬Life:8->7(櫃でダメージ)
キLife:15->9

キ12Tドロードラゴン
場:沼、沼、沼、沼、山、山、飛行機械&邪悪な力、盗賊団、ドラゴン
手札:なし
キLife9->7(盗賊団攻撃せず)

馬13Tドロー解呪
場:平地、平地、平地、十字軍、十字軍、天使、櫃(T)
手札:解呪
天使の攻撃はブロックなし
馬Life:7->6(櫃でダメージ)
キLife:7->1

キ14Tドロー黒騎士
場:沼、沼、沼、沼、山、山、ドラゴン(ATK)、盗賊団(ATK)、黒騎士
手札:なし
ドラゴンと天使が相打ち、飛行機械&邪悪な力は解呪される
馬Life:6->4

馬15Tドロー天秤
場:平地、平地、平地、十字軍、十字軍、櫃(T)、
手札:なし
馬Life:4->3(櫃でダメージ)
天秤でキースの土地3枚とクリーチャー2体が吹き飛ぶ

キ16Tドロー沼インプ
場:沼、沼、山、沼インプ
手札:なし

馬17Tドロー天使
場:平地、平地、平地、十字軍、十字軍、櫃(T)
手札:天使
馬Life:3->2(櫃でダメージ)

キ18Tドロー沼
場:沼、沼、山、沼インプ(ATK)
手札:沼
馬Life:2->1

馬19Tドロー前に櫃死
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。