デート・ア・アウトサイダーズ   作:GGO好きの幸村

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コナンの映画に行ってきました!個人的にはここ数年の中では1番好きですね
コ哀好きの人は歓喜間違いなしの作品でした!


第4話/真相

「…五河、士道」

 

 精霊との戦いが終わり、自衛隊・天宮駐屯基地へと帰還した折紙は、椅子にもたれ掛かるように座りながら、そうボソッと呟く。

 

 何故あの場に居たのか、自分と精霊に向けてたあの武器は何なのか…色々と気になることはあるが、それよりも頭の中を占めるのは、士道が言い放ったあの一言。

 

『戦いを止めるため』

 

 士道が震えながら言った言葉が、彼女の脳内でリフレインする。

 

 戦いを止める?誰と誰の?…私と、精霊の?

 そんなことは不可能だ。

 

 精霊(あいつら)はこの世に存在するだけで街を滅ぼし、人々の営みを踏みにじり、世界を殺す害獣だ。もしも神様がいるのなら、精霊の存在を許すことは絶対に過ちだと断言できる。だから─

 

「ご苦労さん」

 

 声をかけて来たのは、折紙の部隊の隊長である日下部燎子一尉だ。

 

「よく1人で精霊を撃退してくれたわね。…勝手に先に離脱した友原と加賀谷は後でこってりと絞らないとね」

 

「撃退なんて、していない」

 

「そう報告しとかないと、こっちが上からどやされるのよ。全く、宮仕えも楽じゃないわね…それから」

 

 燎子は折紙の顔をこちらに向けさせると、

 

「あんたは少し無茶しすぎよ。私達の仕事は被害を最小限に抑えて、精霊を早めに消失(ロスト)させること─このままだとあんた、死ぬわよ」

 

「─それは違う」

 

 折紙は燎子の目を見つめて否定する。

 

「精霊を倒すのが、ASTの役目」

 

 ─だから私は精霊を殺す。両親の仇を討つために。もう二度と精霊によって大切な人を失う人が出てこないように。そのためなら、私はたとえ死んでも構わない。

 

 いくら言っても折紙の意思は変わらないと感じた燎子ははぁとため息を吐く。

 

「…まぁ良いわ。別に、個人の考えに口出しするつもりは無いからね。好きに思ってなさい…あぁそうだ、あんたが前々から気にしてた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その完成形がもうじきロールアウトされるらしいわよ」

 

「…!そう」

 

「にしてもあんたよくあんなプロジェクトのこと知ってたわね。『随意領域(テリトリー)の範囲を極々狭くする代わりに、手術無しでも扱えるCR―ユニット』なんてコンセプトのニッチなもの。私もあんたに聞かれるまでは知らなかったくらいだし」

 

「…計画自体はCR―ユニットが開発される前から動いてるから、あれは単純に精霊を殺すためだけに開発された兵器。だから私は、アレに興味がある」

 

「ふぅん。ま、アタシ達には関係のない話でしょ」

 

 と言って燎子は報告書を書くべくその場から立ち去る。

 

「─私は必ず手に入れてみせる…あの()()()()()()()()の力を…‼️」

 

 そう呟く折紙の瞳は、どこまでも暗く深く、溺れてしまいそうなまでの憎悪に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─久しぶり。

 

 頭の中に、懐かしい声が響く。

 

 ─やっと、やっと会えたね、シン

 

 その声を聞くと、心のどこかが歓喜で震えるのを感じる。

 

 ─嬉しいよ。でも、もう少し、もう少しだけ待って。

 

 その声はまるで母親のような暖かさと、恋人のような温もり…相反する2つの要素を併せ持っているように士道は感じた。

 

 ─もう、絶対離さない。もう、絶対間違わない。()()と共にあなたを取り戻してみせる。だから、

 

 待ってくれ、と声をかける間もなく声はそこで途切れた。

 その声を追いかけようと散り散りとなっていた意識のカケラを集めると、

 

「うわッ!」

 

 と驚愕の叫びを上げる。

 それもそのはず、目を覚ますと見知らぬ女性が士道の瞳にライトで光を当てる…刑事ドラマや医療ドラマで鑑識がよくやっている瞳孔確認をされていたのだ。驚くなという方が無理という物だ。しかも周りを見てみると、なにやら無骨なダクトやら配線やらが混みあっていて、病院というよりもなにかの施設ある医務室のようだ。すわ拉致かと思い、一層警戒を強める。

 

「…ん?目覚めたね」

 

 そう言ってきたのは先程まで士道の瞳を覗いていた女性だ。灰色の髪と、目の下にある分厚い隈が特徴的で、軍服のような服に身を包んでいる。

 

「…えっと、どちら様で?それに、ここは一体…?」

 

「…ん、ああ。ここは〈フラクシナス〉の医務室。私はここで解析官をやっている村雨令音だ、よろしく」

 

「あ、はい、よろしくお願いします…じゃなくて、結局その〈フラクシナス〉とやらはどこなんですか⁉️」

 

「詳しい話はこれから会う人に聞くといい。どうも私は説明が下手くそだからね」

 

 そう言うと令音は、ふらふらと部屋の出入口へと向かう…が、程なくして派手な音を立てて壁に頭を打ち付ける。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「…すまねんね、最近寝不足なんだ」

 

 どうやらあの深い隈は伊達では無いらしい。フラクシナスとやらは余程のブラック企業なのだろう、などと思いながら、士道は尋ねる。

 

「ち、ちなみに、どれくらい寝てない寝てないんですか?」

 

 すると3!と主張するかのように、指を3本ピッと立てる。3日と伝えたいのだろうか?いやいや、あの隈の深さは3日程度でできるものでは無い。そう考え、回答を口にする。

 

「3週間…とか?」

 

「惜しいな、30年だよ」

 

「ケタが違ぇ‼️」

 

 士道は真面目に返された答えに、それがジョークかどうかさえ判別出来ず、変な笑いが漏れた。

 

「…まぁ、最後に睡眠をとった日が思い出せないのは本当だよ」

 

「さ、左様で…」

 

「さ、こっちだ、着いてきたまえ」

 

 とまるで気にせずに士道を先導する。

 道中、何も言わずに突然ラムネらしきものを大量に貪った時はさすがに面食らったが、解析官とやらの仕事はきっと頭をフルに使うのだろう。脳の働きを活性化させるのに糖分は重要だと言うし、まともな睡眠時間も取れない環境ならばこの移動時間も貴重な休憩のはずだ。そう士道は判断して何も聞かず、むしろ歩くスピードを落とした。

 

 

「…さ、入りたまえ」

 

 しばらく歩いた末に着いた通路の突き当たりの扉。令音が横の電子パネルを操作すると、その扉が滑らかにスライドし、中に入るよう催促される。

 恐る恐る入ってみると、そこはなにやら艦橋のような部屋だった。左右から緩やかに伸びる階段の下には複雑そうなコンソールを操作する大勢の大人たち。そして中央には、艦長席らしきものがあった。

 艦長席の右隣に立っていた金髪の男性は部屋に士道達が入った事を視認すると、「ご苦労さまです」と令音に軽く礼をした後、士道に声を掛ける。

 

「初めまして。私はここの副司令、神無月恭平と申します。そしてこちらが…」

 

 神無月は艦長席の左隣の男性に目配せする。その男性は軍服よりもスーツの方が似合いそうな、軽妙洒脱な風格を漂わせていた。

 

「紹介に与った、呉島貴虎だ。フラクシナスのクルー統括をしている。急な事だらけで混乱していると思っていたが…思ったよりも落ち着いているな。これからよろしく頼む」

 

 そう言うと貴虎は右手を士道の前に差し出す。

 

「あ、はい。よろしくお願いします…ん?これから?」

 

「司令、村雨解析官が士道くんを連れてきました」

 

 士道は貴虎の言葉に少しばかりの疑問を覚えたが、それを特に気にせず神無月が艦長席に向かい声を掛ける。

 艦長席は低い音を立てながらゆっくりとこちらに正面を向ける。

 そこに座っていたのはあまりにも知っている人物で。

 

「─歓迎するわ。ようこそ、〈ラタトスク〉へ」

 

 真紅の髪をいつもとは違う黒のリボンで括られ、真っ赤な軍服を肩がけている。普段の無邪気な雰囲気から一変し、若干の刺があるものになっている。しかし口元にはいつもと変わらず、好物のチュッパチャプス。

 

「…琴里?」

 

 そう、そこに座っていたのは士道の義妹である、五河琴里だった。

 

「ま、色々と混乱してるでしょうけどとりあえず私の話を聞きなさい。さっき士道が会ったのは精霊と呼ばれている「ちょっと待った‼️」…何よ。せっかくフラクシナスのトップが直々に説明してるんだから、ありがたく思いながらおとなしく聞いときなさいよ…で、なに?」

 

「…本当に琴里、だよな?無事だったのか⁉️」

 

「あら、可愛い妹の顔を忘れたの、士道?いつの間にか3歩歩くと忘れるニワトリみたいな頭になってたのね。安心なさい、ここのツテを使えば聖都大付属病院の天才外科医に治療してもらうことも出来るから」

 

「…琴里」

 

「…なによ?」

 

「司令だとか〈フラクシナス〉だとかその口調とか、色々聞きたい事はあるけど…とりあえず、無事でよかった」

 

 妹の無事に安堵する気持ち。それが今、士道の胸の中で最も大きな感情だ。色々と聞きたいことや気になることはあるが、ある程度の傾奇者や数奇者、変人にはツーリングの最中で数多く出会った。自分の知らない琴里の側面があったとしても、それはそういうものだと受け入れることが出来る。故に士道からすれば、琴里は変わらず少し抜けてるところがある、可愛らしい妹でしかない。

 その事に気づいたのか、琴里も「まぁ私は空間震の中に身を投げ出す士道ほどノータリンじゃないからね」などと軽く毒を吐きながらも、「だけど…心配かけて悪かったわね」と軽く頬を赤く染める。

 

「あ、あともう1つだけ…気づいてやれなくてすまん!」

 

 そう言うと、士道は琴里に向かって深々と頭を下げた。

 これには先程まで兄妹のやりとりを見てほんわかとしていたクルー一同は困惑し、当の琴里もはぁ?と首を傾げる。

 

「…令音さんを見てればなんとなくは分かる。ここの仕事で手一杯になってて最近あまり眠れてないんだろ?現に、令音さんは最後にいつ寝たか思い出せないとまで言ってる。琴里がここのトップならきっと解析官の令音さんよりも仕事の量が多いはず。それでストレスが溜まって、そんなに攻撃的になっている。それなのに家では全然そんな素振りを見せてなかった…妹に気を使わせるなんてお兄ちゃん失格だな」

 

「…いや、ちょっと待なさい士道。あなた色々と勘違いしているわ」

 

「ちょっと前にやけにチュッパチャプスの減りが早い時があったのは、それだけ脳を酷使する仕事をしていて、頭が糖分を求めていたから。この間から玄米を炊くように催促してくるのは、玄米には仕事で溜まった疲れを解消できる疲労回復効果があるから。そう考えれば納得がいく」

 

「本当に待なさい士道!私の話を聞きなさい‼️」

 

「安心しろ琴里。話は神無月さんや呉島さんから聞いておくから、お前は令音さんと一緒に医務室でゆっくり眠ってろ。…令音さん、お手数お掛けしますが琴里のことお願いします」

 

「…私としては別に構わないが…一先ず、後方注意と言っておこう」

 

「え、それはどういう「いい加減…話を聞けェ‼️」そげぶッ‼️」

 

 自分を心配しているからとはいえ、自分の話を一向に聞こうとしない士道に怒髪天を衝いた琴里が、そのガラ空きの背中に思いっきりドロップキックをきめた。

 

「っ、てぇ~なんだよ琴里!いくら寝不足でイラついてても蹴ることはないだろ‼️」

 

「あのね、何を勘違いしているのか知らないけど、〈フラクシナス〉は極力クルー自身のプライベートな時間に気を使ってるホワイトな職場で、退勤時間も緊急時以外は幼稚園児が起きてる時間に帰れるくらい早いわ‼️第一、私のこの口調は素よ、素!司令官としての『強い自分』を前面に出してるだけ‼️」

 

「え?でも令音さんはここ3週間以上は確実にまともな睡眠を取れてないみたいだし…」

 

 琴里の返しに、士道は戸惑いを隠せない。そこで令音がポン、と拳を手のひらに叩き、うっかりしていたという声色で話す。

 

「…そういえば言い忘れていたね。私が眠れないのは仕事で忙殺されてるのではなく、単純に体質的な問題さ」

 

「…なら、睡眠薬とか飲めば良いんじゃないですか?」

 

「あぁ、飲んでいるとも。さっき君も見ただろう?」

 

「もしかして、さっきラムネみたいにガブガブ食ってたやつですか⁉️いや、あんな量飲んだら死んじゃいますよ!」

 

「甘くて美味しいんだ」

 

「やっぱりラムネじゃねぇか‼️」

 

 予想だにしていなかった令音の言動に、士道のツッコミも切れ味を増す。それを見た琴里は話を始めようとする。

 

「はぁ、ようやく話を聞いてくれそうね。ちなみにチュッパチャプスは単純に袋詰めで大量に取ったやつの賞味期限が近くなって、もったいない精神で沢山食べてただけの話よ」

 

「そうか…ん?他のは分かったけどならなんで急に玄米にしろって言い出したんだ?」

 

 謎が解けたとサッパリした顔をした士道だが、なんの言及もされなかった玄米に対して首を傾げる。琴里は一瞬赤面し、「ダイエットよ」とボソリ呟く。

 

 しかし無情にも士道の耳には届かず、「え、なんて?」と聞き返されてしまう。それによって琴里の恥ずかしさやら怒りやらのゲージがマックスになり、

 

「ダイエットよダイエット‼️最近少しだけ体重が増えてたの‼️なにか文句でもあるの⁉️」

 

 その気迫は凄まじく、目の前にいた士道はもちろん比較的離れた場所にいたクルーさえもビクッ!と反応する。女性クルーに至っては、「女なら必ず直面し、男に一切触れてほしくない話」をこの大人数の中、しかも大好きな人の目の前で叫ぶことになった親愛なる司令(琴里)の心情を察して天を仰いでいた。

 

 士道も「す、すまん」と謝ったが、艦内の空気はお通夜状態。だれもこれ以上言葉を発する事は出来ない…かに思われた。しかしいつだって、こういう危機を乗り越えられるのは『命知らずの馬鹿』だと相場は決まってる。

 

「しかし司令は無理に痩せなくても大丈夫だと思いますよ。なんならもう少しふっくらとしている方が魅力的かと」

 

 そう、『命知らずの馬鹿(理性のブレーキが存在しない変態)』こと神無月である。

 

「黙りなさい、この豚ァ‼️」

 

「ブヒィ!!」

 

 しかしそんな勇者(変態)は、乙女(魔王)の肘打ちで悦に浸りながら地に伏す。

 幾分か雰囲気は軽くなったが、未だに魔王(琴里)が出す覇気は収まらない。そこで変態に続き立ち上がったのは、『ノブレス・オブリージュ』の信念のもと、他のクルーを守ろうとする救世主・呉島貴虎だ。

 

「…司令。お言葉ですが、仕事中や自宅でのチュッパチャプスを控えればよろしいかと。飴というのは言わば糖分の塊ですので。ましてや深夜や食前に召し上がるとなると「黙りなさい呉島。貴方もそこの(神無月)みたいになりたいのかしら?」…失礼しました」

 

 これは一見すると大の大人が一回りも年下の少女の気迫と脅しに屈服したかのように見えるだろう。しかし、実際のところは違う。元々神無月を〆た時点で琴里の苛立ちは収まっており、後は少し落ち着くような言葉選びをすれば問題は解消されたのだ。このことに気付いていないクルーはおらず、貴虎への畏敬の念はますます高まった。

 

 

 

 

 

「はぁ…じゃ、改めて話すわね。士道が街で出会ったのは精霊。本来この世界には存在しない怪物よ─」

 

 そうして語られたのは、この世界の裏側。存在するだけで自らの意思とは関係なく空間震を引き起こす存在、精霊。そしてそんな精霊を殺すことで対処しようとする部隊、AST。

 マンガやアニメのようだと一笑に付したくなる程現実味が無く─それでいて、士道1人がどう足掻いても変えられない、理不尽な現実だった。

 

「そんな、そんなことって…なんとか、なんとかなんねぇのかよ⁉️空間震だって精霊が…あの子が故意にやってる訳じゃないんだろ⁉️」

 

「随意か不随意かなんて関係ないわ。結果的に、精霊が空間震を起こしていることに変わりは無いんだから。ま、その後のASTとの戦いで生じた破壊痕も空災被害に数えられるけどね」

 

「…なら、ASTが攻撃しなきゃ、被害は抑えられるだろ」

 

「それは無理よ。精霊は生きているだけで周りを破壊する、言わば人型の核弾頭みたいなものよ。貴方、そんな存在と共存できるとでも思ってるの?─それに、ASTが何もしなくても、精霊が大喜びで破壊を始めるかもしれない」

 

「それは無い」

 

 琴里の出した仮定を、士道は食い気味に否定する。その言葉に、琴里は不思議そうに首を傾げる。

 

「あら、根拠でもあるのかしら?」

 

「…あの子は、『戦わなければ死ぬだけ』って言ってた。つまり、彼女は攻撃されたから自衛のために剣を振るってるんだ。それに、」

 

「それに?」

 

「好き好んで街を壊してるやつは…あんな顔、しねぇんだよ」

 

 士道の頭に呼び起こされるのは、先程出会った彼女の言動と表情。

 

『…こんな物は無駄と、何故学習しない』

 

 ─気だるげに自分に襲いかかるミサイルを止める彼女の顔。

 

『…消えろ、消えろ。一切、合切…消えてしまえ…っ!』

 

 ─泣きそうな顔をしながら、剣を振るう彼女の姿。

 

『そうしなければ死ぬからだ』

 

 ─何事も無いかのように、けれど胸の内にある深い悲しみを押し殺しているのが感じられる、彼女の声。

 

 そして、

 

『名、か─そんなものは、無い』

 

 ─世界に否定されている事に対する、どうしようも無い絶望が見て取れる、彼女の姿。

 

 確かに、彼女は生きているだけで空間震を引き起こす化け物なのかもしれない。だけど俺にはただ、自分が生きるために絶望の中でもがいている、普通の女の子にしか見えなかった。それを見て、俺は…助けたいと、そう思った。この感情は同情なのか、哀憫なのかはたまた…恋なのか。分からないけど、俺は目の前で絶望している彼女に手を差し伸べたい。

 

「それはただの憶測でしか無いわね。第一、殺す以外にどんな方法があると思うの?」

 

「それ、は…」

 

 ここに来て、初めて士道の口が止まる。士道がいくら彼女を助けたいと思っていても、彼女が自らの意思に関係なく世界を滅ぼす存在なのは変わりようのない事実だ。その脅威がある限り、ASTは彼女を殺しにかかるだろう。

 

「…だけど、だけどせめて、あの子と一度、ちゃんと話をしてみたい。そうしたら…そうしたらきっと、なにか殺す以外の手段が見つかるかも知れねぇだろ」

 

 それが、彼女を取り巻く理不尽な環境に対して無力な士道が、唯一できると思った事。たとえ今は共存が不可能だとしても、きちんと話せば事態解決のきっかけが見つかるかもしれない。もしダメだったとしても、せめて彼女の絶望に染まりきった心を救いあげたい。そう意を決して発した言葉に対し、琴里はそれを待っていたと言わんばかりにニヤリと笑い、言葉を発する。

 

「なら、手伝ってあげる」

 

「は…?」

 

 どういう意味だ、と言葉の真意を聞こうとした時、琴里はバッと両手を広げる。令音、神無月、貴虎…ここにいるクルー全員と、この艦長室…否、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私たちが、それを手伝ってあげるって言ったのよ。〈ラタトスク機関〉と、」

 

 パチン、と琴里が指を鳴らすと共に、艦橋の景色がガラリと変わる。先程まで薄暗かった艦内は陽の光に照らされ、無機質な鉄板のように見えていた部分が、青空へと変貌する。

 

「機関が所有する空中艦、この〈フラクシナス〉の総力を以て、士道の手助けをしてあげる」

 

 フラクシナスがなにかしらの巨大な乗り物の可能性を考えていた士道もさすがに空中艦は考えもせず、呆然とする。

 

「…空間震の時、琴里のGPSがファミレスの前から動かなかったのってまさか」

 

「あぁ、そういえばここ、位置的には待ち合わせしてたファミレスのちょうど1万五千メートル上空になるわ。なるほど、それで空間震の中飛び出して来てたのね」

 

 しかしGPSに引っかかっちゃうなんてね、後で対策しとかなきゃ、と琴里は顎の下に手を添える。

 

「さて、話の続きをしましょうか。精霊の対処方法は、大きく分けて2つあるの。1つは、ASTのように戦闘によって抹殺する方法」

 

 人差し指を立て、今までの話をおさらいするかのように丁寧に告げると、次いで中指を立てる。

 

「そしてもう1つが…精霊と対話する方法。私たち〈ラタトスク〉はその後者。対話によって、精霊を殺さずに空間震の解決を目指す組織よ」

 

「…確かに、今の俺にとっては渡りに船な話だけど…なんでその組織が俺の手助けをすることになるんだよ」

 

「ていうか、前提が違うのよ。〈ラタトスク〉はそもそも士道と精霊の交渉によって精霊問題を解決しようって組織なの。つまり、士道がいなきゃ始まらないのよね」

 

「は、はぁ…ッ⁉️」

 

 精霊との対話やそれで空間震問題が解決できるのなら士道にとって一番の理想だったが、突然それをサポートすると言われ、しかもこんな大層なもの(フラクシナス)を持つ組織が、士道が居ることによって初めて成り立つ、言わば士道のための組織だと言われて、士道の頭は混乱の坩堝と化していた。

 だがここで困惑していても何も変わらないと軽く深呼吸し、話を進めさせる。

 

「…それで、対話って言っても、具体的に何するんだよ。まさかドッジボールなんかのレクリエーションでもして中を深めようって訳じゃないだろ?」

 

「う~ん、意外と当たってるわね。だけど、より正確に言うならば」

 

 そう言うと琴里は胸を張り、

 

「精霊に─恋をさせるの」

 

 ドヤ顔で言われた言葉を頭の中で反芻し、なんとか受け入れようと、しばしの間が空く。

 どんどん考えていく内にやはり何かの聞き間違いじゃなかろうかという思いが強くなり、念の為琴里にもう一度問う。

 

「…すまん、ちょっと聴き逃したみたいだから、もう一度言ってくれ」

 

「だから、精霊と仲良くお話ししてイチャついてデートしてメロメロにさせるのよ」

 

 さも当然とばかりに言われた事によって、『単なる士道の聞き間違い説』は音を立てて崩れていった。それによって士道は、

 

「は、はぁ~っ⁉️」

 

 混乱のままに、今日一番の絶叫をあげる他なかった。




フラクシナスのクルーに鎧武から貴虎をぶち込んじゃった♡
貴虎は皆自分のことしか考えてないユグドラシルにおいて唯一の真っ当な人だからある意味アウトサイダーってことでお許し願いたい
まぁ、フラクシナスは変態や変人こそ多いですが、精霊を救おうという気持ちや、武力だけではなく対話も用いて世界を救おうとする姿勢は貴虎にも大いに通ずるものがありますし、そういう意味ではユグドラシルよりも天職かもしれません

と、言い訳してみたところで次回予告ドゾー



Open Your Eyes For The Next Outside

「それが、俺にしか出来ないことなら─」

「…部屋の備品さ?」

第5話/訓練開始

「俺は自分が教えたい時にしか教えない主義だが…まぁ、ちょうど暇になったところだ。この恋愛マスターの俺様が直々に女の口説き方を教えてやろう…ハッハッハッハッハ!」
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