「ではエントリーNo.3、これが最後のプレゼンターです。チーム東西南北の皆さん、どうぞー!」
司会進行を務めるきりたんに呼び出されて仕切り幕の向こうからやって来たのは、高校を卒業したかどうかという年頃の少女四人組。アイドルグループとしてやっていけそうな美貌だが、アイドルというにはどことなく素人臭さが混じる。
最初の2組は引き立て役の前座であり彼女たちが本命なのかな、と馬ニキは思った。
「始めまして! チーム東西南北の東ゆう*1です!」
リーダーと思わしき女の子のはきはきした挨拶に続き、他の子たちもそれに続く。
「大河くるみです」「華鳥蘭子です」「亀井美嘉です」
「東西南北って、方角に関係あるの最初の一人だけじゃん!」
さっそくドクオニキがツッコみ、掴みはOKとばかりに東ゆうは破顔一笑するとその突っ込みをスルーしてしゃべり始めた。
「私たち、千葉の館山でローカルアイドルとして活動していたんですけど、【終末】で計画が狂ってしまいました」
「これからというときに、それは辛いよね」
すみれネキが同情し、スタンクニキと馬ニキもうんうんと頷く。無視されたドクオニキがしょんぼりしたポーズを作り、きりたんは好調な出だしに満足げだ。
「でも私たち、アイドルになる夢を捨てられません!」
東ゆうがきっぱりと言い切ったところで、司会のきりたんが割り込む。
「ではここで、実際に彼女たちがローカルアイドルとして活動していた様子を確認しましょう」
ここでスクリーンに関東圏のローカルTV番組が映し出され、商店街の食べ歩きレポやバンジージャンプ体験といった情報バラエティの中の1コーナーが再生される。その後に番組のエンディング曲を歌う4人のPVが流れて、10分弱の映像が終わる。
このような演出が用意されているあたり、チーム東西南北が今回のメインディッシュであることは間違いないだろう。
彼女たちの映像が流れている間、馬ニキはチーム東西南北を注視していた。4人とも再生されている映像を懐かしんでいるのは同じだが、ふてぶてしいまでに肝の据わっている東ゆう、人から注目されることに慣れている感のある華鳥蘭子に比べ、大河くるみと亀井美嘉はアイドルとしてやっていけなそうな小心者の印象を受ける。
また霊能力者として見るなら、4人とも【未覚醒】なうえに才能限界も低い。黒札がサラブレッドと評されるのに対してロバと揶揄されるどころか、ロバ未満でしかない。
人材発掘という観点では、見どころもなく掃いて捨てるほどいる一山いくらの存在。アイドルの卵としてそれなりの美貌を持っているからこそスケベ部黒札と引き合わされたのであって、そうでなければきりたんの悪趣味に引っかかることもなかっただろう。
「【終末】のこのご時世、アイドルという職業も貴方が幼いころに憧れた存在とは大きく異なっています。それについてどう思いますか?」
すみれネキがそれまでの慈しむような表情から一転して、ずばりと切り込む。それに対し東ゆうも物おじしない。
「空間断絶された東京・上野のライブバトル*2は見ました。あれこそが本物のアイドルであり、輝いて人を惹きつけてやまない存在です!」
「で、貴方たちはどうやってあれに近づこうというの?」
「覚醒さえすれば、やりようはいくらでも! 私たちには覚醒修行をつけてくれる
興奮して声が大きくなった東ゆうだが、大河くるみが突然彼女に抱き着いたためそれ以上の言葉を飲み込んだ。
「くるみ? 今、プレゼン中なのよ?」
「……嫌、嫌よ、覚醒なんて。悪魔に生きながら身体を食われるなんて、死ななきゃいいなんて言ってもどう見ても分の悪い賭けでしょ。覚醒したって、その後も悪魔相手に命をチップにし続けるだけ…… 私のデモニカ修理で食べていけるんだから、命を張る必要なんて、ない」
「そんなのおかしいよ! 綺麗な服を着て、お腹一杯食べて、雨風を凌げて蚤虱の湧かない寝床で寝て、それがいったいどれだけ幸せなことか分かってる?! アイドルになれば、それらが手に入るのよ?!」
「……そんなことが言えるのは、東さんだけよ。私たちは強くない」
今まで押し黙っていた華鳥蘭子が大河くるみに加勢するが、東ゆうはガンギマリの表情で意に介さない。
「そんなことはない、慣れていけばきっと! アイドルって、こんな素敵な職業ないよ!」
突然のチーム東西南北の仲間割れに、スタジオ内は騒然とした。
主催であり司会進行であるきりたんは腹を抱えてみっともなく笑い転げようとするのを我慢するのに必死、スタンクニキは「あの子も修羅勢だったかー」と遠い目をしている。すみれネキは「美少女同士のギスギスした関係からしか取れない栄養素があります」とご満悦で、ドクオニキはそんな彼女の態度にドン引きだ。
馬ニキも最初は「折角の機会なんだからチーム内で意思統一くらいしとけよ」と不満を覚えたが、すぐに考えを改めた。
「仲間を思いやるからこその衝突…… これが青春の輝き……っ!」
転生前の前世を社畜として過ごした馬ニキは、今の肉体年齢こそ20代前半だが、前世を含めた精神年齢なら還暦過ぎの年寄りだ。年経て摩耗してきた馬ニキの魂には、この光景がとてもまぶしく感じられた。
すみれネキのニヤニヤが止まらないように、馬ニキも頬のゆるみが止まらない。気分はまるで孫を温かい目で見つめるお爺ちゃん。
「……っ、すいません! お見苦しいところをお見せしました!」
我に返った東ゆうが赤面しながら深々と頭を下げる。
「いいや、構わないよ。──人間って光るんだなぁ」
「尊み秀吉」
「あの? 豊臣秀吉が何か? え、光るって、黄金の茶道具ですか???」
馬ニキとすみれネキが怒るでも呆れるでもなく、のんびり満ち足りた様子でいることに腑が落ちない東西南北ご一行。
気を取り直した東ゆうがプレゼンを再開しようとしたところで、司会進行のきりたんが無情にもタイムアップを告げる。
「はーい、プレゼンタイムはここで終了! いやー、仲間割れしなければねー! もっと時間が取れたんだけどねー!」
ぴょんと小さくジャンプして、『その顔が見たかったァ!』*3とばかりにきりたんが顔芸で東西南北メンバーを煽る。東ゆうはぐっと唇をかみしめ、大河くるみは顔を真っ青にして俯いている。だが華鳥蘭子と亀井美嘉はそれほど動揺しておらず、ゆうとくるみにそっと寄りそった。
──仲間思いのいいメンバーじゃないか。
先程の目を焼くような眩しさではないが、月光や蛍火のような淡い輝きがすーっと胸に染み入る。馬ニキは涅槃の境地でアルカイックスマイルを浮かべる菩薩像もかくやという具合になった。
「では
きりたんがゲス顔を作ったままスケベ部黒札の方に振り返る。ああここで枕営業の話を振るよう無言要求されているな、と馬ニキは得心した。
覚醒方法としてドラッグ&セックスによるサバトというのはメジャーな手段であり、スケベ部としてそのやり方に慣れているのは事実だ。ヨガや瞑想より短期で、シキガミパーツ移植より安価で、死線を潜るより安全で、まあサバト式も一長一短があり万人にお勧めはできないが。
アイドルの卵であった美少女たちを好きに食い散らかし、運よく覚醒するならそれで良し、覚醒しなくても修行を手伝ったのだから契約上問題ないとポイ捨てして良し。きりたんの筋書ではそうなっているのだろう。
だけど、いいもの見せてもらったのだから、見物料くらい払おうじゃないか。
馬ニキはすっと手を上げて発言権を要求する。
「はい、馬ニキどうぞ」
「俺のところに来い。4人丸ごと面倒見てやる」
「おおっと、美少女4人をまとめて妾に囲う宣言キタ―――(゚∀゚)―――― !! さすがスケベ部! いよっ性豪!」
はしゃぐきりたんを鼻で笑い、馬ニキは4人へ真面目な視線を向ける。
「君らが望むなら抱いてもいいけど、女には不自由してないし、枕営業とかは不要。長野県の田舎で3年ほど専属デビルハンターやってもらうが、死亡リスクの低い覚醒修行も、霊能力者としてのレベリングも、こっちで責任を負う。仲魔に弁財天がいるからアイドルレッスンも都合できる」
その言葉を理解したのか、東西南北メンバーの顔に喜色が戻ってくる。
「はぁぁ?? 私が念入りに準備した据え膳を食わないとか、有り得ないんですけど! インポか! こら!」
「いや、アイドルプロデュース、面白そうじゃん」
「はははっ、きりたんにこんな形で一杯食わせるとはな。できる後輩をもって俺も鼻が高いよ」
先程やり込められたスタンクニキが意趣返しとして大きく笑い、きりたんは怒りの形相で彼をにらみつけるが、彼はどこ吹く風だ。スタンクニキが馬ニキの肩を持ったことで、ドクオニキとすみれネキはこれ以上の波風を立てずに静観することを選ぶ。
結果として、きりたんの目論んだ『アイドル候補生が納得ずくの枕営業により貞操を散らす』という悪趣味は不発に終わった。彼女はどうしてこの結果になったのかを飲み込めず憮然としていたが、自分がショーの司会進行であることを思い出して、やけくそ気味に声を張り上げた。
「エントリーNo.3、チーム東西南北! こんなガバチャー*4で満額回答なのがまぁっったく納得できませんが! マネー成立です、はい拍手ぅ!」
プレゼンターのチーム東西南北がまばらな拍手を受けながら退場していく。満場の拍手でないのは主催のきりたんに忖度したからだろう。
「『ガイアポイントの虎』、これにて終了です。ちょっと、いつまで笑ってるんです! ゲストだからって容赦しませんよ、貴方もボッシュートです!」
「おらぁん、こんなヘナチョコ罠にかかるようなノロマじゃねぇんだよ!」
「あっ、逃げるなぁ、ボッシュートから逃げるなぁ!」
きりたんとスタンクニキがじゃれ合いながら、収録は無事に終了しました。
佐久間すみれネキを借りたがあまり動かせなかったのは反省点。