魔法少女リリカルなのはS.G.   作:月想

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このぐらいの文字数で書いていきたい(願望)


第10話『繋ぐ手、握る拳』

夢を見ていた気がする。

 

夢というより、記憶を辿るような。

 

意識が戻る。

私はどうなったのか。気絶してしまったところまでは覚えている。誰かに捕まった?

...確かめなくては。

 

「っ...?」

 

知らない天井...。

というか、知っている天井の下で眠れたのはどれくらい前だろうか。

 

体を起こす。毛布がかけられている。

私はソファーに寝かされていたらしい。

部屋を見渡すと乱雑に積み重なった資料と、パソコンとモニター。何かしらの研究所だろうか?

 

「...モルモットにでもされるのでしょうか。」

「あら、物騒なことを考えるのね。」

「!」

 

デバイスを手に飛び退く。

白衣を着た女性。見覚えがある。

彼女が私をここに連れてきたのか。

 

「そんなに警戒しないで。せっかく助けてあげたんだから、怪我が治るまで大人しくしてなさい。」

「...」

 

確かに、体が少し楽だ。

傷が少し癒えている。

彼女がやったのだろうか?

 

「大体悪いことをするつもりなら、デバイスなんて取り上げておくに決まってるでしょ?」

「それは...」

 

デバイスを確認する。

...大丈夫、問題なく起動できる。

 

「貴女は...何者ですか。」

「私?私は...天才科学者兼、天才考古学者で、真ちゃんとレンレンの保護者よ♪」

「まこと...つまり、真に頼まれて私を助けたと?」

「いいえ?頼まれてないけど。でも助けた方がいいかなって思っただけよ?」

「...。はぁ。」

 

リーゼはデバイスを下ろし、ため息を吐く。

 

「助けてくれたことには感謝します。ですが、これ以上の干渉は不要です。」

 

そう言うと、部屋の扉に向け歩き出す。

 

「まだ出ちゃダメよ。真ちゃんが起きてないんだし。」

「真は関係ありません。失礼します。」

「せっかちな女はモテないわよ?」

「結構です。」

「そんなにカリカリしてるとすぐに老け」

「知りません。」

 

取り付く島もない。

リーナは少し声音を変えて話し出す。

 

「はぁ。...あなたの経歴は調べたわ。優秀な空戦魔導師さんが急に犯罪者になるなんて、おかしな話よね。」

「...必要なら、珍しい話でもないでしょう。」

「そうかしら?あなたが破壊した工場全てに、取り扱い商品の生産数の大幅な減少と、商品には必要のないはずのパーツを大量に仕入れていることが確認できる。まるで何か...作ってるみたいだと思わない?♪」

「...どこまで知っているのですか。」

「何にも知らないわ。ただデータは嘘を吐かないってだけ。あなたと違ってね。」

 

この人は人を苛つかせるのが好きなのだろうか。

 

「...失礼します。」

 

再度扉に向かって歩き出す。すると。

 

「リーナさん!りーちゃんがいるってほんっ...と...?」

 

扉を勢いよく開き、制服姿の女子が飛び込んでくる。

まーちゃん...。

リーゼは心の中で真を呼ぶ。

しかし自らの願いを振り払うように、真から目を離し外へ向かって歩き始めた。

 

「ま、待ってりーちゃん!ケガしてたんだよ!?休んでなきゃダメだよ!」

「...」

 

真を無視し、リーゼは扉から出ていく。

真は急いで引き留めようとするが

 

「真ちゃん、大丈夫よ。」

「リーナさん...?」

 

リーナは得意そうに胸を張る。

 

「きっと出られないから。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

□◼️1時間後◼️□

 

何故だ。

さっきから同じ道をぐるぐる回っているような?

そこで違う道を進んでみるが、結局同じ道を歩いている。ような気がする。

頭に霞がかかるようだ。

立ち止まるとその感覚もなくなるが。

 

「あの博士の仕業ですか...」

 

自分も魔導師としてはそこそこ優秀なはず。

こういった魔法による認識阻害にもある程度対応できるはずだ。

体が弱っているから?

...いや、あの博士の術式が厄介なのか。

あの余裕な表情。

腹立たしくなるが、天才というのもただの自称ではないということだろう。

 

「面倒な人に捕まりましたね...」

 

...少し方法を考えよう。

リーゼはその場に座り込んだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

そんなリーゼの姿を研究所内の監視カメラが捉えていた。

 

「ね?♪」

「はぇー...すごい。」

 

どういう理屈なのか真にはまったく分からないが、リーゼに何かしら起こっているのは分かった。

同じ道を行ったり来たり。

最初は戻ろうか迷っているのかと思ったが何度も何度も繰り返している姿にどんどん不安感が強くなっていった。

リーナからネタばらしをされて、素直に感心してしまう。

 

「防衛の為っていうなら、普通『来る』方だけ対応しときゃいいと思うけどな。

ま、あたしのことを秘密にする為にも『出ていく』方の対策も万全ってわけだ。」

 

クラレントが事情を説明する。

 

「なるほど...あれ?私は普通に学校に行けたけど?」

 

自分も出られなくなるのでは?と真が疑問を口にする。

 

「真ちゃんは私がOKしてるから大丈夫なの。」

「なるほど。...なるほど?」

「はぁ...秘密だから教えられないってさ。」

「なるほどー。」

 

やっぱりよく分からないが、とりあえずリーナさん次第らしい。

 

「私、りーちゃんを迎えに行ってきます!」

 

真が駆け出す。

しかし、その道をクラレントが遮った。

 

「待てよ。行ってどうするつもりだ?」

「どうするって...話をして戻ってもら」

「お前の話なんてアイツは聞かない。」

 

真の目を見て、真っ直ぐに言い放つ。

 

「聞かないって...」

「お前、一体いつまで戦うのを躊躇うつもりだ?」

「躊躇ってなんか!」

「敵を殴った時も、武器を出そうとした時も。嫌だと思ったろ。あたしにバレないと思ったのか。」

「っ...」

 

真の沈黙を解答とする必要もない。

傷つける度に生じる手の震え。

一体化しているクラレントに伝わらないはずはなかった。

 

「お前は守るって言ったよな?あたしも、リーナも。何かを守る為には何かを捨てるしかない。当たり前だろうが。世界はな、あたしたちに優しく接してくれたりはしない。どこまでも残酷なんだぞ...!」

 

クラレントが耐えるように拳を握る。

 

「レンちゃん...。」

「少なくとも、アイツはそれが分かってる。アイツが、お前の言うように良いヤツだって言うのなら、アイツは何かを守る為に自分を犠牲にしてる。そんなアイツに、半端なお前が何を言う。何ができる。何が響くって言うんだ!」

「私、は...。」

 

私には、何の覚悟もない...?

違う、守るって決めたはずだ。

でも、守る為に傷つけるのは、正しいの?

分からない...誰も傷つけたくない。

誰とでも仲良くしたい。

言葉が交わせるのに、戦うしかないなんて嫌だ。

でも、誰かを傷つけないと、誰も守れない。

あの日。レンちゃんと初めて会った日。

私はあの魔導師さんを倒した。

戦う力がなければ、私は死んでいた。

私とレンちゃんを守ったのは、紛れもなく人を傷つけられる力。

力を持つのはいけないこと?

さっきもそうだ。イズナちゃんとミラちゃんに負けそうになった時、怒りとか憎しみとか、そんな気持ちが急に強くなって...

気づいたら二人を傷つけていた。躊躇いなく拳を振り抜いた。

その感覚は、この手にまだ残ってる。

この怖い力は、正しく使えるものなの?

分からない...分から、ないよ...。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「あらら。体育座りの人が増えちゃった。レンレンが厳しく言うから。」

「うるせぇ。あたしは本当のことを言っただけだ。」

 

「...」

 

分からない。何のために振るえば、力は正しく使えるの?

 

「あら?真ちゃん、あなたの端末向けに何件か着信が来てるみたいよ。ここのシステムで、繋がらないようにはしてるけど。」

「え...?誰から...。」

「アドレス登録は...フェイトってあの執務官の?まさかあなたたち捕まってたんじゃ...!」

「フェイトさん...。」

 

フェイトさんなら、知ってるのかな?

 

「リーナさん。着信、出てもいいですか?」

「え!?でも通話しちゃうとここの場所とかバレちゃうかもだし、相手が執務官とかかなりヤバイというか」

「お願いします。」

 

頭を下げる。聞かなきゃ、私には他に方法がない...

 

「...はぁ。仕方ないわね。ちゃんとお話するのよ?」

「あ、ありがとうございます!」

「子どもに甘くなっちゃうのは仕方のないことね、女ですもの♪」

 

電波阻害が解かれたようで、すぐに端末が鳴動する。

受話するとモニターが出力される。

 

『真ちゃん!?...すごく心配したんだよ?何で何も言わずに出ていってしまったの?執務官の取り調べ中に脱走なんて、逮捕されてもおかしくないのに...』

「ごめんなさい...私...どうしても行かなくちゃいけなくて...」

 

フェイトさんは怒っていたけど、怒りより私のことを心配してくれていたことが強く伝わってきた。

 

『今どこにいるの?危険なんだからすぐに迎えに』

「フェイトさん私、やらないといけないことがあって...」

『やらないといけないこと?』

「はい。だから、フェイトさんに聞きたいことがあって。」

 

フェイトさんは何かを言おうとして、その後少し考えてから、ただ頷いた。

 

「フェイトさんはその、怖いと思ったことはないんですか?自分の力で、誰かを傷つけてしまうことを。」

『...真ちゃんは怖いの?』

「怖いです...何かを守る為に何かを傷つけるのは、仕方のないことなんでしょうか?」

『そうだね...。

私は魔導師だから、どうしても戦わないといけない時がある。

犯罪者の逮捕の為には仕方のないこと。

それが真ちゃんのなりたいって言っていた、執務官の仕事だよ。』

「そう、ですよね...。本当は分かってるんです。話もできない、本当に悪い人が世の中にはいるって。

だけど、誰かとぶつかる度に...目の前の敵が、実は仕方なく、というか...やりたくないことを、大切なものを守る為にしてるのかもしれない。そう思ってしまうんです。

だったら、目の前の人は敵じゃない。

私と同じ、ただ何かを守りたいだけじゃないですか。

そう思ったら私、拳が震えて...」

 

その人を傷つけて、願いを砕いて。

そして誰かの笑顔を奪う。

それでも私の拳は、正義を握れるのだろうか。

 

『...昔ね、私も真ちゃんみたいに優しい子を傷つけてしまったことがあったの。』

「え?フェイトさんが?」

 

優しいフェイトさんがそんなことするのだろうか?

 

『うん。私も大切なものを守りたかった。だからその子を傷つけなくちゃいけなかった。だから私はその子と戦ったの。結果は私の負けだったけどね。』

 

恥ずかしそうにフェイトさんは笑う。

フェイトさんが負けるって、どれだけすごい人なんだろう?

 

『その子はね、私を傷つけたくて戦ったわけじゃない。ただ私と話をしたかったって。そう言ったの。私と友達になりたい。そう言ってくれた。』

「はは...すごい人ですね、その人。」

『うん、私もそう思う。

その子はいつだって自分より他人を優先して、無理をする子なんだけど。最後まで絶対に諦めないの。たとえ傷つけ、傷つけられても。最後には分かり合えることを諦めない。そうやってみんなを守ってるの。』

「諦めずに、守る...」

『真ちゃんはそれが間違ってると思うかな?』

「...思わない、です。」

 

フェイトさんは嬉しそうに頷いて笑う。

 

『真ちゃんはね、少しその子に似てるんだ。だからきっと、真ちゃんにもできるよ。』

「私そんなに強く、なれないですよ...」

『強い弱いじゃない。大切なのは、守る為に何かを傷つけてしまっても、辛さから目を背けないこと。

そして、諦めずに手を伸ばし続けることだと思うな。』

 

辛さを受け止めて、それでも手を伸ばし続ける。

 

「傷つける為じゃない。守る為の、分かり合う為の力。それが私の」

『そう。それが星宮真の、握り締める力。信じる正義だよ。』

 

握り締める、正義...。

 

「ありがとうございます、フェイトさん。私、やってみます。」

『どういたしまして。だけどくれぐれも危険な行動は控えること。危ない時は連絡しないとダメだよ?』

「はい、頑張ります!」

『頑張らなくていいから、ちゃんと連絡すること。』

「はい!」

 

最後にクスリと笑って、フェイトさんは通信を切った。

よし。

やることは決まった。

 

「レンちゃん!」

「...おう。」

 

レンちゃんを真っ直ぐ見つめる。

 

「もう見失わない。拳を握る理由も、振り抜く覚悟も。その先の、手を繋げる未来を諦めたりしない。だから私に力を貸して!」

「...甘ちゃんなのは何も変わってねぇが、覚悟があるだけマシか。仕方ねぇ。相乗りしてやるよ、お前の甘ったれた理想に。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何をしに来たのですか。」

 

座り込むリーゼの元に真は辿り着く。

 

「りーちゃんと話をしに来たよ。」

「話すことなどないと言いました...。貴女に、何ができると言うのですか!」

 

瞬時に真が紅と白の鎧を身に纏う。

 

「分かってる。だから来たんだ。私はりーちゃんとお話したい。何があったのか、何をしたいのか聞きたい。だから。」

 

真が拳を握り、構える。

 

「だから私たち、戦おう。この拳は、握った正義はりーちゃんを守れる。

諦めないって、そう誓ったんだから!」

 

第10話『繋ぐ手、握る拳』




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