クラス対抗戦。
それは、年に一回行われる学園内のイベントの一つであり、各学年の各クラスのクラス代表が出場してISで試合をするものである。
学内のイベントでは中々に人気があり、実際に開催場所となっている第3アリーナの観客席は生徒達で一杯になっていた。
だが、彼女達にはそんなのは全く関係ないし、興味も無かった。
「なーんか試合前にペチャクチャと喋ってるんですケドー」
「なにやら二人の間には因縁があるようだな。同じ一年生のチエルくんは何か知らないのかい?」
今、行われているのは一年生の部の第一試合。
一年一組と一年二組のクラス代表同士の対決だった。
一組の代表は学園唯一の男子にして『珍しい』という理由だけで持ち上げられた『織斑一夏』。
そんな彼と対峙している二組の代表は、つい最近になって転入してきた中国の代表候補生の『凰鈴音』。
「チエルも詳しいことは知らないんですけどー、あの二人って幼馴染同士らしいんですよー」
「幼馴染? 片方は中国人だろう?」
「小5から中2ぐらいまでは日本で暮らしてみたいですよ? その時に知り合ったっポイです」
「それって幼馴染って言えるのカナ…」
「さぁ~? 本人達がそう言ってるなら、それが正しいんじゃないんですかね? どうでもいいけど」
だって、彼女達からしたらどっちも完全な他人だし、その関係性になんて微塵も興味が無い。
今日もなかよし部は平常運転だった。
「あ。試合始まったし」
「んで、日本で一緒に過ごしてた時に『もしも料理が上達したら味噌汁を…』的な約束をしてたらしいんですけど、肝心な織斑君の方がその時の約束を見事に勘違いしてたらしくて、それであの中国の子が激おこプンプン丸になっちゃったってのが事の経緯って感じですかねぇ~。ったく、どうして好きなら堂々と『好き』って言えないかな~? マジで超絶理解に苦しむんですけど。そんなんじゃ成就する恋愛も成就しないッつーの。ま、それ以前に『初恋は成就しない』ってのが世の常識だけどね~」
「チエルくん…今日は偉く饒舌だな」
いつもはユニの方が台詞量が多いのに、今日は珍しくチエルの台詞の方が多かった。
もしかしたら、今回は彼女が主役の話なのかもしれない。
「ん? 急に白い方がぶっ飛んだんだけど。あれなに?」
「あれは恐らく衝撃砲だな」
「「衝撃砲?」」
「簡単に言えば、あれは『空間圧作用兵器』の一種だ」
はい。ここからユニパイセンのターンに入ります。
「空間圧作用兵器は、PICの応用によって実用化された兵器で、一種の重力操作装置を使用しているのだよ」
「「へー」」
「衝撃砲は、この空間圧によって空中に方針を形成し、その反作用で砲身内に蓄積された衝撃を砲弾として発射できる武装なのさ。因みに、砲身は当然だが、打ち出される砲弾も完全に透明になっていて、普通に視認することは不可能とされている」
ここで一息。
少し横を向いて二人の様子を見てみると、完全に空返事で理解している様子は無い…ように見えたが、ちゃんと聞いている部分は聞いていた。
「要は『空気砲』って事ですよね!」
「うん…まぁ…その解釈で間違っては無いと思う…」
ユニパイセン、説明を諦める。
「だったら、その砲弾に色とか付ければ楽勝じゃね? ワザと地面を攻撃して土煙を上げたり、煙幕を使ったり。めっちゃ対処楽勝ジャン。まじウケる」
「流石は実戦型のクロエくんだな。全く以てその通りだ。因みに、あの衝撃砲は威力によって撃ち出せる弾の数が変化するようだ」
「それってアレですか? 『質より量』か『量より質』か…的な?」
「その通りだよチエルくん。だがしかし、どちらにしても射程距離自体はそこまでじゃないから、遠距離攻撃主体の相手とは致命的に相性が悪いと言える」
「今回の場合は…アレか。相手が超接近戦仕様だから、寧ろ相性は良い感じか。なにこれ笑える。男子くんの勝ち目とか普通に無くね?」
クロエの指摘通り、ステージ内の一夏はかなり苦戦を強いられていた。
本人も歯を食いしばりながら、なんとか打開策を模索している。
「おーおー。頑張ってるねー少年は」
「クロエくんだったら、この状況でどうする?」
「んなの決まってるじゃないスか。全速力で懐に突っ込んでからの微塵切りの刑」
「チエル、それはクロエ先輩にしか出来ないと思いまーす」
「それマ? やろうと思えば誰でも出来んじゃネ?」
「申し訳ないが…今回はチエル君の意見に賛成だ」
「マジか…つかマジか…普通に落ち込む。つかヘコむ。うわー…マジないわー」
女子高生らしい(?)会話を楽しんでいると、なにやら試合に変化が訪れた。
「あれ? なんか急に織斑君が空中で蛇行運転を始めましたよ?」
「蛇行運転じゃなくて、普通に衝撃砲を回避してるんじゃネ?」
「どうやら、彼は彼女の『癖』に気が付いたようだ。中々やるじゃあないか」
「「癖?」」
「そうだ。どうも二組の彼女は、衝撃砲を発射する際に無意識の内にターゲットに向かって視線を向ける癖がある。折角の不可視の衝撃砲も、それでは全く意味を成さない。自分で『次はここに撃ちますよ』と予告しているようなものだ」
「わー…意味ねー。それならガキでも避けれるわー」
「衝撃砲の利点…完全に潰してちゃってますねー。それじゃもう、単なる見えないアサルトライフルじゃないですかヤダー」
回避を何回か繰り返した後に、遂にその一撃が当たる…と思われた瞬間、いきなりアリーナの天井を覆っているシールドバリアーを破って、何かが落下してきた。
「「「ん?」」」
周囲もステージの二人も騒然とする中、なかよし部の三人だけはいつも通りの反応だった。
「なーんか落ちてきたんだケド…あれなに?」
「真っ黒でしたよねー。隕石?」
「そんな訳がないだろう。もし本当に隕石だったら、何もする暇もなく全員が蒸発しているよ」
などと話している間に、ユニはなにやら自分のスマホを弄り、それをステージの方へと向けた。
「何してるんですかぁ~?」
「ちょっとね。ふむふむ…やっぱりか」
「何が『やっぱりか』なんスか」
「落下してきた謎の黒い物体…あれはISだよ。しかも無人の」
「「マ?」」
クロエとチエルが同じ反応。
まさか、謎の乱入者の正体を秒で見破ってみせるとは。
「ボクのスマホは少し魔改造をしていてね。色んな機能やアプリを盛り込みまくっているのさ。そのうちの一つに『周囲の生体反応を検知する』というものがあってね」
「なにそれスゲー。つーか、もうそれ『少し』の範疇完全に超えてね?」
「っていうか『魔改造』と『少し』って単語は一緒に使わないと思うんですけど」
割と普通に危機的状況なのに、全くぶれていないのは流石なのか。
それとも神経が異常なまでに図太いのか。
「どうやらアリーナの排煙機構が作動したようだ。無人機の姿が出てくるぞ」
無人機の落下地点には、さっきからずっと落下の衝撃で発生した大量の土煙があった。
だが、それは徐々に排煙機構によって晴れていき、謎のISの正体が露わになる。
「「「わー」」」
それは『黒』だった。
全身が真っ黒な異形のIS。
どう考えても普通じゃない。
無人の時点で普通じゃないのは確定なのだが。
「「「あ」」」
周囲の一般生徒達は恐怖に慄き、それがあっという間に広まり、すぐにアリーナ全体がパニック状態に陥った。
だが、それでも彼女達三人はいつも通りだった。
「なんて不細工なISなんだ。美的センスの欠片も感じられない。ボクなら、もっとカッコいい無人機を作ってみせるのに」
「んなこと言ってる場合かっつーの。なんか急に謎の無人機とのエキシビジョンマッチが開始されちゃってるんですケド」
「チエル達はどーします? 他の皆と同じように逃げます?」
「最終的にはそうした方が良いだろうが、今は拙いな。こんな状況であれに突っ込めば、ほぼ確実に大怪我は免れない。それでは意味が無い」
「「確かに」」
大勢の人間が一度に同じ場所に集まればどうなるか。
人間同士で圧迫しあって怪我をしたりする可能性もあるし、場合によっては死ぬこともあり得る。
そんな場所でこけたりしたら、もう目も当てられない。
「今はのんびりまったりと、動くタイミングを伺おうじゃあないか」
「「さんせー」」
意外と状況が見えている仲良し三人組。
周囲の状況からすれば、かなりシュールな絵面だが。
「こういう場合って、避難訓練の時を思い出せとかってよく言うけど…あれって意味あるんかね?」
「大抵の場合は意味がある。だが、世の中には避難訓練を過信し過ぎて、却って悲劇に繋がった例も存在するのだよ」
「へー…やっぱ、何事も程々が一番ってことなんですかね~」
なんか急にいつもの会議っぽい雰囲気になった。
ここには教壇は無いが、椅子ならば大量にある。
「だからと言って、その時の知識と経験は決して無駄にはならないと思うけどね。火事の時はハンカチで口を覆うとか、腰を低くしながら移動するとか」
「あと、いざって時の防災用の道具の確認とかも大事だよね。それを怠っていざって時に困るのは自分自身だしさ」
「チエル、まだカンパンって食べた事無いんですけど、あれって美味しいんですかね~?」
「噂によると、意外と美味だと聞いている。昔は本当に味気なくて口の中がパサパサするだけだったらしいが、徐々に味の改良を繰り返していき、今では立派に食べられるようになっていったとか。ま、ボクも実際に食べた事は無いんだがね」
そんな話をしている目の前で、一夏と鈴の二人は一生懸命、無人機と戦っている。
未だに観客気分でそれを眺めているなかよし部の面々だったが、そこで周囲が静かになった事に気が付いた。
「おや? どうやらさっきの集団は無事に出ていってくれたようだ」
「そんじゃ、ウチらもとっとと退散しますかね…っと」
「チエル、なんだかお腹空いちゃいましたー。食堂で何か食べません?」
三人がようやく重い腰を上げてアリーナを後にしようとした瞬間、いきなりプライベートチャンネルで通信が来た。
『真行寺! 黒江! 風間! 三人共無事か!?』
「これはこれは織斑教諭ではないか。ボク達ならば、今から避難をするところだよ」
『そうか…』
「なにやら頼みたい事があるような感じだね。どうかしたのかな?」
『…無理を承知の上で頼みがある。力を貸してくれ…!』
「それは、どういう意味かな?」
『そのままの意味だ。お前達ならば、あの謎のISを簡単に倒せるだろう?』
「ふむ…確かに、やろうと思えば出来なくはないな。あんな不細工な無人機程度、なかよし部の結束の前では無力に等しい」
『あぁ…そうだな…って、無人機だとッ!? それはどういう事だっ!?』
「そのままの意味だが? あれからは生体反応が全く感知されない。つまり、あれには操縦者がいないと言うことだ。人工知能を搭載しているのか、それとも何処からかリモートで操作しているのかは分からないが、アレに人間が乗っていないのは確実だ。それは間違いない」
『無人のIS…まさか、そんな物が…!』
千冬が戦慄している間に、三人はアリーナの出口へと向かって歩いて行く。
クロエはクビをコキコキと鳴らし、チエルは暇そうに欠伸をしていた。
『お…おい! 何処に行くっ!? 手伝ってくれるんじゃないのかッ!?』
「誰もそんな事は一言も言った覚えはないが? この程度、ボクらがいなくてもどうにかなるだろうさ。というか、あの程度のガラクタに負けるのなら、ここで大人しくリタイヤさせてあげた方が幸せだと思うのだけれど?」
『真行寺…お前は…』
「あまり『なかよし部』を軽視しない方が良い。我々が本当に動く時があるとすれば、それは学園が本格的に危機に陥った場合だけさ」
「そゆこと。んじゃ、おつかれーっス」
「しつれーしまーっす! ちぇる~ん☆」
『ま…待ってくれ!』
千冬の静止の声も聞かず、三人は悠々と歩いて行く。
彼女達の頭の中にはもう、無人機のことなんて微塵も無い。
「そうだ。最後にこれだけは言っておこう」
『…なんだ』
「どうして『なかよし部』が存在するのか。どうしてボク達が集まったのか。どうして織斑教諭が顧問をする事になったのか。それをよーく考えてみる事だ」
『お前達は一体…』
ユニの意味深な言葉を聞いている間に、三人はアリーナから出ていってしまった。
その後、彼女の言う通り、無人機自体はなんとかなった。
一夏の一撃により切り裂かれ、完全に停止させることに成功した。
その際に衝撃砲を背中で受けたり、とある女子生徒が放送室に侵入して謎の応援コールを無断で行ったりしたが、なかよし部の面々には全く関係がない事だった。
なかよし部で誰が好き?
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可愛いクロエちゃん!
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賢いユニちゃん!
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楽しいチエルちゃん!
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皆大好き!