転生してもトリプルバトルがしたい 作:令和トリプル(エアプ)勢
チャールズという男を知っているだろうか。
ホドモエシティの名物「恋する男」であり、新しいポケモンバトルの形式を考案した男だ。ポケットモンスターブラックではローテーションバトル、ポケットモンスターホワイトではトリプルバトルを紹介し、一大ムーブメントを巻き起こした超のつくほどの有名人だ。ポケモンバトルを嗜む人なら知らない人はいないだろうと私は思っているのだけれど、過言だろうか。
どちらのルールも極めて面白い。普段のシングルバトルでは中々活躍できないポケモンが活躍したり、新しいコンボが生まれたりして、とても楽しい。私もかつてはそれなりに嗜んだものだ。
かつて、と言った。なぜ、今も、ではないのか。トリプルバトルが第六世代であるオメガルビー・アルファサファイアを最後に無くなってしまったからか。いや、そうではない。そもそも私は令和トリプル勢*1なのだから、無くなる無くならないは問題ではない。ならばなぜか。
単純なことだ。私は死んだ。一度死んで、転生した。手元にソフトがなければ出来るわけがない。それだけのことだ。
であれば、トリプルバトルなんて関係ないのではないか。ポケットモンスターというゲームソフトが存在しない世界に転生した私に、もうトリプルバトルは関係なくなったのではないか。
そんなわけがない。
だって私が転生したのは、ポケモンの世界だったのだから。
転生したことを知った私は、ポケモンたちと旅に出た。各地のジムを巡ってバッジを集め、ポケモンリーグに挑んだ。さすがに現実の四天王・チャンピオンともなるとゲームのようにはいかず、あえなく敗北を喫した。そうして旅を終えた私は思った。
トリプルバトル、一度もしてねえな、と。
シングルバトルは頻繁にやった。毎日のようにやった。ダブルバトルもたびたびやった。なんだかんだダブルバトルを好むトレーナーも多いし、一対二の形式で戦うこともそこそこあった。旅の途中で出会った見知らぬ人と即席のタッグを組んで二対二をすることもあった。
しかしトリプルバトルは違う。三体のポケモンを同時に扱うには相応の実力と修錬が必要になる。二人対二人までなら即席でも連携出来るけど、三人対三人なら連携するよりも個々に戦った方がいい。それではトリプルではない。
三体のポケモンが入り乱れて戦うのが見てみたい。三体のポケモンでこそ真価を発揮するコンボが見たい。ダブルからトリプルに変わるだけでここまで複雑に、けれどもとても面白くなるんだぞと見せつけたい。何より、私はトリプルバトルがやりたい。ただただやりたい。
でもトリプルバトルは普及していない。私のいる地方にはそもそもそんな概念が無い。だから出来ない。どうしようもない。
それならば。
私が広めればいいじゃないか。
私が率先してトリプルバトルをやって、トリプルバトルの魅力を見せつけてやればいいじゃないか。
『さぁ、始まりました、シンオウ個人協賛リーグ! 第一試合はなんとナナカマド博士協賛です!』
ポケモンリーグに響き渡る歓声。皆が皆、今日のポケモンバトルを楽しみに盛り上がっている。
少し前まで、ポケモンリーグは8つのバッジを集めたトレーナーたちがポケモンマスターの称号を目指してチャンピオンに挑むだけのものだった。気風が変わったのは、ガラルのジムチャレンジやチャンピオンカップが風の噂に流れてきた時だ。興行としてのポケモンバトル。もちろん強さが第一ではあるが、魅せるポケモンバトルというものがあるのだとポケモンリーグは知ることになった。
最初はガラルの真似だった。ポケモンバトルを本業としない層をターゲットに、ジムチャレンジを真似た催しを始めた。それは一定の成功を収めたが、ガラルほどの盛り上がりは無かった。なぜならダイマックスがないからだ。ガラルと比べると少々物足りない。
試行錯誤を繰り返した。ポケモンリーグは迷走していると批判を浴びながらも新しい試みに挑み続けた。その末に生まれたのが、個人協賛リーグ。一定の協賛金を出すことにより、ポケモンリーグという大きな会場で大会を行えるというもの。出場選手を公募するか指定するか、人数はどうするか、ルールはどうするか等もある程度決められ、何ならすべてリーグ任せにした上で名前だけ出すことも出来る。これが想像以上の人気になった。
もともと戦いに餓えていたトレーナーが多く、彼らはポケモンリーグの舞台で戦う機会を増やせることに賛同した。ポケモンバトルが見たい人たちにとってはポケモンバトルを見る機会が増えることに歓迎した。特定の選手の試合が見たい人、1対1の軽い試合が見たい人、6対6のがっつりとした試合が見たい人、ただただ自社の名前の露出を望む人など、多くの人が協賛リーグを開催した。
そうした盛り上がりは、私にとっては好都合だった。
『ナナカマド博士主催リーグ、チャンピオンバトルへの挑戦権獲得マッチ、優勝はタクヤ選手です! タクヤ選手には来週、チャンピオンのシロナと戦う権利が与えられます! 会場の皆様も中継をご覧の皆様も、是非、来週は会場で応援しにきましょう! 改めまして参加してくれた16人の将来有望なポケモントレーナーと主催のナナカマド博士に大きな拍手をお願いします!』
この日の個人協賛リーグの一つは、ナナカマド博士主催の『新人トレーナー1on1』。今月にトレーナーデビューしたばかりの若い子たちが相棒のポケモン1体で挑むトーナメント形式の大会だ。初めてで拙いところはあるもののその新鮮さから好評を博している。これで第二十一回目というのだから、すごいの一言に尽きる。優勝賞品はチャンピオンと戦える権利なのだから、若いトレーナーたちも途轍もない熱意をもって挑んでいる。
そして今日の協賛リーグはもう一つあった。
『さてさてなんとなんと今日は豪華二本立て! もう一つ協賛バトルが入っています! こちらはエキシビションマッチ、一対一の一回勝負です!』
実況の声を聞いて深呼吸一つ。手にしたモンスターボールを少し強く握りしめる。大丈夫。何度も練習してきた。この子たちなら出来るはず。
私の今回の相手は彼女に依頼した。彼女はこのシンオウでおそらく唯一のトリプルバトル理解者だ。彼女ならきっと申し分の無いコンビネーションを見せてくれるはず。彼女となら
そして何より、私が彼女にリベンジしたい。
リーグの舞台へ歩みを進める。大きな歓声はきっと私に対してのものじゃない。この盛り上がりは私に対してのものじゃない。私はただの引き立て役。きっと彼女以外のみんながそう思っている。
だったら覆して魅せよう。これこそがあのチャールズが提唱した新しいポケモンバトル。これこそがトリプルバトル。
『――バトル開始!!』
「まずはこれね。ミロカロス、ミカルゲ、ルカリオ!」
「いくよ、ペリッパー、ブルンゲル、トリトドン!」
私と彼女がポケモンを繰り出した。三対三。たぶんこのシンオウ地方で初めてのトリプルバトル。熱くなりそうな頭はペリッパーが降らせてくれた雨が冷やしてくれる。これなら冷静に戦える。
大事なことが一つある。ポケットモンスターはゲームだ。能力値がありレベルがありターン制がある。しかしこの世界は現実だ。私の知識は所詮指標でしかない。
「ミカルゲはバークアウト、ルカリオは
「ペリッパーはおいかぜしてぼうふう! ブルンゲルしおふき、トリトドンはだくりゅうで流しちゃって!」
お互いの指示が飛び交う。ブルンゲルとトリトドンから放たれる水流は、ペリッパーが巻き起こした暴風に煽られて轟轟と音を立て、三体のポケモンに襲いかかる。自然災害の体現、逃げ場など無いように見える大海嘯に、しかしルカリオは猛然と突き進み、掻い潜ってブルンゲルに拳を突き出す。一方のミロカロスとミカルゲも、ミロカロスが展開した壁に守られて、大したダメージにはならなかった。
これが現実のポケモンバトルである。すばやさに合わせて順番に技が処理されるなんてことはなく、同時に技を繰り出せる。あたかも二種の誓いのように、しおふきとだくりゅうは同時に放たれた。一方でルカリオは『みきり』と『バレットパンチ』を同時に繰り出したように、一度に繰り出せる技が一つとは限らない。私のペリッパーだって『おいかぜ』と『ぼうふう』を同時に使った。これこそがゲームのルールに縛られないポケモンバトル。この世界でのトリプルバトル。
ああ、楽しい。
「ミロカロス、どくどく! ミカルゲはさらに重ねて、ルカリオはそのままトリトドンにインファイト!」
「落ち着いてトリトドンは押し流して! ブルンゲル、なみのりに切り替えて! とにかくルカリオを押し流して! ペリッパー、場作りありがと、戻って! いくよ、ドクロッグ!」
間一髪、ペリッパーが受けそうになった毒の濁流をすべてドクロッグが受け止める。ブルンゲルとトリトドンが協力してルカリオを押し流してインファイトを防ぐも、ミカルゲのバークアウトのダメージが嵩んで少し苦しそうな顔をする。こころなしか水流の威力も落ちているように見えるのはバークアウトの追加効果か。生半可なものなら気合いでなんとかなる私の子たちだけれど、そうはいかないとは、さすがチャンピオンのミカルゲである。
「ドクロッグ、
右手で銃の形のサインを出してドクロッグに指示する。一瞬トリトドンに目配せをすれば、変わらずだくりゅうでルカリオを押しとどめてくれている。一瞬こっちを見たのを確認して、バンと手銃を打つ仕草をする。
瞬間、ドクロッグがミロカロスの懐に潜り込んだ。ねこだましにより一瞬ミロカロスをひるませる。僅か一瞬とはいえ、ひるんだ隙は逃さない。
「受け止めてハイドロポンプ!」
ダストシュートをモロに喰らったミロカロスは、しかし平然としてハイドロポンプをドクロッグにぶつける。不意を打たれたドクロッグはそのまま押し流されて壁に力強く叩きつけられた。
「シャドーボール!」
立ち上がろうとした瞬間にドクロッグに更なる追撃が襲いかかる。これまでバークアウトを繰り返していたミカルゲがシャドーボールで追い打ちをかけてきた。
これはトリプルバトル、シングルバトルを三本同時にやっているわけではない。一体に対して二体で仕掛けるのは間違っていないし、むしろ当然の選択でもある。
猛攻に次ぐ猛攻、あまりにも早い展開。落ち着かせない怒濤の勢いに観客たちの大歓声が止まらない。皆が皆、チャンピオンシロナの仕掛けた猛攻に釘付けになっている。
だからこそ、これが成立する。
『ドクロッグ、戦闘不能! なんという猛攻でしょう! シロナ選手のミカルゲとミロカロスに、ドクロッグ、手も足も出ない!』
「……そういうこと」
倒れていくドクロッグを後目に戦況を把握したシロナは、やってくれたわねと言わんばかりに私を見つめてきた。彼女が目にしたのは、トリトドンのだいちのちからに不意を打たれて倒れたルカリオの姿。
『な、な、なんということでしょう! ドクロッグがやられる瞬間に、シロナ選手のルカリオも倒れていた! ルカリオ、戦闘不能です!』
ドクロッグが一対二になるのなら、当然ルカリオだってそうなる。指示を受けずとも『みきり』で『なみのり』と『だくりゅう』を掻い潜ってきたのには冷やっとしたが、『だいちのちから』までは予測できなかったようだ。意識外からの攻撃がルカリオにクリーンヒットし、そのままダウン。ドクロッグを巡る猛攻の裏で行われていた顛末である。
シロナや観客がこれを知るのは試合後、VTRで見返したときだろう。彼女たちが分かるのは、いつの間にかルカリオが倒れていたこと。そして私がそれを成し遂げたこと。
たとえシロナがチャンピオンとしてシンオウの頂点に君臨しようとも、トリプルバトルという土俵ではまだまだ初心者なのである。そう簡単に勝たせるわけにはいかない。
と粋がってみたはいいものの、内心ではチャンピオンのポテンシャルにたじたじである。
私のドクロッグ、『かんそうはだ』だよ? なんでハイドロポンプがクリーンヒットしているの? 壁にぶつけた衝撃までは無効化出来ないって? なんなの、その理屈。それにミカルゲのシャドーボール、そんなに高威力なの?
それにルカリオ、『だいちのちから』に反応しかけてたよね。指示無しで『なみのり』と『だくりゅう』を躱し続けるだけでもやばいのに、渾身の『だいちのちから』を躱されたらどうしようもないよ。
「これはトリプルバトルですから。ドクロッグだけに気を取られていたら、足下を掬われますよ。……ありがと、ドクロッグ。行くよ、ペリッパー」
「ありがとう、ルカリオ。ええ、よく分かったわ。挑戦者の気持ちってこんな感じなのね。ここまで燃える戦いはいつ以来かしら。……
ルカリオをモンスターボールに収めて、続けて繰り出したのはロズレイド。シロナの表情は一転して獰猛なものになっている。試合前に僅かにあったチャンピオンの余裕は無く、バトルジャンキーと言うに相応しい顔だった。
あの、以前シロナさんと戦ったときよりも気迫がすさまじいんですけど……。
●個人協賛リーグ
現実で言うところの競馬の個人協賛。お金を出して協賛できる。有名トレーナーを呼ぶ場合は、当然交渉からやらなければならない。交渉代行も出来るが、その場合、追加費用がかかる上に絶対ではない。
今回は主人公が自身の伝を使いシロナさんと交渉し、許諾を貰った。シロナが提案を受け入れた理由は、新しいポケモンバトルであるトリプルバトルを広めたいという主人公の心意気に賛同したから。
なお、チャンピオンに出場をお願いした分のギャラはすべて主人公持ち。素寒貧。