ラスボスはお母さん 作:ラスボスはゴッドウソップ
エレジア編 白昼夢
刺されたのは右胸だった。
致命傷だが、心臓をやられた訳ではない。
色々と思う所はありつつも、6年間も家族同然の間柄として共に育ったウタちゃんに刺されたと言うのは、かなりショックだったが……まだ、死ぬわけにはいかない。
だから傷を治そうと能力を発動させようとして……上手くいかなかった。
「あ、え…………?」
何だか全身の力が抜けたようで、そのまま地面に倒れてしまう。
「ま、……さか。これ、て」
「海楼石って言うんだよ。これに触れると能力者は力が出なくなるの」
「ぁう?なん、て……」
「……やっぱりルタは耳が聞こえなくなってるんだね」
何を思ったか、ウタちゃんは倒れる私を抱き上げて……ナイフを引き抜いた。
すると、どうだろう。全身に活力が戻ったように謎のダルさが消える。
だから私はセルセルの能力で体を癒し―――「カフッ」それを見計らったかのようにウタちゃんはまた私の右胸を刺した。
「今度は聞こえるかな?」
「え、ハ……」
「大丈夫……大丈夫だよ。ちゃんとルタも新時代に連れていってあげるからね。赤髪海賊団の皆とは違って……私は貴方を絶対に見捨てたりはしないから」
耳は聞こえている筈なのに……何を言ってるのか、本当に意味が分からなかった。
実の娘を二度も刺しておいて見捨てない?大丈夫?能力者が海楼石のナイフで刺されたらどうなるか知らない訳でもないだろうに……このままでは死んでしまうではないか。
「お姉…………お母さん。お願い、だから……これ、抜いて」
「ごめんね。それはダメなの……でも大丈夫、大丈夫だから」
ドクドクと血は流れ、目が霞み始めてきた。
抱きしめられているのに寒くて、寒くて堪らない。
今のウタちゃんが言う新時代とは……ウタワールドのことではないのだろうか。
この時、初めて私はウタちゃんが完全に壊れていたことを理解したのかもしれない。
いや、壊れたんじゃなくて私が壊したのか。
……せめて、死ぬならウタちゃんの記憶だけでも。
それでも記憶を消そうとしたのは、多分彼女を歪めてしまった罪の意識からだとか、優しい彼女に戻って欲しかったからではなかったと思う。
ただ十年近く願い続けていた妄念による無意識。これが一番近い。だって、その時私がウタちゃんに抱いていた感情は……恐怖以外の何物でもなかったのだから。
私はなんとか震える唇を動かして、ぼう太を呼ぼうとする。
「おい早くしねぇと、ゼファーの野郎がここに!――――何やってんだテメェ!!!!!」
しかしそれより先に飛び込んできたのはバギーで。
「……何だ。まだ"起きている人"がいたんだ」
冷めた目をしたウタちゃんの言葉には私ですら引きつった悲鳴を漏らした。
「おうおうおう!噂名高いウタ様とやら!!そいつとは別に付き合いが長いって訳じゃねぇし、何の恩も義理もねぇが……この俺様の前で殺そうとするとは随分とハデなことくれるじゃねぇか!」
「……なに?どうせ貴方も海賊なんでしょ」
「うちじゃ宝の為なら略奪や殺しもするが、何も持ってねぇガキを殺すほど落ちぶれちゃあいねぇんだよ!」
食らえ!バラバラ砲!
「な、きゃぁ!?」
バギーが飛ばした腕は軽くウタちゃんを吹き飛ばし、そして私を回収してバギーの元へと帰った。
「――と、勢いで助けたはいいものの、どう見ても虫の息。生憎今回俺は船医を連れてきてねぇ……シャンクスの船に行けばギリギリ間に合うかぁ?」
「って…………このナイフを抜い、て」
「バカか!こういうのは抜いたらダメなやつなんだよ!」
「……もう、ぃ!」
「おいバカ止めッ!?」
私は無理やりナイフを抜いて、そしてセルセルの能力で何とか傷をふさいだ。
失った血は直ぐには戻せない為、少しリカバリーが必要だが、さっきよりは大分楽になった。
「成る程……海楼石のナイフか。酷いことしやがる」
血のベットリとついたナイフを拾い上げ、嫌悪するバギー。
私はその間にぼう太を側に呼び寄せ、そしてさっきの衝撃で気絶してしまったウタちゃんの前に立つ。
ごくり。と唾を飲んだ。
これで、これで、やっと解放される。
「ぼう太。お願い」
ゆっくりとウタちゃんの額にぼう太の嘴を押し付け、軽く噛ませる。そしてぼう太を引き上げると……そこには生まれたばかりの私を号泣しながら抱きしめるウタちゃんのフィルムがあった。
そしてそれから始まる、初めて私が寝返りした時の喜びや、立った時の喜び、自我が芽生え始めて姉として接しなくてはならなくなった悲しみ等々……実に6年分の記憶が詰まっていた。
「ぼう太、飲み込んで」
ゴクリと飲み込んだのを見て、あぁ……終わった。
海楼石に触れた時のように全身から力が抜けた。
これで……もういいや。
あとは助けてくれたバギーを船に送り届けて…………兎に角、気が済むまで眠りたい。
目的を達成して今分かったが、別に私は死にたがっていた訳ではなかったようだ。
ただ掲げた目標が高過ぎて、死に逃げようとしていただけ。
……そうだ。バギーの船に乗せて貰えないかな?
何だか急に思考が軽くなったような気がする。
まだ問題ごとは残っているのに……我ながら現金な性格だ。
「よし!問題も済んだようだし。ハデにトンズラこくぜ!」
うん!
ONE PIECE FILM RED ルタの章~完~
「……これがルタの夢なんだね」
え?
「痛たた……おい!シャンクス!何だって、てめぇが!」
「ウタを傷つけるやつは誰であろうと俺は許さない」
何でバギーがシャンクスに取り押さえられ……。
あれ?私はウタちゃんに抱きしめられたままで、何で治した筈の傷が……ナイフがそのまま……でも血が全然出てない……何というかあんまり刺されていないような……浅い?
「私、ウタウタの能力を頑張って鍛えてね。その人が一番幸せだと思う
ルタは……私からルタに関する記憶を消して自由になりたいってのが夢なんだね。
あと、私が救いようがないほど狂っていて、後腐れなく別れたいってのもあるのかな?」
白昼夢のような出来事に混乱していると、ウタちゃんが答えを教えてくれた。
一体いつから、その新能力に取り込まれていたかは知らないが、言葉通りに現状を理解しようと言うならこのシャンクスや劇場版のラスボス達はウタちゃんの従順な兵士となっているわけだ。
「そっか。薄々感じてたけど、やっぱりルタは私のことが嫌いなんだね」
「いや、違っ」
「ううん。いいの、嘘はつかなくて。だって、こんな頭のおかしいお母さん、私だって願い下げだもん」
そこでウタちゃんは私が怪我しないようにと、軽く押し付けているだけだった海楼石入りのナイフを放り投げる。
「ほら、良いよ」
「えっ?」
「私の記憶を消して、ルタは自由になるといいよ」
「で、でも…………いいの?」
「うん、勿論!私がルタを苦しめている原因になっているって言うなら、それでルタが救われるっていうなら、私はルタの事を忘れても構わないよ」
…………それなら。いやでも。
さっきの事もあって躊躇してしまうのは無理もなかった。
そもそも鼓膜を潰した私が何故ウタワールドに取り込まれたのか、いつからウタワールドの出来事だったのか。ウタちゃんの新能力……何か海賊無双とかで出てくる催眠アイテムみたいな力だが、それにしたって、こうも劇場版のキャラ達を都合良く集められるものだろうか。
ここはまだウタワールドの世界で、劇場版のキャラ達は私の記憶を元にウタちゃんが作り出した……と言われたほうがまだ信じられる。
だからこの行動にも裏があるんじゃないかと…………私は迷った。
このまま言う通り、ウタちゃんの記憶を消してしまうべきなのか。
それとも一旦逃げて、計画を建て直すか。
それとも……。
それとも……
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自殺する
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海楼石のナイフでウタちゃんを刺す
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ウタちゃんにハグする
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やっぱり自殺する
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逃げてみる
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助けて……する
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バギーに期待の眼差しを向ける
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ウタちゃんと会話を試みる
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ぼう太で記憶を抹消する→ウタちゃん
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ぼう太で記憶を抹消する→ルタ