◼️□管理局・執務室◼️□
豪奢な飾りの付いた扉に手を掛ける。
部屋の外からも分かるプレッシャー。
この先に彼がいる。
リーゼは緊張を振り切り、開く。
「来たか、賊。」
「石動、刃凱...!」
デバイスを構え銃口を石動に向ける。
「儂を殺すか。」
「投降しなさい!貴方の行いは許される物ではありません!」
銃にもまったく動じず、石動は笑みさえ浮かべて言葉を返す。
「許しなど必要ない。儂こそが管理局の正義。貴様こそその正義を阻む悪ではないか。」
「正義?クレア先輩を脅し、仲間を殺して。やっていることはスカリエッティの発明の再利用でしょう。それのどこに正義があるのですか!」
「犠牲なくして勝利なし。あれもそこそこに役に立った。前のJS事件もまた、必要な犠牲だ。管理局という組織が如何に魔法に頼りきりとなっているか。それを証明し、AMFという置き土産まで残した。実に僥倖。」
リーゼは拳を強く握り締める。
許せない。
あの事件はなのはさんたちが必死になって解決したものだ。
悲しい犠牲もあった。
それを運が良かったと宣うのか、こいつは。
「そんなに陸が海に劣っているのが嫌なのですか!そんなに権力が欲しいのですか、貴方は!」
「陸が海に劣る?それは軍事力か?社会信用か?違うな。『魔法』ではないのか?」
石動は立ち上がり、銃口を向けられながらもリーゼに近づく。
「貴様の陸が海に劣っているという認識。それは管理世界においての共通認識だ。優秀な魔導師は海に引き抜かれ、陸には残らない。世論には陸が必要ないと考える馬鹿者共もいるそうだ。だが問題はそこではない。
事は管理局『だけ』の問題ではない。リーゼ・グレーデン。貴様は生まれつき才能を持った魔導師だったな。ならば気づかないだろう。お前が『持っている』せいで、『持たざる』者が生まれてしまうことを。」
リーゼの脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。
「今や魔法を頼りに文明は栄え、魔法こそが日常と化している。しかし、人類はどうだ。未だ魔法を使える者、使えない者が同じだけ生まれ出ている。貴様が恵まれているのではない、貴様が『普通』とみなされる世界なのだ。ならば魔法を使えない者はどうなる?『普通ではない』劣ると判断された者たちはどう生きる?魔法を使える者が支えるか?それでは愛玩動物と何が違う。魔法を使えない者に人権はないと、そう宣うつもりか?」
「っ...!拡大解釈です!魔法の優劣なんて」
雪崩れ込むように言葉が続く。
「優れていて良かったと思っただろう。魔力資質も、空戦適性も。『あって良かった。』と感じたはずだ。」
「!」
魔法を使えない人がいるのは知っている。まーちゃんもほとんど使えない。
私に才能があると知って嬉しかった。
管理局の試験には当然合格した。
だけど落ちた人は確かにいた。
特別教導も、並みの才能の人はそもそもチャンスすら与えられない。
管理局だけじゃない。
魔法の才能があれば学校も仕事も優遇される。
「理解したようだな。誰だろうと使える機械とは違う。魔法は生まれの才能、先天的優位だ。そんなものに頼る世界が正しいと思うか。儂は思わぬ。優秀な魔導師に頼る平和、確かに救える命はある。しかし取り零す命の方が多い。そして同じだけ危険も増え続ける。魔法を利用した犯罪など腐る程あるだろう。魔法を使えぬ者は容赦なく蹂躙される。それが貴様ら小娘の語る正義だ。」
「違う!だって。なのはさんは私を...。」
私は救われた。でもパパは?
もしあの場にもっと多くの人手があれば?
「魔法では全てを救えぬ。救うどころか新たな悲劇を、差別を生み出す。魔法は便利な道具程度でいい。守護の力、破壊の力として使えばいずれ身を滅ぼす。だからこそ、儂の『ガーディアン』が必要なのだ。
人ではない命令で動く鉄人。魔法を否定し、誰もが扱える力。儂には見える。真の守護者となるアーマーたちの姿が!」
まるで演説だ。
これが石動刃凱という男か。
だが、屈するわけにはいかない。
「ならば正当な方法で訴えるべきです!こんな手を使って、誰が納得できると言うのですか!」
「小娘が。正当な手段ならとっくに試した。許さなかったのは貴様が言う海の連中だ。正義の味方だと?笑わせるな。奴らこそ今の地位が脅かされるのを嫌い、保身に走ったのだ。」
「そんな、こと...!」
あり得なくは、ない。
寛容な海といえど、私の知っているなのはさんたちは一派に過ぎない。
実際は陸と大差ない腐敗がある可能性は捨てきれない。
「今の管理局に正義はない。儂がこの手で世界を守護する。永劫の時を経ても、儂という正義が守護し続ける。この間違った世界を救ってやると言っておるのだ。」
間違っている。そんなこと出来るわけがない。
だがこの老人から感じる威圧感と覚悟。
本気で言っている。
彼は本当に守護者となるつもりだ。
「認められません!貴方が正義であるものか...!」
「最早餓鬼の駄々よ。元より理解は不要。貴様は試し撃ちの的だ。」
瞬間。
執務室の窓から弾丸が炸裂する。
石動には当たらず、窓や備品を破壊しながらリーゼに殺到する。
咄嗟に障壁を張るリーゼだが、弾は尽きることなく放たれ続ける。
「くっ...!」
障壁を張りながら移動、窓の外へ飛び出すとそこには。
10mを超える巨大な機動兵器がリーゼを見下ろし待ち受けていたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
◼️□管理局中庭◼️□
『無茶が過ぎるぞバカ!魔力を集中させなきゃ腕が飛んでたぞ!』
「ごめん!じゃあここからもそれでお願い!」
左腕にはまだ攻撃された衝撃が残ってる。
無理を通すしかない。
真にとってクレアは格上だ。
修行の時もそうだった。
スパーの相手はいつも格上だった。
格上相手には余裕とか、落ち着いてとか、そんなこと言う暇などない。
常に全力、常に限界。
無理を通さなきゃ格上に勝つことなんて夢のまた夢。
「...格闘タイプか。昔ならば立ち合いを楽しめたかもしれないが。」
クレアは立ち上がり、魔法陣を展開する。
「残念だ。蹂躙させてもらう。」
魔力の雨が真に殺到する。
遠距離から魔力弾の連打が放たれる。
近距離を得意とするのは真もクレアも同じだが、真と違いクレアには遠距離で戦う術がある。
真っ向から撃ち合う必要はなかった。
「!」
だが相手がその手に出るのも真は想定済だった。
故に考えた。
遠距離でも近距離と同じように戦えるようにすればいい。
砲撃は蹴撃、弾は打撃と思え。
魔力を拳、腕、足に集中させ魔力の塊を殴り蹴り、弾く。
弾は確かに高速だが、近距離で放たれるフーカたちの拳の方が速い。
今の自分には見える。見切れるはずだ。
自分を鼓舞し、真はクレアの攻撃を捌いていく。
「...なるほどな。素人ではないか。」
クレアは再度魔法陣を展開。
そのまま真に向かって駆け出す。
すると、クレアの影が3つに増えそのまま3人に分身した。
「ぶ、分身!?」
『惑わされんな!どうせ実体はねぇ!』
3人となったクレアが同時に刀を振り下ろす。
真ん中を本物と考え、防御を行うが。
「あぐっ!?」
左右の攻撃が同時に真の左腕と右足を直撃した。
『実体...!?嘘だろ!?』
そのまま真に本物のクレアの斬り上げが迫る。
「っ!?」
ガードするが勢いは止められず、先程とは逆に真は吹っ飛ばされてしまう。
「私の『これ』は特別だ。幻だとでも思ったか?」
まったく同じ動作で刀を肩に担ぎ直す。
『立てマスター!次が来るぞ!』
「っ...。分かってる...。」
本物の直撃は避けたがダメージはある。
切断されたわけではないが、腕と足には痛みが走る。
やはり格上。一瞬でも気を抜けばこうだ。
「行くぞ。」
再度クレアたちは接近。
先程と同じく同時に斬撃を放つ。
「ぐぅっ!」
それを真はなす術なく喰らう。
喰らったように見えた。
今度は膝を付かず拳に力を込める。
『確かに痛い。だけど耐えられない程じゃない。軽いんだ、本物より威力がない!』
戦い方は変えない、耐えて一撃叩き込むだけ。
「断空拳ッ!」
焼き直すようにクレアが吹っ飛ぶ。
全身に痛み。
グッと堪えて、構える。
『大丈夫、確実に当てていけば勝てる。』
しかしクレアは立ち上がる。分身も未だ健在だ。
「なかなか無茶をする。確かに分身の攻撃は私より軽い。だが。」
「...!」
真の腕と足から力が抜け、倒れてしまう。
『何だ!?』
「人体はそこまで丈夫ではない。的確に攻めれば脳の命令など関係なく崩れ落ちる。心が強くても、限界はあるということだ。」
読んでいた。
真が耐えることも、分身の仕組みを理解することも。
だからこそ分身に体を攻撃させ、ダメージを蓄積させた。
たった二撃でも急所を付けば崩せる。
クレアは幼少期よりそう訓練されてきたのだった。
「終わりだ。星宮真。」
容赦なく分身が迫り、真を斬り蹴り上げる。
「あぁっ!?」
空中に飛び上がったクレアが魔力を込めた刃を両腕で振り抜く。
「墜星斬。」
刃は真を切り裂き、地面に叩き付ける。
動かなくなった真を見下ろし、クレアは血を払うように刀を振る。
「...悪役がお似合いか。憧れたのが、間違いだったかな。」
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□◼️管理局近郊□◼️
「ミラ!」
「イズナ。大丈夫?」
ドローン、石動に『ガーディアン』と呼称されていたそれが襲撃してきたのが30分程前。
魔法が効かないそれにミラもイズナも苦戦したが
フェイトが魔力を大量に込めた武器で全て切り伏せてしまった。
その姿に彼女もまた化け物だと二人は戦慄していたのだが。
「ハァ...ハァ...。」
フェイトは肩で息をしている。
流石に無理をしたらしい。
先程までの余裕はなくなっている。
「やるなら今がチャンス。」
「はいです。元よりこのままのんびりしてたら捕まる身。ヤられる前にヤるですよ!」
疲労したフェイトにイズナが接近。
チェーンソーを振り下ろす。
「...!」
咄嗟に回避するフェイトだが、すかさずミラが魔力の散弾を放ち確実にフェイトに直撃させていく。
「うぐっ...。!」
負けじとフェイトも雷の矢を精製し高速でミラに射出。
同時にイズナに接近しバルディッシュに魔力を込めた上で叩き付ける。
「はやっ...!」
「危っ!?」
二人を相手にし疲労しながらも、フェイトの力は健在。
一度距離を取り、彼女との戦力差を今一度理解した二人は頷き合う。
切り札を切る時が来た。
「いくですよ、ミラ。」
「ん。やるよ、イズナ。」
手を繋ぎ、二人は叫ぶ。
「「ミストルティン!モード、リリース!」」
二人を黒い魔力の奔流が包み込む。
凄まじい魔力量。
それが晴れた先には通常と違い
青黒く、赤黒く、そして鋭い鎧に身を包んだイズナとミラの姿があった。
「ミストルティン?この魔力量、まさか...!」
ロストロギア!
まさか彼女たちも真と同じロストロギアをその身に宿しているのだろうか。
フェイトがそう考えた時にはもう、目の前にチェーンソーが振り下ろされていた。
「あぁっ...!?」
鮮血。
避けきれず刃がフェイトの腕を裂く。
苦しむ間もなく、凄まじい魔力量の砲撃が降り注ぐ。
障壁を展開するが、今度は防ぎ切れず直撃を受けてしまう。
「オチロ...!!」
ミラの砲撃に合わせ、イズナも魔力砲を放つ。
二色の魔力砲はフェイトを呑み込み、彼女はそのまま墜落してしまった。
「ヤッ、タ。」
禍々しいオーラを纏いながら、ミラが勝利を確信する。
二人は寄り添い、自らの力に再び枷をかけようとするが。
『真・ソニックモード。』
無機質なデバイスの音声が流れた瞬間、周囲に稲妻が迸る。
墜ちた方角から黒い影が迫り来る。
「シブトイ...!」
「バケモノ、デス!」
愚痴る二人には明らかな疲労の色が見える。
『真とは違う?尋常じゃない魔力の量。あのパワーとスピード。反動があるのか。じゃあ、長引けば危ないのはむしろ...。』
この二人の事情は分からない。
何故犯罪を犯すのか。何故真を狙うのか。
しかしこの子たちはまだ子どもだ。
子どもで、お互いを思い遣っていることだけは分かる。
ならば。
「助けなきゃ。話を聞いて、止めさせないと...!」
今も昔も変わらない。
敵を打ち倒すのではなく、命を救い分かり合う為に戦う。
「そうだよね、なのは...!」
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□◼️管理局中庭□◼️
痛い。
血が出てるし、体が動かない。
負ける。
このままじゃ負けだ。
起きなきゃ。
まだ何にも話聞けてない。
何故自分は生きている。
その気になればさっきの一撃で私を殺せたはずだ。
優しい人なんだ。
こんな状況でも、あくまで管理局員として拘束までに抑えておきたいんだろう。
伝えなきゃ、りーちゃんの気持ち。
こんなとこで倒れてられない。
りーちゃんが待ってる。
クレアさんと、私を。
「っ...。ぐっ...!」
「!...何故、動く。」
動かない腕も足も。地面に押し付けるように立ち上がる。
激痛。
ふらついて立つのがやっと。
「レン、ちゃんッ...!」
『しょうがねぇマスターだな...!』
魔力を無理矢理流し、腕と足を制御する。
ずっと痛い。すごく痛い。
だけど、動く。
「まだ、負けてないから...ッ!」
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◼️□管理局・上空◼️□
『逃げても無駄だ。エルダー・ガーディアンは並みの空戦魔導師を凌駕する速度だ。』
巨大起動兵器、エルダー・ガーディアンはリーゼを追跡。
多彩な銃火器を用いてリーゼの退路を絶っていく。
「くっ...!何も考えずにばら蒔いて...!」
下は管理局と普通の街だ。
こんな巨大な兵器を使うなんて。
とにかく誘導しなければと飛行するリーゼだったが、余りにも苛烈な銃撃に晒されついに被弾してしまう。
「しまっ...!?」
すかさず銃撃が重なる。
直撃し、墜落。
幸い工場地帯に落下したようで人はいなかったが、高高度から落下した衝撃は殺しきれずリーゼの体にダメージを与える。
「っ...!このまま、では...!」
博士からもらった秘策を使う余裕もなく終わってしまう。
『ー。』
エルダー・ガーディアンは着陸し、動けないリーゼに銃口を突き付ける。
「まず、い...!」
この期に及んで体が震えている。
やはり私は弱いままだ。
覚悟を決めたのではないのか。
泣きそうになる。
怖くて堪らない。
ならここで諦めるのか。
ここで諦めたら、失った物は何も帰られない。
取り返すんだ、私の宝物。
大切な物を全部。そう約束したではないか。
耐えられるかは分からない。
だけどやるしかない。
目一杯の障壁で防ぎきって、このデカブツを壊す。
あのジジイも捕まえる。
正義なんて知ったことか。
私は私の守りたい物を守る。
その為の力だ。
その為に学んだ知恵と勇気と力。
そして。
「諦めない、心...!!」
弾ける魔力の光。
それはリーゼが放った物でも、ガーディアンが放った物でもない。
ガーディアンの上空から降り注いだその桜色の光は、星のように煌めき。
AMFを物ともせず、ガーディアンに損傷を与えた。
リーゼは見上げる。
空に輝く白い星を。
忘れるはずがない。
かつて自分を救った光景。
今も昔も、貴女はそうやって救ってくれた。
『また泣いちゃったその時は。』
頭に浮かぶ最後の思い出。
今と同じ笑顔で、約束してくれましたよね。
「助けに来たよ、リーゼ。」
風は空に。星は天に。
輝く光はこの腕に。
第17話『不屈の魂はこの胸に!』
「なのはママとフェイトママ揃い踏みだね!」
「まだ会えてはいないんだけど...。」
「細かいことは気にしないの!二人とも頑張ってね!」
「うん、全力全開で頑張るね。」
「それも悪くないけど、ほら。何か忘れてなーい?」
「え?...さ、流石にもう卒業」
「はいじゃあママたち二人でせーの!」
「「り、リリカル、マジカル...がんばりまーす...。 」」
「声がちいさーい!」
「「が、がんばりまーすっ!」」