なんで、あんな事になったのやら…。
平穏が訪れた日常にも、些細なトラブルは存在している。
数年後などに、ふとした瞬間に思い出し、電話越しに友人と思い出話で盛り上がる。
そんな、他愛の無い日常的な問題。
あの『なかよし部』にも、それは存在していた。
そう、あれは学年別トーナメントが終了して数日後。
一年生は、もうすぐある『臨海学校』に向けて徐々に気分が高揚し始めている時期。
その日も私は、いつものように顧問として部活に参加する為に、いつもの教室(部室じゃない)に向かって歩いていく。
すると、私の視界の先に良く知っている人物が立っていた。
「あれは…榊原先生か?」
榊原先生。
あの鈴がクラス代表を務めている1年2組の担任で、クラスが隣同士と言う事もあって私もよく彼女と話す事が多い。
「あら。もしかして、今から部活ですか? 織斑先生」
「えぇ。そちらもですか? 榊原先生」
「はい。お互いに顧問は大変ですね」
「全くで」
顧問?
榊原先生も何かの部活の顧問をやっていたのか?
そんな話は聞いたことは無いが…何の部なのだろうか?
「織斑先生。今日は…
一瞬、彼女が何を言っているのか分からずにポカンとなってしまった。
「…? そ…それじゃあ、私はこの教室なので失礼しますね…」
取り敢えず、強制的に話を切り上げてから、私は教室の扉を開ける。
すると、中には驚きの光景が広がっていた。
「今から、アナタ達の部に勝負を申し込むわ!!」
変な仮面と制服の上から黒いローブを身に着けた奇妙奇天烈な生徒が三人、真宮寺と風間とデュノアの三人に指を突き付けていた。
「ウチの部の生徒達です」
(なんか、いきなり珍妙な部が出現したっ!?)
後ろから、まだいた榊原先生が話しかけてくる。
というか、さっきの『今日はよろしくお願いします』って、この事を言っていたのかっ!?
「我が名は『ファントム』!! このオカルト研究会のリーダーよ!」
ファントムって…リーダーって…。
「田中さんは本当にリーダーシップが取れる子でして」
(本名は田中と言うのか…)
顧問が堂々と正体をバラすのは流石にどうかと思う。
あと、どうして自己紹介をするだけなのにジョジョ立ちみたいなポーズをする?
「ふむ…勝負と言う以上、何か明確な理由があっての事なのかな?」
「そうよ。我等の目的はたった一つ。それは…」
「「「それは?」」」
部長として真宮寺が相手に真意を問いただしていた。
少なくとも、こんな時のアイツは非常に頼りになる。
「アナタ達の部室を手に入れる事よ!!」
部室? 何故に?
「そもそも! 同じ部員数でありながら我等には部室は無しなのに、アナタ達には3つも部室があるのはどう考えてもおかしいわ!!」
ある無し関係なく3つは普通におかしい。
「ズルいですよ! 織斑先生!!」
「え? 私ですか?」
なんで、そこで私にヘイトが来る?
榊原先生に怒鳴られる覚えは無いんだが…。
「どうやら、君達は大きな勘違いをしているようだ」
「勘違いですって…?」
「そもそも、我々は『部』で、君達は『同好会』だ」
「き――――――!! 可愛い顔してヤなヤツ―――!!」
「リーダー!」
「リーダー…落ち着いてください…」
可愛い顔って…何気に真宮寺の事を褒めてないか?
事実だから否定できないが。
「それと、今はこのシャルロット君が新たに入部してくれたお蔭で部員数は四人になり、同時に部室の数も四つになった」
「なんですって――――っ!?」
おい。ちょっと待て。
デュノアが入部したのは良いが、部室が増えたのは聞いてないぞ。
デュノアの部室を新たに建造したと言うのか? 一体どこに?
「に…人数が何人になろうとも関係ないわ! とにかく、そちらの部室を賭けて勝負よ!」
「はいはい。わかりましたよー」
「ムッキ―――――――!! リアル社長令嬢め―――――――!!」
「リーダー!」
「お願いだから、落ち着いて…」
随分と沸点が低い奴なんだな…。
すぐに興奮して部員たちに宥められている。
こうして見ると、やっぱりウチの連中って能力だけは恐ろしく高い集団なんだなって実感する。
「ウフフ…あの子達の実力…余り甘く見ない方が良いですよ?」
「はぁ…そうですか…」
一体何なんだ…ん? そう言えば…。
「おい真宮寺。まだ黒江が来ていないようだが?」
「あぁ。クロエくんか。彼女なら、ランスロットの稼働レポートの製作に時間が掛かっているらしく、少し遅くなると言う旨の連絡がさっきあった」
そうか…こいつらは企業所属の専用機乗り。
候補生以上の頻度で定期的にレポートの提出を求められているのか。
ランスロットや紅蓮、蜃気楼のような超高性能機ならば尚更か。
「なので、もういっそのこと生徒会室でお茶でも飲んで一息入れてから来るそうだ」
「とっとと来い」
もしかして、生徒会室で作業をしているのか?
黒江と生徒会長の更識姉はルームメイト同士だったな。
一年の頃から同じクラスだった事もあって、あの二人はかなり仲がいいが…。
「うぐぐ…今日もクロエ先輩に会えると思って部活に来たのに…思わぬ誤算が…」
…気のせいだろうか。
デュノアの顔が物凄く険しくなっていたような気が…。
「まずはリーダー対決! オセロで勝負よ!!」
何故にオセロ?
あと、普通リーダー対決は最後にするもんじゃないのか?
「いいだろう。ならば、ボクは後攻の黒でいい」
「その言葉、すぐに後悔させてやるわ!」
あの田中と言う生徒には申し訳ないが…ソレ系の勝負で真宮寺に勝つのはほぼ不可能だろう…。
運動勝負とかなら、十分に勝ち目があるのに。
よりにもよって、相手の得意分野で勝負をするとか…。
「じゃあ、まずはここね」
「ならば、ボクはここにしよう」
地味だな…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
~20分経過~
その頃のクロエ。
「これで終わり…っと。ん~…! 疲れた~…!」
「お疲れ様、クロエちゃん。マ…マッサージでも…してあげちゃう?」
「んー…マジでお願いしようかな。普通に肩とか凝ってるっぽいし」
「本当にっ!? よっしゃ!!」
「どうしてガッツポーズをする?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…これで最後だ」
真宮寺が最後の黒を置く。
最後と言ってはいるが、これは…。
「32対32…引き分けか。やるな…あの真宮寺相手に引き分けるとは…」
「いいえ。これはユニちゃん先輩の勝ちですよ」
「なに?」
風間が自信満々に言ってくるが…どういう事だ?
どうして真宮寺の勝利なんだ?
「こ…これは…まさかっ!?」
田中が驚きながら後ずさる。
盤面がどうかしたのか?
「……ん?」
よーく盤面を見たら、何かの絵になっているような…?
「『走る人』」
「ぐぼはぁっ!?」
あっ! 本当だ!!
真宮寺の置いた黒がロジック風の『走る人』の絵になっている!
まさか、こいつ…相手の動きなどを全て計算した上で盤面を動かしていたのか…!?
しかも、見事に数の上では引き分けにして…。
「中々に有意義な時間だったと言っておこう」
「お…おのれ~…真宮寺由仁!! イラストロジックのような真似をして!!」
この負け方はショックが大きいだろうなぁ…。
相手からしたら、完全に舐められていたうえで圧倒されていたわけだしな。
「ええい!! 次よ!! 次の刺客を放ちなさい!!」
段々と榊原先生が不可解なキャラになってきたな…。
この人って、こんな感じだったか?
「それじゃあ、今度はフレディが行きなさい!!」
「は…はい…分かりました…」
今度はあいつか。
気のせいだろうか…あの『フレディ』と呼ばれている生徒の声…どこかで聞いたことがあるような気がする。
主に一年四組で。誰だろうか?
「ならば、こちらは期待の新入部員であるシャルロット君を行かせよう」
「ボ…ボクですか?」
「そうだ。大丈夫。君ならやれるさ」
「そう言われても…」
まぁ…普通は戸惑うだろうな。
まだデュノアは、なかよし部に染まりきっていないようで安心した。
「仕方がないですねぇ…」
ん? 急に風間がデュノアに耳打ちをし始めた?
「もしここで活躍すれば、クロエ先輩が褒めてくれるかもですよ?」
「ク…クロエ先輩が…!?」
こいつ…思い切り黒江の奴を利用したぞ…。
「褒めてくれるって事は…お近づきになるチャンス…!?」
何がどうなったら、そんな思考になる?
デュノアも時間の問題かもしれない…。
「フフ…君達も面白いね。このボクに勝負を挑むだなんてさ」
「な…なんだと…!?」
急にデュノアの顔つきが変わった…?
「悪いけど…この勝負、勝たせて貰うよ。仮面友の会の皆さん」
全力で名前を間違えたっ!!??
それぐらいは覚えてやれよっ!?
やっぱり、もう手遅れかもしれない!?
「な…ならば、次の勝負はチェスよ!」
「どうして、さっきからテーブルゲームばかりなんだ…」
私以外、その事に誰もツッコまないのはどうしてなんだろう…。
もしや、おかしいのは私だけなのか…?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
~20分経過~
その頃のクロエ。
「クロエちゃんが生徒会室にいるって聞いて、遊びに来たッスー!」
「楯無ばかりに独占なんてさせないんだから!」
「フォルテちゃんにサラちゃんっ!? 一体どこで誰から聞いたのよっ!?」
「「クロエちゃんファンクラブの皆から」」
「クッ…流石の情報力ね…!」
「おいこらちょっと待て。どうしてファンクラブの連中にウチの行動が筒抜けなのさ。詳しく教えろ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
デュノアとフレディと名乗る生徒のチェス勝負は静かに展開していく。
一応、私も最低限のルールぐらいは知っているが、今はどっちがリードしているのか分からない。
「フッ…どうやら、遂にこの技を使う日が来たみたいだね」
「え…?」
この技…?
チェスに技なんて概念があるのか?
「デュノア家…奥義…」
奥義だと…?
チェスの勝負に奥義?
「ブルーマウンテン!!!」
おぉー…?
何が起きたんだ?
「はい。チェックメイト」
「あ」
技とか全然関係ない!!!
普通に勝負を決めただけだ!!
「以前、喫茶店でシャルロット君がこの技を披露した時、技名を叫ぶ度に何故かテーブルにコーヒーが運ばれてきた事がある」
「普通に通ったんじゃないのか…オーダーが…」
店側からしたら、単に注文しただけにしか聞こえないだろうしな…。
やっぱり、デュノアももうなかよし部に染まってきているか…。
「リーダー! フレディが敗北したショックでスネークの真似をしてダンボールに閉じこもってしまいました!」
「くそ…! 最近、ずっとやり込んでいたゲームのデータがバグで全部消えたらしいし…」
どうしてスネークの真似をする?
ゲームのデータが消えたのには同情するが。
「こうなったら…もう手段を選んでいる場合じゃないわ!」
む? これまた急にどうした?
「ジェイソン! 力付くで部室を奪うわよ!!」
「はい!!」
最初からそうしろ。
いや、それはダメか。
何を言ってるんだ私は…。
「オーッホホホッ! この勝負、貰ったわよっ!!」
「あの…大丈夫ですか?」
いつから榊原先生はオルコットみたいなキャラになったんだ?
「あー…メンゴ。ちょっと生徒会室で話に花が咲いちゃって…」
…この混沌に陥ろうとしているタイミングで黒江が登場か。
運が良いのか悪いのか…。
「…………」
あ。出る。黒江の悪い癖が。
終わったな…複数の意味で。
「敵…発・見!!」
「「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!?」」
はぁ…結局はこうなるのか。
このオチが読めた時点で、私も相当に毒されてるな…。
「きょ…今日の所は引き上げよ! 覚えてなさい!!」
完全に悪者の台詞になっているんだが。
それでいいのかオカルト研究会。
「つ…強い…強すぎる…」
でしょうね。良く分かります。
「この力…まさか…! この子達が噂に聞いた『幻の部活動』…!」
「え?」
ちょ…は?
今、猛烈に気になる単語が飛び出してきたんだが?
「幻の部活動?」
「あっ!? いやいやいや…なんでも…なんでもないですから…」
榊原先生が顔を青くしながら、物凄く動揺している…。
「じゃ…じゃあ、私はこれで!!」
行ってしまった…。
本当に何だったんだ…?
「予想外の事が起きてしまったが、無事にクロエ君も合流したと言う事で、これより本日の部活動を始める」
「「「はい!」」」
なんか普通に部活が始まったし…。
いや、それよりも…。
(忘れろ…忘れろ…忘れろ私…)
なかよし部に関する、知りたくも無い知識が増えてしまった…。
幻の部活動って…。
はー…スッキリした。
なかよし部で誰が好き?
-
可愛いクロエちゃん!
-
賢いユニちゃん!
-
楽しいチエルちゃん!
-
皆大好き!