「この子は耐久が優れてるからなー。でも、素早さも捨てがたいし……うーん……」
「おーい、背中乗りながらゲームやんなよ。落ちるぞ」
学校への登校中。ウォーグルにいつものように注意を受けてしまう。いくら飛んでいるとはいえ、20分程度は時間がかかるのだ。だから、僕は極力無駄な時間をさけようとしてしまう。
「まったく、一体何回言えばわかるんだか……」
「それはこっちのセリフだよ。時間の有効活用だと何度言えば」
「ゲームに割くこと自体有効と言えるのか?他にほら、あるだろ?色々……」
「例えば?」
「た、例えば、ほら……そ、その、お、お、俺としゃ、しゃべ……」
「? なんて言った?」
「な、なんでもねぇよ!」
「あ、わかった!」
「え? ……え!?」
僕の閃きになぜかウォーグルはビックリしていたけど、よくわからないしどうでもいいから気にしないことにした。
「あれでしょ?記憶問題暗記しろとかでしょ?大丈夫だよ、僕やらなくても出来る子だし」
「も、もうそれでいい……。てか、その言い方なんか気に障るな」
「ごめんごめん。まあ、勉強できる代わりに運動できないからプラマイゼロっしょ」
「まあそれもそうだな。……はぁ、俺がレイとまともに話せる日は来ないのか……」
「ん?」
「い、いや、なんでもねぇ!なんでもねぇから!!」
「な、何いきなりキレてんの?」
怖いわー。最近のキレやすい若者怖いわー。ウォーグルなんかに襲われたら即死だわー。
「よーっす、レイ、ウォーグル!」
僕がウォーグルに震えていると、後ろから元気な青年の声が聞こえた。
その声の主は僕の友達の水上海斗だ。
「おはよー海斗。それとゼブライカも」
「ああ、おはよう」
海斗のパートナーであるゼブライカにも挨拶をする。今日も海斗はゼブライカの背中に乗って登校していた。
ウォーグルはゼブライカに合わせて速度と位置を整えた。
「レイくんたちとは今年も同じクラスだったよな。カイトは知っての通り大変な奴だけど、よろしくな」
「大丈夫大丈夫。それよりゼブライカも大変だよね。毎日毎日海斗と一緒で」
「ま、まあ苦労はしてるが……。でも、いいんだ。こんなんでも大切なトレーナーだから」
ゼブライカは少し恥ずかしそうに笑いながらもそう言った。海斗はとにかく行動力があってゼブライカはそれに振り回されっぱなしだけど、2人の愛称は抜群ということは一目瞭然だ。
「かぁー!クールな顔して朝から良いこと言うなあ!さすがオレの良きパートナー!」
「黙れなすび」
「急に冷たい!え、てかなすび!?え、どゆこと!?」
海斗は朝から騒がしかった。
ゼブライカはうろたえている海斗を無視してわがパートナーウォーグルと話していた。……ゲームしよ。
「それにしてもゼブライカは素直だな。見た目は全然素直じゃなさそうなのに……」
「お、おい、それはさすがに失礼じゃないか?まあ、たしかに最初は素直じゃなかったが……。自分の気持ちをはっきり伝えるのは、まあ、恥ずかしくはあるけど、でも、気持ちもスッキリしていいもんだぞ?」
「自分の気持ちって……」
「カイトのことが『好き』ってことかな」
「す、すすすす好き!?」
「ああ。って、なに想像してんだ?あくまでパートナー同士との関係という意味で……。もしかして、良からぬ想像でも……?」
「そ、そそ、そんなわけないだろ!?で、でも、そういう意味だとしてもす、好きだなんてなあ……」
「ウォーグルも好きなんじゃないのか、レイくんのこと」
「た、確かにゼブライカの言う意味としてはそうだけど……。で、でも、俺には無理だ、素直になるなんて……。それにレイが俺のこと好きじゃなかったら……」
「へぇ、意外と臆病なんだな」
「う、うるせぇ!」
「でも、お前のことを好きとはっきり言うやつが近くにいるじゃないか」
「え?ああ、ニンフィアのことか……。あれはなぁ、なんか違うじゃないか……。そういえば今日はカナデもニンフィアもいないんだな」
「明日の入学式での吹奏楽部の練習で早めに学校に行ってるらしいぞ」
「ああ、なるほどな。はぁ、確かにあいつは片想いで俺のことを好きって言ってくるな。これじゃ本当に俺が臆病みたいじゃないか……」
「……まあ、時の流れに身を任せるのもいいかもな。あ、おいカイト、レイくん。学校着いたぞ」
ゼブライカの言葉にハッと気づく。ついうっかりゲームに熱中してしまい周りが見えていなかったようだ。
「なすび……。水上だから水ナス繋がり?うーん……」
海斗はまだなすびと呼ばれたことについて一人討論していた。あれはボケとツッコみの兼用と思えばいいのに……。
「時の流れ……?一体どういう……」
「あ、ウォーグルはゼブライカと話してなかったっけ?何話してたの?」
「え!?べ、別に俺達ポケモンならではの会話だよ……!」
「?」
よくわからずゼブライカの方を見ると、少しだけ微笑んですぐに海斗の方へ戻った。
一体何を話していたかはわからないけど、きっと知らない方が良いんだろうと割り切ることにして校舎内へと入っていった。
*
レイを見送った後、俺はリビングへと足を戻す。
「レイ学校行った?」
ちょうど洗い物が終わったのであろうルカリオが聞いてきた。俺はルカリオと視線を合わせるために屈んだ。
「ああ、行ったよ」
「今日はお弁当いらないって言ってたよね?」
「正午ごろに帰ってくるって言ってたじゃないか」
「あ、そうだ!ティッシュちゃんと持ってってたっけ?」
「大丈夫だって。レイは花粉症なわけじゃあるまいし」
ルカリオの相変わらずの過保護に思わず苦笑いしてしまう。そこがルカリオの良いところでもあるんだけどな。
「ルカリオー。お掃除するわよーたぶんね」
「あ、タブンネに呼ばれちゃった。掃除しないと」
「ああ、悪いな。俺も何か手伝うことが出来ればいいんだがな……」
「いいって。ウインディはゆっくり休んでて」
「ごめんな、いつも家事任せっぱなしで」
「いいのいいの。ウインディもいっつもダイケンキの相手してるんだし。この間も顔面からハイドロポンプを……」
「あ、あれは俺が油断してただけでダイケンキが悪いわけじゃ……」
先週の話を蒸し返されて思わず弁解してしまった。あの日は俺が炎タイプということもあって本当に呼吸が出来なくて大変だったな……。
「じゃあ、僕行ってくるね」
そう言ってルカリオはタブンネのもとへと向かった。俺も出来れば協力したいところだが、体の構造的に難しいため、ルカリオの言葉に甘えて風を浴びることに――
「ウインディ、今日も勝負だー!よーし、今日も俺が勝つぞー!!」
はは……俺も仕事が入ったようだ。
呼び出してきたのはもちろんダイケンキ。
早速やる気満々な彼は庭でアシガタナで素振りをしていた。
俺も庭へと足を運ぶ。ここの家は大豪邸だけあってバトルするには申し分ない広さがある。
「あら、バトルするの?後でお洗濯もの干すから早めにね~」
「大丈夫、俺がすぐ勝てば良い話だから!」
ダイケンキは勝つ気も満々だった。
まあ、水タイプのダイケンキと炎タイプの俺じゃ相性差は一目瞭然だ。
そのせいで負けることも多い。
特に最近はダイケンキ自体が強くなってきていて俺は連戦連敗だ。
なんか、「ダイケンキとの遊びに付き合ってるだけ」と言ってるのが負け惜しみに聞こえるのが嫌だなぁ……。あ、別にダイケンキと遊ぶのが嫌ってわけじゃないんだけどな。
「おーい、ウインディやるぞー!」
「わかったよ……」
仕方ない、今回は勝ちに行こう……!
「今日は俺からいかせてもらう!バークアウト!」
「うぐっ!?あれ、いつもは俺に先制させてくれるのに……ついに本気を出してくれたのか!よーし、俺もいつも以上に本気だ!エアスラッシュ!」
ダイケンキのエアスラッシュを紙一重でかわす。さっきのバークアウトで威力低下もしたようだ。あとは水タイプにさえ気を付ければ……!
「ワイルドボルト!」
「来たな!はぁっ!」
俺のワイルドボルトをアシガタナを斜めにもってガードする。
しかし、それでも電気が多少体に伝わるようで持つ手が震えていた。
「ぐぅ……!ハイドロポンプ!」
「!? しんそく!」
ダイケンキはガードしながらハイドロポンプを打ってきた。俺は何とかしんそくで回避する。
「ワイルドボルト!」
「シェルブレード!」
今度はお互いの技が交じり合う。
「ぐあぁ!?」
「うあっ!?」
俺たちの技の威力は互角でお互いが吹き飛ばされる。
さすが、ダイケンキのアシガタナは強力だな……。
だが、ダイケンキはバークアウトとワイルドボルトで弱っているはず。
俺もシェルブレードとワイルドボルトの反動で攻撃は持ってあと1回しか耐えられないだろう。
ダイケンキの残り1つの技はメガホーン。アクアジェットは覚えていない。
ここであの技を出せば勝てる!
「しんそく!」
ダイケンキまで一気に距離を付ける。これで……!」
「ハイドロポンプ……!」
「なっ!?」
ダイケンキは、まるで俺の行動を予測していたかのように……。
「ぐあああああああ!?」
ダイケンキはげきりゅうが発動していたこともあってか、バークアウトによる威力低下をもろともせず。
「ぐはぁ!?」
俺を打ち破った。
俺はハイドロポンプで宙を舞った。まともに受け身を取れるはずもなくそのまま地面にたたきつけられる。
もう身体に力が入らない。俺の負けだ……。
「やったぁ!またウインディに勝ったぞー!」
ダイケンキは傷ついてることも忘れて大はしゃぎしていた。
俺は体をよろよろとさせながらも立ち上がる。
「はは、強いなダイケンキは……」
「ああ!これもいつもウインディが相手してくれてるおかげだよ!」
俺が相手してあげてるから、か……。
「なあ、ダイケンキ。もう俺じゃ駄目な気がするんだ」
「え?駄目ってどういうこと?」
「ダイケンキは俺をもう超えている。もう俺じゃ勝てないよ。だから、俺じゃもう相手は務まらないかと思ってな……」
ダイケンキはそんなこと一言も言っていない。なのに、つい自分を卑下しているようなことを言ってしまった。
しかし、ダイケンキは依然として笑顔だった。
「ううん、そんなことないよ!」
「……本当か?」
「うん!だって俺、ウインディと戦えて楽しいから!勝っても負けても楽しいよ!」
「…………」
ダイケンキは何の悪気もない無邪気な顔でそう言った。
俺と戦えること自体が楽しいということか……。
俺つい嬉しくて微笑んでしまう。
「そっか……。よかった」
「まあ、確かに最近は俺が強くなりすぎて困ってるかもしれないけど!」
「はは、そうだな」
「だったら今度はウインディが俺を抜かせばいいんだよ!」
「え?」
「俺、いっつもウインディみたいに強くなりたいなーって思いながら戦ってたから。だから、今度はウインディが俺を目指せばいいんだよ!そうすればお互いずっと強くなれる!」
「……なるほどな。ああ、そうかも。俺もこの家の最年長として、バトルが2番手だなんて嫌だな」
「よし、その意気その意気!」
そうだ。最近の俺は勝ち負けにこだわりすぎてバトルを楽しむことを忘れていた。これからはダイケンキとのバトルは仕事でも付き合ってあげるわけじゃない。そう言ってるのは弱い自分を慰めていただけ。これからはプライドを捨てて堂々と向き合おう……!
「洗濯もの干すよー。怪我してる部分があったらタブンネに治療してもらってね」
ルカリオが洗濯籠を持ちながらやってきた。俺とダイケンキはいつものようにタブンネに手当てをしてもらった。
また、傷を増やしちゃうのか……。でも、それも悪くないな。