HRFF13特別連載 "三統抗争" 国木田視点    作:fミク

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長門有希の消失

……暫く会えなくなるけど。

 

大丈夫だよね。……せめて、すぐ戻るから。

 

待っててね……絶対に。

 

 

 

〜特別連載三統抗争長門有希視点第三弾〜

 

      『長門有希の消失』

 

 

 

 奴らは、どうせ私には勝てない。最初からわかりきっている事だった。千葉統括は私の戦闘力が自身より微妙に下になるように設定して作ったが……それも無意味。

今の私は"烙印"の力を手に入れた。……所謂(いわゆる)神の使いというやつなのだから。

 

 私は十二月十七日の午後八時三十五分に統括屋敷への侵攻を開始した。入り口の兵士も、中級幹部クラスも、簡単に倒せた。

 

「いたぞ!!」

「止めろ止めろ!!」

 

 そんな声が聞こえてくる中、私は魔法とアンドロイドとしての力を駆使して、行く手を阻む者達を薙ぎ倒して行った。

 

 

 二階の、統括の部屋に差し掛かる廊下で、最高幹部が待ち構えていた。

 

「……まさかアンドロイド如きがここまで来るなんてな……俺の名はゲイル。貴様を止める者の名だ。機械の体に刻んでおくんだな」

「……機械だから何?これから無様に消えるただの人間風情に……私が名前を覚えておく必要がどこにあるの?」

「……なんだと貴様」

「お前なんてあの人の足元にも及ばない低俗な人間……。さっさと消えなさい」

 

 私は魔導書(グリモワール)に強く念じる。すると魔導書(グリモワール)は自動的にページをめくり、特定のページで止まった。

 

「……思考魔法 "妖花烈風"」

 

 風が吹き荒れる。私が魔法の名前を叫んだ瞬間、発生したのだ。風は四つの竜巻となり、敵に襲いかかる。

 

「俺に風だと?甘いわ!!"大旋風"!!」

 

 敵は風で応戦してきた。……面倒くさい。さっさと消えてくれれば消費も少ないし楽なのに……。竜巻は風で相殺された。

 

「……思考魔法」

そう呟いて私はまた魔導書(グリモワール)に念じる。するとまた自動的にページがめくられ、特定のページで止まった。

 

「"ジャッジメント"」

 

 光が、敵の体を一瞬で貫いた。恐らく、敵が認識するよりも速かっただろう。私にもギリギリ見えるかどうかくらいの速さで発生したのだ。敵は音もなく崩れて、倒れた。

 

「……無駄な手間だった」

 

 統括の部屋の扉を破壊して、私は千葉統括の前に立った。千葉統括は仁王立ちで私を待ち構えていた。

 

「……私を倒して、満足か?」

「私にとってはあなたは通過点。政治も、戦争も関係ない。さようなら」

「……」

 

 私は手からビームを放ち、千葉統括を貫いた。……あっけない。本気で攻撃したがその必要性も無かったか……?

 

「……フッ。俺がただでやられるとでも思ったかぁ?」

「……何?」

 

「……貴様は、俺の力を受け継ぐに相応しい!!最高の器を、俺は作り上げた!!

喰らえ!!"ボディトランス"!!」

 

 ……何……を……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

"お前は、ただの器だ"

 

違う。私は人間になる事を約束された……

 

"お前は、何も成し得ない。人間になる事もない。ただ、ただ俺に操られるままに生きるだけだ"

 

………………

 

"お前はただただ閉じこもっていればいいのだ"

 

"ただの機械に、何が出来る?"

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、機械……。それはわかりきっている事。

 

 ……わたしは、なにもできない?

 

 そんなはずはない……

 

 ……でも、わたしは勝てなかった。

 

 ………………ごめん。

 

 

 

 

 

 

『何も出来ないと、そう言ったんだな?』

 

『あいつが何もできない奴なら、俺に怒りを見せる事なんてなかった』

 

『そもそもあいつは最初から、お前の手には負えない奴だった』

 

『あいつがもし、お前の言う事を聞く気があったならーー俺は最初の時点で、あいつにハッキングを止められていた』

 

 ……このこえは……

 

『お前が思うような"機械"は、この世に存在していない。あいつは……機械なんかじゃない。俺達の……大切な仲間だ!!!』

 

『戻ってこい!!!有希!!!!!』

 

 

 ……わたしは……

 

 ……そうだ。もう私はアンドロイドなんかじゃない。

 

 私は負けない。お前なんかに、絶対に!!

 

 

 暗い闇の中で、もがく。もがいて、もがいて、もがきつづける。

 

 あのひとは、わたしを呼んでいる。

 

 あのひとは、わたしを求めている。

 

 (すが)るように、願うように、ただただ手を伸ばしてくる。たとえそれが人ならざるものであったとしても……。

 

 だから、わたしも手を伸ばしたい。

 

 あのひとの手が、わたしに届くように。

 

 必死に手を伸ばす。もがいて、伸ばして、もがいて、また伸ばす。

 

 

「……"ブラックアイオライト"ォォォ!!!」

 

 気高い声が、私の身体全体に響いた。

 

 あのひとの声だ。……行かなければ。

 

 でも、届かない。それどころか、落ちて行っているような気がする。暗い、暗い、闇の底へ。

 

 

 帰りたい

 

 かえりたい

 

 かえり……たい

 

 かえりタイ

 

 カエリタイ

 

 

 

 

 気がつくと、私は座り込んでいた。先程までは暗い海の中に沈んでいるような感じだったけど……。これは、地に足がついたという、事なのかな。

 

 辺りを見回してみる。

 

 見たことの無い場所だ。登るのにかなり時間がかかりそうなくらい急な坂道の前に私は座っている。辺りはとても暗く、月が昇っている。

 

 ………………

 

 ……?

 

 見たことが無い筈なのに。見覚えがある、どことなく懐かしいような雰囲気の場所。

 

 何故?

 

 ……とにかく、登ってみよう。

 

 わたしは立ち上がり、前を向いて歩いて登り始める。

 

 ……やはり、時間がかかりそうだ。

 

 

 

 数分経った。まだまだかかりそうだ。……何故だろう、足が少し重い。

 

 更に数分経った。鼓動が少し早くなってきた。呼吸も、荒い。

 

 更に数分経った。……足が、重い。

 

 まだ、つかない。どこに着くかもわからない坂を、延々と歩き続けている。

 

 ……くる、しい……

 

 

 少し、変わった場所が見える。坂の途中に建物が建っているのか、左側に門がある。

 

 ………………!!

 

 

 "わたし"がいる。……服装はわたしとは違う、"あの制服"だ。それでは、ここは……

 

 

『……こんばんは』

 

 坂を登ってきたわたしに、"わたし"が声を掛けてきた。

 

「……こん、ばんは」

『……私の事は、知っている筈。あなたは、私とは違う"長門有希"という認識でいい?』

「それで、いい」

『……私は"あの日"、この場所で、手を伸ばした。届かなかったけど、"これ"が何かを認識するには良かったと、思っている』

「……」

『……あなたも、頑張って』

 

 

 ……"わたし"は、坂道を登り始めた

 

 

「……待って。ひとつだけ」

『……』

「……わたしは、手に入れるよ。絶対に」

『……』

「……あなたも、頑張って」

 

 

 

 "わたし"は、立ち止まって、こちらに振り向いて、微笑んだ。

 

 ぎこちなくて、拙くて、それでいてとても綺麗な……そんな微笑みを、彼女は見せた。

 

 気がつくと、彼女はいなかった。

 

 

 

   ああ、次は、わたしの番だ。

 

 

 

 私は、"その場所"の中央に立つ。不思議と、どこに立てばいいのか、私はよく理解している。

 

 星の見える暗い空に、私は右腕を伸ばして、ゆっくりと……回す。尋ねるように、願うように。優しく空に手を触れる。

 

 

 

 

 閃光が辺りを包む。眩しすぎて、思わず目をギュッと閉じて顔を覆った。

 

 

 

 

 ああ、これが終わったらわたしは……

 

 

 

 

 "答えは決まりましたか?"

 

 うん。

 

 "では、後は貴方次第です"

 

 わかった。

 

 "それでは……行ってらっしゃい"

 

 

 

 

 そっと、目を開けた。……目の前には、黒く禍々しいオーラを放ち、右目が赤く、左目が黒い歪な瞳の色をした少年が、心配そうに私を見つめている光景があった。

 

 ……茂成だ

 

「……大丈夫か?」

「……うん……ありがとう」

「……良かった。……間に合ったな」

 

「……使命は果たされた筈なのだけど」

「……それなんだが……どうもまだ、終わってないらしいな」

「……えっ」

 

 茂成が上を見上げる。私もつられて上を見上げると、そこにはグニャグニャと人の形を保とうとする瘴気の姿があった。

 

「まさか……まだ生きているなんて」

「……精神的にだが結構長く生きているらしいんだアレ。だから魂レベルで戦闘力が高くて、並大抵の力じゃかたがつかないと」

「……そんな……」

「……だから俺が来たんだ。……休んでな。俺がちゃっちゃとアレを倒してやっからさ」

「……わかった。……一つ、お願いしていい?」

「……なんだ?」

 

「……カッコいい所、見せて」

「……わかった。とびきりカッコいいのを披露してやる」

 

 彼は、空高く飛び上がって行った。

 

 

 思考魔法……わたしの、力。わたしの願いを聞いて。……彼の勇姿を、わたしの瞳に写して……!

 

 

 

『お笑いだな。千葉統括。あれだけ偉ぶってた奴が随分とどうしようもない姿になって……』

 

『うるさい!!貴様の邪魔さえ入らなければあれは完全なる俺の器に……!!』

 

『まぁ、安心して眠れよ。お前が起きる理由はもうない。次期統括はもう立ったし、クーデターは国木田さん達のおかげで成功したし』

 

『……く……!………………まぁいい。もはや貴様でもいい!!俺に器を寄越せ!!!』

 

『断る。お前なんかに渡す器なんてねえよ』

 

 茂成は黒い右腕でその手に持っている剣を一振りして、黒い斬撃を飛ばした。瘴気で人形をなんとか形成している千葉統括は、斬撃を受けて真っ二つに割れてもその場所を元に戻した。

 

『"闇纏 黒羽の剣"』

 

 茂成の剣が、黒い羽ペンのような形になる。

更に背中から黒い翼が生えた。茂成は翼をはためかせ、千葉統括の周りを二周ほどぐるぐると回る。千葉統括は茂成を落とそうと瘴気で形成された拳を振り下ろすが、衝撃波が下の地面をえぐる音がするだけで、茂成には当たらない。

 

 茂成は後ろから剣を振り上げて千葉統括を真っ二つにする。千葉統括は元通りの姿を保つために、瘴気で人型を再び形成する。

 

 しかし、そこで異変が起きた。

 

『……何っ!?』

 

 先程の人型より一回り小さい。……瘴気が、千葉統括の魂が少し削られたような……感じなのだろうか。

 

『……俺の決意は、お前の執念を上回ってる。このままお前は消滅して終わりだ……!!』

 

『……ま、待てっっ!!いっいま見逃してくれたらお前を最高幹部にしてやろう!!だっだから!!』

 

『悪役としての質が昔すぎて寒いっっ!!』

 

 そう言いながら、茂成は千葉統括を真っ二つに切り裂いた。

 

『あが!!……あ……が……』

 

『……くたばれ』

 

 

 

 

『"獄門・菊花・斬撃"』

 

 

 並大抵の実力では何が起こったかわからない程の速さで、菊花の形に千葉統括を切り裂いた茂成は、元の姿に戻り、落下を始めた。千葉統括は跡形もなく消滅したのだった……。

 

 

 呆気ないものだ。……私との戦いで消耗していたなどという言い訳は通用しないだろう。これは紛れもなく、彼の実力なのだから。

 

 

 私は千葉統括の最後を見届けて、落下した茂成の元へと駆け出した。

 

 千葉統括の屋敷は、まるで世界が滅んだかの如く倒壊し、朽ち果てていた。……私を助けるために、皆が頑張ってくれた、という事を表しているようでもあった。

 

「茂成!!」

 

 茂成は屋敷の中庭に横たわっていた。

 

「……有希」

「大丈夫?……とても消耗しているように見える」

「……大丈夫だ、これくらい。……それより、お前は……」

 

 

「……」

 

 

 ああ、そうだったね。

 

 

「……なぁ、有希」

「なぁに?」

「……もし、次に会う時に……俺がお前の事を忘れていたら、どうする?」

「……忘れる予定でもあるの?」

 

 むすっ

 

「……いや、そんな予定はないよ。聞いてみただけだ」

「……なるほど」

 

「……あなたが私の事を忘れたら……私は何がなんでも思い出させる。安心して」

「……そうか。……ありがとう」

 

 

 途端に、身体が軽くなった。……浮いたというよりは、身体が別の物に変わるような……

 

「……怖いか?」

「……怖くないよ。茂成がいるから」

「……フッ」

 

「……お休み。有希」

「……うん」

 

 おやすみ。茂成……。

 

 

 

 

 今だから、聞いてみたい。

 

 

 わたしの声、わたしの笑顔……

 

 

 わたしを形作る全て……

 

 

 あなたはどれくらい好きだった?

 

 

 答えは聞かなくてもわかる。

 

 

 でも、だからこそ確かめたい。

 

 

 わたし達の想いが、途切れる事なく

 

 

 永遠に、続いて欲しいから……。

 

 

 

 

 また、会おうね……

 

 

 

 

 

 

 

 特別連載 "三統抗争編" 長門有希視点 完

 

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