「ふわぁ~……ん?」
とある日の日曜日。
休日ぐらいのんびりと寝ていても良いと思うんだけど、どうも癖で平日と同じ時間帯に起床してしまう。
アラームもセットしてないのに…なんだか悲しくなってきた。
「…朝飯でも食うか」
いつもならば寮の食堂にでも行くところだが、こんな日ぐらいは部屋でゆっくりと食べたい。
っと、その前にまずはカーテンでも開けるか。
「…うん。今日も良い天気だな」
実に素晴らしい日本晴れ。
こんな日は無性に外出でもしたくなる。
そうだ。折角だし、友情を深めるという意味を込めてシャルルと一緒に遊びにでも行くか?
「なぁ、シャルル。もし用事がなけりゃ俺と一緒に……あれ?」
なんか、さっきから静かだと思ったら…シャルルの奴がいねぇじゃん。
一体どこに行っちまったんだ?
「俺が起きる前に、どこかに出かけちまったのか?」
まだ日本に来て日が浅いシャルルに、そんな友人がいるとは考えにくいけど…俺が知らないだけって可能性もあるしな。
「ま、いないんじゃ仕方がないか。今日は一人でのんびりと買い物にでも行くとするか」
前々から欲しいと思っていた物もあるしな。
いい機会だし、時間を掛けて買いにでも行ってみるか。
他にも何か良さそうなものでもあれば買って来てもいいし。
「そうと決まれば、とっとと朝飯食って、千冬姉に外出許可を貰って来よう」
学生寮生活って、寮長に許可を貰わないと外に行けないのが面倒くさいんだよなぁ~…。
これさえなければ割と快適なんだけど。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そんな訳で、俺は駅前の巨大ショッピングモールである『レゾナンス』にある、とあるデパートに来ていた。
ここに来た理由は単純明快で、IS学園に入学して以来、慣れない環境による日々の疲れを隠しきれなくなってきたので、柄にもなく癒しを求めて観葉植物でも買いに来たのだ。
といっても、別に大きな物を買おうとは思っていない。
机や棚の上にちょこんと乗るぐらいのサイズの奴が購入できればいいと思っている。
大き過ぎると持って帰るのも大変だしな。
「植物売り場は~…屋上か」
エレベータの前にある案内板を見ながら目的地を確認しつつ、ふいにデパートの中を見渡す。
(そういや…こんな風に一人でデパートに来るなんて凄い久し振りかもな。日曜日は学校(特に部活)が休みだし、こんな日ぐらいはのんびりと買い物を楽しんでもバチは当たらないよな)
さーて…早くエレベーターが来ないかなーっと。
あ。もうすぐ一階につくぞ。
チーン。
「一階。婦人雑貨売り場です」
……気のせいだろうか。
エレベーターの中にいつもの制服を着た上に『真行寺』って書かれた名札を付けたユニちゃん先輩がいたような気がするんだけど…。
「…………」
…エレベーターの中にいた奥様方が高笑いをしながらゾロゾロと降りてきた。
「上に参ります」
「待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
危ねー!!
ビックリしすぎて危うく普通にスルーしそうになる所だったわ!!
「いきなり何か用かね? 一夏くん」
「ちゃんと俺に気が付いてるんじゃねぇか」
なら無視するんじゃねぇよ…このちびっ子先輩は…。
「何か言ったかね?」
「な…何にも言ってないです!」
なんだ…?
この人も千冬姉と同じ様に読心術が使えるのか…?
「つーか、こんな所で何をやってるんですか…バイトですか? 制服のままで…」
「これはアルバイトではなく、れっきとした部活動だ」
「はぁ?」
日曜日に部活動?
いやいや…冗談だろ?
運動部系ならまだしも、仮にも文化部系列に属している『なかよし部』がこんな日に活動するなんて…。
「今日の議題はズバリ『体験学習』。多種多様な職業を実際に体験し、身を持って社会の仕組みを学ぶというカリキュラムを検討するべく実践しているのだよ。自給750円で」
「そーゆーのを世間一般では『アルバイト』って言うんですよ…」
色々と理由付けをしてるけど、結局はなかよし部の皆で仲良くバイトをしているだけってことか。
…この人達、企業所属のIS操縦者じゃなかったっけ?
それ以前に、IS学園ってバイトOKだったか?
「にしても大変そうですね。ユニちゃん先輩の仕事。それって、ずっとエレベーターに乗りっぱなしなんでしょ?」
「いや、このボクの本来の業務は、そこのインフォメーションセンターでの対応なんだよ」
「え? それじゃあ、どうしてエレベーターガールなんかをして…」
上の人に手伝ってくれ的な事でも言われたのかな?
仕事って急に別の事を言われる事が多いらしいからな。
「余りにも誰も来なくて暇だったから、独断でエレベーターの乗務員をやってたんだよ」
「自分の暇さ加減で勝手な持ち場に付くなよッ!?」
それって、もし見つかったら確実に怒られる案件じゃねぇか!!
この人に怖いもんは無いのかッ!?
「あ…あれ? 先輩…あそこにいるお婆さん…さっきからキョロキョロしてますけど、もしかしてインフォメーションに用事があるんじゃないんスか?」
「どうやら、そのようだ。どれ、本来の仕事でもするか」
なんか偉そうに言ってるけど、それが普通のことなんだぞ?
「いかがなされた御老人」
あんたはどこの侍だ。
「すみません…日傘はどこに売ってありますかねぇ…?」
「ふむ…日傘の購入を希望か」
さて…先輩はどんな風に案内するのか。
無駄に弁だけは立つからな。これは見ものだぞ。
「まずは、このフロアを直進して、その後に突き当たりを左折するといい」
なんか物凄い上から目線!
背は小さいけど。
「それを何回か繰り返していけば、このフロアを一周することになるので、自然と目的の日傘を見つける事が出来るだろう」
「アンタは一体何を評価されてインフォメーションセンターに採用されたんだ…?」
あー…お婆さんが言われた通りに歩いて行ってしまった…。
ちゃんと日傘を見つけられたらいいんだけど…。
(ん…? ちょっと待てよ? 部活って事は、まさか…)
なんだろう…猛烈に嫌な予感がしてきた…。
「もしかして…クロエ先輩と風間さんもいるんスか…?」
「勿論だとも。因みに、チエル君は4階のペットショップ。クロエ君は7階の特別催事場の勤務となっている」
やっぱりか…!
そうだよな…この人一人なわけがないよな…。
基本的に、なかよし部ってあの三人でワンセットって感じだし…。
でも、このままだと…。
アルバイト(部活動)
↓
トラブル発生
↓
IS学園に報告
↓
顧問の責任追及
↓
千冬姉に迷惑が掛かる(主に減給や免職とか)
(仕方がない…様子を見に行ってみるか…)
まずは四階のペットショップからだな。
風間さん…何も余計な事をしてなけりゃいいんだけど…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
てなわけで、やって来ました四階のペットショップ。
ここのどこかに風間さんがいる訳で…。
「えーと…風間さんはどこにー……ん?」
「「ワンワン!」」
これは…犬の鳴き声?
いや…ここはペットショップだから、これぐらいは普通か。
「「「「ワンワンワン!」」」」
「はいはい。皆、落ち着いてね~」
あの後ろ姿は…間違いない! 風間さんだ!
「それじゃ、お待ちかねのランチタイムの時間ですよ~!」
「ニャ~」
「ワンワン!」
めっちゃ動物に懐かれまくってる!!
風間さんの周囲に犬と猫の群れが出来上がってるんだけど!
たった一人で妙な王国を生み出してやがる!!
「アハハ! んも~…いたずらっこさんなんだからぁ~!」
ご満悦だよ…超いい笑顔を浮かべてるよ…。
悔しいけど、普通に可愛いって思っちまったよコノヤロー。
「あー…頑張ってるー…? 風間さーん…」
「あれ? 織斑君じゃないですかぁ~! 日曜日に一人優雅にショッピングですかぁ?」
「まぁ…そんなところかな…あはは…」
そのショッピングも早くも潰されそうになってるけどな…。
「チエルは、今からこのコッコロちゃんたちにランチをあげるところなんですよぉ~!」
一体どれだよコッコロちゃん…。
俺には全く判別出来ねぇよ…。
「ほら。沢山食べるんですよ~。 昨夜、一流シェフに徹夜で作らせた逸品ですからね~」
一流シェフさん…可哀想に…。
本気で同情するよ…。
「けど、風間さんって意外と動物好きだったんだな。初めて知ったよ」
「チエルも女の子ですからね。可愛い動物は普通に大好きですよ?」
それもそっか。
可愛い動物って男女関係なく好かれるもんだしな。
「チエルは…ここに色んな動物たちが集うパラダイスを作るって決めたんです!」
たった半日で物凄い規模の夢を持ったな…。
流石はリアル社長令嬢…スケールが違うぜ…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
今度は7階の特別催事場か。
ここのどこにクロエ先輩がいるのやら。
「ん? なんだ…?」
あそこだけ妙に人だかりが出来ているような…。
何かやっているのか?
「さぁさぁ皆さん、お立ち会いー」
こ…このアンニュイな感じの独特な声は…まさか…!
「今から楽しいショーがはーじまーるよー」
いた――――――――――――!!!
しかも、まさかの実演販売員をやってるよ――――――!!!
流石にこれは予想出来なかった――――――!!!
「ここに取り出したるはカッチコチに凍りついた固ーいお肉。これがなんと…ふん!!!」
ま…真っ二つかよ!!
成る程…あの包丁をここで売ってるんだな。
「凍った肉だけじゃなく、魚の背骨も。カマボコ板までこの通り」
「「「おぉ~!」」」
「…と、この通り。こんなにも切ったのに、全く欠けてない」
こ…こいつは確かにスゲェ…!
ちょっと、あの包丁が欲しくなっちまった…。
そういや、そろそろ実家の包丁を買い替えようと思ってたんだよな。
良い機会だし、あれでも買って帰って…。
「そんな『まな板』が、なんとたったの千円ぽっきり」
まな板の方かよ!!!!
なんで包丁の方を売らねぇンだよ!!??
「あ。一夏じゃん。どったの? こんな所で」
「それはこっちの台詞なんスけどね…」
下の名前で呼ばれて少しだけ嬉しかったのは内緒だ。
普通に美人だから、目を見て話しにくいんだよな…。
「そ…それはともかく、中々に好評みたいじゃないですか。先輩の実演販売」
「今はね。でも、最初は中々に人が集まらなくてさ。仕方なく『サクラ』を使ってたんだよ」
「サクラ?」
「そ。そこにいるっしょ?」
そう言ったクロエ先輩が指さした方向には、なにやら妙に見覚えのある線の細いIS学園の制服を着た金髪の男子が…。
「って…シャルル―――――――――!!!???」
「あ…イチカァ~…!」
朝から姿を見なかったと思ったら、なかよし部の人達に拉致られてたのか!?
そういや最近、シャルルがなかよし部と一緒に行動している所を良く見かけるって噂で聞いたことがあるような気が…。
あれ、本当だったのか…。
「こんな所で何やってんだ…?」
「それはボクの方が知りたいよ…」
だろうな。
「少し早く起きてしまって、喉が渇いたから廊下にある自販機にジュースを買いに行ったら風間さんに掴まって…気が付いたらここに…」
「そ…そうか…」
完全になかよし部に振り回されてるな…。
その気持ちはよーく分かるぞ…!
「シャルルがクロエ先輩のサクラをやってたのか?」
「まぁね。正直、クロエ先輩と一緒で助かったよ…。ちょっとお芝居でお客さんの振りをしてればいいし。色々と心配してくれるし」
クールそうに見えて、実はかなり面倒見が良いんだよなクロエ先輩は。
正直、学園でも人気があるのが納得出来ちまう。
「一夏は買い物?」
「そんな所だ」
これで一通り見て回ったな。
心配ではあるけど…今のところは特にこれといった問題は起こしてない。
なら、俺はとっとと屋上まで行って観葉植物を買って帰らせて貰いますか…ん?
ピンポンパンポン♪
『迷子のお知らせです』
「この声…ユニちゃん先輩か?」
いきなり店内放送とは…何があったんだ?
『○○町からお越しの氷川鏡華ちゃん8歳のお母様。繰り返します。氷川鏡華ちゃん8歳のお母様』
あぁ…迷子のお知らせってやつか。
ちゃんとやるべき事をやってるじゃないか…。
『娘の身柄を預かってる』
「アンタはどこの誘拐犯だ!!!」
完全に言葉選びを間違ってやがる!!
急いで行って止めなければ!!!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
全力ダッシュで一階まで戻った俺は、急いでさっきのインフォメーションセンターまで行った。
「返して欲しくば、一階のインフォメーションセンターに…」
「全力全開で誤解を招くような発言やめ――――――――!!!!」
はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!
ちくしょう…! 結局はこうなっちまうのかよ…!
「む? 一夏くんよ。店内に犬を連れ込むのは感心しないな」
「え? 犬?」
犬なんて一体どこに…って、なんか足元にいるし。
「俺…こんな犬なんて知らな…ん?」
足元にて元気に尻尾を振っているトイプードルには『コッコロちゃん』と刻まれた首輪があった。
ま…まさか、これは…!
猛烈に嫌な予感がしたので、コッコロちゃんを抱きかかえて再び全力ダッシュで4階まで戻った。
すると、そこには絶句するような光景が広がっていた。
「犬や猫だけじゃなく…小鳥や馬…イタチにカピバラ? 小熊に子ライオン…ワニまでいるっ!?」
さっきまで、どこにもこんな奴らはいなかった筈だぞっ!?
一体どこから湧いて出やがったッ!?
「アハハハハ♡ ハハハハ♡」
満面の笑みで動物たちを撫でまわしてる…。
少し目を離した隙に光の速さで楽園化が進んでやがる…!
「ねぇねぇ奥様。ご存じ?」
「あら? 何かしら?」
「7階の特別催事場で今から、二人組の高校生が奇術ショーをするらしいわよ?」
なん…だと…!?
そんなこと…させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
つーか、シャルルも地味になかよし部に染まってきてるじゃねーか!!
頼むから、お前だけはそっち側に行かないでくれぇぇぇぇぇぇっ!!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
『本日の営業は全て終了いたしました』
なかよし部のフォローをしている間に営業時間が終わっちまった…。
休日なのに、平日以上に疲れ果てたんだが…。
なかよし部に少しでも関わったが最後…休日ですら安息が許されないってのか…?
「またのご来店をお待ちしております」
なんかユニちゃん先輩が最後に言ってるし。
もうツッコむ気力すら湧かねぇよ…。
っていうか…俺……。
(観葉植物…買うの忘れてた…)
俺…何をしにデパートまで来たんだよ…。
マジで貴重な休日を無駄にした…はぁ~…。
なんでこうなるんだよ…。
なかよし部で誰が好き?
-
可愛いクロエちゃん!
-
賢いユニちゃん!
-
楽しいチエルちゃん!
-
皆大好き!