いつもと変わらぬ放課後。
今日も今日とて俺はアリーナにて皆と一緒にISの練習をしようと考えていた。
箒やセシリア、鈴と周りは女子ばかりの環境だったが…今は違う!
なんたって、俺には同性の友人であるシャルルがいるんだからな!
それじゃ、シャルルを誘って一緒に……あれ?
シャルルの机の近くにいるのって、もしかして……。
「デュノアく~ん! ちょ~っとだけいいですかぁ~?」
「えっと…風間さん…だよね? どうしたの?」
まさかの組み合わせ。
風間さん自身は誰とでも積極的に話しかける子だから、別に一緒にいること自体は不思議なことではない。
「デュノア君って、もう部活とかって決めてますぅ~?」
「部活?」
「そう! このIS学園には摩訶不思議な『部活必修』の校則なるものが存在していて、全ての生徒は例外なく何らかの部活に入っていないといけないんですよ」
「へぇ~…そうなんだね」
風間さんの言う通り、なんでかIS学園は全校生徒に部活の入部を勧めている。
この意図が未だに良く理解してないんだよなぁ…。
にしても部活か…風間さんが部活の話をしている時点で嫌な予感しかしないのは俺だけかもしれない。
「よかったらぁ~…チエルの所属している部活の見学とかしてみませんか?」
「風間さんの部の見学?」
嫌な予感がまさかの大的中~!!
よりにもよって『なかよし部』の見学とか、絶対に碌な事にならね~!
たった一度だけとはいえ、その活動を経験した俺が言うんだから間違いない!
「別に入部をしろなんて言うつもりはありませんから。まずは見学から初めて『IS学園の部活』ってのを体験して貰えれば十分なんで!」
「そう…だね。そこまで言うのなら、少しだけお邪魔させて貰おうかな?」
「やった~! それじゃ早速行きましょ~! 善は急げって言いますしね!」
「ちょ…ちょっと?」
あ…俺が止める間もなくシャルルが風間さんによって連行されてしまった…。
けど、なんか風間さんに逆らうのって怖いんだよなぁ…。
「どうした一夏?」
「何かあったんですの?」
「早く行きましょうよ」
「お…おう…そうだな…」
ゴメン…シャルル…!
無事に戻ってきたら、なんか美味い物でも御馳走するからな…!
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
突然だけど、僕は山が好きだ。
故郷のフランスにいた頃は、よく母さんと一緒に家の近くにある小さな山に散歩に出かけていた。
それだけじゃあなく、山というのは神秘的な場所でもあるし、緑が多くて都会の喧騒から一時的とはいえ離れられる所が良いんだよね。
そんな癒しと思い出の詰まった空間だからこそ……。
「これより屋外活動を開始する」
プライベートで来たかったなぁ~…。
同じクラスの風間さんに連れられ、気が付いた時には僕は何処かの山の中へと到着していた。
…ここに来るまでの間の記憶が全く無いんだけど…なんで?
はぁ…風間さんはデュノア社に匹敵する程の大会社の社長令嬢だから、接触しておいて損は無いと思って付き合ったけど…拙かったかな…?
「ねぇ…あの子達…あんな場所で何をしてるのかしら?」
「さぁ…分かんない」
それはこっちの台詞だよ。登山しているお姉さんたち。
そもそも、どうして山の中にわざわざ人数分のパイプ椅子やホワイトボード、教壇なんかを持って来てるのさっ!?
いや…それ以前にどうやって持ってきたの!?
(あの前に立っている真行寺由仁って子が部長…なんだよね? パッと見は小さな女の子だけど、リボンの色を見る限りは三年生…みたいだけど…)
一応、この人達と出会った時に簡単な自己紹介はして貰った。
この部は基本的に部員三名と顧問一名で構成されているらしく、あの真行寺先輩(本人からはユニちゃん先輩と呼べって言われた)と、僕の隣にいる凛々しい顔をした二年生の黒江花子先輩(絶対に名字で呼ぶように念を押された)と、僕を此処まで連れて来た風間さん。
そして、まさかの顧問だった織斑先生。
今日は用事があって来れてないらしいけど…。
(なんというか…個性的過ぎる三人組だなぁ…)
学年がバラバラな三人組の部活って、それだけで希少価値が高いような気がする。
『なかよし部』って名前も独特だし…。
「本日の議題はズバリ『ツチノコ』である」
「ツチノコ…? なんか聞いたことがあるかも。昔、日本で凄くブームになってたってネットにあったような気が…。どうして、そんなのを今になって?」
「うむ。もっとな疑問だ。説明しよう」
あ…ちゃんと教えてはくれるんだ。
「確かに流行自体は廃れてしまったが、今でもまだツチノコに己の夢を追い求め、山々を駆け巡っている熱き血潮を秘めた誇り高き
へー…そうなんだ。
としか今の僕には言えない。
「その
「意味不明な時代を勝手に到来させないで貰えません?」
最初からよく話の内容が理解出来ないんだけど…。
なんか頭が痛くなってきた…。
「なんか面白そうじゃん?」
「よぉ~し! いいツチノコを取っちゃうぞ~! お~!」
ツチノコに良いも悪いも…。
どうして、そんなにもテンションが高いの? 山にいるから?
「あの~…ちょっといいですか?」
「なにかな? 臨時部員のシャルルくん」
あ…なんか名前覚えられた。
「ツチノコって『ネッシー』や『ビッグフット』と同じような『幻の生物』なんですよね? どうして、そんなのがいるって断言出来るんですか?」
まさか、自分からこんな話をする日が来るとは思わなかった。
本当は、こんな事をしている場合じゃないって分かってるんだけどな…。
「全国でも有数のツチノコドリーマーである山本氏の目撃談が存在している。これは、そのエッセイだ。税込830円。絶賛発売中」
「知らないですから! あと、何気に本の宣伝をしないでください!」
っていうか、ツチノコドリーマーって何ッ!?
そんな職業なんて初めて聞いたんですけどっ!?
「嘗てはツチノコの捕獲に2億円の懸賞金を掛けた市町村もあったと聞いている」
「に…2億円っ!?」
さ…流石は日本…スケールが大き過ぎる…!
幻とはいえ、動物の捕獲の為だけに大金を注ぎ込めるだなんて…!
「夢の力って凄いですよねぇ~。億単位のお金がバ~って動くんですからぁ~!」
「その言い方だと印象最悪だよ風間さん」
それにしても…幻の生物かぁ~…。
よく僕も母さんと一緒にテレビを見てて、チュパカブラやネッシーの特集の番組を見てワクワクしてたっけ…。
本当にこの山にツチノコがいるのかどうかは分からないけど、気分転換には良いかもしれないな…。
「それじゃあ早速、捕獲に向かうのだが…」
ん? どうかしたのかな?
「クロエくん。前にツチノコを目撃した場所へと我々を案内してくれないか?」
「おっす。りょーか~い」
「嘘でしょっ!?」
まさかの目撃者が目の前にっ!?
こんな事って有り得るのッ!?
「ク…クロエ先輩っ!? 本当にこの山でツチノコを見つけたんですかッ!?」
「うん。前に散歩して偶然通りかかった時にね」
そのシチュエーションには疑問しかないけど。
「あの~…ちょっといいですかぁ~? チエル、ツチノコの詳しい姿って知らないんですけどぉ~」
「え? そうなの?」
姿もよく知らないのに探そうとしてなんだ…。
ある意味で凄い集団だ…。
「そういえば、ボクも詳しい形状は知りかねるな」
「んじゃ、ウチが説明するわ」
「イメージを固める為に、クロエ先輩の情報を参考にチエルがイラストを描いてみますね」
へぇ~…風間さんって絵が上手なんだ。
なんか羨ましいなぁ…。
「まず、頭が三角になってて…」
「ふむふむ」
「胴幅が太くて、鱗かどうかは分かんないけど、網目状の模様に…」
「成る程、成る程…」
「チョロリって感じで尻尾みたいのが付いてた」
「なるほど~…」
完成したのかな?
僕もちょっと見てみよう。
「こうですね! なんか熱々で美味しそうになっちゃったけど! まぁよし!」
「絶対に違う!!」
それってアレだよねっ!?
イカを串に刺して焼いた奴だよねッ!?
完全に食べ物だよねッ!?
「これが蛇行せずに直進して、時には高く跳躍したりするのか」
「普通に怖いよ!」
頭の中で想像しただけで軽いホラーだよ!
どう考えてもおかしいから!
「クロエ先輩! 絶対に違いますよねッ!? こんなんじゃないですよねッ!?」
「うーん…実際に絵にしたら、こんな感じだったかもしれない…」
「有り得ないから!! これ完全にイカ焼きですから!!」
寧ろ、海の幸であるイカ焼きが山にある方がレアだから!!
逆にツチノコよりも見てみたい気がするよ!
「それでは、この絵の参考にしながら捜索を開始する」
「「了解!」」
って…基本的に僕の反論は無視なのね…。
早くもドッと疲れた…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
四人で山の奥を進むこと十数分。
未だにツチノコは愚か、生き物すら見つけられていない。
「この付近が目撃現場になるのか」
「うん。こんな風にウチが歩いてたら…」
「歩いてたら?」
「あそこの草むらにツチノコっぽいのが入っていくのが見えて…ん?」
なんだろう…今、クロエ先輩が指さした草むらが動いたような気が…?
「「「「あ」」」」
な…なんだろう…小さくて太い蛇っぽい尻尾が見えて、それが草むらに隠れたような気が…。
「あ…あの…今のってまさか…?」
「うむ。あの動き…ツチノコである可能性が非常に高いな」
ほ…本当にいた…!?
信じられない…流石は神秘の国…ニッポン!
「うっし。取り敢えず追いかけようや」
「ですね! …ん?」
なんか真横の草むらがガサガサしてる…?
何かいるのかな?
「グオォォォォォォォォォッ!!!」
「く…熊ァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!??」
よ…よりにもよって山の中で最も出会いたくない動物が来たぁぁぁぁぁっ!?
「ハイキングコースから外れると、偶にこの辺に出没するみたいですねー。ここに『危険! クマ出現注意!』って看板が立てられてます」
なんでそんなに冷静なの風間さんッ!?
うっ…熊に凄く睨まれてる…!
(お…落ち着くんだ僕…! こんな時こそ、代表候補生として冷静に落ち着いて対処をして…)
「こういう時こそ、冷静に皆で話し合って対処法を考えるべきだろう」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」
またイスと机とホワイトボードを持って来てるし――――――!?
こんな状況で話し合いとか、どう考えてもおかしいから――――――!!
「もしも山の中で大型の野生動物に遭遇してしまった場合、食料が入った荷物等があれば相手を刺激しないように心掛けながら投擲し…」
そう言いながらユニ先輩が、どこからかリンゴを取り出してきた。
齧った跡がある…おやつだったのかな?
「彼らがそれらに気を取られている隙に背を向けずに逃げる!」
「あ」
思いっ切りリンゴを熊の顔面にぶつけた――――!?
腕力があんまりなかったのか、全く痛そうにはしてないけど。
「ウガァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
「熊に命中させてどーするんですかっ!?」
「目の前に丁度いい的があれば、自然と狙ってしまうのは人間としての性と言えるだろう」
「言えませんよ!!」
なんて言ってる間にも熊はさっき以上に怒り心頭って感じで牙を見せながら威嚇をしてくる。
こうなったら緊急時って事でISを展開して…!
「うおりゃぁっ!!」
「えぇぇぇっ!?」
ク…クロエ先輩が熊目掛けて体当たりをしたぁっ!?
「よしてくださいクロエ先輩! 危険です!!」
「心配しなくてもダイジョーブ。こう見えてもウチ…ガキの頃はよく熊を相手に喧嘩の練習とかしてたもんだからさ」
「アナタ本当に人間ですかッ!?」
普通の女の子は熊相手に喧嘩の練習とかしないから!!
「熊さん。チエルの奏でる音色で安らぎに満たされて…」
「どこから出したの? そのバイオリン…」
風間さんが山にバイオリンを持って来ている事にツッコむべきか。
それとも、この状況をバイオリンでどうにか出来ると思っている風間さんにツッコむべきか…。
「別に悪意があって君の居住区へと侵入したわけではない。君だってもう、ちゃんと分別のできる年齢だろう? ここは是非とも穏便に収めてくれないだろうか」
ユニちゃん先輩がなんか急に熊を言葉で説得し始めた!
リンゴをぶつけた張本人なのに!
「…………」
あ…熊が無言で山の奥へと去って行った。
今ので説得されちゃったんだ…。
「やれやれ…取り敢えずはなんとかなった感じ?」
「これも全部、チエル達が力を合わせたお蔭ですね!」
「うむ。例えいかなる困難が待ち構えていようとも、団結の前では無力と化す。今回は本当に色々と…学ばせて貰ったな…」
なんだろう…急に良い雰囲気…というか、終わりっぽい空気になったような気が…まさかね?
「本日の活動はこれまで。解散!」
本当に終わった!? っていうか……
ツチノコは―――――――――――――――――――――!!!???
はぁ…結局、彼女達は一体何がしたかったのさ…・
本当に意味が分からないよ…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
次の日。
僕はまたもや『なかよし部』に連行された。
「今回は、もう殆ど風化しつつある『人面犬』を捜索する!」
「「了解!」」
「ではチエル君。発見現場へと案内してくれたまえ」
「はーい!」
君達の存在の方が遥かに珍妙だよ…。
余談だけど、あれから熊が人前に姿を現す事は無くなったらしい。
完全になかよし部のせいで人間に対して恐怖心を抱いてるよ…。
なかよし部で誰が好き?
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可愛いクロエちゃん!
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賢いユニちゃん!
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楽しいチエルちゃん!
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皆大好き!