「…いやいやいや、どういう意味だよ!精霊に恋をさせるだとかメロメロだとか⁉️」
「そのままの意味よ?昔から言うじゃない。『恋をすると人は変わる』って」
混乱の極にいる士道が質問するも、何事もないかのようにあっさりと返される。
「お前さっき言ってただろ⁉️『空間震は精霊の意思で起こしてるわけじゃない』って。確かに恋で人は変わるって言うけど、それは精神的な話であって生物的に変わる訳じゃないぞ⁉️」
「それが変わるのよ。士道とのデートならね」
「はぁ?」
矢継ぎ早に出てくる情報は、もはや士道の処理できる限界を超えていた。
「お、俺はそういうんじゃなくてもっと他の方法でだな…」
「黙りなさいこのフライドチキン」
士道もなんとか反論しようとするが、有無を言わさない口調で封殺される。
「ASTが精霊殺すの許せない、もっと別の方法があるはずだ、だけど〈ラタトスク〉のやり方はイヤだーって?甘えるのも大概にしなさい!…あなたが精霊を殺したくないっていうなら、手段は選んでいられないんじゃないの?」
その言葉に、はっとさせられる。士道は照れくささやなんやらで〈ラタトスク〉の案を渋っていたが、こうしている間にもどこかに彼女が現れて、また憎悪に顔を歪める折紙と泣きそうな顔で剣を打ち合うかもしれないのだ。それを止める為の機会は、〈ラタトスク〉以外では手にできない。だと言うのに、自分の浅ましい小さな思いでそれを棒に振ろうとしている事を恥じた。
士道はゆっくりと顔を上げ、琴里に問う。
「なぁ、一つだけ教えてくれ」
琴里もまた、兄の周りの空気が変わった事を察し、気を引きしめる。
「なにかしら?」
「それが出来るのは…俺以外に居ないのか?」
単純だが、それ故に心の底から言っている事が分かる問いかけ。
「えぇ…精霊を救えるのは、
琴里のその答えを聞き、士道は腹を括る。
「それが、俺にしか出来ないことなら─俺はやる。絶対に、あの子を救ってみせるっ‼️」
琴里は、その言葉を聞き、満足したかのような満面の笑みを浮かべる。
「─今までのデータから見て、次に精霊が現界するのは最短で1週間後…それに間に合うように、明日から訓練を始めるわよ!」
「おう!…ん?くんれん?」
士道は、なんとも間抜けたこえで呟いた。
「…後であの人にも相談してみるか。俺が知ってる限り一番のモテ男だし」
そして、翌日の放課後。
「来て」とだけ告げられると、士道は折紙に引っ張られて行く。教室からはキャーキャーと姦しい声が聞こえるが、折紙はこれっぽっちも気にする様子を見せない。無言で校舎を移動し、施錠されている屋上への扉でようやく手を放した。
「え、ええと…」
折紙がその気でない事は分かるのだが、昨日散々デートだの恋だのと話をしていたからか、妙に照れる。
「昨日、なぜあそこに居たの」
当然ながら愛の告白などではなく、昨日の空間震にたいしての話だった。
「…妹が警報中に街に居たみたいで、探しに」
「そう。見つかったの?」
折紙は相変わらずと言うべきか、人形のように表情をピクリとも変えずに聞いてくる。
「ああ、おかげさまで」
「そう。よかった」
折紙の顔に一瞬だけ、ほっとしたような表情が見えたが、すぐに消え、再び唇を動かす。
「…昨日見たこと、聞いたこと。全て口外せずに忘れた方が良い。私もあなたのバイクや携帯のことは誰にも言わないし、忘れたことにする。それでおあいこ」
折紙が言っているのは、恐らく…いや、ほぼ確実に精霊のことだろう。
「…あの、女の子のことか?昨日鳶一言ってたよな?『この世に存在してはいけない生物』って…あの子は、そんなに悪いやつなのか…?」
そんな問いに、折紙は微かに唇を噛み締める。
「あれは、精霊─世界を滅ぼす存在。私の両親も5年前、精霊に殺された」
折紙の脳裏に蘇るのは、物言わぬ両親の骸と、炎を背にする精霊の姿。
「っ…」
その話を聞き、士道も口を詰まらせる。
「私は精霊のせいで大切な人を失う人が現れないように戦っている。あなたは戦いを止めたいと言っていたけれど…それは無理な話。全部忘れて、普通の日常を過ごすのが私の望みで、あなたにとっても一番の幸せのはず」
…だから約束して。もう二度と精霊に関わらないと。
それを聞いて、士道も答える。
「あぁ、昨日のことは絶対誰にも言わないよ。だけど…ごめん。2つ目は約束出来ない。…俺は、目の前で絶望している誰かを見殺しになんて、出来ない」
…だから、約束出来ない。ごめん。
─『絶望している人を放っておけない』それが士道の本音にして、本質。たとえ〈フラクシナス〉と出会わなくても、士道はなんとかして彼女を助けようとしていただろう。それを聞いた折紙は、「…そう」と一言だけ呟き、階段を下って行った。
「…やっぱり、俺は甘いのかな…」
精霊に親を殺された折紙と、居るだけで世界を滅ぼす精霊。その戦いを止めると誓ったが、こうして話を聞くとどうしてもそれが本当に正しいのか、そして自分にやれるのかという不安感が湧き上がる。はぁ、と息を吐いて階段を下りようとすると、廊下から甲高い悲鳴が聞こえてくる。
なんだなんだと集まっている野次馬たちの真ん中には、白衣の女性がうつ伏せになって倒れていた。
「ど、どうしたんだこれ」
「わ、わかんないんだけど、この人が急に倒れて…っ!」
士道の呟きに、一部始終を見ていたらしい女子生徒が、あたふたしながらも状況を伝える。
「とりあえず保健の先生を─」
呼んでくる。と言おうとした士道の足を、倒れていた女性の手ががしっと掴み、ゆらりと立ち上がる。周りにいた生徒たちはざっと飛び退き、さながらパニックホラーのワンシーンのようだ。普通なら悲鳴の一つや二つ上げたくなるところだが、幸いと言うべきか士道はその人物に見覚えがあった。
「…なにやってるんですか、令音さん」
「…見て分からないかい?ここの教員として世話になることになったんだ」
胸ポケットについているネームプレートを指さしながら、〈ラタトスク〉の解析官・村雨令音はそうのたまうのだった。
「…なんですかこの部屋」
「…部屋の備品さ?」
「見ての通り、ただの物理準備室じゃない」
令音に連れていかれた先の物理準備室の中身を見て、思わずといったかんじで質問した士道に答えたのは令音と、途中で合流した琴里だ。
確かに、物理準備室に生徒が入る機会なんてほぼ無いため、士道は具体的な内装を知らない。だが、無数の機器やディスプレイで埋め尽くされているのは、どう考えても普通じゃ無いだろう。
頼むから異例であってくれと、
「…まぁ、部屋は百歩譲って良いとして、もといた先生はどうしたんですか?」
「…ああ、彼か、うむ」
「…」
「…」
しばしの沈黙が部屋を包む。
「…さて、今からシンにやってもらう訓練の説明をしよう」
「うむ、の次は⁉️あとシンってなんですか⁉️」
「む、君の名前はしんたろうじゃなかったかね?」
「士道です‼️」
「いつまで突っ立ってるのよ士道。もしかしてカカシ志望?やめときなさい。あなたの間抜け面じゃからすも追い払えないと思うわよ。ああ、でもあまりの気持ち悪さに人間は寄ってこないかもしれないわね」
「…」
士道の質問を最早尊敬できる域のスルー力で躱されたかと思いきや、自分の名前をどこぞのマニュアル人間な誤砲さんのように間違われていた挙句、妙ちくりんなあだ名をつけられるという怒涛のツッコミどころが現れるも、いつの間にか黒いリボンに付け替えていた琴里の痛烈な毒舌によって無理やり止められる。昨日知った妹の新たな一面を受け入れてはいるが、こうも素早く変えられると、やはりなんとも言い難い感情になる。
「…さて、訓練の内容を説明しよう。精霊に恋をさせるという作戦上、まず会話が必要不可欠だ。この訓練は、女性への対応に慣れてもらう事が目的だ」
この説明には、士道もなるほどと頷く。前にも言った通り、士道はツーリングを介して多くの人物と出会い、そのコミュニケーション能力は叩き上げられてきた。しかし士道のそれは年上の同性と楽しく会話できるものであり、異性を楽しませる、ましてや恋をさせるとなると、全く違うベクトルのコミュ力が必要なのは想像がつく。
「…そこで君にやってもらうのは」
と前置きすると、令音は唐突に士道に身体を近づけてくる。鼻腔にシャンプーのものかはたまた女性特有のものなのか、まるで花のような甘い香りが入り込んでくる。
─え、何?俺は一体何をされちゃうの…ッ⁉️
「…よし、ソフトの立ち上げが完了したね」
「え…?」
令音の言葉にどういうことかと目を開けてみると、先程まで真っ暗だったモニターの一つにカラフルな髪の美少女たちが表示されており、中央には大きく『恋してマイ・リトル・シドー』のロゴが踊る。
「こ、これは…?」
「…うむ。訓練の第一段階、〈ラタトスク〉総監修、現実における様々なシチュエーションをリアルに再現した恋愛シュミレーションゲームだ」
「ギャルゲーかよッ!」
思春期の純情を弄んだことに対しての怒りか、はたまた想像してしまった自分に対する嘆きからか、士道は悲鳴じみた叫びを上げる。
「やだ、何を想像してたの?さすがは妄想力はS級ランクね気持ち悪い」
「むぐっ!」
たまらず否定したくなるが、今回ばかりは琴里の言う通り全面的に自分が悪いので口を噤む。
「…ん、では始めてくれたまえ」
「は、はぁ…」
士道は渋々といった様子でコントローラーを手にすると、琴里がたった今思い出したように口を出す。
「あ、そういえば1回失敗する度に士道が昔書いたポエムやらオリジナルキャラの設定資料やらを世界に公開していくから。1つ1つのライフを大切にね♪」
「はっ…はぁぁぁぁ⁉️」
放課後の校舎に、情けない悲鳴がこだました。
─訓練開始から3日後。
世に晒された黒歴史は数知れず。されど、着実に攻略ヒロインやスチルの数は増えていった。ヤンデレストーカーの海東ちゃんルートの攻略に成功した時は、深夜にも関わらず大きな快哉を上げたものだ。
「士道。今日も訓練があるから放課後ちゃんと物理準備室に来るように」
学校へ行く前の五河家の食卓にて。琴里は士道に今日も訓練をサボらぬようにと釘を刺す。士道は海東ルートを攻略出来て喜んでいるようだが、それはまだまだ序の口だ。無表情故にフラグが立っているのか分かりずらいチェイスちゃんや、辛いことや悲しい事を押し殺して笑っている為、セリフの端々や細かな表情の変化にも気付けないといけない五代先輩など、攻略困難なヒロインは沢山いる。そしてそんなヒロインたち全員に気を配る必要のあるハーレムルートこそ、もっともクリアしづらいものだ─と、フラグ関係のデバックを三日三晩かけて1人でこなした貴虎から聞いている。
すると士道は申し訳なさそうな顔をして、
「すまん!今日は約束があって、訓練には参加出来ないかも!」
と言ってきた。
「ハァ?アンタねぇ、精霊が現界するまで時間が無いってこと分かってる?新学年始まってすぐだから遊びに行きたい気持ちも分からないとは言わないけど、今は訓練が最優先よ。多分殿町さんなら許してくれるだろうし、断って来なさい!」
「いや、約束してるのは殿町じゃないんだ」
士道の言葉からしててっきり級友の殿町と遊ぶ約束をしているものと考えた琴里はそれを咎めるが、どうやら違うらしい。士道はどこか申し訳なさそうに語り始めた。
「…初めて〈ラタトスク〉に行った後、俺の方でもなにかした方が良いかなと思って、ツーリングの最中に出会った人に相談したんだ。そしたら、偶々今日は空いてるから直接会って話をする事になって」
つまりはあの日、士道も「自分に出来ることをしなくては」と女性経験豊富な知り合いに連絡を取り、その人物が多忙な為、士道と会えるのが今日しかない、という事だった。
さてどうしたものかと琴里は顎に手を当てる。確かにこれは明確な士道の連絡不足だが、そこは琴里も訓練が長期的なものだと言わなかった分おあいこだ。それに精霊を助けるために自ら進んで行動した士道の思いを無下にするのも気が引けるし、忙しい合間を縫って時間を作ってくれた相手方にも悪い。「絶対に〈ラタトスク〉のことや精霊の事は言わないから!このとーり!」と頭を下げるおにーちゃんの姿を見て、仕方ないかと嘆息する。
「はぁ、分かったわよ」
「本当か!すまん、恩に着「ただし‼️帰って来てからちゃんと訓練すること!」…おう、もちろんだ‼️」
こういうところは兄に似て甘いな、と苦笑いする。
「それで?今日会う人はどんな人なのよ?」
以前から度々士道の旅先でのエピソードは聞いたことがあるが、正直言って〈ラタトスク〉での研修や旅先で買ってきてくれた地域限定味のチュパチャップスに夢中であまり真剣には聞いたことが無かった。たが今日その旅先で出会った人物の1人と会う事を知り、興味が湧いてきたのだ。
「そうだなぁ…サングラスが良く似合う、クールだけどワイルドなコーヒー好きの大人な人、かな」
ふーんと呟くと、琴里は眼前に置いてある鮭の切り身に箸を伸ばした。
…同時刻、とある場所
「あぁ、今日は予定があるから先に上がるぞ」
高級そうな家具が拵えられた部屋にて、タキシードを着崩した野獣のような雰囲気の男がそう告げる。
「そういえば今日だっけ、次狼が前に2人で出かけた時に知り合った人と会うの」
そう返したのは水兵が着るようなセーラー服を着こなした、中性的な顔の少年だ。
「たし、か…いつか…し、し…しどみ」
うろ覚えの名前を思い出そうと頭を捻っているのは、燕尾服を身に纏う大男だ。
「士道だ、五河士道。ま、そういう訳だから今日の作業は俺抜きでやってくれ」
「ちょっと待て、そんな話俺は聞いてないぞ?」
話が纏まりかけたところで、扉が開き、カジュアルな格好の男が入ってくる。
次狼と呼ばれた男はチッと軽く舌打ちし、少年はあちゃ~と声を漏らす。
「悪いな音也、今日『オレの弟子』の士道と会う約束があってな、うっかり伝え忘れていた」
「おかしいな?『オレの子分』であるはずの士道から俺にはなんの連絡もないんだが」
「つまりお前はお呼びじゃないって事だ。恋愛相談を俺に持ちかけるとは、あいつもよく分かっている」
「ほう?恋の悩みか。俺は自分が教えたい時にしか教えない主義だが…まぁ、ちょうど暇になったところだ。この恋愛マスターの俺様が直々に女の口説き方を教えてやろう─この天才、紅音也様がな‼️」
ハッハッハッハと高笑いをする男─音也に、次狼は白い目を向ける。
「ご生憎様、俺の方が頼りになる色男と思われてるようでな、やれやれ、人望があると困るものだ」
「ほぉ?お前が色男?ハッ!ゆりに無理矢理結婚を迫った挙句、振られた子犬ちゃんが色男とは笑わせる!」
「なんだと?そのゆりと結ばれたのに運命がどうだの言って人妻と不倫したお前が恋愛マスターとは片腹痛い!」
2人の間でバチバチと火花が飛び交う。
「ラモン!力!俺も今日は行けないと太牙や嶋のやつに伝えとけ‼️」
「この忙しい時期に?一応あのプロジェクトの最高責任者は音也なんだけど⁉️」
「う、ん…のう、きも、ちかい」
少年と大男…ラモンと力は苦言をていするが、2人揃って聞く耳を持たない。
「大丈夫だ!政府主導とは銘打ってるが、実際は変な横槍を入れられないようにファンガイアの高官に頼んで名前を借りてるだけだ‼️納期は多少遅れてもなんの問題もない‼️」
「ああ、それにあれは完成したところで所有者は俺かコイツになるからな。予定表にテストだの装着者の選定だのと書いてある期間のうちに完成すれば大丈夫だ」
「それで!場所は!」
「カフェ・マル・ダムールに4時半!」
「今日こそ決着をつけよう…」
「ああ、今日こそ…」
『どちらがより人望を集めているかの勝負をな‼️』
…そう、士道は哀れなことにも?この2人のどちらが人望が厚いか勝負に巻き込まれていたのだ。自称、千年に一人の天才紅音也と、誇り高きウルフェン族の1人、ガルルこと次狼の勝負に。
「…どうしようか?」
「…とり、あえず、むかう、か」
「…そうだね。よし!ドラーン‼️」
力の言葉に一先ず方針を決めたラモンが声をかけると、ギャオーンと雄叫びが聞こえた。もしもこの時外に魔法が使える存在が居たら、きっと腰を抜かしただろう。なにせ、ビルの外観がまるでポスターのように巻き取られ、中から城と一体化した巨大なドラゴンが現れたのだから。
「さて、お姉ちゃんや嶋さんになんて言おう」
「そのまま、はなせば、いいとおもう」
「…そうだね!そうしよっか!」
河童や魚人伝説の元になったとされるマーマン族の1人、バッシャーことラモンと、剛腕・剛力を誇る比較的新しい魔族であるフランケン族の1人、ドッガこと力は、ファンガイアの王城、キャッスルドランに乗って目的地へと向かって行った。
この世界線のキバは本編終了後くらいの年月ですが、本編との主な相違点は
・音也、ゆりの生存
・真夜は依然としてクイーンのまま
・ウルフェン族、マーマン族、フランケン族は全滅してない
などがありますが、他にも変わってるところはあります!その辺も今後明かしていくつもりです‼️といったところで、次回予告‼️
Open Your Eyes For The Next ちょーっと待てぇーい‼️ここからはおれさまが予告するぜぇー!
次回‼️デート・ア・アウトサイダーズ‼️
「認めたくは無いが、そういう話ならコイツの方が詳しい」
「1度目偶然、2度奇跡、3度目必然、4運命…分かるか?」
「恋の、進路相談です」
「男女交際のことかと思っていた」
第6話/レッスン♪ラブハプニング
ウェイクアップ!