今日のなかよし部は、個人用部室や話し合いをしている部屋ではなく、珍しく生徒会室に集まっていた。
その理由は、少し前から調査をしていた疑惑だらけのフランスからの転入生『シャルル・デュノア』に関する報告会をする為である。
「ってなわけで、こうして三人には生徒会室に集まって貰ったんだけど…」
「生徒会長してる楯無を見るとか、かなり新鮮なんですケド」
「んもぉ~♡ クロエちゃんったらぁ~…褒めても何にも出ないわよ?」
「別に褒めてねぇし…」
早速のボケ炸裂。
いつもはボケ側のクロエも、楯無の前ではツッコミに回ってしまう。
それを本気で嫌がっていない辺り、二人の関係性も分かるというもの。
「こうして教室や部屋以外で会うのも久し振りですね。ユニさん」
「そうだな虚くん。いつ飲んでも、君の淹れてくれる紅茶は最高だ」
「御茶請けのケーキもありますよ?」
「おぉ~…!」
ユニと仲良さげに話しているのは『布仏虚』。
彼女と同じ三年生であり、クラスメイトであると同時にルームメイトでもある。
色んな意味で正反対な二人ではあるが、それでもちゃんとした同い年だ。
「まさか、あの本音ちゃんが生徒会の役員をしてるとか想像すらしてなかったんですけど。チエル的に早くも今年一番の驚きって感じです」
「私も~、まさかチエルンが生徒会室に来るなんて思わなかったよぉ~」
そして、チエルと話している間延びした感じの少女は『布仏本音』。
一年一組の生徒であり、名字からも分かる通り虚の実の妹でもある。
同じクラスと言うこともあってか、意外と仲が良い二人だったりする。
なかよし部と生徒会。
見事に三者三様の組み合わせが完成していた。
「…なんか光の速さで話題が逸れたわね…いつものことだけど」
「「「なんか言った?」」」
「いえ何も」
なかよし部あるある。
一度でも話題が逸れたら、もう修復不可能。
「それで、例の彼女についての報告を聞かせて貰えるかしら?」
「いいだろう。では、ここはなかよし部部長であるこのボクから説明をさせて貰おうじゃあないか」
「ユニさん。ほっぺにクリームが付いてますよ」
意気揚々と報告を開始しようとした矢先、虚に頬を拭かれてしまう。
最初から無いに等しかった威厳が完全に消えてなくなった。
「えー…こほん。まず、数日間に渡ってシャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアと行動を共にした感想だが…」
ここでクロエやチエルと目配せをして頷く。
どうやら、話すこと自体は最初から決まっていた様子。
「なんと言うか…彼女には『自分が性別詐称行為をしている』という自覚が致命的に足りなさ過ぎる」
「それは私もなんとなく分かってたけど…具体的にはどんなところが?」
楯無の質問に、今度はクロエが応える事に。
ユニが代表して話すというのは何処に行ったのやら。
「なんつーか…ふとした瞬間に女の仕草がモロに出てるんだよネ。足を内股にしてたりとか」
「あと、手を口元に持っていってたりとかもしてましたよねぇ~」
クロエに続くようにしてチエルも報告をする事に。
結局、なかよし部全員で報告することになった。
「そもそもの話、シャルロット・デュノアの男装には本気具合が全く見受けられない。肩はなで肩のまんまだし、声だって変声機で変えていない。挙句、胸さえ隠せば後は大丈夫と本気で思っている。全く…コルセット一つでどうにかなれば誰も苦労などしない。世のプロのコスプレイヤーたちの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい」
最後はユニが畳み掛けるように言いまくったが、彼女の言う事は楯無も感じていた。
どうもシャルロットの変装はお粗末な部分が多すぎるのだ。
「ふと思ったんだけど…ちょっちいい?」
「どうかしたのクロエちゃん?」
「前に尾行した時に聞いた台詞と、これまでの事を考えるに…あいつって自分の意志で男装をしてるんじゃなくね?」
「…クロエちゃんもそう思ったのね」
「ってことは、楯無も?」
「えぇ。私も、彼女は何者かに無理矢理に男装をさせられている可能性があると感じていたわ」
クロエと同じ意見になった事に密かに歓喜しつつ、顔がにやけるのを必死に我慢しながら生徒会長モードを維持し続ける。
「確かに…もし本気で頑張ろうって思ったら、それこそ徹底的にやりますよね? さっき言ったみたいに、変声機で声を替えたり、体型とかも限りなく男に寄せたり、シークレットシューズを履いて背を誤魔化したり…」
「探せば探すほど、彼女の男装には荒が目立ちすぎる。まるで男装をすること自体を自棄になっているかのように」
「いや…実際に自棄になってるんじゃネ? だから、男装の出来が無意識の内にテキトーになってしまったとか」
望まぬ変装だからこそ、イマイチ本気になれない。
だとすれば、ここで新たな問題が浮上してくる。
「問題は、一体どこの誰に、どうして男装なんかさせられているのかってことよね…」
「いや、その答えはもうとっくに出てません?」
「…やっぱり?」
チエルに言われ、頭の中で真っ先に考え付いた答えを言う事に。
ぶっちゃけ、最もこれが可能性として高いと思った。
「デュノア社は現在進行形で大ピンチ。そんな時に『男がISを動かした』という大ニュースが世界中で流れれば当然…」
「シャッチョサン的に『これは千載一遇のチャンスデース!』って思うだろうネ」
「そうね…っていうか、クロエちゃん…ペガサスのモノマネ上手ね…」
「そう?」
冗談はさておき。
現状で最も黒に近いグレーなのは間違いなく、デュノア社の社長である『アルベール・デュノア』だった。
「もしくは、その妻である社長夫人である『ロゼンダ・デュノア』か…」
「その人って確か、シャルルくんとは血が繋がってないんでしたっけ?」
「情報ではそうね。所謂『継母』って奴かしら」
意見を出し合えば出し合うほどに黒い人物が次々と浮上してくる。
言いだしていけば、それこそ本当にキリが無くなってくる。
「中々に上手くはいかなそうですね…」
「相手は世界的な大企業だ。変装はお粗末でも、その裏にある尻尾まではそう簡単には見せてはくれないだろうさ。という訳で、紅茶のお替りを頼むよ虚くん」
「分かりました。少々お待ちください」
にっこりと微笑んだ後に、虚はユニの分のティーカップを持って奥へと下がる。
因みに、さっきから静かな本音は難しい話に付いて行けず、そのままソファーに寝転んでお昼寝の真っ最中だ。
「なーんか、考えれば考えるほどに頭がこんがらがって来そうな気がするんですけどぉ~。チエルも頭の中で色んな想像が過ってるっていうかぁ~」
「それはどんなのだい?」
「例えば、実はシャルル君の両親も誰かに脅されていたとか」
「有り得ない話じゃないわね…」
「んで、娘であるシャルル君…っていうかシャルロットちゃんをどうにか逃がす為に敢えて悪者を演じた…的な?」
「事実は小説よりも奇なりって言葉もあるぐらいだしな…有り得なくはないカモ。特に今みたいなご時世じゃネ」
ISの登場により、世の中には密かに『女性権利団体』なる存在が表舞台に台頭してきた。
その名の通り『女性の権利を守る』団体なのだが、実際にはISの笠を着て我が物顔で各方面に手好き放題に暴れている、そこらのテロリストよりも遥かに質が悪い連中である。
「本当は、フランス本土に渡って実際に調査が出来れば一番なんでしょうけど…そう簡単にはいけば苦労はしないのよねぇ~…」
「アンタの『家』は使えないワケ?」
「そうねぇ~…事情を説明して説得すれば、お父様も動いてくれるとは思うけど…」
「けど? なんか歯切れが悪くね?」
「仮に『更識』を動かせたとしても、調査完了にまでどれぐらいかかるか…」
「そっか……」
なかよし部の面々は、楯無の『裏の顔』もちゃんと知っている。
知っているが、そんな事で彼女を見る目が変わる筈もなく、それが楯無のなかよし部に対する信頼にも直結していた。
「そういや…シャルルくんってチエル達の事を最初から知ってる風じゃなかったですか?」
「言われてみれば…ボク達が『風間コーポレーション』に所属している事は専用サイトにも普通に記載されているから不思議ではないが…」
「それでも、それなりのリアクションはしてもおかしくはない。なのに、実際には…」
「『はい、そうですか』って感じでしたよね~。ま、ある意味じゃうちの会社とデュノア社ってライバル同士みたいなもんですケド」
どっちもISに関する企業。
国が違うとはいえ、注視するのは当然のことだった。
「もしかしたら、一夏くんと同様にボクらの情報も最初から知っていた可能性があるな。流石に何かを仕掛けろとまでは言わないだろうが、注意だけはしておけ的な事を言っていたかもしれない」
候補生ほどではないが、企業間ではそれなりに自分達が有名である自覚はある。
実は『なかよし部』の存在自体が、その事と深く関係しているのだが…それはまた別のお話。
「お待たせしました。はいどうぞ」
「ありがとう、虚くん。うん、何度飲んでも美味しい」
(か…可愛い…良い子良い子してあげたい…)
満足げに何度も頷くユニを見て、思わず頭を撫でたくなる衝動に駆られる虚。
だが、それはある意味で最後の一線なので必死に耐えた。
「ユニパイセン。こうなったらもう『あの人』に頼むしか無くね?」
「そうだな…。基本的に善人である『彼女』ならば、即座に強力を約束してくれるだろう」
「じゃあ、もう決まりじゃないですかぁ?」
さっきから誰に話をしているのか。
全く分からない楯無は小首を傾げていた。
「え…っと…誰の事を話しているのかしら?」
「あぁ~…楯無は知らないか。実は、ウチら『なかよし部』には個人スポンサーがいたりすんよ」
「こ…個人スポンサーっ!?」
部活動に個人でスポンサーが付くなんて前代未聞過ぎて、流石に楯無も驚きを隠せない。
そんなのがいながら、どうして千冬の預金を無断で引き出すような真似をしたのかは謎に包まれている。
「『藤堂秋乃』と言って、世界規模で様々な事業を展開している非常に有名な財閥である『藤堂グループ』の社長令嬢さ。今は確か『桜庭学院高校』の三年生だった筈だ」
「と…藤堂グループって…あの藤堂グループ…? え…嘘? 冗談でしょ?」
表裏問わずに色んな意味で物凄く有名な企業財閥。
楯無もまた、これまでに何度も耳にしたことがある名前だった。
「ど…どこでそんな大物と知り合いになったの…?」
「彼女とは中学時代に三年間ずっと同じクラスだった事があってね。それだけの時間を一緒にいれば自然と仲良くなるものさ」
「んで、チエル達はユニ先輩を通じて仲良くなったって感じでーす!」
「世間って…本当に狭いのね…」
まさか、こんな身近に世界的大企業の令嬢と知り合いの人間がいようとは。
全く想像すらしていなかった。
「後でこっちから連絡をしてみよう。なに、行動力ならば暗部以上であることは保証しよう。もしかしたら、依頼をしたその日に自家用の飛空艇に乗ってフランスへと直行するかもしれないが」
「行動力のある社長令嬢って…凄いパワーワードね…」
自分もそれなりに行動力がある方だと自負している楯無ではあるが、秋乃にだけは負けそうな気がする。
自家用で飛空艇を持っている時点で次元が違う。
「では、デュノア社の調査はこちらに任せて貰って、我々は学園内の彼女の動向に注意をする事にしよう」
「そ…そうね。何もアクションを起こさなければ、それでよし。万が一の時は…」
「ウチらがなんとかするっきゃないっしょ」
「ですね」
これまた珍しくなかよし部の三人が真剣な顔をする。
彼女達も彼女たちなりに学園の平和を守りたいとは思っているのだ。
「ホント…何も無ければいいんだけど…」
「どうも一抹の不安が残ると言いますか…」
「チエルくん。教室内での彼女の監視は君に頼んだぞ」
「りょーかいです!」
こうして、今後の指針を決めた所で今回の報告会は終了となった。
なかよし部で誰が好き?
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可愛いクロエちゃん!
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賢いユニちゃん!
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楽しいチエルちゃん!
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皆大好き!