最強黒魔導士によるウマ娘育成のススメ   作:エビフライ定食980円

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第14話 本年度の集大成に向けて

「ナイスネイチャンではなくナイスオカンだったとはな」

 

「なーんで、トレーナーさんがソーエーのお小言を知っているんですかねえ……」

 

 一応、置き手紙の言う通りにトレーナー室にやってきた素直でいい子のナイスネイチャは、開口一番にしょうもないことを言い放ってくる。

 

「ソーエームテキ本人から教えてもらった……メッセージアプリでな」

 

「あの子、アンタのこと嫌っていたはずなのに、いつの間に!?」

 

「ちょうど送別会をやっていた時期だな。『俺の連絡先を知っていれば、イスネイに直接言いにくいことを聞けるかもしれぬぞ』って言ったら、すごい嫌そうな顔しながら交換してくれたぞ」

 

「あー……そりゃ、殺し文句ですわ」

 

 ソーエームテキが中央に転校することを言う際に、ちょっと渋っていた感じがあったことを想起したナイスネイチャは納得を示す。と、同時に社会不適合……というか指名手配書が出回っていてもおかしくない、常人ではない服装と仮面を身に纏った男が、経緯はどうあれ交流関係だけ見ればかなりの社交的な人物であるところに腑が落ちなさを感じる。

 

 

「……で。トレーナーさんは置き手紙なんて凝ったことまでして、アタシを呼びつけた理由は、そのセンスあるギャグを言うためだけじゃないよね?」

 

 ――そう言えばナイスネイチャは、笑いの沸点という側面で若干だが『寛容』な部分があった。彼女は、万人受けはしないかもしれないが玄人好みの独創的な笑いに対しても理解を示す。

 

 そして男のギャグセンスについての突っ込み不在の場のまま、話は突き進む。

 

「ああ。まだ10月であるが、ここ門別において11月の上旬には全ての興行日程が終了する。それは知っているな?」

 

「そう言えばホシジョーも前にそんなことを言ってたねえ。ま、確かにシーズンの終わり、としてみれば早いけど……」

 

 既に稚内や旭川の方では、初雪が観測されている。門別は沿岸部で、小樽とか石狩のある道央日本海側と比べるとやや寒冷ではあるものの、それでも最北端や内陸部に比べればずっと温暖である。だからこそ、雪が降り出すのもちょうど門別でのレースシーズン終了間際に引っかかるかどうかにはなっている。

 

 ただこれはあくまで沿岸部の話であり、日高山中に小屋をぶち立てた男の根拠地はもうどえらいことになるのだが、まあこの黒男は寒さとか感じない身体なのでどうでも良いだろう。

 

 それよりも大事なことは、後1ヶ月足らずで門別における今年の興行は終了するということ。

 

「つまり。ジュニア級のうちに、ここで出られるレースって後1、2戦ってことだよね」

 

「その通りだ、イスネイ。だが、まあ連戦になりかねないから1戦のみにしようと思っている――」

 

「トレーナーさんももったいぶりますなー。……もう、決まっているんでしょ、そのアタシのジュニア級最後のレースが……」

 

 そして、男はそのネイチャの急かしに対して、ゆっくり息を吐きつつこう答えた。

 

 

「――『JBCジュニア優駿』だ」

 

 

 

 *

 

 文部科学(・・・・)大臣賞典、JBCジュニア優駿。

 

 その格付けは中央・地方ダート交流重賞であるJpnⅢ――これはそれまでの地方重賞とは異なり、国内では中央GⅢ相当として扱われるレースだ。

 

 本レースに勝利すれば、12月の川崎の舞台――JpnⅠ・全日本ジュニア優駿への切符が切り拓かれる。

 また、このレースは名前に『JBC』と付いていることから、クラシック級・シニア級の混合が対象となるJpnⅠのレース、JBCクラシック・JBCレディスクラシック・JBCスプリントの3競走と同一日開催となる、地方ダートの祭典に組み込まれた大レースの1つだ。

 

 JBC諸競走自体は、各レース場が持ち回りで開催している……とはいえ、地方レース場が南関東に集中していることもあって、そこでの開催が半分以上ではある。

 しかし、一方で『JBCジュニア優駿』だけは、制度上においては同じく持ち回り開催ということになっているものの、実態としては現状では門別においてしか開催されたことがない。

 これは前身レースが北海道のものであったことにも由来することではあるけれども、この辺りからもホッカイドウトレセン学園のジュニア級のレベルの高さというのは窺えるかもしれない。

 

 そして、門別のレベルの話が出たのでついでに言ってしまうと、門別における最も高い格付けのレースは、この『JpnⅢ』であり、JBCジュニア優駿を含めても門別にあるJpnⅢは僅かに4つのみ。今、ナイスネイチャがここで出走することのできるレースの中では最高峰と言っても全く誇張でも過言でもない、北海道におけるジュニア級ウマ娘を決定付けるレースだ。

 

 

 それは、今のところ出走予想メンバーを見ても明らかであった。

 

「ホシジョー……ドラール、クラジョウオー……。

 カネマサルビーの名前が無いのは、多分オープン戦のレースに出てて調整中だからだろうけども……。それでも戦ったことのある相手ばっかりだ……」

 

 クラジョウオーはナイスネイチャも出走していた地方重賞レースにおいても掲示板内にはしっかりと入ってきていた有力ウマ娘。

 ドラールオウカンは、ペリドット特別でのナイスネイチャとの直接対決の後も、オープン戦レースで好成績をマークしていて、しかもまだ本格化を迎えていないという潜在性のあるウマ娘。

 

 そして、ナスノホシジョー。イノセントカップの後に連戦で、H1・サンライズカップの優勝をも掴み、連勝数と地方重賞勝利数を更に伸ばしている、今の門別ジュニア級における頂の存在。

 

「俺の構想的には出ても出なくても、意味は変わらないレースだが。

 貴様にとって。出る『意義』のあるレースであることだろう――」

 

 

 その施行距離は1800m。それはこの世界においてギリギリマイル戦に区分される距離ではあるものの。

 今までの門別のレースにおいて、最も長い距離がナイスネイチャに、そして彼女の同期ウマ娘たちに襲い掛かることとなる。

 

 

 

 *

 

 JBCジュニア優駿にナイスネイチャが出走登録をし、それが公然のこととなると、クラスメイトからも応援の声が飛んでくることとなった。

 地方重賞も充分に重大なレースであって、別の地区の地方ウマ娘も出走できることが多いけれども、流石に中央ウマ娘も出走可能な『交流重賞』となると、同じ上澄みレースであったとしても、その反応はもう一段階上のものとなる。

 具体的に言えば、ネイチャから直接言っていないのにも関わらず、中央のウマ娘からも声援がメッセージアプリや電話などで届く感じ。

 

 それだけ『JpnⅢ』というGⅢ相当のレースの重みは、競走ウマ娘にとって大きいものなのである。

 

 

 ……と、言うことで。それから少しばかし日付が経過した10月末のとある休日。

 ナイスネイチャが放課後のトレーニングを練習用トラックで行っていたときに、急に話しかけられた。

 

「あっ、いたいた~! にっしし……おーい、ネイチャー!

 はーっ、やっと見つけた!!」

 

 どこか特徴的な声で、ネイチャにとっては懐かしくも聞き覚えのある声が、遠くから彼女のことを呼んでいた。

 だからこそ、ネイチャはトレーニング中であったことも重なって、一瞬頭では何も考えずに返答する。

 

「ちょっと今練習中だから後でねー! テイオー! ……んっ?

 ……テイオー? え、テイオー!?!? なんで!?」

 

 ナイスネイチャは尻尾がピンと伸びつつ、完全に脚を止めて呆然としながら、声をした方に振り向くと、そこには確かに――トウカイテイオーが居た。

 

「ふふーん、ドッキリ大成功ー! どうどう、ネイチャ驚いた?」

 

「そりゃ、驚くって! なんでテイオーが門別に居るのさ?」

 

「実は……ボクが小学校の頃通ってた倶楽部の合宿所が、ここの隣町にあるんだよねー!

 でも流石に夏にしか使ったことが無かったから、秋の北海道は寒いよー!」

 

 自慢げに話すトウカイテイオーの上着の枚数は、確かにここ門別のウマ娘たちよりも明らかに1枚多かったし、手袋やマフラー、防寒耳カバーなども完全装備である。

 これは確かに北海道のことを『分かっている』タイプの本州の人間の装備であった。

 

 そして今更ながらナイスネイチャは内心で、

 

(そういや、テイオーってやんちゃと言うか、わんぱくって感じだから忘れがちだけど……結構、良いトコのお嬢様だった……)

 

 と、思い出す。小学校時代のレース倶楽部とは言うが、合宿所を自己保有ということは、恐らく子供も受け入れている育成クラブチームとかそういう感じであろう、とネイチャは目星をつける。その手で有名なのは『ヴィクトリー倶楽部』だが、それに準ずるくらいはあるのかもとネイチャは予想する。

 

「……もう、テイオー。デビュー前なのに急にこっちに来て風邪ひいたりしないでよね?」

 

「これが噂のナイスカーチャンだ!!」

 

「うるさいわ! ……って、『噂』ってことはソーエーと仲良くしてるんだテイオー」

 

「こっちでのネイチャの同室だった……って聞いてるし、ネイチャも様子を見て欲しいって言ってたからねー。

 ま、そんなの無くても無敵のテイオー様なら、きっと仲良くしたもんね!」

 

「テイオーなら、確かに誰とでも仲良くなれそうだわー……」

 

 面と向かって会うのは半年ぶりくらいなのにも関わらず、息の合った漫才に周りのウマ娘の子たちも生暖かい目でこちらを見てきている。耳が完全にこの2人の方向を向いている辺りバレバレであった。

 加えて言えばネイチャが一番話題に出す中央ウマ娘の同期がこの『テイオー』だったのだから、それは気になるというものであろう。

 なおナイスネイチャが声をかけるまでは『来年入学の小学生の子が見学に来たのかな?』とか彼女たちは思っていたが、それは口に出していないのでセーフである。まあ、その華奢さが彼女の特異な柔軟性に直結しているので、目の付け所は実は悪くは無いのだが。

 

 で、テイオーはネイチャに来訪の理由を告げる。

 

「ボクもデビューを控えているから、気分転換? って言うか息抜きで、いつもと違う場所でトレーニングしようと思って、こっちに来たんだよね。

 トレーナーに頼んで予定じゃないのに入れてもらったから、割とドタバタしちゃったんだけど……」

 

「予定外のことをデビュー前にやって大丈夫なの、テイオー」

 

「……それ、デビュー直前で転校したネイチャが言う?」

 

「……」

 

 テイオーに完封なきまでに論破されてしまったものの、ここでの北海道合宿は短期で気分転換や息抜きといった要素を多く含んでいる小旅行的なものとはいえ、完全にトウカイテイオーの構想外のものであった。

 『本来の予定』では絶対になかったここでの北海道でのテイオーの息抜き。それが何を意味するのかと言えば。

 

「……ネイチャ、初めての重賞なんでしょ?

 だから、当日はボクも応援するからね!」

 

 そこまで言われてナイスネイチャはようやく気付く。

 

(……これって、もしかしてテイオーに意識されてる、え、アタシが?)

 

 きっと。ナイスネイチャの初めての重賞レースにトウカイテイオーがわざわざ長距離移動までして観戦をしにくる……なんてことは、テイオーがデビューした後であったら絶対にありえないことであっただろう。

 

 

 トウカイテイオーにとってクラスメイトで大事な友達であった……が、逆に言えば当初においては『それ止まり』であったナイスネイチャが。

 

 地方トレセン学園というトウカイテイオーにとって知らない場所で。

 ダートというトウカイテイオーにとって未知の舞台で。

 『JBCジュニア優駿』というトウカイテイオーにとって構想していない重賞レースに至るに至った。

 

 ――これを全て『トウカイテイオーのデビュー前』に成し遂げたウマ娘がナイスネイチャである。

 

 他の地方ウマ娘が同じことを成し遂げても、きっとトウカイテイオーは知ることすらなかっただろう。何故なら『無敗の三冠ウマ娘』になるにあたってダートグレード競走のことなど知る必要の無い情報だから。

 

 ……トウカイテイオーにとって友達だったから。ナイスネイチャであったから。

 テイオーは、ナイスネイチャのことを『全く異なる舞台で戦うウマ娘』として認識した。

 

 テイオーはナイスネイチャのことを強敵と感じているわけでもなく、ましてやライバルと思っているわけでもない。が、テイオーにとって完全に想像の埒外にぶっ飛んでいったネイチャのことを、彼女の普段の性格や気質からあまりに逸脱した決断ということも踏まえて、『ただの友達』枠ではもう見ていなかった。

 

 未来の『無敗の三冠ウマ娘』への立候補者は、この時点で5戦2勝のウマ娘を確かに意識していたのだ。

 

 

 だからこそ。

 

「……お、おお……テイオー、アタシもテイオーの声援を、楽しみにしているんだぜ」

 

「……だぜ? ネイチャ、なんか語尾がヘンだよ?」

 

 

 動揺のあまりに、封印されし『だぜネイチャ』さんが再び出てきてしまったのも致し方の無いことなのかもしれない。

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