第三アリーナに到着すると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
「う…うぅ…!」
「まだ…ですわ…!」
体もISもズタボロになった状態でステージの地面に横たわっているセシリアと鈴の二人。
それを悪意ある笑みで見下ろしているラウラ。
それだけで、この場で何が起きたかは明白だった。
「アイツ…!」
生まれて初めて、一瞬で頭の中が怒りに支配された。
俺の大事な友人達を傷つけやがって…絶対に許さねぇっ!!
「なんてことを…!」
「セシリア…鈴…!」
俺の隣にいるシャルルと箒も、心配そうに二人を見ていた。
一刻も早く二人を助けねぇと!!
「ユニちゃん先輩! 早く俺から降りて…あれ?」
「もう降りているよ」
い…いつの間に?
マジで気が付かなかったぞ…。
「なぁに。君の気持ちは理解出来るが、心配は無用だ。こんな時の為に我々『なかよし部』が存在しているのだ。久し振りに、我等が役目を果たそうじゃあないか」
「役目…」
俺が知らないだけで…なかよし部には本来の使命的なのがあるってのか…?
「このアリーナに到着した瞬間、君達が狼狽えている間にもう…なかよし部は行動を開始しているのさ。このように…ね」
そう言うと、ユニちゃん先輩は目の前の空間に投影型ディスプレイを展開して、何かを操作し始めた。
「あ…あれ? そう言えば、クロエ先輩と風間さんがいないよッ!?」
「ほ…本当だ! 一体どこに消えたんだっ!?」
「二人ならば、もう既にあそこにいるよ」
「「「え?」」」
あそこって…あっ!?
「「「ステージに降り立ってるっ!?」」」
い…いつの間にあそこまで移動したんだ…?
マジで全く分からなかったぞ…。
「彼女達の事は二人に任せておきたまえ。少なくとも、怒り心頭で冷静じゃない君よりは適任な筈だ」
「うっ…」
言われてしまった…。
でも…そうかもしれない。
感情任せに剣を振ったって、アイツに通用するとは思えない。
寧ろ、返り討ちに遭うかもしれない。
「なぁに。彼女達ならば大丈夫だ。伊達になかよし部の部員じゃないってことを存分に見せてくれるよ…っと。こんなもんかな?」
「あのー…さっきから先輩は何をしてるんスか?」
「ちょっとね。あのドイツ少女にお仕置きをする為の下準備さ」
「「「下準備…」」」
なんだろう…あんまり良い予感がしないのは…。
この人の事だから、俺達の想像の斜め上の事をしそうなんだよな…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ステージに降り立ったクロエとチエルは、すぐに倒れている二人の元まで駆け寄った。
「そこの二人。だーいじょーぶかー?」
「あらら…随分と派手にやられちゃいましたね~」
「か…風間さん…クロエ先輩…お見苦しい姿をお見せしましたわ…」
セシリアは以前に会った事があるので、二人に対して普通に返事が出来たが、鈴は完全な初対面なので、二人に対してどんな反応をすればいいのか戸惑っていた。
「だ…誰よ…あんたら…」
「風間さんは私と同じ一組のクラスメイトで、クロエ先輩は二年の方ですわ」
「一組の…全然知らないわ…」
基本的に鈴の中の一組とは、想い人である一夏と、自分と同じ取り巻きである箒とセシリアしか知り合いはいない…というか眼中にすら入っていない。
なので、この反応は当然だった。
「ま、別にいいですけどねー。チエルも基本的には、自分の興味のある人としか付き合わないようにしてるんでー」
「つーか、んな事を話してる場合ちゃうし。あんたらはここでジッとしてな。あのドイツ女はウチらで懲らしめるからサ。いくよチエル」
「はーい♡」
クロエに言われてウッキウキで返事をするチエル。
二人は先程までずっと好き放題に暴れていいたラウラに向かって無言で歩いていった。
「あ…危ないですわ! 生身でISを纏った相手に近づくなんて!」
「そうよ! 早く逃げなさい!!」
「だいじょーぶ。アホ丸出しでイキるだけしか能が無い候補生程度、別にISなんて使うまでもないっしょ」
「っていうかー、使ったら寧ろ可哀想…的な感じ? 幾ら相手が10:0で悪いとはいえ、ハンデぐらいはあげないとカワイソーですよねー」
それを聞き、ずっと黙っていたラウラの顔が反応した。
「今…何と言った? この私に対してハンデ…だと? 貴様等風情が?」
「いや…風情なのはそっちでしょ。どう考えても」
「井の中の蛙、大海を知らず…ってやつですねー。身の程知らずも、ここまで行くと滑稽を通り越してギャグになりますよね」
「貴様等…!」
生身の人間がISを纏った相手に挑発を繰り返す。
普通に考えれば無謀極まりない行為だが、それはあくまで『世間一般』の話であり、少なくとも彼女達『なかよし部』には、その常識は一切通用しない。
それをこれから、この場にいる全員が思い知ることとなる。
「良いだろう…ならば私も容赦せん!! このシュヴァルツェア・レーゲンの前にひれ伏…なに…!?」
ラウラが体を動かそうとしたら、全く自身の体が動かない。
否。正確には動かないのは体ではなくてISだった。
「残念だが、君はもうその場から動く事は愚か、指一本すら動かす事は出来ないよ」
「な…何だとッ!?」
そう言いながら現れたのは、投影型ディスプレイを操作しながら歩いているユニ。
こうして、なかよし部のメンツが完全に集結した。
「君のISは、この僕がアリーナに来た瞬間に『ドルイドシステム』を使ってコアにハッキングを仕掛け、一時的な麻痺状態になって貰った」
「ば…バカなッ!? ISのコアをハッキングだとッ!? そんな事が出来る筈がない!! 世迷い事を抜かすな!!」
「それは君がまだ世の中の事を知らないから言える台詞だ。他の連中には出来ない。けど、僕には出来る。それだけの話さ。なんたって、僕は天才美少女だからね」
自分で言ってりゃ世話がない…と思われがちだが、ユニの場合は本当に天才で美少女だから誰も何も言えない。
「さて…どんな気持ちだい? 敵対者を目の前にして全く身動きできない気持ちは? あ、当然だが強制解除なんてさせないよ? 君は少し調子に乗り過ぎた。IS学園の秩序を守護する『なかよし部』として、これから君に『お仕置き』をするからね」
「ふん…やれるものならやってみろ!! 例え身動きできずとも、私がISを纏っている以上、貴様等に私を傷つけることは不可能! それとも、貴様等もISを纏ってみるか? ハハハハハハ!」
ISをという絶対的な鎧があることで、まだ強気な態度を崩さないラウラ。
それを見て、なかよし部の三人は大きな溜息を吐いた。
「知らぬが仏とはよく言ったものだな」
「そうッスね。んじゃ、今からこの調子こきまくりなガキンチョに教えてやりますか」
「その事の愚かさを…ですね」
まずはクロエがポケットに手を突っ込みながら静かに歩き始め、右手だけを出してポツリと呟く。
「来な…MVS」
クロエの右手に、黄金の装飾が施された一本の剣が出現する。
その刀身はすぐに真紅に染まり、クロエはそれを軽々とくるくる回していた。
「剣…だと…!?」
「ウチのISの武器の一つ。正式名称『メーザー・バイブレーション・ソード』。要は『刀身に超高周波振動を起こして切れ味を超絶上げ捲っている剣』だよ。そして…」
ラウラの前まで来ると、クロエがMVSを一閃してから刀身の振動を解除、自身の肩に乗せた。
「まずは一丁っと。これでもう第三世代兵装頼りなバカの一つ覚え戦法は使えないっしょ」
一瞬、何をされたのか分からなかった。
だが、それはすぐに判明することとなる。
「なっ!?」
なんと、レーゲンのリボルバーカノンがバラバラの輪切りにされ、更にレーゲンの切り札とも言える『PIC』が搭載されている両腕部の一部のみがピンポイントで見事に斬り裂かれていた。
「ま…全く斬った瞬間が見えなかった…だと…!? まさか…生身でISを超える動きをしたというのか…!?」
「はぁ? この程度で驚かれても普通に困るんですけど? だろチエル?」
話を振られたチエルは、ニコニコ顔で頷きながらラウラに近づいていく。
「全く以てそーですねー。っていうかー…」
首をコキコキと鳴らし、同時に両拳を交互に握りしめて骨を鳴らす。
そして、徐にレーゲンの脚部装甲をその手で掴んだ。
その際にチエルの指が装甲に突き刺さって罅割れを起こしている。
「あたし達『なかよし部』をあんまし舐めて調子こいてんじゃねーぞ。ドイツ女が」
「な…なんだとっ!? わ…私の身体が…レーゲンがッ!?」
なんと、そのままチエルはレーゲンごとラウラの体を持ち上げ、その場で何度も何度もジャイアントスイングのように振り回し、最後にはそのままの勢いで壁に投げつけた。
「どっせーい!! ってか?」
「ぐ…はぁっ…!?」
アリーナの壁に全身がめり込み、レーゲンが先程からアラームを鳴らし続けている。
それは、ISのダメージが危険域に達している証拠だった。
「嘘…でしょ…!?」
「私達が二人掛かりでも敵わなかった相手を…生身で完全に圧倒している…!?」
今までの常識が全て真っ向から否定され、同時に覆された瞬間だった。
生身の人間ではISを守った相手には絶対に敵わない。
これはISが登場してからずっと覆される事の無い常識だった。
その常識が今、三人の少女達によって破壊された。
ISの根幹を成すコアをハッキングして身動きを封じ、ISの武器を使っているとはいえ、生身の力でISの装甲を斬り裂き、挙句の果てはISを腕力のみで持ち上げてから振り回してから投げつけた。
世のISの研究に携わる人間達が見れば、泡を吹いて卒倒するような光景がそこにあった。
「そこまでにしておいてやれ。三人共」
「「「はーい」」」
遅れてアリーナにやって来た千冬が駆けつけ、なかよし部三人の動きを静止させた。
どのみち、彼女達はこれ以上のことはするつもりは無かったが。
「はぁ…一先ずは礼を言う。このバカの暴走を止めてくれて感謝する」
「なに。これもまた我等『なかよし部』の立派な活動の一つさ」
「そーゆーこと。だから、気にする必要はないッスよ」
「トーナメントが終わったら、またいつものように部活に顔を出してくれたら、チエル達的にはそれで十分ですよ~」
さっきまでの本気モードが消え、いつもの彼女達に戻った。
それに伴い、ユニの手でレーゲンが強制解除されてラウラが地面に落ちる。
「この…私が…こんな奴らなどに…!」
「馬鹿者が…! お前達、ボーデヴィッヒは私に任せて、あの二人の事を頼む。あと、トーナメント開始までの間、模擬戦などの行為は全て禁止とする。いいな?」
「「「了解」」」
なかよし部の三人がセシリア達の元まで行くのを見届けてから、千冬は地面に倒れているラウラに視線を向けた。
「きょ…教官…私は…!」
「お前は、どれだけ私に迷惑を掛ければ気が済むんだ? それとも、ドイツから日本にまで態々来たのは、私に対して迷惑をかける為なのか?」
「ち…違います! 私は…!」
「貴様の言い訳なんぞ聞く気は無いし、聞きたいとも思わん」
「教…官…」
完全に怒っている。
千冬の本気の怒りにラウラは委縮していた。
「…随分と手加減をして貰ったようだな」
「手…加減…?」
「そうだ。あの三人がその気になれば、貴様のような奴なぞ10秒も掛からずに倒せたはずだ」
「そんな馬鹿な事が!」
「有り得るから言っている。なかよし部の三人の実力は、この私でも完全に把握していない。ただ一つだけ確かなのは、アイツ等に世の常識は通用しない。それは、お前自身の身で実感したはずだ」
「…………」
完全なる敗北。
しかも、自分はISを纏い、相手は生身の状態。
言い訳のしようがない。
目撃者は多数存在している。
アリーナのカメラにも録画されている事だろう。
「この事は学園側から正式にドイツに向けて抗議することになるだろう」
「そ…そんなっ!?」
「それだけの事をお前は仕出かした。見損なったぞ。私はお前に『暴力』を教えた覚えは無い」
「!!!」
見損なった。
その一言はラウラの心を確実に抉った。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。学年別トーナメントまでの間、貴様には反省室での謹慎処分を言い渡す。無論、貴様のISはトーナメントまでこちらで没収させて貰う。危険極まりないからな。分かったら、とっとと行け」
「は…い…」
ゆっくりと立ち上がりながら、背中を丸めてアリーナから去ろうとするラウラ。
不意に後ろを振り向くと、そこにはラウラの暴挙を食い止めたなかよし部の三人の事を褒め称えている千冬の姿があった。
(どうして…あそこにいるのが私じゃないんだ…どうして…どうして…どうして…)
言葉に出来ない黒い感情がラウラの心を覆い尽くしていく。
それはやがて、怒りから憎しみへと変化し、その対象が一夏からなかよし部の三人へを移り変わる。
(あいつ等さえ…アイツ等さえいなかったら…私だって…私だって教官に…!)
執着から依存。そして背信の域にまで達した心を止める者はここにはいない。
誰からも救いの手は差し伸べられないまま、少女の心は確実に歪んでいくのであった。
なかよし部で誰が好き?
-
可愛いクロエちゃん!
-
賢いユニちゃん!
-
楽しいチエルちゃん!
-
皆大好き!