古事記にもそう書いてある。
「ばーん!」
パシャッ!
「わっ、わっ!やめ、レンちゃんやめて~!」
「...」
何故こんなことに。
何故目の前の幼なじみはチビっ子に水鉄砲をかけられているのだろう。
...というか、このチビっ子は誰なのだろうか。
というか、何故私たちは一緒にお風呂に入っているのだろうか。
二人仲良く気絶した後。
ボロボロの姿をお互いに見て、思わず笑ってしまい。
博士に話をする前に、まずはお風呂に入って来いと言われた。
...それだけである。
回想が短すぎる。
考察の余地が欲しい。
何故一緒に入ることになるのか。
別々ではダメなのか。
さっきまで喧嘩どころか下手すれば殺し合いのレベルな戦闘をした仲である。
緩急が余りにも付きすぎている。
別に幼い頃に一緒にお風呂くらい入ったことはある。
水鉄砲とか、アヒルとか、色々なおもちゃで遊んだと思う。
あの頃のまーちゃんも可愛かった。
...こほん。
だが今は違う。全然違う。
具体的には幼なじみの体格とか。
話をした感じや、今まさにチビっ子に遊ばれているところを見るに
中身はさほど変わっていない。
きっと人懐っこく、みんなに笑顔を振り撒いているのだろう。罪な子。
問題は体つきだ。
何が、とは言わないが私もそこそこあるとは思っている。
少なくとも先輩よりは。
だが幼なじみのそれは私より大きく見える。
何だろう、性格とかその辺のギャップで見た目より存在感がすごい。
気になる。
もうちょっと隠して欲しい。
先程までの彼女は髪を結ってポニーにしていたが、今はお風呂なので髪は下ろしている。
大人っぽい気がする。やっぱりギャップがすごい。
気になる。すごく気になる。
もう少しじっとしていて欲しい。
「りーちゃん?どうしたの?」
「何でも、ありません...」
ぶくぶく...。
キョトンとしおってからに。
私だけなのか、こんなに気にしているのは。
何で自然に接してくるのか。
少しくらい恥じらって欲しい。
恥ずかしがっているまーちゃんはすごく珍しいので、是非見たい。
...ダメだ、思考までおかしくなり始めている。
無だ、無にならないと。
少しでも温まって、風呂上がりの顔が赤くても言い訳できるようにしないと。
シリアスで可愛いリーゼに戻れなくなってしまう。
...あ、ゆれてる。
――――――――――――――――――――――――
「あら、レンレンったら。口に牛乳付いてるわよ~?」
「やめろー」
口を拭かれてるレンちゃん、完全に年相応の子どもだなぁ。親子みたい。
さっきも水鉄砲楽しそうだったし、背伸びしてるようで感性はまだ子どもだったりするのかな?
「...真、彼女たちのことを話してもらえませんか?」
「りーちゃん、呼び捨てなんて珍しいね。」
「め、珍しいも何も会ったのは久しぶりでしょう。まーちゃん呼びは人前では卒業です。」
えー、あだ名呼びなんて普通なのに。
変なりーちゃん。
「こほん。話を、して下さい。あの意地の悪い博士と、少女の話です。」
「あ、うん。じゃあ順番に説明するね。...と言っても、会ったのは2、3日前なんだけどね。」
――――――――――――――――――――――――
「...なるほど。新たなロストロギア、ですか。」
一通り説明し終えたが、りーちゃんは納得してくれたようだ。
コーヒーを一口飲み、話出す。
「管理局員としては、博士もクラレントも最優先で確保しなければいけないレベルの危険人物ですね。」
「あら、お尋ね者はあなたの方じゃない♪」
「っ...事情があるのです。趣味でやっている貴女と一緒にしないで下さい。」
...何かリーナさんにめちゃくちゃ噛みつくな。喧嘩でもしたのかな?
「まあ、今局員として、などと話せる立場でないのは理解しています。」
「やっぱり、事情があるんだよね。話してくれる?」
「...ええ。話します。勝負に負けたのですから。」
勝った、というにはギリギリだった気がするが。
どうやら倒れるのがわずかに遅かったらしい。
判定はリーナさんなので実の所はよく分からない。
「りーちゃん、管理局の魔導師さんなんだよね?ちっちゃい時はなりたいなんて言ってなかったのに。」
「...ええ。ちょうど貴女と別れてからの話をしましょうか。私の身に起こった全てを。」
そうして、りーちゃんは語り出す。
高町なのはさんとの出会いを。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
父を事故で失い、私と母は住んでいた家を売り払い、転居することになった。
まーちゃんの手紙を待つ間すらなかった。
通信が出来れば良かったが、幼い私たちには専用端末もなく、親同士が交流していたわけではない為、連絡先も聞けていないことに後から気付いた。
事故の時、私は自然にまーちゃんに助けを求めてしまっていた。
助けに来られるわけがないのに、縋ってしまっていた。
まーちゃんとはもう会えない。
ヒーローはもういない。
絶望した。殻に閉じ籠る日々。
しかし母は働きながら、私を必死に育ててくれた。
そんな姿にふと思った。
母のヒーロー、父はもういない。
ならば、私が守らなくては。
私がヒーローにならなくては。
なのはさんのように、誰かを守れるヒーローに。
私の日常は変わった。
悲しんでいる暇などない。
魔法の勉強をした。運動をし、体力を付けた。
私には魔法適性があった。
しかもなのはさんと同じ飛行適性も。
嬉しかった。私はなのはさんみたいになれる。そう思った。
その日から更に努力を続け、10年近く経った。
私は中学を卒業してすぐに管理局に入局した。
1ヶ月基本的な訓練を受けた後、担当教官から私に特別な話があった。
『特別教導訓練』
優秀な次世代の魔導師を少数集め、1年間集中的に訓練し、組織としての力を底上げしようということらしい。
かつての特務六課で経験を積んだ当時の新人たちも、今では各部署でまさにエースとして活躍している。
それを先例としての立案である。
担当教官は、高町なのは一等空尉。
私は目を見張った。
なのはさんに教えてもらえる。
これ以上幸せなことなどないと思った。
私はすぐに志願した。
入隊テストは厳しいものだった。
新人の私が受かる確率はかなり低いと見られていたが、私には10年の努力と、両親から得た才能がある。なのはさんにもらった勇気も。
結果は合格。
そして、私は憧れに再会したのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハァ...ハァ...」
なかなか無茶をしたが、やり遂げた。
ターゲットは全て射抜いた。
やれることはやった。きっと上手くいくはずだ。
「全ターゲット撃破おめでとう。全て撃破したのはリーゼが初めてだよ。だけど、魔力の出力を上げ過ぎてるし、早くクリアしようと焦って、スピードも無駄に出してる。極めつけは最後の無茶。最悪、相討ちになるところだった。ここはかなり減点になるかな。」
優しい声音が届くと同時に、私の前に白いバリアジャケットを着た女性が降り立つ。
その姿は大人の女性となっていたが
私が間違えるはずもない。
「なのは、さん...?」
「うん。すごく昔の話なのに、覚えていてくれたんだね。嬉しいな。...久しぶり。大きくなったね、リーゼ。」
その言葉に思わず涙が零れる。
覚えていてくれた。
泣かないと決めていたのに。私はまだまだ弱い。
「あ、あれ?いきなり色々言い過ぎちゃったかな?ごめんね、泣かないで?」
「違うんです...なのはさんに会えて、嬉しくて...っ」
感極まって泣いてしまう。
「...強くなったね、リーゼ。魔導師になるなんて、少し驚いたけど。」
「私、なのはさんみたいに...強くなりたくて...なのに、泣いちゃって...弱虫のままです...」
なのはさんは少し笑って、私の頭に手を置いた。
「じゃあ、これから一緒に強くならないとね。」
「は、はい...っ」
こうして私は特別訓練に合格した。
かなりおまけ合格だったらしいが。
危なっかしいから面倒を見ないと、となのはさんは言っていたらしい(ヴィータさん談)
それからの日々は地獄であり天国だった。
基本的には地味目な訓練が多いのだが、的確に限界の上の量を突いてくるし、なのはさんとの戦技教導はとてもスパルタだった。
なのはさんはいつもにこやかだったが、ニコニコしながらバインドをかけるのは止めて欲しい。ちょっと怖いと思った。
でも、その訓練は確かに私を強くした。
なのはさんに直接教わることができるなんて、幸せで幸せで仕方なかった。
憧れのディバインバスターまで教えてもらえた。
過去には教わる前から使っていた教え子もいたらしい。
すごい、是非会ってみたい。
友人もできた。
友人というより先輩だが。
クレア・スカーレット3等陸尉。
階級は上だが、先輩は気さくに私に接してくれた。
クレア先輩も話すのは得意ではないらしいのだが、苦手なことこそ率先してやるのが先輩だと言っていた。
幼なじみの受け売りらしい。
先輩はすごい。飛行できないとは言えその分身体能力やその強化に秀でていて、単独で(制限付きとはいえ)ヴィータ教官と渡り合っていた。
そんな先輩の目標は、執務官。
昔聞いた憧れと重なる夢に、少し胸が痛んだ。
そうして辛く、それでいて幸せな1年は過ぎていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
一年後、予定通り特別教導訓練は終了。
私は希望通り救助隊配属。
クレア先輩は陸の警備部隊に再配属となった。
なのはさんともう少し一緒にいたかったけど、私は掴んだ強さで必ずみんなを助けてみせる。
そうできる場所に行きたいと思った。
...それに少しだけ、人を助ける仕事をしていれば、いつかまーちゃんとまた会えるのではと。
あのお節介な幼なじみと道が重なるのではないかと思ってしまっていた。
教導最後の日。なのはさんは私を呼び出して、話をしてくれた。
「リーゼ、今までよく頑張ったね。偉いよ。」
なのはさんは微笑み、私に語りかける。
「でも忘れないで。1人で大丈夫なんて思っちゃダメ。リーゼはがんばり屋さんなのが長所で、短所だから。」
「分かっています。無理は禁物、ですよね?」
なのはさんは頷く。
「そのリーゼが育てた強さは、1人でいる為の強さじゃない。誰かと一緒にいる為の強さなんだよ。零さない為の、零れない為の強さ。」
最後になのはさんは私の手を取り。
「また泣いちゃったその時は。きっと助けに行くから。ね?」
その笑顔は星のように、キラキラと輝いて見えた。
そして。
辛かった離別を乗り越え、前向きに生きようと考えていたその矢先。
私は知ってしまったのだ。
この、私のヒーローが所属し、憧れた組織が。
黒く汚い本性を隠していたことに。
第12話『不屈の心はその胸に。』
まーちゃんポニテだったの?(驚愕)
実はクラレント以外、容姿はモデル以外のモデルが存在します。真も例外ではありません。
いつか要望があればその辺も話したいです!