なにげな~い平日のお昼時。
なかよし部の三人は今日も揃って食堂で昼食を食べていた。
「もう言えば、もう二人は例の噂は聞きました?」
「「例の噂?」」
ミートスパゲッティーを食べているチエルがいきなり話を振ってくる。
彼女から話がスタートし場合、大抵が碌な事にならないと上級生二人が学習していた。
「ウチのクラスに転入生がいきなり二人も来た上に、その内の一人が男子だったーって」
「あぁ~…それな。二年の方でも色々と噂が流れてたわ」
「こちらもだ。この学園は一体どれだけ男に飢えているんだろうか」
「まぁ…IS学園って実質的に女子高みたいなもんですしねー。男子に免疫のない女子が多いっていうかー」
そういう彼女達は、免疫以前の問題だったりする。
逆に男を捻じ伏せかねない。
「その男子がどうかしたのかね?」
「うーん…なんて言えばいいんですかねぇ~…これって、ぶっちゃけちゃってもいいのかなぁ~…」
いつもは思った事が脳を通さずに口から出るチエルにしては珍しく、発言することを渋っている。
もしかしたら明日は雪でも降るのかもしれない。
路面の凍結に注意をしよう。
「っていうか、意外と驚いてないんですね。ISを動かせる二人目の男子登場なのに」
「いや…驚くも何も…」
「こんなにも短期間で二人目が出た時点で絶対に普通じゃない。そこには必ず何か裏事情があるに決まっている。だから、そんなのは微塵も驚くに値しない」
「うーん…流石はクロエ先輩とユニ先輩…この程度じゃ動じたりしないか」
「そういうチエルもそこまで驚いてないっぽいジャン」
「チエルも二人と同じ事はすぐに思いましたからねぇ~。でも、問題はそこじゃないんですよ」
「じゃあどこよ?」
お昼ごはんであるハウル定食(ベーコンと目玉焼きとフランスパンのセット)を食べながらクロエが尋ねる。
パンに染みた黄身が最高に美味そうだ。
「二人とも、もうフランスから来たセカンド男子の姿って見ました?」
「いいや。それがどうかしたのかね?」
「回りくどい言い方って好きじゃないからストレートに言っちゃいますけど…」
ナプキンで口を拭きながら、チエルは重々しい顔で言い放った。
「あの子…何処からどう見ても、お粗末な男装をした女の子にしか見えないんですよね…」
「マジか」
驚いているようで、実際には『やっぱりか』的な顔をしている先輩二人。
ソレ系の事は頭の中で予想出来ていたようだ。
「その疑惑の転入生は今どこにいるんだい?」
「屋上で織斑君御一行様と一緒にお昼を食べてます」
「あぁ…あのハーレムか。ウチらが言えた義理じゃないけど、よくもまぁ飽きないもんだわ。感心するね」
なかよし部に限って言えば、色んな意味で暇をする事は無いだろう。
寧ろ、暇をする暇を与えて貰えない。
「どーして、あんなにも超簡素な変装を皆は見破れないのか、チエル的にマジで理解出来ないんですけど。っていうか、まず怪しいって思わないんですかね?」
「まぁまぁ…落ち着きたまえよチエル君。彼女達は所詮『素人』の集団だ。しかも、思い込みが激しい年代でもある。まず疑うと言うこと自体を知らないんだろうさ」
「それもそれで大問題だとは思うけど」
チエルの話を聞き、自分の顎に手を当てながら考え込むユニ。
その顔は僅かに笑みを浮かべていた。
「変装疑惑のあるフランスからの転入生…か。面白そうじゃあないか。ボクも実際に顔を見てみたくなってきたな」
「そういや、その転入生ってどんな名前なワケ?」
「確かー…『シャルル・デュノア』って名前でした。…あ」
「「デュノア…」」
その名が出た瞬間、三人の中にあった疑惑が限りなく確信に近くなった。
「変装疑惑があるフランスから来たデュノア性の男子…か」
「もう殆どブラックに近いグレーじゃんよ。つーか、チエルのクラスって候補生いたっしょ? そいつは見抜けなかったん?」
「普通にスルーしてましたねー。あのお嬢様の目はタピオカで出来てるんでしょうか?」
「どうしてそこでタピオカになる?」
現在、シャルル・デュノアの存在に疑問を抱いているのはなかよし部の三人だけ…ではなかった。
「やっぱり、クロエちゃん達も気になる?」
「げ」
「「あ」」
彼女達の話を後ろで聞いていたのは、生徒会長にしてロシア代表でありクロエのクラスメイトであり『黒江花子非公式ファンクラブ会長』の更識楯無だった。
因みにファンクラブ会長にはつい最近になって就任した。
「聞いてたのかよ…」
「聞いてたってよりは、近くを通ったら聞こえてきたっていう方が正しいわね」
なにやら言い訳をすると、断りも入れずにいきなりクロエの隣に座って来た。
本人は非常に大満足そうである。
「実は生徒会の方でもね、あの子の事は怪しいと思っていたのよ」
「そうなのか。君はその転入生の顔写真を持ってたりはしないのか?」
「念の為に自分のスマホに写してあるわよ。見る?」
「「見る」」
楯無がスマホを操作して写真を出してから、二人に見えるように体を伸ばす。
それを見た途端、ユニとクロエはジト目になってボソッと呟いた。
「女やん」
「女だね」
「女ですよね~?」
確かに制服自体は男子の物を着てはいるが、首から上は完全に少女だった。
これを『男だ』と言い張るのは流石に難しい。
「楯無。アンタの事だから、もう既に『シャルル・デュノア』って人間がフランスに実在するのかもう調べてあるんじゃねーの?」
「流石は私のクロエちゃんね。こっちの行動をちゃんと分かってるんだから」
「変な事を言うなし。単に腐れ縁なだけだから」
実はクロエと楯無とは一年生の頃からの仲だったりする。
その頃から既に楯無はクロエにゾッコンだった。
「クロエちゃんの言う通り、こっちの方でもう既に彼…いや、彼女の素性について調べてあるわ」
「結果は?」
「大当たり。デュノア家には『シャルル』なんて名前の男の子は存在しなかった。遠縁や隠し子まで調べたから間違いわ。その代り、全く同じ顔の女の子ならいたけど」
スマホの写真を切り替え、別の写真を写しだす。
そこにはにこやかな笑顔を浮かべた金髪の少女がいた。
「彼女の名前は『シャルロット・デュノア』。デュノア社の現社長である『アルベール・デュノア』の娘らしいわ」
「つーか…まんまジャン。隠す気ゼロじゃん」
「変装を舐めてるとしか思えませんね~」
呆れてモノも言えないクロエとチエルを余所に、ユニは一人で何かを考えていた。
「もし本当に彼女が男装をしてまで潜り込んだのならば…その目的は…」
「まず間違いなく織斑一夏君でしょうね。専用機の強奪か、もしくは彼の遺伝子情報を持ち帰る事か。一番なのは、その両方なんでしょうけど」
専用機の強奪は限りなく不可能に近いが、その内部にあるデータの抽出だけならばやれない事は無い。
遺伝情報の採取も、髪の毛の一本や、ほんの少しの唾液さえ入手できれば事足りる。
「同じ男子と言う名目ならば近づきやすいし、彼の油断も誘いやすい…」
「それは十分に有り得ますねー。実際、織斑君って警戒心が全く無いですから。自分の立場を全く正しく認識してないって感じで」
「その辺の意識改革は後でどうとでもなるっしょ。問題は、その男装女をどうするかじゃね?」
クロエが皆に答えを促すように訴えかけるが、もう結論は決まっているようなものだった。
「…よし。今日の放課後のなかよし部の活動は、このシャルル・デュノアの調査にする。目標の行動を事細かに観察するんだ」
「「さんせー」」
本日の活動内容が決定したが、そこに楯無が小さく挙手をする。
「あのー…出来れば私も参加させて貰えないかしら? 生徒会長として、このまま看過は出来ないのよね」
「尤もな意見だ。いいだろう。なかよし部部長として、特別に更識楯無くんを臨時部員として迎えようではないか」
「ありがとう。足だけは引っ張らないように心掛けるわ」
こうして、なかよし部は謎多き転入生『シャルル・デュノア』の調査を開始するのであった。
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放課後になり、すぐに私を含めたなかよし部はシャルル・デュノアの調査を開始した。
まずは一年一組の教室前まで行き、廊下から様子を伺う事に。
未だに一組の廊下には織斑一夏君目当ての女子達がたむろしている上に、今日はそこから更にシャルル・デュノア目当ての女子達も増えたので、それに紛れてしまえば容易に姿を隠すことは可能だ。
「デュノア社と言えば、量産型ISのシェアが世界第三位であり、あの『ラファール・リヴァイヴ』を開発した会社として非常に有名だが、未だに第三世代機の開発に成功していないということもあり最近では業績も株価も急降下し始め絶賛大ピンチ中だと聞いている。そのせいか、フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』からも除外されてしまっている。故に、デュノア社だけに限らずフランスのIS関連の企業の全てが少しでも高性能な第三世代機を開発することに躍起になっているのが現状だ。そう言った意味で言えば、デュノア社はまさに崖っぷちな状況とも言えるかもしれないな」
「…え? いきなりどしたのパイセン。急に長々とした説明なんかしちゃって」
「そんなの、チエル達はとっくの昔から知ってますよぉ~?」
「気にしないでくれ。単にここから読み始めた読者諸君に対するボクなりの親切心だ」
なんだろう…これに対してだけは絶対にツッコんではいけないような気がする…。
「ねぇ…クロエちゃん。実際に本人を見てどう思った?」
「写真以上に『まんま』って感じ。胸とかはコルセットとかして誤魔化してるっぽいけど、それでも相当に無理がある。全体的な体の線とかが全く隠し切れてねーし。良く見てみ。腰とかめっちゃ括れてるから」
本当に見事な観察眼だわ…クロエちゃん。
私と全くの同意見だなんて。
「あ…こっちに来ますよ? どうします? 隠れます?」
「いや…変に隠れたら却って怪しい。ここは敢えて人込みに紛れよう」
ナイス判断よ、ユニちゃん先輩。
伊達に学園一の秀才の異名は持ってないわね。
「「「「…………」」」」
静かにしながら彼女の動向を探ることに。
どうやら、一人で何処かへと向かうようだけど…。
「あっちって確か…」
「トイレがある方向じゃね?」
「それ自体は別に変な事じゃないけど…」
「試しに後を付けてみます?」
チエルちゃんの提案により、私達は彼女の尾行をする事に。
私は当然だけど、なかよし部の皆も見事なまでの気配の消し方で、前を歩いているシャルル・デュノアは全く気が付いていない。
「あ…男子トイレに入って行った」
「入り口付近まで近づいてみるか…?」
足音を消して出入り口まで接近すると、彼女の姿が見えなくなっていた。
逃げられたかと一瞬だけ思ったが、良く観察すると腰のドアの下にある僅かな隙間から足が見えたので、彼女が単純に個室に入っただけだったことが分かる。
ここからどうしようか思案していると、ユニちゃん先輩が人差し指を口に当てながら耳を澄ませる。
成る程、流石に中へは入れないから、その代わりにここから声とかが聞こえないか試してみようってことね。
誰もいないトイレの個室の中なら、不意に本心を零してしまう可能性もあるしね。
呼吸の音すらも可能な限り軽減させ、自分の耳に全神経を集中させる。
すると、不意に個室から小さな声が聞こえてきた。
「はぁ…どうして、こんな事になっちゃったのかな…。皆を騙して…ここから更に皆の親切を裏切るような真似までしなくちゃいけないだなんて…」
これは…私達の仮説が正しいという証拠になり得る証言ね…!
ユニちゃん先輩がちゃっかりと自分のスマホで録音もしてくれてるし。
「ゴメン…ゴメンよ…一夏…でも…こうしないと僕は…」
そこまで聞いてから、私達は来た時と同様に足音を殺して、その場を後にした。
これ以上は聞くに堪えなかったから…。
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ある程度の証言を得た私達は、なかよし部の部室へと戻って来ていた。
「どうやら、彼女が織斑一夏を狙って潜り込んだのは間違いないようだが…」
「自分の意志でやってないっぽくね? あれ明らかに誰かから命令されてるっしょ」
「その場合、やっぱり社長…つまり、実の父親から命じられてるんですかね?」
「かもしれないわね」
さっきの言葉だけを聞くと、彼女もある意味で被害者だ。
だが、だからと言って性別詐称をした事実は変わらない。
「もうちょっと色々と調べてみないといけないかしらね…」
「なら、そっち方面は君に任せよう」
「と言うと?」
「こっちはこっちでやりたい事がある。具体的に言うと、実際に彼女と話してみたい。接触することでしか得られない情報もある筈だ」
一理あるわね…。
傍から見ているだけじゃ進展は望めない…か。
「チエル君。どうにかして彼女を誘えないだろうか?」
「うーん…出来なくはないかもですねー。今の時期だからこそ出来る誘い方もありますから」
「なら頼む。シャルル・デュノアがどのような人物なのか。まずはそこを見極めなければな…」
別の意味で不安もあるけど…この三人が優秀なことは事実だしね。
私は私がするべき事に専念して、ここは彼女達に任せましょうか。
さて…これが吉と出るか。凶と出るか…。
なかよし部で誰が好き?
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可愛いクロエちゃん!
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賢いユニちゃん!
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楽しいチエルちゃん!
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皆大好き!