IS学園なかよし部 活動記録   作:とんこつラーメン

12 / 40
なかよし部とルームメイト

 夕闇が差し掛かる時間。

 放課後すらも終えて、夕飯までの時間は完全に自由時間となっている。

 と言っても、余程の事が無い限りは学生寮から出る事は許されておらず、基本的には自室で過ごすか、もしくは友人などの部屋で一緒に過ごしているかのどちらかが大半だ。

 

 そしてそれは、彼女達『なかよし部』の面々も決して例外ではない。

 

 IS学園の学生寮は基本的に学年ごとに区別されている。

 一年生は『一年寮』に。

 二年生は『二年寮』に。

 三年生は『三年寮』に…と言った具合に。

 

 その一年寮の一室にて、チエルは一人の少女と会話をしていた。

 

「いや~…まさか、今までずっと社長令嬢権限を使って一人部屋ライフを楽しんでいたチエルの人生初めてのルームメイトが、あの篠ノ之さんになるとは、流石のチエルも想像してませんでしたよ~」

「そ…そうか…」

 

 まるでマシンガンのように言葉の弾丸を発射するチエルに困惑している黒髪ポニーテールの少女は『篠ノ之箒』。

 ISの生みの親であり天才科学者でもある『篠ノ之束』の実の妹である。

 そして、あの一夏の幼馴染でもあった。

 

(本当に、良く喋る奴だな…)

 

 正直な話、箒はチエルの事が苦手だった。

 お世辞にも箒は人当たりが良いとは言えない。

 俗に言う『陰キャ』という人種だ。

 それとは逆に、チエルは典型的な『陽キャ』タイプだった。

 性格的な意味で相容れない二人が、あろうことか同じ部屋になる。

 箒的には気まずい事この上ない状況だった。

 

「確か、前は一夏君と同じ部屋だったんですよね?」

「あ…あぁ…まぁな…。男同士と言うことでデュノアが一夏と同じ部屋になった事で、私が押し出される形でこっちに来たんだ」

「成る程~…そうだったんですね~」

 

 素直に自分の事情を話したが、それ以上に箒には気になっている事があった。

 彼女としては絶対に無視出来ないことが。

 

「な…なぁ…風間…」

「なんですか?」

「お前は…その…一夏とよく話しているようだが…仲が良いのか?」

「そーですねー。一夏くんはよくウチの部の活動に参加してくれますし、仲が良いと言えば良い方なんじゃないですかね?」

「そうか…」

 

 一夏の事を見ていると、嫌でもチエルの事も目に入ってくる。

 その生来の明るさでチエルは笑顔たっぷりの自然体で一夏との会話を楽しんでいる。

 やりたいと思っていても、箒には絶対に出来ない芸当だった。

 

(呼び方も『織斑君』から『一夏くん』に変わっている…。それだけ仲が縮まったと言うことなのか…)

 

 悔しい。

 けど、それは自分勝手な醜い嫉妬だ。

 自分がもっと積極的ならば、今のチエルと同じ場所に立てている筈なのだ。

 

「…ところで風間…さっきから何をしているんだ?」

「何って…ヨガですけど?」

「ヨガ…」

 

 床にヨガマットを敷き、ピンクと黒のヨガウェアを着て、テレビにはヨガの先生がお手本として映し出されている。

 

「チエル、こう見えても色んな通信教育をやってるんですよ~」

「例えば、どんなのだ?」

「えっと~…柔道に空手に合気道にレスリングにマーシャルアーツに少林寺拳法にジークンドーに中国武術にキックボクシングにムエタイに太極拳にカポエラに…」

「も…もういい! もう十分に分かったから…」

「そうですか?」

 

 どうやら、この風間チエルと言う少女は想像以上に凄い人間なのかもしれない。

 見た目は明らかにギャルなのに、その中身は圧倒的なまでの努力で構成されていた。

 

「あら? 私のスマホが鳴ってる?」

 

 チエルは今までしていた『テレポートのポーズ』をやめてから、ベッドの上に置いてあるスマホを手に取り、通話に出た。

 

「はいはーい。世界の美少女、皆のアイドルのチエルですよ~。ちぇる~ん☆」

 

 どうして、電話に出るだけの挨拶でここまで長々と話せるのだろうか。

 

「え? あ…あぁ~…はいはい。はぁ…全く…マジのマジの大マジで呆れちゃいますよ~。ぶっちゃけ『今更?』って感じなんですけどぉ~」

 

 誰と話をしているのだろうか。

 かなり気さくな雰囲気を感じるが。

 

「分かってますよー。ちゃーんと『先輩達』も呼んで、そっちに行ってあげますから。はいはい。んじゃ、切りますよ~」

 

 通話を終えてから、薄手の上着を着てから、そのポケットにスマホを入れる。

 そして、チエルは部屋を出ようとドアの取っ手に手を掛けた。

 

「ど…何処に行くんだ? さっきの電話の相手の所か?」

「ん~…そんな所ですかね? ま、チエルの事は気にせずに、篠ノ之さんは一人で勝手に夕食を食べに行ってもいいですよ~。それじゃ、行ってきマ~ス!」

「い…いってらっしゃい…」

 

 可愛らしいウィンクを残し、チエルは部屋から去って行った。

 一人残された箒は、大きな溜息をしてからベッドに横たわる。

 

「はぁ…疲れる…」

 

 それは、紛れもない本心から出た言葉だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 二年寮。

 その一室に彼女達はいた。

 

「ねぇ…クロエちゃん」

「なによ楯無」

「……なんでもない」

「なんじゃそりゃ」

 

 ベッドの上に座り込み、暇潰しに読書(ラノベ)をしているクロエに、背後から抱き着き、その背中に顔を埋めている楯無。

 

 普段ならば二の句も告げずに追い払おうとしている所だが、最近はそうでもなくなってきた。

 単純に『しつこ過ぎるので諦めた』というのもあるが、それ以上に『こういうのも悪くないかも』と思い始めてきたのだ。

 

「…西尾維新?」

「川原礫」

「…SAO?」

「正解」

 

 ページを捲る音だけが部屋に響く。

 普段の二人からは想像が出来ない程に静かな時間だ。

 

「…ねぇ…『刀奈』」

「え…?」

「ウチを抱き枕代わりにする事で、アンタの不安を少しでも消せるんなら…好きなだけこうしてていいよ」

「クロエちゃん……ズルいわよ…そーゆーの…」

 

 それは、本来ならば決して公表できない彼女の『本名』。

 真の意味で親しい相手にしか教えてはいけないとされている真名。

 

 国家代表。暗部当主。そして、生徒会長。

 幾つもの肩書きと役職を持つ彼女ではあるが、それら全てを十全にこなせているかと言えばそうではない。

 常に誰かに助けられ、その度に自分の未熟さを痛感する。

 特にクロエも入っている『なかよし部』にはいつも学内で助けてられっぱなしだ。

 破天荒な言動が多い彼女達ではあるが、それが許されているのは『なかよし部』がIS学園にそれだけ多大な貢献をしているという証拠でもあった。

 

「そんな事を言われたら…私…本気で貴女の事を…」

 

 クロエの事は好きだ。

 けど、その『好き』はあくまで『友人』としての『好き』だった。

 その感情が最近になって明らかに変わってきた。

 楯無…刀奈の中の『好き』が、『友愛』から『恋愛』に変わろうとしている。

 

「好きにしたらいいじゃん」

「え…?」

「当主だ会長だ代表だっつっても、アンタだって立派な一人の人間で女の子なんだし。少なくとも、この部屋にいる間は好きにしたらいいと思うよ。ここにはウチしかいない。アンタのことを『役職』で見る奴は一人もいないんだよ」

「クロエ…ちゃん…」

 

 もう限界だ。

 彼女の優しさが全身に染み渡っていく。

 普段はツンケンしてるけど、本当は誰よりも友人想いの心優しい少女。

 だからこそ彼女は皆に好かれ、多くの人々を惹きつけるのだろう。

 

「ねぇ…クロエちゃん…私…あなたのことが…」

「刀奈……」

 

 ふと視線が合う。

 至近距離で二人の少女が見つめ合う。

 その顔は段々と近づいていき、やがて、その唇が触れそうな距離にまでなる。

 目を瞑り、互いに指を絡ませ合いながら手を握りしめ、そのまま……。

 

 ちぇる~ん☆ ちぇる~ん☆ ちぇる~ん☆

 

「「!!??」」

 

 いきなりクロエのスマホからメールの着信音が鳴り響く。

 これはチエルからのメールだ。

 

「び…びっくりしたわね…あはは…」

「心臓が止まるかと思った…」

 

 二人して顔を真っ赤に染めて渇いた笑いをしている。

 雰囲気に流されて、そのまま一線を越えようとしてしまっていた自分達が急に恥ずかしくなってきた。

 

「チ…チエルの奴…いいタイミングでメールを送ってきやがって…」

「まぁまぁ…」

 

 怒りに震えながらスマホを手に取り、鼻息荒く送られてきたメールを確認する。

 それを見て、クロエの目が大きく見開かれた。

 

「…『楯無』」

「どうしたの?」

「どーやら…一夏の奴が遂にやったっぽい」

「…マジ?」

「マジ。一番懸念していた事態が起こるとは…はぁ…」

 

 首をコキコキと鳴らしながらベッドから降り、いつものジト目で楯無を見つめた。

 

「アンタも一緒に行くっしょ? 生徒会長として」

「勿論。知ってしまった以上は放ってはおけないもの」

「だと思った」

 

 二人して部屋から出ようとした時、クロエがそっと呟く。

 

「あの…さ。さっきの事なんだけど…」

「さ…さっきのこと…?」

「…時間はたっぷりあるんだし…また改めてする事も出来るんじゃね? 知らんけど」

「クロエちゃん…♡」

 

 この子は本当に、どれだけ自分に恋をさせれば気が済むのだろうか。

 こんなの、好きにならない方が無理だろう。

 

「ほんと…大好き…♡」

「…あっそ。…………それはお互い様だっつーの

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 三年寮。

 IS学園の最上級生たちが住んでいる寮。

 

 そこで彼女達は、まったりとした時間を過ごしていた。

 

「痛い所はありませんか?」

「それならば大丈夫だ。寧ろ、とても気持ちが良い」

 

 ベッドに座っている虚の膝の上に自分の頭を乗せて、耳かきをして貰っているユニ。

 その顔は完全に蕩けていて、非常に気持ちよさそうだ。

 

「虚くんは紅茶だけでなく、耳かきに関しても素晴らしい才能を持っているようだな…。お蔭で、瞼がさっきから重たくてたまらない」

「いつでも寝ても良いんですよ?」

「そうしたいのは山々だが…まだ夕飯を食べていないし…風呂にも入ってないしな…寝るのは…それをしてからにしたい…ふわぁ~…」

 

 眠たそうに瞼を擦るユニの頭を優しく撫でる虚。

 そんな彼女の顔もまた蕩けていた。

 

(あぁ…本当に可愛い…♡ 同い年とは思えない…♡)

 

 確かにユニは見た目的にも高校三年生とは思えないが、それでも立派な18歳の乙女なのだ。

 その容姿のせいで完全に三年生たちのマスコットと化しているが。

 

「あ…ジッとしていてください。大きいのがあります」

「了解だ。頼むよ」

 

 集中モードになって耳かき棒を慎重に動かしていく。

 この小さくも可愛らしい耳を決して傷つけないように細心の注意を払いながら、奥の方に見えた大きな耳垢に狙いを定めていく。

 

「ここを…こうして……取れた」

「おぉ~…」

 

 見事に巨大耳垢の排除に成功した虚は、傍に敷いてあるティッシュに戦利品を置き、再び耳かきを行う。

 その姿はまるで娘を慈しむ母親そのもの。

 とてもじゃないが高校三年生同士の光景には見えない。

 

「…おや?」

 

 念の為と思って置いておいたスマホが震えている。

 ユニは他の二人とは違い、着信はサイレントにして、常時バイブレーション設定にしているのだ。

 

「これは…チエルくんからか。なになに…?」

 

 耳かきをされながらチエルからのメールを確認する。

 気怠そうな表情は相変わらずだが、ほんの少しだけ瞼がピクリと反応した。

 

「…成る程。どうやら時が来たようだ。まさか、こんなにも早いとは思わなかったが」

「どうかしたのですか?」

「例の彼女が、同室の彼に正体を露見してしまったらしい。それを知ったチエルくんがボクやクロエ君に連絡をしてから、彼らの部屋に向かっているとの事だ」

「そうですか…」

 

 名残惜しそうに立ち上がってから上着を着て軽く整える。

 

「虚くん。戻ってきたら続きを頼むよ」

「分かりました。いってらっしゃい」

「うむ。行ってくる」

 

 パタパタと手を振って部屋を後にするユニを見送りながら、虚の顔はまたしても蕩けていた。

 

 

なかよし部で誰が好き?

  • 可愛いクロエちゃん!
  • 賢いユニちゃん!
  • 楽しいチエルちゃん!
  • 皆大好き!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。