VTシステム暴走事件から数日。
ようやく体を動かせるようになった私は、織斑教官に教えて貰い、放課後に風間ちえる達がいるであろう学生食堂へと向かった。
「いやー。今日の試合も無事に終わりましたね~」
「そうだな。どの試合も実に見事だった」
「ま、うちらはシードだから明日こそが本番なんだけどネ」
「ずっと退屈だったッスよ~」
「私達は予定通りに決勝進出できたし…」
「やっとクロエちゃん達を試合が出来るわね」
「シード権ってのも考えもんだな。その点、オレ達は順調に勝ち進んで決勝進出したもんな」
「うむ。蜃気楼の調子も悪くはないし、このまま優勝してしまおう」
あの三人は、各々に自分のパートナーであろう相手と一緒にいて話をしていた。
上級生もいるが…別に構わんだろう。
「真宮寺由仁。黒江花子。風間ちえる」
「「「ん?」」」
声を掛けたら振り向いてくれた。
無視されたらどうしようかと思った。
「おや。君は…」
「動けるようになったん? 良かったジャン」
「どーしたんですか? ボーデヴィッヒさん」
「あ…えっと…」
これはなんだ…!
いざ、こいつ等を目の前にしたら途端に言おうと思っていた言葉が頭から吹き飛んでしまった…!
「きょ…教官…織斑先生に聞いた。お前達が私の事を救ってくれたと。その礼を言おうと思って探していた」
「律儀な事だ。だが、嫌いじゃない」
「そこまで気にすることはないんだけどナ…。ウチらは大したことなんてしてないし」
「まーまー。折角だし、ここは聞いてあげましょうよー。ね?」
教官の話では、今日もトーナメントの試合があったらしいが…全く疲労をしている様子を見せない。
矢張り、こいつらは只者じゃない…!
「ここはー…私達は去った方が良さそうだな」
「そうね。それじゃあクロエちゃん。また後で」
「部屋で待ってんぞー」
あ…他の連中が行ってしまった。
別に邪魔ではないのだがな…。
「ほれ。そのまま立ちっぱってのもアレだし、こっちに座りな」
「あ…あぁ。では、失礼する」
黒江花子に促され、三人と向い合せになるように座る。
こうして改めて対面すると、なんだか気恥ずかしいな…。
「…一つ…聞かせて欲しい」
「なにかな?」
「どうして…お前達は私を救うような真似をしたんだ? 自分で言うのもアレだが、私はお前達に…」
今になって考えると、私はお世辞にも良い人間だったとは言い難い。
だからこそ分からない。
そんな私をどうして助けてくれたのか。
「あー…それな。まぁ…なんつーか…理由なんて言おうと思えば、それこそ山のように言えるんだけどー…」
「極論を言っちゃえば、一言に尽きますよね」
「うむ。その通りだな」
「それは…?」
「「「誰かを助けるのに理由がいるの?」」」
「………は?」
この三人は…理由も無しに私の事を助けたと言うのか…?
「というのは紛れもない我々の本心だが…軍人である君は、そんな事では納得しない。否、出来ないだろう。なので、ここは一つ。打算的な事も言っておこうか」
「打算的な事…?」
この真宮寺由仁はIS学園で一番の頭脳を持つと言われている…らしい。
それ程の人物ならば、私では思いつかないような事を考えているのか…?
「まず、我々が『風間コーポレーション』所属のIS操縦者なのは知っているかな?」
「あ…あぁ。織斑先生から聞いた」
「であれば簡単だ。風間コーポレーションに所属している我々三人が、現役のドイツ軍人を救出する。そうすれば、こちらはドイツ軍に大きな貸しが出来る訳だ。そうなったら、どうなるか…君はならば分かるんじゃないのかね?」
「そうか…」
自社の製品をドイツ軍に売りつけ易くなる…と言う事か…。
しかも、VTシステムの暴走を食い止めたのは風間コーポレーション製のIS。
性能面における信頼も同時に実証できると言う寸法か…!
「後は、うちらが『なかよし部』だからじゃネ?」
「それもありますねー。っていうか、それが大半を占めてますけど」
「なん…だと…?」
『なかよし部』だから…だと?
それは一体どういう意味だ…?
そもそも『なかよし部』とは一体なんなのだ?
話によると、あの織斑教官が顧問を務めているらしいが…。
「諸事情により詳しいことは言えないが、IS学園内で起きるトラブルの解決をするのが、我々『なかよし部』の活動の一つなのだ」
「時と場合にもよるけど」
「安易に解決しまくってたらキリが無いし、誰かさんの成長を阻害するかもしれないですしねー」
こいつらがここまで言うとは…まさか、なかよし部とはIS学園における特殊治安維持部隊のような存在なのか…!?
だとすれば、あの出鱈目な実力にも納得が出来る…!
単に相手を倒すだけならばそれなりの強さでも十分だが、戦いの仲裁、もしくは強制介入からの両成敗するとなれば話は変わってくる。
相手を止めるのは、相手を倒す以上の実力が要求されるからだ。
故に、この三人は並みの連中では歯が立たない程に実力を有しているのか…!
それとも…。
(最初から圧倒的な実力を持っている彼女達に目をつけ、裏側から学園の治安維持に務めさせている…か)
どちらにしても、こいつらが候補生や国家代表なんて称号に決して縛られないレベルの実力を有しているのは確かだ。
そんな連中の能力を十全に発揮させるためには、第二世代機や第三世代機では性能が足りなさすぎるんだろう。
結果、三人の能力に合わせて高性能なISを開発し続けた結果…最終的に第九世代機と言う世間の常識を全て覆すほどの超高性能機が誕生したのか…。
「そ…そう言えば、お前達は三人揃って決勝戦に進出したのか?」
「「「当然」」」
だろうな…。
これ程の実力を持っていれば、殆どの試合がワンサイドゲームだった筈だ。
そして、この三人と組む相手も並の実力者じゃない。
実際、風間ちえると組んでいた篠ノ之箒も、まだまだ荒削りではあるが優れた操縦者だった。
恐らく、風間ちえるが奴の隠れた才能を見い出したに違いない。
こいつならば十分に有り得る事だ。
「他の二人は分からないが…風間ちえる達の決勝戦の相手は誰になるんだ?」
「一夏くんとシャルルくんですよー」
「矢張り、そうか…」
現状、怪我で療養中であるセシリア・オルコットと凰鈴音を除けば、専用機持ちは奴等だけ。
となれば、必然的にあの二人が決勝まで進むのが道理か。
「ならば…決勝戦の試合は見に行かせて貰う」
「それなら、チエル達も頑張らないとですねー」
「何言ってんだか。最初から手加減とか遠慮とかする気、全く無い癖に」
「えへへ…バレちゃいました?」
「「当たり前だ」」
手加減なし…と言うことは、あの時の蹂躙劇がまた起きると言う事か。
織斑一夏…今となってはもう、お前の事はどうでもいいが、それでも一言だけ言わせて貰う。
…死ぬなよ。マジで。
「なんなら、試合を見に来るだけでなく、今後は遠慮なく『なかよし部』の活動に遊びに来るといい。場所は織斑教員に聞けば分かる筈だ」
「い…いいのか?」
「勿論ですよー。一夏くんも、部員でもないのによく遊びに来てますしー」
「ま、別にいいんじゃネ? 何事も賑やかな方がいいっしょ。知らんけど」
「お前達…」
…成る程な。
これは私じゃ勝てないのも道理か…。
一人で無意味に強がって、強さに溺れて暴走し…孤独に陥る。
孤独の恐ろしさを…一人でいる事の無力さを誰よりも理解していた筈なのに…いつの間にか忘れてしまっていた。
今…ハッキリと分かった。
私は風間ちえるに負けたんじゃない。
『なかよし部』の三人に完敗したんだ。
「っていうか、さっきからずっとウチらの事をフルネームで呼んでるけど、フツーに愛称で呼んでくれてもいいんだけケド?」
「愛称…とは…?」
「ウチのことは『クロエ』って呼んで、パイセンの事は『ユニ先輩』、チエルのことは、そのまんな『チエル』でよくね? つーか、うちらはまだフツーに許すけど、二年や三年のパイセン相手にはちゃんと敬語使っときな。集団生活をする上でのマナーだからネ」
愛称…か。
なんでだろうな…そう言ってくれて嬉しいと思っている自分がいるのは…。
それに敬語…確かに、同じ一年である風m…チエルはいざ知らず、他の二人は上級生だ。
礼儀を失するのはドイツ軍人の名折れだな。
「わ…分かった…じゃなくて、分かりました…。ク…クロエ…先…輩…」
クッ…!
慣れない呼び方が、こんなにも羞恥心を刺激するとは…!
一刻も早く慣れなくては…!
「私…のことも普通に『ラウラ』でいい。『ボーデヴィッヒ』では長くて言い難いだろうしな…」
「それじゃあ、これからは『ラウラちゃん』って呼ばせて貰いますね! ラウラちゃん!」
「ラ…ラウラ…ちゃん…!?」
この私を…ちゃん付け…だと…!?
か…顔から火が出そうな程に熱い…。
「キャ~! 恥ずかしがって俯くラウラちゃんが可愛過ぎですよぉ~!」
「ふむ…成る程な。どうやら、これが彼女の『素』のようだな」
「みたいだね。こっちの方が良くね? ふつーに好感が持てる」
そろそろ勘弁してくれ…。
そうか…これが報いなのか…。
「チエル。その辺で勘弁してやんな。流石にカワイソーになってきたわ」
「はーい」
「ラウラくん…か。彼女と一緒ならば、今まで以上にいっぱいお菓子が貰えそうだな…」
「「先輩?」」
ユニ先輩…が何か言っているが、よく聞き取れなかった…。
教官…この空間から助けてください…。
なかよし部で誰が好き?
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可愛いクロエちゃん!
-
賢いユニちゃん!
-
楽しいチエルちゃん!
-
皆大好き!