その日俺は、彼にある物を聞かせるために
彼のいる所を訪ねた。
八年経っても面倒臭そうな表情と態度。
変わらない姿を彼は見せた。
…どうやらまだ苦手意識があるようだ…
しかし彼は"ある物"の話をすると
俺というよりも"彼女"に向けるかのように
優しい笑顔を向けた。
そして俺を招き入れた。
俺は部屋に入り、
彼が座るのを待った。
「今から見せるのは、
"彼女"の一ヶ月の記憶だ。
……覚えていないかもしれないが、
俺は見てやってほしいと思う」
「……流すぞ」
そう言って、俺は入った部屋にあった
テレビの側にあるps4に手を置いた。
懐からDVDディスクを取り出し、
ps4に差し込む。そして起動して、
"DVD"のボタンを押す。
映像は再生された。
懐かしみのある声が聞こえてくる。
「……これを見る時、
私はそこにはいないだろう」
「……これは私が最後に残す記憶。」
「今まで、本当に楽しかった。
短い期間だったけれども、ほんとうに」
その後、暫く沈黙。
途中で俺は部屋から出た。
……最後のメッセージが表示され始めたからだ。
「あなたとのおもいでをのこす。
わたしはずっとまっている。
いつまでも。
みんなといっしょにあいにきてほしい
どうかおぼえて おいてほしい
……………………………………………………………
わたしは ここに い る
」
〜三統抗争長門有希視点編第一弾〜
『長門有希の邂逅』
平成五十九年 十一月十八日
……目標補足。
丘野小学校六年三組十八番 鍋島茂成
成績は中。可もなく不可もなし。
戦闘力は高め。ただし、小学六年生の基準。
腰にポーチを常につけており、
そこには雷のマークが描かれた
謎の本が携帯されている。
『出張 魔法騎士団』という非公認の
クラブ活動にて友人数人を巻き込んで活動。
友人は主に八人。
織田信影、土方銀介、沖田灰斗、武中政行
大村裕次、宇喜多悠進、小早川一茶、
アグネスタキオン。
身長 百六十八.ニ
体重 五十七.〇
私に与えられた指令は、
統括への反乱の意思があると疑われている
この少年を監視・観察し、
動きがあれば逐一報告する事。
私は六年三組に転校してきた転校生として、
彼のクラブ活動に参加し、観察する。
私はそのために作られた
スパイアンドロイド『長門有希』。
「今日からこのクラスに転校してくる
長門 有希さんだ。」
「………………よろしく」
組織により設定された席へ向かう。
鍋島茂成の横の席。
窓のすぐ近く。
私は座り、茂成の方を見て座礼をする。
茂成は眉をひそめた。
その後は昼休みまで授業を受け、昼休み頃に鍋島茂成と会話。
:会話の記録:
「……鍋島」
「はいはい。なんですか」
「……私にあなたの所属しているクラブを紹介して欲しい」
「……転校してきたばっかりのクラスメイトに紹介するようなような清楚なクラブじゃねえよ」
「………………そう」
「そうだよ。悪いがお前には教えん」
:会話終了:
放課後。
目標を追跡。
目標は校舎五階の教室に移動。
恐らくここが黒の暴牛の拠点。
……盗聴機能作動。会話を盗聴……
(コンピュータ室のドアに耳を当てる)
:会話の記録:
『アンドロイド……?
そんなもん作る技術あのバカ統括にあんの?』
『信憑性は薄いか?
転校初日で非公認クラブ活動に入りたい
アホみたいな転校生がどこにいやがる。
……ただ、作ったのはアレではねぇだろうな。
少なくとも』
『同志かもしれねぇってのに
よくそんな簡単に切れるよなオメー』
『小学生だぞ?
俺達みたいなひねくれもんじゃなく、
ちゃんとした小学生だぞ?
アンドロイドでなくとも冷やかしか何かだ』
『まぁ、裏に何かあるのは間違いないですね。
僕としてはこのまま放っておくのも危ないと
思いますけど』
『……困ったねぇ。
すぱいなんてドラマでしか見た事ないけど
本当にいるんだねぇ。フゥン……』
『タキオンちょっと黙っててくんない?』
『えぇ〜〜』
『今は真面目な話をしているんだ。
この世界はそういうのが横行している。
何も知らないのは子供達だけだ』
『貴方も子供ですけどね』
『灰斗……貴様燃やすぞ』
『へぇ……
やれる物ならやってみてくださいよ』
『おい、喧嘩はやめろ』
『……チッ。……そういえば茂成、
あの転校生確か名前を"長門有希"といったな』
『それがどう……あー………………』
『……よし。一つ、提案があるぞ。耳をかせ』
『……やめろ。それは胸にしまっておけ』
『何故だ?』
『ちょっ、やめなよ。
言いたい事はわかるけどさ……』
『……一茶、ちょっと静かに』
『ふぇ?』
:会話中断:
……アンドロイドである事を疑われてはいる。
しかし、恐らくはまだ気付かれていない。
……
対象の移動を確認。
(ドアが開くのを察知し、後ずさる)
:会話の記録:
「何してんだテメェ」
「……覗いていた」
「……ああ、そう。」
「……」
「……入りたい、か?」
「……」
(頷く)
「……」
(彼は振り向き、他の団員に目を向ける)
「こいつ入団させても良い?」
(他の団員が頷く)
「……とまぁみんなオーケーみたいなんで、
入って良いよ。よろしく」
「………………そう」
(部屋に入る)
「……長門 有希。 ……よろしく」
「よろしく。俺は織田信影だ。
お前達、自己紹介をしろ」
彼らの事は知っている……しかし。
ここは黙って聞いておくべきと判断。
「土方銀介だ。天然理心流門徒。
成績は茂成よりは良い。」
「沖田灰斗です。天然理心流門徒。
一番強いのは僕なので、そこんとこよろしく」
「武中政行。神道無念流門徒。
よろしくねぇ〜」
「大村裕次。神道無念流門徒。
まぁ、よろしくお願いします。」
「宇喜多裕進。苗字については何も言うな。
たま〜〜〜〜〜〜〜〜に突っ込まれるが、
うちは20年前に苗字を変更してるんだ」
「小早川一茶です。よろしく!!
ゲームとか壊れたら僕に言ってね!!」
「……アグネスタキオン。」
「……おいタキオン。愛想悪いぞ」
「……そう言われてもねぇ」
「なんとなくお前の言いたいことは
想像がつく。だがやめておけ」
「……君」
「………………」
「本当に無口だねぇ。ロボットみたいだ」
「……ロボットではない」
「……フゥン」
その後、彼らは一時間ほどの雑談の後、
茂成以外は帰宅。
私は茂成と二人で部屋に残った。
茂成が「残れ」と言ったから。
「……よし」
「……」
「……実はこの団には入団試験があるんだ。
お前は特別に免除してやろうとも思ったんだが
このままこっちに引き込むのはまずい……」
「……よくわからない」
「お前がどういう存在か、何故ここに来たか。
それは全て国木田独歩より聞いている」
「……」
情報解析。
国木田独歩 年齢三十四歳。
「武装探偵社」の社員。
三統抗争に関与している形跡はなし。
「………………そう」
「だからまぁ……お前からすれば、
なんでわざわざ敵を仲間にするのかという
疑問が頭をよぎっているかもしれないが……」
「あなたの事は分析済み。
何故それを行ったのかはある程度予想できる」
一つは作戦。
国木田独歩と鍋島茂成による
私を籠絡する作戦。
これを実行している場合、
私がアンドロイドである事は
まだ知られていない……
もう一つは、この男の心理的な物。
単純に、面白い、興味があるといったもの。
「……なら話は早えな」
「……」
茂成は私をじっと見ながら、
(左の肩を引き、
右足を前に半身分開いている。)
(茂成が右手を高く上げる。)
懐から取り出したらしい
"ナイフ"と書かれた紙を持っている。
「……」
紙が緑色に光り出す。
恐らくは国木田独歩の能力"独歩銀閣"。
紙は消え、ナイフが現れる。
防御障壁を展開……
(茂成のポーチから本が飛び出し、
ひとりでに開いて特定のページで止まる。)
「闇魔法 闇纏 "無明斬り"!!」
(ナイフを振り、
黒い斬撃のようなものを飛ばした)
「……」
(防御障壁に弾かれて消える)
「固ぇな。」
「……あなたは私の全てを知っているわけでは
ない。ここで引くのが最適解と思われる」
「何言ってんだ? ……はは〜ん。
どうやら全部気付いてやがったわけでは
ないらしいなぁ」
「……」
茂成は私をアンドロイドと知っている。
「……どうせ他にも色々出来るんだろ?
もっと見せてみろよお前の力を」
「……わかった」
エネルギーフィールド展開
(有希が薄いエネルギーの空間に包まれる)
ターミネートモード
「……本気は出さない」
「そうかい」
(有希、右手を開いて茂成に向ける。
細いビームが八本くらい茂成に向かっていく)
戦闘力三億二千万程度の速度。
動かなければ当たらないように調整。
恐らく茂成の実力であれば対応出来ない。
「……なるほどね」
(茂成、ナイフに闇を纏い、
ビームを全ていなしながら有希のフィールドに
向かって歩く)
……
(フィールドの手前で立ち止まる)
「……お前でも戦闘力の感知くらいは
出来るだろうし俺が出来ると読んでただろう。
ただ……俺の気の読み方はちょっと違うんだ」
「ある程度の戦闘力差なら問題はねぇのよ」
予想外。
「……データ上より、あなたは強い」
「そりゃどーも」
「だから、少し本気を出す……」
「まぁそうくるよねぇ……っと!」
(茂成、部屋のガラスに向かって走る)
無駄。逃亡はさせない
"空間隔離"
(エネルギーによる筒状の空間が発生。
それと同時に有希を覆っていた
フィールドが消える。
茂成と有希を隔離して閉じ込める)
「……おお……」
「……どちらかが倒れるまで、
この空間が外れる事はない……。
あなたの行動を統括への反乱行為と見做し、
今ここであなたを殺す」
国木田独歩を呼ばれれば、
私では対処出来ない。
この者達が私を破壊しないという保証もない。
「……刀を取りに行きたがったが、仕方ねぇ。
ここでお前を超えてここから脱出する」
「……不可能」
「……はいはい。そういうの嫌いなんでね」
「………………そう」
(有希、両手を開いて、手からビームを撃つ。
約25本のビームが茂成に襲いかかる)
今度は先程よりも強力。
茂成の気の読み方でも追いつけない。
「……」
「……本当に無口だな」
(茂成、ナイフでビームを応戦しつつ、
なんとか数本避けていく)
「……さっきより早いな。
流石に対処しきれねぇ……」
(茂成、ビームを数本くらい、血を吐く)
「……」
少し避けた…
なら追尾させるだけ。
(有希、攻撃をしようと右手を茂成に向ける。)
(茂成、高速移動で有希のすぐ近くに移動)
「……っ」
「動揺したか? ……もう遅いぜ」
「闇魔法 闇纏 "陰勇無明斬り"!!」
(茂成、そう言いながら有希に斬りつける)
接近された。
攻撃が、当たった。
腹部に若干の損傷。
「……おまえ、戦闘力でガードしてないな?」
「……防御障壁の展開は可」
「……まさかお前、やり方知らないのか?」
「……」
(有希、頷く)
「……そうか。」
「なぁ、少し質問していいか?」
「……」
(有希、頷く)
「良いのか……じゃあ聞くぞ。
まず、何故お前はその形に造られたんだ?」
「……スパイであるため、
あなたが興味を持ちやすいように
あなたが知っている小説の登場人物に
瓜二つの存在となるよう造られた」
「……なるほどね。
確かに俺は国木田さんに聞いてなければ
お前を小説に出てきた
「対有機生命体コンタクト用
ヒューマノイド・インターフェース」
なのだと、そう思っていたと思う。」
「俺は勘違いをそのまま真実だと思い込んでしまう所があるからな」
「……で、次だ。
お前は、あの統括を正義だと思うか?」
「……私は造られた存在。
正義であろうとなかろうと、
創造主には従わなければならない」
「そんな力があってか?」
「……どういう意味?」
「おかしいと思ってんのよ俺。
その力を持ってて、そんな能力を持ってて、
どうしてあの統括に従う必要があるのか」
「……あの統括は大して強くない。
お前ならあいつを倒してしまえる」
「……私には、それをする必要がない」
「……成程な。
お前がわざわざ『長門有希』そっくりに
造られた、その意味がよくわかったよ」
「……」
「……禁忌とされる"アンドロイド製造"。
それを実行した統括は、
感情を持ったアンドロイドを恐れた……」
「……ってな感じだな。
まぁ、だったら俺がするべき事は一つだ」
「………………そう」
(茂成、
懐から"スマホ"と書かれた紙を取り出す)
「……この空間内でもあの人なら見える」
(茂成の持っている紙が緑色に光る。
その紙は消滅してスマホを生み出す。
茂成はスマホを弄る)
あれは……
「……」
なんらかの端末による侵入を確認。
「……やはりな
プログラムにリミッターがかかってやがる」
「……」
改変の危険性あり
「……少し待ってろよ有希。
禁忌を破って一つの"魂"に不幸を与えた事を、
奴にしっかりと償わせるためにも。
……このリミッター、外してやる」
……
……情報連結を……
「……pythonか。なら簡単に解けそうだ」
………………
「………………」
情報……連結……
「……待ってろよ……もう少しで……」
……………………
「……よし、これで……」
………………
……どうして。
「……私の事を……?」
「……解除出来たが……
こりゃ感情とかを得るのには時間かかるなぁ。
まぁ、仕方ねぇわな」
「……私は敵なのに」
「……いやぁ、ここに入団するって事に
なったんだから、味方だよ」
「………………」
「……お前がスパイでも別に良いんだよ。
今の所、お前の力にはとても興味がある。
それにお前は俺にとっても
"あの人"にとっても面白い存在だ」
「……多分だけど」
「………………そう」
(有希、空間隔離を解除。
教室には国木田独歩が立っていた)
「……終わったか茂成」
「はい」
「よし。早速だが明日から2日学校を休め」
「ん??」
「仕事だ」
「……あの、国木田さん。
あと1週間もしたらスキー合宿なんすけど」
「そっちの準備はあらかたこっちでしてある」
「……はぁ。拒否権はなさそうですね……」
「メンバーは
お前、信影、土方、沖田、長門の五人だ」
「……てな訳だ、有希。明日仕事」
「わかった」
(有希、頷く)
その後は特に出来事もなく、
翌日十一月十九日、
千葉成田空港近くの道の駅しばやまに集合
私は一番最初に到着。
"しばやま"入り口の左横で待機。
「……長門」
(茂成が走ってきた)
「……」
「気分はどう?」
「……普通」
「……そうか」
「……どうなったんかね、昨日の」
「わからない」
「まぁそうだよなぁ……。
さっさと解放されると良いな」
「……そう、だね」
私は今の状況を受け入れて良いのだろうか。
……それを判断するには、
この男を、茂成をよく観察する必要がある。
「……おっ、他の奴らが来たぞ」
(国木田ら四人が走ってくる)
「……早いな、お前達」
「まぁな。で、仕事ってのは?」
「この地にいるレジスタンスが、
俺達に救援要請を送ってきた」
「小学生で構成されたうちの団にか?」
「大人より強い連中もいる。
お前達はレジスタンス達には信頼されている」
「……それにどうやら、
長門の事を知っている勢力もいるようだ」
「早っ……とんでもない情報通がいるんだな」
「……恐らく、乱歩が流したのだろう」
「ああ、ならわかるわ」
……
一応、江戸川乱歩の情報はある。
……しかし私の存在は隠蔽されていたはず。
「……どうした、長門」
「……。
江戸川乱歩の推理力が少し予想外だった」
「……あ〜〜……まぁ、あの人はな」
「彼は常識では計れない推理力を持つ。
アンドロイドのお前でも予測出来ん」
「……」
「ちなみに……今回救援要請をしてきたのは、
次期統括候補を抱えた組織だ。
頑張り次第では良い報酬を期待出来る」
「りょーかい。んじゃ頑張りましょー!」
「おー」
(全員、右手を上げる)
それから国木田独歩の案内のもと、
一行はしばやまの裏手の山の中へ入っていく。
山の中を歩いていると、銃撃音がした。
「……一般人もいるような所で、
さも当たり前かのように戦闘してやがる」
「一応ここらの区域は
入れないようにしてあるらしいぞ。」
「禁止区域に指定されている上、
入った者への攻撃は許可されている区域。
よほどの事情でなければ侵入する人間は
存在しないと予測できる」
「お、おう。そうか」
「……まて」
(国木田が左腕を伸ばして一行を止める)
「……茂成」
「ええ。いますね、割と」
「……というわけだ。
ここからは各自己の考えで動け」
「来ましたねぇ」
「ようやく暴れられるわけだ」
「程々にしろよテメェら……」
「長門、行けるか?」
(有希、頷く)
「……よし。んじゃ、行くか」
(有希、もう一度頷く)
「……それでは、散!!!」
私と鍋島茂成は中央へ。
織田信影、沖田灰斗は右へ。
土方銀介、国木田独歩は左へ。
それぞれ散開する。
(真ん中の道を木の枝などを蹴って飛びながら
移動)
「敵に遭遇したらニ、三撃浴びせとけ。
大体のやつはそれで戦闘続行不可になる。
味方の判別方法は腕につけた"Pro"のマークだ。
それさえわかれば後は問題ない」
「味方についての情報……一体どこから」
「予想だ。
国木田さんは「"統括候補"を抱えている」
と言っていた。そんな組織殆どねぇからな」
「でまぁ、
俺の知ってる組織の特徴を言った……
というわけさ」
「曖昧……だけど、正解」
(有希、立ち止まって左を指差す)
「おっとっと……」
(少し遅れて茂成が立ち止まる)
「……マジかよ」
(右腕に"Pro"マークを付けた男が倒れている)
「大丈夫ですかぁー?」
「……ぅ……子供……?」
「応援を寄越された「黒の暴牛」の団員です。
敵の数とか、詳しい事わかります?」
「……敵の数は……わからない。
ただ、かなり多いから気をつけろ……!
あと、能力者がいる……!」
「……わかりました。
長門、この人の怪我治せたりする?」
「……私には……」
「……そうか。わかった……
俺が下まで連れて行く」
「お前は先に行って敵を片付けろ」
「……」
(有希、頷く)
(茂成、男を肩で抱えて下に降りる)
……これは、何?
……何か、異常な……
(有希、上へ駆け上がり、広い所に出る)
……
「……あん?なんだぁ、嬢ちゃん。
ここは餓鬼が来るような所じゃねぇぜ」
(何十人も男がヘラヘラ笑いながら
有希を見ている。"Pro"マークを付けていない
のでおそらく敵だろう)
「……対象を、排除」
………………
(有希、男達に左手を向ける)
…………………………
これが、感情?
……情報を探索。解析。
…………理解した。これは……そう
言い表すなら、 "怒り"……!
(有希、
左手から数えきれない量のビームを放つ)
「……!」
(声を上げる間も無く男達は倒れていく)
(最後に一人残った)
「ひぃぃ……!み、見逃してくれぇ……!」
「……見逃すつもりはない。
お前達は私の憂さ晴らしのために消える」
「な、何言って……」
「私は今、無性に腹が立っている!!」
(有希、先程と同じ量のビームを左手から放ち、
最後の一人に集中させる)
「ぎぃあああああああっっっっっ!!」
(最後の一人、灰になる)
……エネルギーの著しい減少を確認。
「……このままでは……」
「……おいおい、
派手にやってくれちゃってんじゃん」
「このトライス・バルバロッサの隊を、
こんな簡単に打ちのめす奴がいるとはな……」
……敵を、排除しなければ……
「……お?よく見たらお前、
先月送られたスパイアンドロイドじゃねえか」
「なんでうちの隊を攻撃した?
まさかなんかやらかした奴がいたのか?」
「……それは……」
「……まさか統括に作ってもらっておいて、
歯向かうなんて事を考えてるんじゃ……」
………………
「こいつはうちの団員だ」
……っ
「……あ?」
(茂成、いつの間にか有希の後ろに。
そのまま歩いて有希の隣まで移動した)
「"こっち"の団員の事は俺が任されてる。
……こいつと話したかったら、
俺を倒してからにするんだな……」
「……けっ、
餓鬼が偉そうに言ってんじゃねえよ!!」
「……あ?」
「そもそもここは遊び場じゃねえぞ!!
餓鬼が来るような甘い所じゃねえ!!」
「……ハッハッハ!!!
こんなしょうもない部下しか持ってない奴が、
「餓鬼が来るような甘い所じゃねぇ」って!?
笑わせんな!!!」
「……それに俺達はただの餓鬼じゃねえ」
(先程散開した者達が四方八方から飛び出す)
「……ほぉ。貴様らも来ていたか」
「当たり前だ。
灰斗に負けてたまるかってんだ」
「あはは。
介さんはいつも僕に負けてますからねー」
「今喧嘩をするのはやめておけ。
敵だぞ。……腐っても、一戦級の敵だぞ」
「……取り敢えず仕掛けるぞ。
こいつは恐らく能力者だ……」
「……そうさ。俺は能力者だ。
だがまぁ、お前等などには超えられんさ……」
「……この俺の速さはな!!」
(トライス、茂成が反応出来ない速度で移動。
腕を思い切り振る。
すると有希の左手の先が消える)
「……!!」
現時点での充電量では反応不可能な速度で
左腕を攻撃された。
左腕破損。修復には時間がかかる……
「長門っ!!」
(普通の人間と似ても似つかない体の構造を
しているよう。左腕が付いていた場所から
血が噴き出している)
「……茂成……」
「おい、喋るな!!」
「……きを……つけ……」
「どうした、アンドロイドさんよぉ!!
さっきの速度についてこれないとはな!!」
「テメェ……」
「長門!!……くっ」
(国木田が声を上げた。
そして有希に駆け寄り、
手帳を破って能力を発動。
包帯を取り出して応急処置を始める)
「……あとはこれだ」
(国木田、手帳をもう一冊取り出す。
その手帳は表紙に雷マークが描かれている。
そしてひとりでに開き、緑色に光り出す)
「……植物回復魔法 "約束された回復"!!」
(有希の左腕があった場所が緑色に光り出す)
「国木田さんの回復魔法なら問題無いでしょう
……だから、茂成さん落ち着いて」
(灰斗がなだめるように茂成に声をかける)
「……ありがとな灰斗」
「そろそろ行くぜ!!
悠長に回復なんかさせるかよぉぉぉぉぉ!!」
(トライス、再び高速移動)
「……」
(茂成、トライスに追いつく速度で移動。
背後にまわってぶん殴って飛ばす)
「おおっと、マジ!?」
(更に茂成、吹っ飛ばされたトライスに先回り
して更に蹴って地面に叩きつける)
(茂成の目が赤く光っている)
「……信影」
「ハッハッハ!! 出番かぁァァ!!!」
(信影、進撃。
灰斗、渋い顔をしつつ移動を開始)
「いざとなったら止めないと……」
「……それはそうだなぁ!!」
(トライス、起き上がる。
そこに拳に黒い物が巻き付いた茂成と、
拳に燃え盛る炎の螺旋が巻き付いた信影が、
鬼気迫る表情で迫っていく)
「闇魔法 "闇纏 無明拳"!!!!!」
「炎魔法 "|灼熱腕(カリドゥス・ブラキウム)"!!!!!」
(そして、茂成は右頬を、
信影は溝落ちを全力で殴りつけた)
「うぐぁァァァァァァ!!!
……まさか、こんな恐ろしい奴がいるとは……」
「まだだ。……威力は弱いが、
"あの人"の魔法を受け継いだ俺の力に、
少しでも耐えれる奴がここにいたのか……」
「……お前は本当に強いよ信影」
「毎度、一撃で殺っちゃいますもんね〜」
(灰斗、いつの間にか
トライスの後ろに回っていた)
「なんてこった……どいつもこいつも、
俺の動きよりも素早い……!!」
「今ここで手を引くなら見逃してあげますよ。
……そうでないと確実にここで果てますけど」
「……。
わかった……手を引く。
あと、一つ情報をやるよ……お前等なら……」
「……ほう」
「……あの嬢ちゃんはアンドロイドだ。
それくらいはお前等なら知ってるよなぁ」
「まぁな。それがどうした?」
「あの嬢ちゃんはな……
感情を四つに分けて制限されてるんだ。
あの様子だとお前等の誰かが制限解除
したんだろうが……まぁそれは置いといて。
そんなだからただ制限解除しても意味がねぇ。
感情を引き出すトリガーは……
研究者から聞いただけの話だが……
"制限の解除を行った人間の行為"」
「……うん?」
(灰斗、首をかしげる)
「……おやおや」
(信影、ニヤニヤと笑う)
「……あー……えーーーーーっとぉ〜〜〜」
「……具体的にどんな感じだった?」
「……怒ってたよ。何やったんだお前?」
「……よし。行っていいっすよ」
(トライス、退散)
「……俺のせいなのかぁ」
「……ハッハッハ!!
お前のやった事はなんとなくわかるな」
「……ええ。まぁわかりますね。
この人デリカシーとか全く考えないですし」
「……お、おぉう……」
「まぁこういう時は本人に聞くのが一番!!
ほら茂成、長門の所へ行ってこい!!」
(信影、茂成を蹴り飛ばす)
「おあーーーーーーーーっ!!!」
(茂成、着地して滑りながら移動。
有希の所でピタリと止まる。)
「……よ、よお。どうだ、気分は?」
「………………」
(有希、黙ってそっぽを向く)
「……」
「……お前、何を言ったんだ……」
「……国木田さん、ちょっと耳貸して」
(茂成、国木田に何か囁く)
「……成程な。それは怒るだろうな」
《どうしたらいいと思う?》
《ここは素直に謝るべきだろう》
《それはそうなんだけど……》
《……まぁ言わんとしている事はわかる。
大方機嫌を直してほしいとかだろう?》
《……そりゃまぁ、団全体の事を考えても……》
《いや、お前の個人的感情だろう?
正直になれ。
俺や団員達がそれを知らんと思うな》
《……まぁ、そうなんだが。
ただ、俺が推しているのはあの小説の……》
《……何が言いたい?》
《……今回の事で気付いたんだ。
"こいつ"と"長門有希"は別人で、
俺はそれをちゃんとわかった上で接するべき
だったんだよ。》
《……お前、あいつを団に入れた理由、
"面白い"から、だったろ》
《……?ああ、まぁな。》
《お前はあいつの情報を乱歩さんに聞いてから
そう思っていたわけだろ?》
《……まぁ、そうだよ》
《だったら、問題はないだろう。》
《……そうか》
……"不愉快"
小声で話しているから、
私には聞こえない、と?
「……もう治った?」
「ん?あ、ああ。治ったぞ」
「……そう。じゃあ、今日は帰る」
「えっ」
「えっ!?」
「今の私ではあなたと上手く話せない……
それに、私個人としても……」
「ちょっ、まっ!!」
(茂成が言い終わる前に
有希が空高く飛び上がる)
《ーーあいつーー追わないとーー》
なんとなく聞こえる。
下では茂成が焦った表情で、
国木田に言葉を投げて何かを訴えている。
恐らく、謝罪について。
……今は茂成と話をしたくない。
ひとまず、家へ帰還する事にする。
(有希、飛行して山から移動。
成田を出て八千代まで移動して降下)
……私の家は東高速鉄道の
「八千代緑が丘」駅から徒歩一分の所にある、
マンションの十二階。
千葉統括に用意された場所。
今降りたのはそのマンションの裏手。
通常の飛行方法とは違うため、
発見されないように警戒して降りた。
……左腕、切断されたはずなのに。
国木田独歩の力によって、再構成された。
……
「……そこの君、"長門有希"ちゃんだよね?」
!?
「……誰」
「やっぱり、そうなんだね。
あの家に帰るのはやめた方が良い。
君があの一戦でトライス隊を壊滅させたのは
既に敵に知れ渡っている。恐らくは
待ち伏せされているだろうね……」
「あなたは、誰?」
「声でわからないかい?江戸川乱歩だよ」
……江戸川、乱歩……
「……ここの場所まで、把握していたの」
「この程度の事は朝飯前さ。
……そうそう。耳寄りな情報があるんだよ。
聞いていかないかい?」
「……一応聞いておく」
「わかった。教えてあげよう」
(乱歩はニヒッと笑ったかと思うと、
途端に真剣な表情になって有希に視線を向ける)
「いいかい?君のその"怒り"の感情は、君の制限を解除した彼の言動が引き起こした物だ。……君はそんな事は把握しているだろうが、一応言っておく。そして、君が彼と離れている事はおススメしない」
「……?」
「君と彼とが離れている間に、彼が言った言動によって君の感情が解き放たれる可能性は……ゼロじゃないんだ」
「……それが、なんだというの」
「ようは、君と彼、どっちを殺したとしても、敵側に違いは無いってわけだ」
「……」
……何を、言ってるの、この人は
「でも君ならまだしも彼が殺されるというのはこちら側としては避けなくてはならないんだ……たとえ街の半分が塵と化しても……ね」
「……?」
「だってそうだろう?今の君が彼を殺されて、
その後に残るのは"怒りしか知らない君"だ。
そんな君が野に放たれたらこの街は少なくとも一度崩壊するし、東にいる僕らの仲間にも被害が及びかねないんだ」
「……だから、何が言いたいの!?」
「……だから、僕的には彼に一生恨まれてでも君をここで始末したいんだよ」
「……っ」
……始末?
私の戦闘能力であれ……ば……
「……あ、あれっ……」
「……どうしたんだい?」
足が、動かない。
小刻みにガタガタと振動している。
額を、液体が垂れた。
汗腺から……これは、汗?
私は、今……一体、どんな顔をしている?
「……はっ……はっ……」
「おやおや……どうやら、これ以上は時間の無駄のようだね。そうだ、一つだけ助かる方法を教えてあげようか。」
「……なに、を……」
「簡単だよ。今から茂の所へ行くんだ。そうすれば匿ってくれるだろう。彼の君への興味と好意は底知れぬものがある。たとえ君が彼の四肢を不自由にしても彼は君を愛してやまないだろう。それは彼、いや"彼ら"という種族を知っていれば容易に理解出来る事だ。わかるかい?」
「……く……」
今は、話したくない。
茂成を避けたい。
……でも今ここでその選択をすれば……
私は江戸川乱歩に破壊、もとい殺害される……
「僕は君に決断を迫るよ。もう時間が無いからね。今ここで決めたまえ……」
……この人は非戦闘員であるはず。
なのに……ただそこにいるだけで、
"怖い"
「……だれか……たすけて……[
「……おや、心の声であるべきセリフが口に出てしまっているのは置いておいて……
何故、そこで"だれか"なんだい?
まさかこの状況で昼の事を根に持って、彼には助けてほしくない一心でそんな事を言っているのかい?」
「……だとしたら、君は思ったより愚かだ」
「……わかった……茂成の所へ、行く……」
「……おっと、ようやく決断したか。もう少し遅かったら僕は君を攻撃していたよ」
(乱歩の眼鏡がキラリと光る。
まるで、そこにいる自分を殺意の塊として表現し、有希に見せつけるように)
「……」
「じゃあね。僕は君の荷物を後から届けさせてもらう事にしよう。こっちは任せたまえ」
(有希、聞き終わる前に飛ぼうとする)
「……ああ、そうそう。最後に一つ。
……裏切りは絶対に許されない。ただし、彼が裏切るようなら許さなくていい。それは誰も咎めない。その時は好きにやってくれていい」
(有希、その言葉を聞き取りながら飛んでいく。
新千葉に移動して降り立ち、
情報として記録されている茂成の家へと走る)
……茂成の家は
「おいおいお嬢ちゃん、この辺りをこんな遅くまで歩いてちゃあダメだぞ」
……!
聞き覚えのある……あっ
(何冊かの本が入った緑色の袋を持った茂成が立っていた)
「茂成っ!」
「……悪かったな"長門"。俺のせいでお前に怖い思いさせたみたいだ」
「……江戸川、乱歩のこと?」
「そうそう。乱歩さん割と怖い人だから、すっげぇ怖かっただろうな〜〜って思ってたんだ」
「……取り敢えず、うち来るか」
「……」
(有希、黙って頷く)
その後、夜の薄暗い新千葉の街並みを歩き、茂成の家に到着。
「靴は脱いだらそのままで良い。三統抗争が終わるまでは両親は別居という事になってるから親もいないし、気楽に過ごしてくれ」
「……わかった」
(小学六年生の男子にしては綺麗に片付けられた廊下を歩き、一つの部屋に入る。そこは元々はリビングとして使われてそうな部屋で、ちゃぶ台と3K程度のテレビが少し遠いくらいの距離で設置されている。テレビの横には古くなったPS3が置かれている)
「……部屋、とても綺麗」
「そうか?……まぁ武家の人間だからかな。そこら辺ある程度きちんとしとかないと母ちゃんに怒られちまうしさ。それに、本やゲームが汚れたら俺、嫌だし」
「……意外」
そういう物を大事にする人間には見えない。
「……お前がそのちっちゃい頭に詰められてる情報は、割としょうもない物なんだろーな」
「何?いきなり」
……"馬鹿にされた"?
(有希、ちゃぶ台の左に座る。
茂成は有希と向かい合うよう右に座る)
「ああ、いや……良かったな、と。
この世の色んなことを知っている、みたいな人、人生つまんないと思うんだよね」
「……そう。そういうこと」
「そうだ。……それで、なんだが」
(茂成、緑色の袋から本を一冊取り出す)
「……?」
(茂成がちゃぶ台に本を置いて有希の方に移動させる)
「……これは?」
「この本、読んでくれよ。
"たった一つの冴えたやり方"って本なんだが、
割と面白くてさ……多分気にいると思うんだ」
「……そう」
「あと、何冊か買ってきたんだ。
"ガイア"と、"モモ"と、"少女地獄"に……あとは、これ」
(今言った本達と一緒に、茂成はある本をちゃぶ台に置いて有希の方に移動させた。)
「……これは……」
"傷物語"と表紙に書かれている。
「あぁ、それは……まぁ、個人的に読んで欲しいな、と……。他は、お前が気にいるかな、と思って買った本で……」
「……そう」
「……まぁ、気が向いたらで良いから、さ」
「……」
(有希、黙って頷く)
「……よし。アニメでも見るか」
「……わかった」
「何が良いとか、あるか?」
「……別に」
(茂成、テレビの前に行く)
「……そうか。じゃあまあ、2人で見れるもんにするかな」
(茂成、PS3を起動する)
「……そういえば、有希はPSの歴史とか、そういう感じの情報は持ってるのか?」
「持っていない。……情報の探索は出来る。
やってみる」
探索を開始……
「……初代PSは千九百九十四年十二月三日に発売された。その後PS2、PS3、PS4、PS5と発売したが"世界創生"などが起きた結果機械そのものが失われた。その後、二千五十一年に復活させてPSの再販売が行われた」
「おー……凄いな。大体全部言ってる。
現在はPS3まで再販されてんだよな」
「……あなたの言動は、小学生らしくない……」
「……それはそうよ。他とは違うからな」
「……それは、自慢?」
「いや、自負。……色々面倒な家柄なのよ俺。
まぁでも、それを嫌という事は全く無いし、むしろ誇らしくも思っているわけなんだが」
「……そう」
「だからまぁ、なんていうのかな……。その自覚を持って、色々やっていかないと後がもっと面倒になるからな。正直知識があるってとても楽しい事だから、今面倒くさいという事もあんまり無いが」
「……そうなんだ」
「そうだよ。楽しいんだぜ、"知ってる"って。
"知る"っていう事ってさ」
「……私も、色んなこと、知りたい」
「……わかった。怒らせた分、色んなこと教えるよ。"楽しんでくれ"」
……話した。
楽しい事、嬉しい事。
彼は私に楽しい話だけをした。
……なんとなくわかる。
彼は私を怒らせた事を、申し訳なく思っている。
……でも、私が怒っている
「……お前、ほんと凄いよな。空間隔離とか、生で見れるとは思わなかったよ」
「……っ!」
思わず、胸ぐらを掴んでしまう。
攻撃を行う事はもうしない。でも、私は今の彼の言動を許したくない。絶対に。
「"私"は"あの子"じゃない……!!」
「えっ!?ちょっ、まっ!!」
もがいて離れようとする彼を力を強めて抑えつける。次第に彼の着ている服がビリッと音を立てた。少し破れたらしい。
「ちょっと待って!!俺他の服まだ乾いてないから!!落ち着いて!!!」
私はその言葉を聞くと、破れた箇所から手を離して彼の背中に手を当てて、ゆっくりと引いていく。
少しだけ"理性"が働いたらしい。
「うおっ!?何してんの!?」
「私は……長門有希。アンドロイドの長門有希。まだ、何も、何も知らない。監視するはずだった貴方の事でさえも、何も知らない、何もわからないアンドロイド。傷を癒す事なんて出来ないし、設定された戦闘能力以上の行動をする事は出来ない。……"空間隔離"だって完全な物じゃない、ただのエネルギー空間……!!」
「……"長門"……おまえ」
「……!!」
手に力を込める。込めてしまう。
どうして……?そういえば、今日一度も、ただの一度も下の名前で呼ばれていない……。
どうして……?
この人は、"違う私"を知っている筈なのに。
「やめてよ……なんで"長門"って呼ぶの……?」
「……それは、その……いきなり下の名前で呼ぶのはって、自分で言った手前……ちょっと恥ずかしくなって……」
「……私は良い。私はもう下の名前で呼んでいる。……呼んでくれないなら……私は……」
「!……"有希"!!」
「……」
「ごめん!!悪かった!!俺、お前が"あの長門"とは違うって事、全然考えてなかったんだ……。だからあんな事言って、お前を怒らせてしまったんだ。ごめん。本当に」
「……ごめんで済んだら警察はいらない」
「ぐっ!!……そうだな……」
「……一つ、許す条件がある」
「……なんだ?なんでも良いぞ……」
無意識に、両手の力を強める。
もうお互いの体が後一歩で触れそうなくらいに近付いている。
「……」
「離れないで」
なんとなく、とんでもなく"恥ずかしい"事を言ったような気がする。……でも、敵であったはずなのに、"私"を解放してくれたあなたなら……構わない。……あなたなら……
「……まっ……えっ……良いのか?」
「……」
(有希、黙って頷く)
「……あんな酷いこと言ったのにか?」
「……はいかいいえか、言って」
《こっちが離れたくないくらいなのに……》
「……"はい"、だ。……気がすむまで一緒にいるよ、有希……」
……声、こんな近くなのに、聞こえてないわけがないのに。……わざと?
……なんでも良い。……とにかく……
"嬉しい"
私は、そう、思った。
感情の解放は、負の感情から始まった。
だけれど、その時の記憶は私にとってはとても良い思い出になっている。……それは、彼のおかげなのだろう。きっと。
まだ、感情の全てを知り、理解したわけではなかったこの時の私は、"嬉しさ"に戸惑いながらも……この後何が起きるのかという不安も、取り敢えずは胸にしまって、
「ありがとう」
と、言った。
To be continued…