控室での談笑も終わり、スタンクニキを筆頭にドクオニキ、馬ニキ、すみれネキと並んで収録スタジオに入る。
主催者であり司会進行役でもあるきりたんのオープニングMCが終わり、さっそく黒札へのプレゼンを行う参加者が呼び出される。
「ではエントリーNo.1、どうぞー!」
きりたんに呼び出されて仕切り幕の向こうからやって来たのは、冴えない風采の中年男性。詐欺師ペテン師ならもう少し身なり・第一印象に気を配れと言いたくなるほどのよれよれのスーツに身を包んだ男、事前配布された台本のプロフィールでは自称・発明家とのことだが、いったいどのようなプレゼンをしてくれるのか。
「えーっと、ですね、その……」
詐欺師ペテン師ならもっとしゃきしゃき喋るだろ、と内心突っ込んでしまうようなプレゼンの出だしに、投資家の立場で呼ばれたスケベ部黒札四人衆のテンションが下がる。その悪印象の雰囲気を察したのか、男は慌てて懐から1枚のカードを取り出した。
「お? これは。ガイア連合【ホビー部】の出しているTCGですね? 見てもよろしいですか?」
きりたんは男からカードを受け取るとそれの裏表を確かめ、スタンクニキに手渡す。スタンクニキはさして興味を見せずにトランプをはじくように手触りだけ確かめ、ドクオニキにパス。ドクオニキからすみれネキへと手渡されたカードが最後に馬ニキの元に届き、一通り現物確認が終わったことを視線で伝えると、男はたどたどしく喋りだした。
「あのー、今お手元で見ていただいたTCGのカードですが、これのオリカ*1を作って売りたいんです。カードを刷るだけで売り上げはガッポガッポ、出資者に確実なリターンをお約束します」
馬ニキはもう一度手元のカードに視線を落とす。ぺらっぺらの紙は手中でシャッフルしたら破けてしまうのではないかと危惧するほどで、印刷の精度もレベルが低い。このカードをデッキに混ぜてシャッフルしたら裏向きの状態でもどのカードがオリカなのか明確に判別できてしまう。
しかも印刷されたカードの内容が、コストが低いのに効果がバカ高いという、完全にゲームバランスを無視したものになってる。カードの新弾を売るときには目玉カードとしてそれまで以上のカードパワーを持つカードを数枚作ることがあるが、これはそのようなものではなく、単に小学生が考えた『僕の考えた最強カード』でしかない。
「【ホビー部】から認可を受けて製造委託、ということですか? この製造サンプルを見る限り従来品と同等の品質には及ばないようですが」
「ん? この場でガイア連合の許可が取れるのですよね?」
あ、こいつライセンスの概念がぐちゃぐちゃな上に、ガイア連合のことを巨大な一枚岩だと思ってるな?
「我々はガイア連合の中でもホビー部とは別部署でね、ホビー部のシマであるTCGに勝手に手を突っ込むのはご法度です。貴方はまず、ホビー部にコンタクトするところから始めるべきだ。TCGのパックには製造販売責任者としてホビー部のサポート連絡先が印刷されてるから……」
「うるせぇぇ! こちとらもう、方々に断られてここだけが頼りなんだぁぁ!」
諭すように話しかけるドクオニキを遮って、その男は突然逆切れしはじめた。
「これは駄目ですね、ボッシュート*2」
司会進行のきりたんが手元のボタンを押すと、男の足元の床がぽっかりと抜けて、そのまま男は落下してスタジオから姿を消した。
「エントリーNo.1、ノーマネーでフィニッシュです」
*
「続きましてエントリーNo.2、どうぞー!」
きりたんに呼び出されて仕切り幕の向こうからやって来たのは、これまた野暮という言葉を体現したような雰囲気の中年男性。とはいえ先程の男とは違い、着古しではあるがちゃんと洗濯された服を着ているし、寝ぐせや無精ひげといったものもない。もしかすると単にファッションセンスがないだけかもしれない。
「この【終末】において、弱者は虐げられています。私はその弱者の中でも、己の体ひとつで春を売らざるを得ない女性の支援を行いたいと思い……」
「あー、ちょっといいか?」
プレゼンしている男の長広舌をスタンクニキが遮って、疑問を投げかける。
「それって、つまるところお前さんが売春婦の元締めになりたいってだけ?」
「…………」
無言の男に対し、スタンクニキは意地の悪い笑みを浮かべてCOMPを取り出した。
「俺は××市の色街にはしょっちゅう通ってて、あそこの顔役とは懇意にしてるんだ。どれ、普段のあんたの評判をちょいと聞いてみますかね」
「おっと、テレフォン! スタンクニキがテレフォン*3を使います」
きりたんが『面白ければ何でもあり』とばかりに認めると、プレゼン中の男はぶるぶる震えだし、顔を真っ赤にして絶叫した。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@」
「はい、ボッシュート」
きりたんの操作により、二人目の男も落とし穴によりスタジオ追放になった。
「なんでい、ちょっとカマかけただけであっさり馬脚を現すなんて、つまらん」
ふんと鼻を鳴らして不平を述べるスタンクニキに、きりたんがイジりネタを見つけたとばかりに水を向ける。
「ところで、今『色街にしょっちゅう通っている』との発言がありましたが、本当ですか? 私の仕入れた情報によると、スタンクニキは複数の恋人たちに下半身を管理されている*4と」
「うわーっ、他人の事情を勝手に暴露するのはルール違反だろ! あれはあくまでもカマかけ、カマかけだから!」
「これが収録で良かったですねぇ、生放送だったら今頃問い詰めの鬼電が届いてますよ」
「だ・か・ら! カマかけだって言ってんだろ!」
「でも色街通いを否定してませんよね?」
「勘弁してくれよぉ、なんでプレゼンターじゃなくて出資者がイジられるんだ……」
スタンクニキは頭を抱えて机に突っ伏し、彼をやり込めたきりたんは鼻息も荒く自慢そうに胸を張った。
「エントリーNo.2、ノーマネーでフィニッシュです」