次回投稿は14日予定です。たぶん。
第21話『二振りの聖剣』
世界が砕けていく。
街は崩れ、人は息絶える。
炎に包まれ、何もかもが消え去る。
少女は独り。
災禍を振り撒きながら、世界を憎む。
愛していた。
『愛されていると思っていた。』
大切に思っていた。
『私は道具だった。』
一緒にいたかった。
『私が殺した。』
「パパ...ママ...。」
私は許さない。
人間を、世界を。
全て、消し去ってやる。
「滅びろ...。何も、かも...!」
この日、世界は滅びた。
少女の怒りは世界を飲み込み。
自らの身すら焼き尽くす。
この炎は永遠に燃え続けるだろう。
たとえ一時の眠りに落ちたとしても。
それでも、消えることを許されない。
少女の身体は、鉄で出来ていた。
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「おはようございます、真。」
「おはよう!りーちゃん。」
いつも通りの朝が来た。
りーちゃんに挨拶して、私の席に座る。
向かい側の席には小さい同居人で、私達のパートナーな二人が既に座っている。
「レンちゃんもフェイちゃんもおはよう!」
「おはよう。」
「...ん。」
ふむ。フェイちゃんはまだ表情が固い。
レンちゃんはまだ眠いみたいだ。
「ふわぁ~...。おはよう、みんな...。」
眠そうに誕生日席に座るリーナさん。
「博士、また夜更かしですか?美容の敵だとか何とか言っていたではありませんか。」
「ちょーっと気になることがあってね...。んー、いい香り♪」
いつものリーナさんとりーちゃんのやり取り。お説教ばかりだけど、何だかんだ上手くやれてるみたいだ。
「それじゃあ、みんな揃ったし。」
「ええ。手を合わせて。」
「「「「「いただきます!」」」」」
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あの事件、通称『ガーディアン事件』から二ヶ月が過ぎた。
季節は夏に差し掛かり、学校の制服も夏服になってたりする。
「今日もあっついね~...。」
「ええ。7月とは言え、都心はやはり熱が籠りますから。」
すっかり一緒の登校が日常になっていた。
二ヶ月前はこんな風になるなんて思ってなかった。
『あー、ついていくのかったるい。何であたしまで暑いんだ?』
『マスターの体感はそのままフィードバックされる。鎧化している時とは違うわ。』
勿論、レンちゃんとフェイちゃんも一緒だ。
この一体化便利なんだけど、端から見ると腹話術かつ独り言みたいになるから、ちょっと恥ずかしいんだよね。
もう慣れてきたけど。
「今日も練習には行くのですか?」
「ううん、今日はアルバイトの方。師匠には朝にちょっと見てもらえたよ。」
あれ以来、私は早起きが習慣になっちゃって毎朝師匠と一緒にランニングをするようになっていた。
ついでに型を見てもらったり、放課後予定がなければジムに顔を出したりとすっかり馴染んでしまっている。
部活みたいで楽しいし、強くなれるのはありがたい。
二ヶ月の間、平和な時間が流れてる。
誰も襲っては来ないけど、いつ何が起こるか分からない。
レンちゃんを、りーちゃんを守らないと。
今や新しい私の『家族』だ。
この幸せは手放すわけにはいかない。
「あ!まこちー!レテっちー!」
「この妙なあだ名は...。」
振り返るといつもの三人がこちらに向かって来ている。
朝に会うのは珍しい。
「おはようみんな!」
「おはよう真。」
「おはようまこちー!」
「おはようございます、星宮さん。グレーデンさんも。」
「ええ、おはようございます。」
最早日常の象徴とも言える三人だ。
りーちゃんのこともすぐに受け入れて声をかけてくれたし。
「相変わらずお嬢様感あるよねー、リーゼってば。真と一緒に登校する前に『タイが曲がっていてよ...。』とかやってたりしない!?」
「しませんけど?」
「だよねー。」
りーちゃんもすっかり馴染んでる。
途中からなのに成績優秀だし、音楽まで出来ちゃうし。
他のクラスメイトとも上手くやれてる。
昔の印象とは180°違う。
ああ、私の後ろに隠れてモジモジしていたあの頃が懐かしい。
「ねぇねぇ、今日は二人共空いてる?カラオケどうかな?」
「ごめんね、またバイトなんだ。でも、りーちゃんは空いてるんじゃないかな?」
「え、ええ。私は大丈夫ですけど...。」
「まこちーはやっぱり忙しいか。残念だけど、今回は4人かな。」
「星宮さん、またお誘いしますね。」
「うん、ありがとう。本当にごめんね?」
「いいわよ、気にしないで!」
すっかり私の方が付き合い悪くなっちゃったな。
でも仕方ない。頑張らないとだし。
何でもない話をしながら、学校に向かう私達。
この時は思いもしなかった。
そんな普通の時間が、またもや遠くなるなんて。
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「ハァ...!ハァ...!」
平和な筈の路地裏を、少女が全速力で駆けていく。
その表情は必死そのもの。
少女は追われていた。
元々彼女は管理局からすればお尋ね者である。
だが、追っ手は管理局ではない。
「なん、で...!」
何故こんなことに。
やはりあの仕事を受けたのは失敗だった。
ロストロギアの奪取。
依頼主は不明。
普通に考えれば危険な仕事だったが、彼女たちには慣れっこだった。
安全な依頼など彼女たちには下りてこない。
命懸けの仕事は基本。
だからこそ、彼女たちに需要はあった。
彼女たちの『力』は埒外。
並みの魔導師や魔獣では歯が立たない。
死神だとか、悪魔だとか、裏の世界ではそこそこ有名になっていた。
ロストロギアの奪取などお手の物。
ただよくある仕事の、ちょっと金払いのいい仕事だと思っていた。
結果は失敗。
対象は並みの魔導師ではなく化け物。
おまけに管理局最強の魔導師の邪魔まで入った。
何とか抜け出したはいいものの、資産を多く失った。
それでも、何とか立て直そうと考えていた。
それなのに。
「く、そっ...!」
依頼主は失敗を許さなかった。
二日前、隠れ家を襲撃された。
敵は二人。
通常の状態では対抗できず、あまり使いたくない切り札まで使用した。
しかし、敵は強かった。
こちらの消耗を突かれた上に分断され、最愛の片割れと離されてしまった。
「ミラ...!」
どうか、どうか無事であって欲しい。
あれからもうかなりの時間が経過している。
彼女は必死に逃げ都市近郊まで辿り着いていたが、片割れはそもそも逃げられているかすら分からない。
もう、会えないかもしれない。
言い知れない喪失感と悔しさ、追っ手への憎しみが、もう限界が近い彼女の体を動かしていた。
「ミラ...ミラ...っ!」
守ると約束したのに。
誰か。誰でもいい。私じゃなくても、管理局だって構わない。
だからどうか。
「誰かミラを...助けて...!」
自分の身を厭わず、ただ親友の無事を祈る少女の頭上に、ヒラリと焔が揺らめいた。
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「しかし今更ですけど、夕方なのに結構お客さん来ますよねこの店。」
「ああ、まあ。うちはファミレス名乗ってるだけあって手広くやってるからね。」
「今の時間だと注文もコーヒーとか、デザートが多いでしょ?ちゃんとファミレスしてるのよ、意外と。」
「なるほど。」
アルバイトの隙間時間。
珍しくお客さんもいないので、従業員さんの藤尭さん、友里さんとちょっとした雑談をしている。
ここ、私のアルバイト先であるファミリーレストラン『SONG』。
ファミレスなのにチェーン店でなかったり、今時結構珍しいお店だ。
店の大きさはそこそこだけど、店長の腕が良くてお昼時はものすごく繁盛する。
私も最初はお客さんとしてこの店を訪れた。
和洋中デザートまで何でも美味しい。
店長さんは一体どんな修行をしたんだろうか。
「真くん、今日はまかないどうする?食べていくかい?」
「あ、ごめんなさい店長。今日は夜ごはん作ってくれる日で。」
「二ヶ月前は毎回食べて行ってたのにな。本当に彼氏じゃないんだよね?その年で同棲なんて...。」
「はいはい、親じゃないんだから干渉しないの。幼なじみの子とルームシェアだって言ってたじゃない。」
雇ってもらってまだ三ヶ月だけど、お三方とも私をすごく心配してくれてる。
アルバイトは私だけで、藤尭さんも友里さんもちゃんとした従業員さんだ。
店長さんが私を気に入ったらしく、好意で雇ってもらった。
「ま、家に飯があるのは幸せなことだ。独り身じゃいつだって自分で全部やらなきゃならんしな。」
「そろそろ誰かしら身を固めてもおかしくない時期だと思うんだけどなー。友里さんは?」
「普通女性に振る?デリカシーがない人には教えない。」
「ご、ごめん...。」
「あはは。」
みんなすぐ結婚出来そうなのに、意外とその手の話はないらしい。
「何か困ったことがあれば言ってくれ。子どもの為に動くのが、大人の責任ってやつだからな。」
「はい、ありがとうございます店長。」
本当に私は、色々な人に助けてもらって生きてるんだな。
店長の優しい言葉に感謝しつつ、幸せを噛み締める。
アルバイトの時間は穏やかに過ぎていった。
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「レテっちばいばーい。」
「また明日ね~。」
「ごきげんよう。」
「はい、また明日です。」
友人と別れ、帰路に着く。
思いの外遅い時間になってしまった。
博士はどうせ研究浸りで、まーちゃんはアルバイトだから特に問題はないが。
『カラオケ。空オーケストラの略。様々な楽曲が記録されており、自由に歌唱が可能。採点機能も付属。』
「気になりますか?」
『...別に。この時代の歌なんて一つも知らないもの。』
「...じゃあ、フェイの時代の歌はどんなものがあったのですか?」
『さあ。どうだったかしら。...覚えているのは、子守唄程度ね。』
「子守唄...。」
遥か昔から存在するアイアンメイデン。
ふと思う時がある。
この子たちは本当に。
「ねぇ、フェイ。貴女は...」
『マスター!』
カツン、カツン。
暗がりから誰かが近づいてくる。
何か、とてつもなく嫌な感じがする。
「あら、偶然。まさかこんなところで見つけるなんて。」
街灯がその誰かを照らす。
長い金髪を二つ結びにした長身の女性。
紫色の鎧に、右手には黒い剣。
左手には『何か』を引き摺っている。
「っ...。」
人だ。
しかも確かあれは脱獄した魔導師の片方。
白い髪、ミラという名前だったか。
かなり傷ついている。
意識はないようだが。
「その子を傷つけたのは貴女ですか。」
「そうよ?仕事を任せたのに失敗したから。情報の漏れは未然に防がないといけないもの。」
仕事。
まーちゃんを狙っていた大元か?
「生きているのですか。」
「今は生きてるけど、用事が済んだら始末するわ。」
「管理局、ではないですね。」
「管理局って、人殺しするのかしら?公的機関がそんなんじゃ安心して眠れないわね~。」
悪びれもしない態度が鼻に付く。
「それよりあなたよ。あなたというより、中にいる『あなた』。まさか今日見つかるなんて。」
「!?」
フェイのことを知っている...!
そこまで情報として持っているとは。
それにこのBJとも騎士甲冑とも取れる衣装。
間違いない。
『マスター。アイアンメイデンよ...!』
「幻刃、アロンダイト。渡してもらうわよ、そのフェイルノート...♪」
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「お疲れ様でした!」
SONGを出て、急いで研究所に帰る。
「最後ちょっと混んで遅くなっちゃった!ごはん遅くなってごめんね、レンちゃん。」
『ん。まあ別に退屈なだけだ。』
とか言いつつ、料理を運ぶ度に美味そうとか、いいな、とか小声で言っていたのを思い出す。
今度親戚の子ってことで、連れて行ってあげよう。
「早く帰らないとごはん冷めちゃうよ。暑いけど走っちゃお。」
空腹を抑えつつ、帰り道を駆け足で進む。
寄り道なんてしない、一直線に帰宅だ。
新婚の時はそりゃもうあらゆる誘惑を断ち切ってお母さんの所に帰ってたってお父さんが...。
『マスター!』
「はい!?...急に大声出してどうしたのレンちゃん。」
『ヤバい感じがする。どっかで何か始まってるぞ。』
「何かって...!?」
途端に爆発音が響く。
公園の方だ。あそこら辺に爆発しそうな建物なんてあっただろうか。
「...レンちゃん。」
『行くんだろ?後でリーゼに怒られても知らねーからな。』
流石、よく分かってる。
「誰か襲われてるかもしれない。なら、助けないと!」
―――――――――――――――――――――――――――――
「かはっ...!?」
自らの得物であるチェーンソーすら保持できず、跳ね飛ばされる。
BJを維持する魔力も失われ、ただ地面に転がる。
「...これで、おしまいです。」
黄色く輝く鎧。イズナを追い詰めたのは、まだ幼さを残す少女だった。
青い髪に強張った表情。
右手には豪奢な飾り付けの剣を手にしている。
その剣は、イズナの血で赤く染まっていた。
「っ...ミラ...。」
こんな状況になっても、イズナが思い出すのはミラ唯一人だ。
この子どもが私の追っ手ということは、あの金髪はミラを追ったのか。
あちらの方がタチが悪そうだったなと思い出す。
ただ、生きていて欲しい。
それすら最早、高望みなんだろう。
「最後は一緒に...。」
最後も一緒に、いたかったな。
ロクな人生じゃなかった。
唯一の幸せは、ミラと出会えたことだけ。
薄暗い研究室の中で、輝いて見えたのは彼女だけだ。
少女が剣を振りかぶるのが見える。
「助け、て...。」
誰か。
頼れる誰かなんていない。
だけど、ここで終わるなんて嫌だ。
ミラを助けに行くんだ。
きっと生きてる。
ミラも、私が生きてるって信じてる。
誰でもいい。
お願いだから。
「誰か、助けて...っ。」
ガギンッ!
瞳に浮かぶ一筋の涙。
それを願いと受け取り、流れ落ちる星が一つ。
「大丈夫。私が助けるよ。」
「おま、え...!?」
間一髪、現れたのは武装した真だった。
剣をガントレットで受け止め、回し蹴りを叩き込む。
ガードされたが、引き離すことはできた。
「...ラン、あれ。」
『ああ。当たりだ。』
少女は驚きもせずに、剣を構え直す。
『...おい、まずいぞマスター。』
「まずいって、何が...?」
クラレントが何かを感じ取り、自らのマスターに危険を知らせる。
『この妙な感じ。あれ、アイアンメイデンだ。』
「なっ!?」
剣が焔を纏い、少女を囲うように燃え広がる。
「照剣、ガラディーン。クラレントのマスターを発見。捕縛します。」
斯くして火蓋は切って落とされた。
日常は再び遠ざかり。
戦いの日々が舞い戻る。
少女たちの本当の戦いが、今始まる。
第21話『二振りの聖剣』
突如現れた二振りのアイアンメイデン。
かつて敵だった少女を守る為、私たちは立ち向かう。
ぶつかり合う拳と剣。
戦う理由も分からないまま、少女たちの戦いは続く。
次回。魔法少女リリカルなのはS.G.。
第22話『銀のヤドリギ』