「はーなちゃん!」
「ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
いきなり後ろから抱き着かれ、クロエは萌えキャラのような可愛らしい叫び声を上げてしまった。
そんな不本意な声を上げる原因となった相手をキッと睨みつけながら後ろを振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべているクラスメイトであり生徒会長をやっている女子生徒の姿があった。
「花ちゃんの可愛い声…聞いちゃった♡」
「花ちゃん言うなし。何度言えば理解するんだよ、お前の脳みそは。いい加減にしないと、今度からお前の事を『たてなっしー』って呼ぶぞ」
「それだけは勘弁してください」
一発で引っ込んだ彼女は、クロエの事を勝手に友人認定しているIS学園の生徒会長でありロシア代表も務めている『更識楯無』。
もっとも、クロエの前ではどっちの権限も全く意味を成さないが。
「ウチの事は『クロエ』って呼べっていつも言ってんだろーが。マジでそろそろ学べ。そんなんだから妹とも疎遠になんだよ」
「ぐはぁっ!? ク…クロエちゃん…それは禁句よ…」
「ちゃんと呼べジャン。それでいいんだヨ。それでサ」
いきなり吐血をしてぶっ倒れる楯無。
だが、このクラスでは割とよく見る光景なので、誰も何も言わない。
「うぅ…普通に『花子』って名前も可愛いと思うんだけどなぁ…」
「それはアンタが他人だから言えるんだッつーの。実際に呼ばれる方の身にもなれよナ。冗談抜きでハズいんですけど。特に受付とかで呼ばれる時な。もうマジで悶絶死しそうになるわ」
「だから『クロエ』って呼べって?」
「そうだよ。『黒江花子』…だから『クロエ』。普通に名前として使っても違和感ないっしょ」
「そりゃまぁ…そんな名前の人も実際にいるし…」
とにかく、この少女…自分の名前を呼ばれるのを嫌う。
本人的にはかなりの禁句であり、『花子』と呼ばれると明らかに『怒ってます』という顔になる。
「ね…ねぇ、クロエちゃん」
「今度はなに?」
「クロエちゃんって確か、今年から文化部系にも入ってたわよね?」
「まぁね。IS学園って一応『運動部と文化部の兼任は許可する』とかいうナイスな校則があるし」
「なんて部活だったっけ?」
「『なかよし部』だけど? それがどうかした?」
「ちょっとね。生徒会として、一応は各部活動の活動内容とかを把握しておかないといけないのよ。特に、新しく出来た部活とかはね」
「あぁ~…そゆこと。つまり、放課後にウチらの部に見学に来たいと。そーゆーワケ?」
「流石ははn…クロエちゃん。話が早いわ」
実際には単純に生徒会の仕事をサボりたいだけだろうが、そんな事はクロエも分かっている。
別に楯無が何をサボろうとも、クロエは全く気にしないし、自分には関係ない…と本気で思っている。
なので、ここで何かを言おうとはしない。
「別に来るのは構わないけど、何があっても自己責任だから。そこんとこヨロシク」
「一体どんな部活動なのよ…」
名前だけは実にファンシーなのに、全く活動内容が想像出来ない楯無であった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
放課後になり、私はクロエちゃんと一緒に彼女が所属するという『なかよし部』の部室へと足を踏み入れた。
情報によると、部員三名の顧問一人の小さな部…と言うことらしいけど…。
「これより、秘密会議を開始する」
……ナニコレ?
えっと…前に立ってる小さい女の子って、三年生にして学園一の天才児と呼ばれている『真行寺由仁』先輩よね?
三年生にも拘らず、その小さく愛らしい姿から『ユニちゃん先輩』の愛称で呼ばれているとか、なんとか。
まぁ…確かにかなりの美幼女ではあるけど…。
「この『なかよし部』こと『ユニちゃんズ』では、このボクこと『真行寺由仁』が指揮を取って毎回に渡って議題を出すが、今回は地球の平和を守るためにはどうしたらいいか…という事について考えていこうと思う」
ち…地球の平和…?
またえらくスケールが大きいわね…。
「異議なーし」
ないんだ…。
っていうか…何この部活…?
「現在、世界中では数多くの事件が多発している。強盗。詐欺。誘拐。殺人。例を挙げていけば本当にキリが無い」
あれ? 意外と真面目に考えてる?
私の早とちりだったのかしら…。
「ボクの調査によると、これらの事件の約9割は…」
9割は…なんなのかしら。
ちょっとだけ気になるかも…。
「地球外生命体が原因であるとされている」
「そんなワケないでしょっ!?」
なにがどう調査したら、そんな結果が出てくるのよッ!?
「つまり、宇宙怪人ってコト?」
「なんか特定されちゃったっ!?」
クロエちゃんって、こんなキャラだったっけ!?
それとも、ここにいるからこんなことになってるのっ!?
「さっきから五月蠅いぞ、楯無くん。何か意見があるなら、ちゃんと挙手したまえ」
「あ…ごめんなさい…」
注意されちゃった…。
「因みに楯無くん。もしも宇宙怪人が日本に出現するとしたら一体どこにやって来ると思う?」
「え? わ…私?」
急に話を振られても困るんだけど…。
それ以前に、そんなの絶対にいないでしょ…。
ま、適当に答えておきましょ。
「えっとー…テレビの特撮番組とかたっだら、よく大都会の方に出現するわよね。東京とか大阪とか。あと京都とか」
「確かにそうだな。だが、実際には全く違う」
そ…そうなの? じゃあ、一体どこに…。
「正解は……………秋田県だ」
あ…秋田県? なんで?
「一言に宇宙怪人と言っても、それこそ種類は星の数ほど存在している。クロエくん。そこにある紙に何か代表的な奴を書いてみてくれないか?」
「りょーかーい」
言われるがまま、クロエちゃんが紙とペンを持って何かを書き始めた。
そういえば、クロエちゃんの書く絵って初めて見るかも。
上手なのかしら?
「こんな感じでどーよ? 鬼のような形相に包丁を持って…」
「それ違――――う!! 完全になまはげだから―――!! 確かに秋田だけど!!」
というか、なまはげは怪人じゃないからー!!
中身は立派な人間だからー!!
うぅ…これは一体どういう部活なの…?
少なくとも、私の知っている部活はこんな奇怪な討論会を繰り広げたりはしない…。
(そもそも、見た限りじゃクロエちゃんとユニ先輩の二人しかいないし…。もう一人はどこにいるのかしら? 名簿を見る限りじゃ、一年生の子がいるみたいだけど…)
私が小首を傾げていると、いきなり部室の扉が開かれ、誰かが入ってきた。
「ごめんなさーい。遅れちゃいましたぁ~! テヘ♡」
「遅いぞチエルくん」
「思った以上に掃除が長引いちゃってぇ~。ちぇる~ん☆」
この子は確か…あの織斑一夏君と同じクラスの一年生『風間ちえる』ちゃん…だったわよね?
「一人でも欠けたら活動が先に進まないじゃないか」
サクサク進んでたけどね。
「あれぇ~? どうして生徒会長さんがここにいるんですかぁ~?」
「なんか、生徒会として新しく出来た部活の活動内容を知っておく必要があるんだと。それで見学しに来てるってワケ」
「成る程~…そうだったんですね。さっすがクロエ先輩! 伊達に生徒会長とマブダチしてませんね!」
「べ…別に楯無は友達とかじゃないし…良く話すクラスメイトなだけだし…」
うん。照れてるクロエちゃん可愛過ぎ問題発生。
アナタは知らないでしょうけど、このIS学園でクロエちゃんの人気って凄まじいのよ?
本人非公認のファンクラブまで存在しているぐらいなんだから。
ダウナー系ツンデレクールビューティーとか、萌えない方がおかしいわよ。
「っていうか、普通に遅刻とかすんなし。うち、こう見えても陸上部と掛け持ちしてるから、こっちに出られるのはあと30分が限界なんですケド」
どうして、そこまでして『なかよし部』に執着するのかしら…。
私が呆れていると、再び部室の扉が開かれた。
「どーもー宅配便でーす。受付で、ここまで運んでくれって言われて持ってきましたー。真行寺さん宛てに御荷物が……」
「スパイかゴラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
え…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??
いきなりクロエちゃんが宅配業者の人に向かって蹴りをぶちかましたぁぁっ!?
幸いにも蹴り自体は頭の真上に行ってるけど、壁が完全に壊れてるわよ…。
「ひ…ひ…ひええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――!!!」
「ご苦労様でした―――!!」
せめてものフォロー。
そうでもしないと申し訳なさすぎるわ!
「いきなり何をしてるのよクロエちゃーん!?」
「敵のスパイかと思ってつい…」
「敵って何ッ!?」
アナタ達は一体何と戦ってるのよッ!?
「あの場合、誰もがクロエくんと全く同じ行動をしていた事だろう…」
「絶対に取らないわよ!!」
「ナイスファイトですね! クロエ先輩!」
「褒めるんじゃありません!!」
この部活…ツッコミ役が一人もいない!!
クロエちゃん辺りがしてると思ったけど、完全にボケ役になってるし!!
「ところでユニ先輩。この荷物はなんなんですか?」
「開けてみたまえ」
「なんか地味に楽しみかも」
私の意見は全部無視なのね…!
「こ…これって…」
「
え? ス…スーツっ!?
そんなのを頼んでたの?
「今回の議題に対するボクなりの結論だ。地球の平和を守るためには…我々がヒーローとなって宇宙怪人と戦う!!」
「そ…そっか! ヒーローと言えば
どんな偏見よ、それ…。
あんまし詳しくない私でも、それぐらいは分かるわよ…?
「でもいいわけ? まだ碌に部費も貰ってないのに、こんな高価っぽい物なんか買ったりして」
「その事なら心配無用だよ、クロエくん」
その無駄な自信はどこから来るのよ…。
「これの代金に関しては、ちゃんと学園長と交渉をした後に学園の経費から賄われるようになっている」
「なんですって――――――!?」
そんなのマジのマジで初耳なんですけど―――――――!?
「そんな事を気にしてたら大成しないよ楯無」
「次のモンドグロッソに出場の暁には、最低でもヴァルキリー受賞してやるってぐらいの気概は見せて欲しいですよねぇ~」
「完全に他人事ね、貴方達…」
クロエちゃんのまだ見ぬ一面を見てしまった気がするわ…。
「安心したまえ楯無くん。今回の活動が成功したら、報酬として2千ドルが指定の口座に振り込まれる手筈となっている」
ドルで…一体誰から…?
「それじゃあ早速、着替えるとしよう」
「「りょーかーい」」
はぁ…なんかドッと疲れた…。
要するに、ここはヒーローマニアが集まった部活ってことでいいのかしらね。
そっち系の部活もあるにはあるし、そこまで気にする必要はなさそう…え?
「こっちはこう…で。こうか」
「むむ…クロエくん。ちょっと着るのを手伝ってくれないか?」
「へいへい。ちょっとお待ちをーっと」
気のせいかしら…目の前に非常に見た事のある黄色い梨の妖精がいるんだけど…三体も。
しかも、何故か手には大量の風船とか『30%オフ』って書かれた立札を持ってるし…。
「これならチエル達の正体もバレないし良いんじゃあないんですか?」
「それに、このカッコならイベント時とか普通に街中とかに潜り込めそうじゃね?」
「よし。試しにちゃんと動けるかどうか、その辺を皆で歩いてみるとしよう」
そうして、三体のふなっしーは歩き始めた。
憧れた事ない…少なくとも、私はこんな異様に怪しい団体に憧れた事は一度も無いわ…!
「それじゃあ、まずは自分のヒーロー色を考えるんだ」
「よぉーし! それじゃあ、チエルはペパーミントグリーンにしまーす!」
長いわよ!
「なら、ウチは群青色にするわ」
というか、全員揃って
「お次は戦隊名を考えようか」
「レンジャー5とかどうですかね?」
人数足りないから!
「新・徳川豊臣連合軍」
意味分んないわよ!!
「最後は決めポーズと爆煙だ。いくぞ!」
必要ないから――――――――――――!!!
げほっ…げほっ…部室全体が煙だらけになっちゃったじゃないのよ!!
「では、本日の活動はこれにて終了。解散!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
次の日。
私は生徒会室にて虚ちゃんの淹れてくれた紅茶を飲みながら、昨日の事を話していた。
「あのユニさんが、そんな部活をしていたとは…」
「彼女の事、知ってるの?」
「えぇ。色んな意味で有名な子ですから」
「そうなんだ…」
確かに、三人揃って非常に個性爆発だったけど…。
まさか、私の大好きなクロエちゃんにあんな一面があるとは思わなかったなぁ~…。
「確かに変な部活ではあったけど、それだけで全てを否定することは出来ないわ。特に、このIS学園ではね」
「そうですね」
IS学園の部活は他の学校とは違い、殆どが趣味の延長線上みたいなものだ。
公式の試合には出られないし、作品の発表とかもまた出来ない。
だからこそ、身内だけで楽しんでいる。
「もうちょっとだけ様子を見てみるわ。クロエちゃんもいる事だしね」
「分かりました。出来れば、ユニさんの事をよろしくお願いします」
「了解よ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「今回の議題は『主婦と通販』だ。ということで、まずは主婦の立場から色々な意見を聞いてみようと思う。では、町内婦人会の皆々様、入って来てくれたまえ」
「「おぉ~…」」
やっぱ無理かも…。
私は早くも挫折しかけた。
なかよし部で誰が好き?
-
可愛いクロエちゃん!
-
賢いユニちゃん!
-
楽しいチエルちゃん!
-
皆大好き!