最強黒魔導士によるウマ娘育成のススメ   作:エビフライ定食980円

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第13話 オープンスペース

「……トレーナーさん。……今日、どうだった?」

 

 控え室に戻ってきてからナイスネイチャは開口一番、黒ローブと関係者周知用の白ゼッケンの男に問う。

 その質問は2戦目の未勝利戦、アタックチャレンジ競走のときにもしたもの。そのとき、この男はナイスネイチャがほぼ同じ想いであったとはいえ勝利したのにも関わらず『素質勝ち』とバッサリ斬り捨てている。

 

「敵全員に『バフ』を敢えて与えることで自身の存在感を薄め、他者同士で消耗戦を演じさせる、か。そして浸透的に強襲することで競り合いに打ち勝つ……貴様に魔法適正さえあれば、是非とも魔軍指揮官に勧誘していたところだな」

 

「魔軍って……ま、一応褒め言葉として受け取っておくけどさ。

 それでもソーエーには届かなかったからね。結局、お馴染み3着ー、ってワケですよ、アタシは」

 

 自虐的な言い回しの割には、その表情の中には暗さはあまり見えない。男は若干嘆息しつつ次のように述べる。

 

「確かに貴様は、今日3番人気ではあったが……。これまでの戦績を加味すれば、むしろ『定位置は4着』であったはずのレースだぞ。

 メンバーに寄らず固定の順位が獲れるのであれば。……それは、最早『絶対的な強さ』と何ら変わりはない」

 

「でも、それって結局『呪い』の効果なわけでしょ?」

 

 男とナイスネイチャが契約した理由の1つである『3着になりやすい呪い』。これはナイスネイチャの自信の形成に少なからず悪影響を与えている。

 

「――何を言っている? 改めて言うが、その呪いはあくまで『傾向を強める』だけのものだ。貴様が1着を獲れたように、4着以下になることだって当然あり得る訳だが……」

 

 『呪い』は上限を固定するわけでも、3着順位の最低保証を確約するものではない。ということは、レベルの高いレースに出れば出るほどに、ナイスネイチャに求められる技量は否応なしに高まっていくが……それは、別になんてことはない。その観点で切り取るのであれば、普通のウマ娘と同じ条件であった。

 

「……もしかして、アタシが思っているよりも『呪い』って実はしょうもないものだったり――」

 

 

 ここで『呪い』という代物を基準にしてレースを考えていた辺り、ナイスネイチャも大分ファンタジーに染まりつつあった。

 

 

 

 *

 

「……ナスノホシジョーはともかく、ソーエームテキと、そしてナイスネイチャ……アンタには見事にやられたわね」

 

「いやー……ネイチャさんは、ひやりとしたけどねえ――カネマサルビー」

 

 ホッカイドウトレセン学園においては、ほぼほぼ同期は全員知り合いのような感じになるので、4着であったカネマサルビーとも当然友達であるナイスネイチャ。

 

「今日こそは、ナスノホシジョーとアンタを破って、2人を侍らせながらウイニングライブ……と行きたかったところだったわ」

 

「……んんっ? もしカネマサルビーが勝ったときでも、ホシジョーはともかくアタシにも歌唱パートくれるんだ?」

 

「そりゃ、この門別で一番ライブが上手いのはアンタだし……」

 

 そうカネマサルビーから言われて、ナイスネイチャは『そう言えば、そうだった』と内心思い返す。周りのライブのレベルがトウカイテイオーレベルではないから、ライブのダンスやボーカルレッスンの手を抜く、なんて真似はナイスネイチャには性格的にもできないので、結局そっちの方面においては未だに実力差は埋まっていない状態にあった。

 だから、ファン目線で見たときにも地味にネイチャのライブには期待されているし、何ならこのナイスネイチャは『スナック〇』ウマ娘であるので、若い世代だけではなく上の世代からの支持も根強い。

 普通はどうしても地元出身者びいきになる地方レースにおいても、『商店街』をどこでも形成するネイチャの固有能力(・・・・)が絶大な効果を発揮していた。

 

 ということで、その後もカネマサルビーから色々からかわれながらも、先着したことについて悔しさとともに称賛されるのであった。

 

 

 

 

 *

 

 ライブが終わり、その後の後片付けなども終わって帰路につき、黒魔導士のトレーナーが瞬間転移を使って日高山脈の奥地へと行ったのを見届けた後に、ネイチャは自室へと戻る。

 

「はにゃあぁ~……疲れたわー……。

 って、ソーエーもう居たの? お早いお帰りなことで」

 

「……ネイチャ、今、すっごい声出たねー」

 

 同室のソーエームテキに『鳴き声』を指摘され顔を赤くするナイスネイチャ。その様子に悪戯が成功したかのような表情を浮かべたソーエームテキはそのまま続けて話す。

 

「――でも、確かに私も疲れちゃった。

 どう? ……今から、お風呂行っとく?」

 

「おお、いいねえ。……ってソーエー、もうお風呂セット用意してるじゃん!

 ええと、ちょっと待ってね。ネイチャさんもすぐ準備しちゃいますからねえ」

 

 今日は良バ場のレースだったとはいえ、ダートレース後は埃まみれ砂まみれとなるので、ウイニングライブの前に一度レース場併設のシャワーで身体は流している。

 けれども、ウイニングライブも終わって帰ってきたら、疲れていてもやっぱりもう一度シャワーを浴びたいとか、ゆっくり湯船に浸かりたい、と思うのは自然なことだろう。

 

 ただナイター開催のレースが終わって、ライブも終わると結構な夜更けの時間になる。だから普段の寮の規則的には既にお風呂は締まっている時間、なのだけれども。レースに出走したウマ娘に限って、特例的に遅い時間でもお風呂に入りに行けるし、翌朝の朝風呂という手もある。

 あまりに疲労度が溜まりすぎていると帰宅後即爆睡なんて子も居るし、あるいは寮の自室にシャワールームもあるので、全員が全員使っているわけではない。

 

 ぱぱっと準備したナイスネイチャは、ソーエームテキとともに寮の大浴場へと向かう。

 

「はい、どーもー……って、あれ?

 ……もしかして、誰も使っていない感じだったり?」

 

「お。これはラッキーだねー、ネイチャ」

 

 確かに今日レースに出た子しか使えない時間ではあるけれども、それでも貸切というのはかなりの偶然であった。

 お風呂場に入った2人は、髪と尻尾、それと身体を洗い湯船へと入る。

 

「はぁぁ~……、疲れに染みるわー……」

 

「ネイチャって、たまになんか言動がお年寄り染みているよね……」

 

 そう言いながらも、ソーエームテキはニコニコ笑いながら話しかけてくる。中央から来たウマ娘だから誰しもが『都会派』だと思っている中で、かなりの下町力(・・・)を発揮するネイチャの一面を見るのが、ソーエームテキにとっては、何だか他の子が知らないことを共有してくれているように思えてほっこりするからである。

 とはいえ、こちらに来てから半年弱となったナイスネイチャはそうした部分を包み隠さずクラスメイトにもオープンにしていることから、当初あったような『都会派』というイメージは大分薄まってきているが、そうであっても何だか特別感のようなものを漠然と感じるものである。

 

 

 そう。この2人の関係は既に半年近いものになっていた。

 

「いやー、まさかハナ差で敗れるとはねえ……。この『鼻』か!? このソーエーの『鼻』が悪いのかー」

 

「ちょっと、ちょっとネイチャやめてよー。あははっ、くすぐったいよー!」

 

 なおウマ娘用語集によれば『ハナ差』は約20cmの差であり、今ネイチャが触っているソーエームテキの『鼻』とは全くの無関係である。

 ……え、じゃあ『ハナ差』の『ハナ』って一体何から取られているのかって? 

 

 ……。

 発走やり直しを意味する『カンパイ』が、"Come Back!"を『乾杯』と聞き間違えた説が有力なのだから、『ハナ差』もきっとそういうフィーリング的なアレみたいな由来があるのだろう、きっと。どっか別の世界には偶然にも、ちょうどそのくらいの長さの『鼻』があってよく走る生き物が居るらしいが。

 

 

 閑話休題。

 そんなじゃれ合いを済ませた2人の間に沈黙が流れる。けれども、それは決して不快なものではなく、むしろ落ち着きリラックスしていたからであった。

 

 その後、ゆっくりとその均衡を破る声が、ソーエームテキから発せられた。

 

「ねえ、ネイチャ? 実はなんだけどさ――」

 

「……?」

 

「私、中央に転校することになったんだよね」

 

 

 ナイスネイチャはソーエームテキから発せられた言葉の意味を理解するまでワンテンポかかり、脳が処理落ち状態から復帰すると、驚きをみせる。

 

「えっ、マジ!? ちょ、ちょっと急……なんだけど!?!? えっ、あ、いや、おめでとう……うん、それだ、おめでとうじゃん!!」

 

「混乱してるね、ネイチャ」

 

「そりゃ、いきなりそんなことをこの場で言われるとは思ってなかったし!? え、というか、じゃあ今日のイノセントカップが――」

 

「あ、うん。一応、北海道では最後のレースのつもり。

 次は、11月の『京都ジュニアステークス』に出ようと思ってて、その調整は中央のトレセン学園でやることになってる」

 

 京都ジュニアステークス――ジュニア級GⅢの舞台だ。施行距離は芝の2000m……そう、芝である。

 

「えっ!? ソーエー、芝走れるの!? ってか、それよりも、こんなに日程近いと引っ越しもすぐじゃん!

 ソーエー、引っ越し業者はもう決めてるの? 北海道から東京はかなり長距離だから予算があっても早めに決めないとどんどん値段上がっちゃうから気を付けなよ?

 それにまだ全然荷物の梱包とかしていないけど、大丈夫間に合う? あぁー、アタシの持ち物と混ざっちゃうと面倒だから、明日はその辺の整理もしなきゃ……というか、住民票は向こうのに移す感じ?

 その辺、早め早めでやっとかないと、マジ大変だからさ?」

 

「……ネイチャ」

 

「えっ? なに、なに? ネイチャさんも中央に居たし、出来ることがあれば手伝うし、急な引っ越しでこっちに来たから、相談に乗れることがあるなら、何でも乗るけど――」

 

「……中央から来たネイチャよりも先に、私が中央に行くことになったから。

 てっきり、もっと変な感じの反応される――って思ってたけど。……ネイチャは優しいねー」

 

「いやいやいや!? ルームメイトのおめでたい話じゃん! 確かに離れ離れになるのは悲しいけど、さ。それとこれとは別じゃん!!」

 

 確かに状況や人によってならば、あまりいい顔をしないかもしれない話ではあった。特に『一刻も早く中央に返り咲くんだ!』みたいなメンタリティで常日頃から励んでいた人物などであったら、恐らくこうも簡単にソーエームテキが話を切り出すことは決して無かっただろう。

 悪いようには言ってはこないとソーエームテキも確信こそしていたものの、それでも境遇が境遇であるナイスネイチャに対しては切り出しにくい話でもある。にも関わらず、最初に出てきた言葉はソーエームテキに対する心配の言葉であった辺り、ナイスネイチャの人の良さが自然と出てきた場面であった。

 

「……でも、1つだけ良いかな。

 ネイチャ……。私のお母さんよりも過保護だよ、それ?」

 

 

 ネイチャはクリティカルダメージを受けた。

 

 

 

 *

 

 翌月、10月の半ばごろには、ソーエームテキはホッカイドウトレセン学園を後にしていた。

 

「……こうしてみると広く感じるもんだねえ。この部屋も」

 

 ソーエームテキと同室であったナイスネイチャの部屋は、彼女が居なくなったことで相当広く感じるようになっていた。

 

「……思えば、アタシ……ずっとマーベラスにこの思いをさせ続けているんだよね」

 

 マーベラスサンデーの同室埋まらない問題は、ネイチャが悪いというよりも全面的にあの黒光り男の悪行ではあるけれども、そうは言ってもナイスネイチャの罪悪感が軽減されるわけではない。メッセージアプリでマーベラスサンデーに他愛も無い話を振りつつ、広くなった自室をナイスネイチャは見渡す。

 

 

 中央トレセン学園においては『同室のウマ娘が居なくなる』というのは海外遠征などの限られたパターンを除けば、多くの場合あまり良い知らせではないことが多い。が、ホッカイドウトレセン学園のジュニア級ウマ娘にとっては、むしろ大多数の場合それは吉報である……というのは、ずっと前にナスノホシジョーから話されていたことではあった。

 

 そして、その数は門別ローカル・シリーズレースのシーズン終了後まで踏まえればかなり多い。だからこそ、門出であるとはいえ一々クラス送別会的なのを学園として開いていては割とキリが無いので、仲のいい子同士やクラスメイト同士などで集まって打ち上げ的なことをする。

 ネイチャも勿論、誘われれば参加していたし、ソーエームテキのものの場合はむしろ主催側に立っていた。またそれとは別に、引っ越し荷物の梱包の手伝いから、中央での勉学の進捗を中央のネイチャ同期フレンズから聞きだしたり、あるいはトウカイテイオーに対して『アタシのルームメイトがそっち行くからよろしくね』とお願いをしたり、あるいはイクノディクタスを始めとする困ったときに頼れる先輩たちなども教えている。

 

 そのあまりの過保護っぷりは、やはりソーエームテキからすれば『ここ1,2週間で、友達って言うか、2人目のお母さんって印象になった』と言わしめるほどであり、それを聞いたナイスネイチャは再び撃沈するという一幕もあったりした。

 

 

 そこまで思い返していると、ふとソーエームテキのものであった机の上に1枚の便箋が置いてあることに気付く。

 

「……あれ? ソーエー、忘れ物でもしたのかな」

 

 その便箋を手に取り中身を読むと次のように書かれていた。

 

 

『――この手紙を見ているときは、きっとソーエームテキがもうこの部屋から居なくなっているときだろう。

 手紙を見たら、トレーナー室に来て欲しい。なお読み終えると5秒後に発火するので必ず手を離すこと。

 

 トレーナー』

 

 

「……って、トレーナーさんからかい!? それに、危なっ!」

 

 

 なお男の黒魔導の火は全く熱くなく火傷をすることの無い安全仕様ではある。

 だが、ナイスネイチャ目線で考えるなら、それならそもそも炎っぽいものを使うな! というものであった。

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