ラスボスはお母さん 作:ラスボスはゴッドウソップ
飛び六胞。
それは四皇カイドウが総督を担う百獣海賊団が、上から大幹部、飛び六胞、真打ち、それ以下と位分けがあるなかで、所謂中間ぐらいの立ち位置にいる幹部六名を指す言葉である。
原作では今一パッとしない強さとそれにしては濃いキャラクター性、一名が裏切り者で、同盟相手である筈のビッグマムに実質二人ほど沈められた事から色々と言われている彼らであるが、まさかその中に自分が加わる事になるとは夢にも思いはしかなかった。
「ひゅー!最高だぜルタ様!」
「いつも俺たちゃ笑っちゃいるが!心の底から笑ったのは久しぶりだ!」
「RUTA!RUTA!RUTA!」
「あんたの部下にしてくれー!」
「一生ついて行くぜ!」
「歌声も素敵だ!」
「ありがとうよー!お姫様!」
「ブハハハ!まさか飛び六胞に入って物の数分でプレジャーズ達を虜にしちまうとは流石だぜ、ルタ!もしかしたらお前にもあるんじゃねぇか覇王の素質?ま、あったとしても美しさは俺には敵わないんだろうけどよ!」
……やばい。楽しすぎる。
美味い飯を食って、歌って踊って、手放しに称賛されるこの現状……私からしたら猛毒以外の何物でもない。
「しっかし、お前のセルセルの実!クッソチート過ぎて一周回って笑いが込み上げて来るぜ!お前の地頭も相当だが、ベガパンクみたいなやつがその実を食ったと考えると、怖くて怖くて、夜も眠れねぇ!」
実力主義の百獣で、ほぼ戦闘経験のない能力頼りの小娘が一人……分不相応な地位を受けて馴染める訳もなく、きっと初心を忘れぬままカイドウに刃を向けられるのだと思っていたが、もう私の刃は完全にナマクラと化してしまった。
……もう一生このままでもいいんじゃなかろうか。
そんな事を本気で考える。
「ルター!」
だが、楽しい時間と言うのはいつまでも続かない物で、アンコールの嵐の中、確かに聞こえるパパの声。
「くそ、またアイツは変な事に巻き込まれてー!」
目を凝らすと……こちらに腕を伸ばそうとするルフィの姿が。
はぁぁぁ…………まぁ仕方ないよね。
「おう?どうしたルタ、何かあったか?」
私はルフィが捕まえやすいように舞台の先端に立つ。
居心地は良かったが、百獣海賊団は間違いなく悪寄りの海賊で、正真正銘、この国の人達を長らく苦しめてきた諸悪の根源。
彼らの性格からして、平和的解決などという生ぬるい話でこの全面戦争が終結するわけもなく……まぁ短い間だったけど私に自由をくれてありがとうございました。
「えっ!?」
私がグルグルとルフィの腕に巻き取られる様を、目が飛び出るんじゃないかというぐらいの驚き顔で見つめるクイーン。
「ちょっま!」
彼は咄嗟に私を掴もうと手を伸ばすのだが、それよりもルフィの方が早く動いた。
「……助けて」
何か、言わないといけない気がしてそう呟く。
その時、稲妻のようにクイーンの脳内にはある一言が駆け巡った。
――おい、クイーン!間違ってもこいつを盗まれるようなヘボするんじゃねぇぞ!――
ルタの有用性。そのカイドウに似通った死生観。
いくら能力が高くてもいきなり飛び六胞に入れるなんて事は本当はあり得ないことで元飛び六胞と大幹部である自分を護衛につける……つまり彼女はカイドウのお気に入りであった。
(これはヤベェ。カイドウさんに殺される)
百獣一のIQを誇る天才は瞬時にその答えにたどり着く。
だから彼は声を大にしてこう叫ぶのだ。
「当たり前だぁぁぁー!」
「「「うぉおおおおお!!!!」」」
鬼ヶ島全体が振動する。
クイーンの叫びに同調したのは、やはりプレジャーズ達であり、彼らは自らを救ってくれた新しい主のため、剣を振り上げてルフィへと殺気をぶつける。
「うお?何だ!?」
しかしルフィは自分の娘が敵に捕まっていると思って助けただけだ。
こんな家族を奪われたような憎しみの目を向けられる云われはない。
だから戸惑って、ついその原因と思われる実の娘へと問い掛けた。
「ルタ、何かしたのか?」
「病気になってたからみんな助けてあげた!」
「そうか。それは偉いな……うん?なら何でこんなに怒ってんだ?」
「さぁ?ルタぁ分かんない!」
「何かお前、ちょっと幼くなってないか?」
ルフィの指摘であるが、ルタはこの時、全くふざけているつもりなどは微塵もなかった。
ならば何故、このような幼稚な喋り方になるのか。
それは後に分かることだが、使用者の頭の出来次第では森羅万象を作り替えることも出来る(クイーン談)セルセルの実には弱点が二つあった。
一つは云わずもながら、海に嫌われているということ。
全ての能力者に例外なく備わっているそれは、例え転生特典という異物であろうとも例外ではない。
しかしあまりにも強力過ぎる力には二つ目、ホビホビの実の能力者でいう肉体年齢がストップするというデメリットが存在するようにセルセルにもそれがあった。
――能力を使い過ぎると一時的にアホになる。
単純なようで実に致命的。
覚醒により能力の拡張の術を得たルタは今回の治療で、キャパを大幅に越えた為、只今6歳児ほどまでIQが下がっていたのだ。
「うぅぅ…!」(ポンッ)
「お、おい!?大丈夫か!?元に戻っちまったぞ!」
「ずっと大人になってるの辛い……ダルいよう。パパ……もう帰ろうよぉ~!」
「パパ!!?」
「あ、ゾロ!?いや、違ッ……くねぇ!そうだ、ルタは俺の娘だ!」
「はぁぁ!?いつの間に出来たガキだよ!?」
「それは俺も知らん!……だけど、今はそれどころじゃねぇんだ!何かルタの様子がおかしい!早いとこチョッパーに診てもらわねぇと!」
本人がこれの為、無数の地雷が連鎖爆発を起こしているのに残念ながら気づけない。
「待ちやがれ麦わら!!!!お前らー!何としても俺らのルタ姫を連れ戻すんだぁぁぁ!」
「うぇ~?何か身体中が痛いぃ、筋肉痛?」
何か凄いことになっていた。
数時間後に気が付いた彼女はそう語る。
「懸賞金はどれぐらいになりそうだ?」
「飛び六胞であるという点だけでも初手で5000万ベリーは固いだろう」
「あんな無害そうな少女が……そんなに」
「油断するな。あんななりでも中身は何を考えているか分かったものではない。下手をしたら一億……いや、最悪の世代を彷彿とさせるような、それ以上の脅威になるかもしれないな」