チーム東西南北のメンバーが山梨・星霊神社で覚醒修行を開始して一週間。座禅やヨガ、滝業、富士山登山といった肉体の鍛錬と、オカルト知識勉強など頭脳の鍛錬に励んでいる彼女たちのストレス解消を目的として、ちょっとした宴を催すことにした。
場所は山梨支部で彼女たちが暮らしている長屋の一室、本来なら黒札と専用式神の2人が疑似新婚ごっこを楽しむための2DKに4人突っ込んだので手狭だが、覚醒修行が終わったら引き払うので我慢してもらっている。
ちょっと豪華な夕食をケータリングして、食べて飲んで気持ちをリフレッシュ。参加者は東西南北メンバーの4人とパトロンである俺と、オカルト知識の授業で世話になっている鷺沢文香ネキを呼んだ。彼女は積極的に話しかける性格ではないし、俺も美少女同士のやり取りに積極的に絡んでいくつもりはないから、黒札2人で未覚醒者4人を温かく見守る形になるだろう。
ガイア連合が誇る黒札料理人ジャンニキ*1特製のオードブル盛り合わせ。
唐揚げ・肉団子・ハム・プチトマト・ポテトサラダの洋食プレートと、小魚の南蛮漬け・豆腐ステーキ・だし巻き卵・葉物野菜のお浸し・茄子の揚げびたしの和食プレート、カットフルーツ盛りのデザートプレート。そこに主食としておにぎりと、飲み物として緑茶とジャスミン茶のティーバッグが温冷どちらも選べるようになっている。
これが8人分、普段からチーム東西南北のメンバーが食卓として使っているテーブルに乗せると、取り皿のスペースが足りなくなるくらいだ。
「張り込みましたね…… 役得です」
文香ネキが目を輝かせているが、彼女の言う通りにそれなりのお値段をかけている。具体的にはLv40黒札が適正Lvのダンジョンに丸一日アタックした稼ぎを全部注ぎ込んでも少し足りない。いや、季節のフルーツ盛り合わせを頼まなければもっと安くついたけど、年頃の女の子に甘い物がないのは片手落ちだと思ってね。
「うっひょ~、メロンと生ハムの組み合わせなんか、もう一生お目にかかれないと思ってた~」
大河くるみが即興で生ハムメロンの歌を歌いだしそうな勢いで興奮している。うんうん、分かるよ、その気持ち。黒札だってハレの日のご馳走として奮発しないと食べられないメニューだからね。恩着せがましくするつもりはないから黙っているけど。
「それでは、まずは食前酒で乾杯しましょう」
文香ネキが取り出した瓶は、口当たりが良いと評判*2のガイア連合製【マッスルドリンコ】。720mlサイズだが東西南北の4人と黒札の2人で均等分配すれば口内を湿らす程度の量でしかない。
「乾杯!」
東西南北の4人は二十歳になるかならないかというところだが、飲酒に対する抵抗はないようだ。高校を卒業すれば大人の仲間入りで良いからそれを咎めるつもりもない。
「うぇ、飲みつけない味」「不味くはないんだけど、こう、不思議な感じ」「さっそくの口直し!」
彼女たちにマッスルドリンコはいまいち不評か。マイルドにチューニングされているとはいえ霊薬、未覚醒者が飲んでも万全に味わうことはできないから当たり前かも知れない。
大河くるみがそそくさと手を伸ばし、事前の宣言通りに生ハムとメロンの組み合わせを口に運んでいる。
「ん~~、感動! 特別美味しいってわけじゃないけど、夢が叶ったというか、なんと言うか…… なんちゅうか本中華」
「あはは、そんな古いネタ*3どこから拾ってきたの」
美少女4人がきゃっきゃしている光景をつまみに、黒札2人でまったりオードブルを摘まんでいると、トントンと部屋のドアがノックされた。
「はい、どちら様?」
ドアに近かった俺が来客対応に出ると、そこには見知った3人の顔が。新田美波と前川みく、そして田舎ニキこと碧神凍矢の専用式神である破裂の人形(高峯のあ)*4である。
「アイドルの決起集会があると聞いて」「美味しそうなケータリングを注文したと聞いたにゃん」「……主からの手土産」
高峯のあがクーラーボックスをずいと差し出したので勢いで受け取る。
「桃の寒天ゼリー。
おっと、ただの甘味ではなく、異界『黄泉比良坂』で栽培した桃*5を使った、これもある意味で霊薬となる食べ物だ。田舎ニキにはお見通しってか。
それから高峯のあ自身もアイドル候補生である彼女たちに興味を持っている節が見受けられる*6。
「ありがとう、いったん冷蔵庫に入れて後で食べさせてもらうよ」
「用事は果たした。……これで失礼する」
「もう帰っちゃうんだ、ろくなお礼もできずに申し訳ない」
「……お礼の気持ちがあるなら、七味唐辛子を用立ててほしい*7」
「それくらいならお安い御用。ちょっと【トラポート】で取ってくるから待ってて、長くて15分くらいだから」
トラポートで上田市派出所『浦野牧』までひとっ飛び、特製の七味唐辛子を適当に袋に詰めて山梨へ戻ってくると。
わずか10分の間で、チーム東西南北の4人は寝落ちしていました。文香ネキ、ミナミィネキとみくにゃんが布団を敷いて寝かせるのを手伝ってくれたので、今はダイニングキッチンにある食卓は黒札3人+使い魔の4人でオードブルをつつきながら雑談しています(高峯のあは七味唐辛子を受け取ったらすぐに帰りました)。
「
「これで覚醒してくれれば手間がかからないのですけど」
寝室となっている六畳間の襖をぼんやり眺めながらミナミィネキと文香ネキがぽつぽつと小声で話す。
今回の宴は彼女たち4人のストレス解消だけでなく、霊薬によるトリップでの覚醒チャレンジ*8でもある。一発で覚醒できるとは誰も考えておらず、飲ませる
「あんなまだるっこしいことせずに、黒札が肉棒突っ込めば一発で目覚めるにゃ?」
「駄目ですよ、限界以上のマグを注ぎこむと、悪魔化したり、最悪ぱぁんしちゃいます*9。平田さんは手加減調整がまだ甘いですから、うっかり未覚醒者に本気の
「未熟ですいません」
「まぁ、そこらを上手くやりすぎても、有象無象の覚醒希望者たちにそれ目的で始終纏わりつかれますからね。スタンクさんなんか目じゃないくらいに行動制限されちゃいます」
「そうですね、覚醒者を相手にした、良質のマグを定期的に摂取させて才能限界の上限を底上げさせることですら、うっかり知られたら面倒くさいことになりますから……」
「彼女たち、アイドル志望ってことは、最初はユニクス*10のように配信で知名度を上げてくにゃ? 覚醒修行とか一部始終をドキュメンタリーとして記録に残しているかも知れないにゃ。そしてパトロンとの情事が配信バレして炎上、ありうるにゃ」
みくにゃん、怖いこと言わないでくださいよ。
それから、彼女たちが早期に退場したことでだだ余りになってるオードブルを食べるのはいいですけど、小魚の南蛮漬けばかり食べるんじゃなくて、鮮度の都合で日持ちしないカットフルーツを優先して食べてください。いや、メイン食材を無視してデザート食べろって無茶言っているのは承知してるんですけど。