最強黒魔導士によるウマ娘育成のススメ   作:エビフライ定食980円

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第15話 ジュニア級11月前半・JBCジュニア優駿【JpnⅢ】(門別・ダ1800m)

「――最終確認にはなるが。

 やはりすべての争点はナスノホシジョーであろう」

 

「ま、それはそうだよね、トレーナーさん。うちのジュニア級って言ったらホシジョーの連勝街道ってイメージだし」

 

 JBCジュニア優駿は、意外かもしれないが通常門別ではメインレースとなる最終レースではなく今年は第9レースでの発走となった。これは現在他レース場で開催中のJBCシリーズの他のJpnⅠレースとの兼ね合いを受けての措置である。なお、今年の開催は大井レース場とのこと。

 即ち、JBCクラシックなどと時間を離しすぎる訳にはいかないし、あるいは時間が被ってしまったりしてしまっては同日開催にしている意味が無くなってしまうからだ。

 

 そして門別の枠組みで見れば最高位だが、JBCシリーズとして見るならばJBCジュニア優駿は、メインのレースとはならない。それに他レースは持ち回り開催なのだから、相手の会場の日程に配慮をするのが筋、というものだろう。

 

 そしてその両レース場で行われるレースをまとめて『JBCデー』として大々的に周知して一大イベントとして興行している都合上、大井レース場側もJBCジュニア優駿の時間のタイミングでは自コースにウマ娘を走らせることなく門別の中継映像に切り替える。

 

 そして逆に言えば。門別レース場サイドにおいては、現在行われているJBCレディスクラシックとJBCスプリントの中継に切り替わっているタイミングなので、ネイチャの発走の1時間半以上前から一切誰も走らないこととなっているのだ。

 バ場状態はその前のレースまで『重』であったが、今日の天気はずっと曇りで何とか持ちこたえている。だからファンたちも雨を気にしながらも、外でモニター越しに声援を送り続けていた。

 

 そんなファンはモニターに注視しているタイミングで、ナイスネイチャと黒魔導士のトレーナーは控え室で出走前最後のミーティングを行っていた。

 

 ……いや。

 

「ねえ、ねえ! そんなにナスノホシジョー? って子は強いの!?」

 

 失礼、この控え室にはトウカイテイオーを含めて3人居た。

 

「……というか、なーんでテイオーがアタシの控え室に居るのかねえ」

 

「ああ、俺が誘った。暇そうにしていたからな。

 本当はトウカイのトレーナーも誘っていたのだがそっちは断られた」

 

「ボクのトレーナーも一緒に来ればよかったのにー!」

 

 本番前のウマ娘の控え室。そこは戦術的な最終チェックも行われる場だ。だからこそ、トウカイテイオーのトレーナーは紳士協定というか、先方が承諾していたとはいえ流石に辞去したのであろう。

 とはいえテイオー本人を突っ込むことを是としている辺りは、ただ清廉なだけではないとも言える。そんなテイオーは初日にネイチャに会いに来て以降は、門別に現れることなく、隣町の合宿所で負荷があまりかからないトレーニングをする休息メインのメニューをこなしていたようだ。

 

 で、テイオー向けも兼ねて改めて本日の1番人気、7枠10番のナスノホシジョーの戦績が振り返られる。

 ここまで8戦して敗北はわずかに1回。それ以外は全勝である。そして勝利だけではなく、その勝ち方も異質である。

 

 メイクデビュー、スーパーフレッシュチャレンジにおいては2着ソーエームテキと5バ身差。

 日本最速の地方重賞である栄冠賞、何よりも早熟性が問われるこの1200mの舞台において、2着・カネマサルビーとは4バ身も差をつけて。

 同じく1200mの再挑戦の場であったH3・イノセントカップでもソーエームテキとの再びの5バ身差。

 

 ネイチャが出走していないレースにおいても、H3、ダート1000mのフルールカップでも2着と4バ身、そして前走・H1のサンライズカップにおいてはドラールオウカンと衝突していて彼女に1バ身半の差をつけての勝利をもぎ取っていた。

 

「希望的観測をするのであれば、前走のサンライズカップで底が見えたところだな。

 勝ってはいるが『いつもの圧倒的勝利』では無かった」

 

 もっとも。基本、上位層しか出てこない地方重賞の場で4バ身とか5バ身差をつけての圧勝が『いつも』と言われる時点でもう大分おかしなことにはなっているが、それでも付け入る隙らしい隙はそれくらいだろう。

 そしてサンライズカップの施行距離は、今日のJBCジュニア優駿と同じ長さの――ダート1800m。

 

 男の言う『希望的観測』というのは、ナスノホシジョーがスプリンター専門であるという可能性である。が、とはいえ既に圧倒的勝利ではないにせよ、今日のレースと同一距離の地方重賞の舞台で勝利していることもあっては『希望の目』は些か薄いようにも見える。

 

「――でさ! ネイチャはそんなサイキョーのウマ娘にどうやって勝つのー!?

 なんか、秘密兵器! とか、最終奥義! みたいなのを用意しているんでしょ? 誰にも言わないからボクにも教えてよー!」

 

 トウカイテイオーにとってみれば、ナイスネイチャが不思議な方向に進んだのは、黒魔導士の男と関わってからである。まあ、間違ってはいない。

 だからこそいかにもファンタジーっぽい『必殺技』的なものをネイチャに仕込まれているとテイオーは思ったのである。

 

 『いつも3着であったネイチャを勝たせる魔法』というものがあるからこそ、ネイチャとこの黒いトレーナーが契約したとばかり彼女は考えていた。

 

 

「あははっ! テイオーもギャグが上手になったんじゃない? でも――」

 

 その直後、ナイスネイチャと男の声が重なる。

 

 

「そんなものはない」

「そんなものはないよ、テイオー」

 

 

 

 *

 

「門別グランシャリオナイター、今日のメインは第9レース・文部科学大臣賞典の、JBCジュニア優駿――JpnⅢ、ダート1800mの舞台です。

 ……ここ門別で行われますJBCレース、12人のウマ娘たちの間もなくの発走となります」

 

 今日の1番人気はもちろん7枠10番ナスノホシジョー。

 その次点である2番人気が、彼女のお隣りに収まることとなる8枠11番ナイスネイチャ。

 

(多分、きっと。これが最後なんだよね。

 ……ホシジョーたちと戦うレースは)

 

 ドラールオウカンは7番人気。クラジョウオーは10番人気。こうしたこれまでの強敵たちの人気薄は、徐々に本格化が早くデビューした子たちから、ゆっくりと準備を重ねてきた子への期待に観客の目は移っていることである。

 

 あるいはイノセントカップでは2着であったカネマサルビーは、前走において絶不調で最下位の入線となったことで、JBCジュニア優駿は見送ることとなっていた。

 そして……同室のソーエームテキは、もう中央に転校済みで。

 

 既に門別のジュニア級ウマ娘たちは岐路に立ち、各々の道に進もうとしていた。

 

 そうした中でナイスネイチャが今、ゲートに入った舞台の名は『JBCジュニア優駿』。

 

 格付けはJpnⅢ――門別における最高位のレースである。

 

 

(今のアタシたちが出られるレースとしては、最高の旅立ちの場……ってことだよね。

 先のことはトレーナーさん次第だから分からないけど……それでも――)

 

 

 そこから先のことは考えず意識をレースへと切り替えるナイスネイチャ。

 

 

「さあ、出走するウマ娘全員のゲートインが終わりまして……スタートします! きれいなスタートを切りまして、まず内から上がっていきますのが3番ハートシーザー、そしてそれに競り合うのがチェンバロリズムといった格好です――」

 

 大きな出遅れはなく、各ウマ娘がそれぞれ戦術通りの位置取りを取ろうとする最初の直線は、これまでとは異なりホームストレッチ側。

 今までナイスネイチャが出走してきたレースのほとんどが短距離戦で向こう正面からのスタートであったのに対して、今日はコースを1周する運びとなっている。

 

 コース形状的な有利・不利というものはあまり無いように思えるが、ただデータを見るとこの門別1800mというレースは内枠スタートがやや不利になるようで、これは序盤の位置取りを重視するウマ娘が多いということもあるのかもしれない。3番ハートシーザーが先行争いでトップに出てきたのも、蓋をされるのを嫌って出てきた、という側面は多分に存在するであろう。

 

(……やっぱ、ホシジョー控えるよねえ)

 

 手早く白旗の係員をチェックしたナイスネイチャは、隣のナスノホシジョーの位置をしっかりと確認する。ナスノホシジョーは無理に前に出ようとせず序盤は脚を溜めるようだ。

 

「さあ、先頭の2人がそのまま第1コーナーに入りまして、その後ろにはドラールオウカン、ダンサーズクロス、クラジョウオーが前目に付けております。

 その1バ身後方にミニロータス、更に隣にはスーパーノバ。すぐ後ろに本日2番人気のナイスネイチャ、そこから2バ身離れてナスノホシジョー、1番人気ですがこの位置につけております……残り1400m地点でのこの状況、これはどう見ますか?」

 

「澱みの無い展開ですね。これまでジュニア級戦線で結果を出してきた子たちは非常に落ち着いたレースが出来ていると思いますし、逆に最近デビューして上り調子の子は、その勢いがしっかりと脚に乗っているように見えます。

 ……前の逃げの2人がやや早いラップなのが若干気にはなりますが、重バ場ですしある程度の高速化は逆に計算なのかもしれません」

 

「さあ各ウマ娘、バックストレッチへと入っていきます――」

 

 

 

 *

 

(ペースは普段よりも、ちょっと遅め……かな。でも、それだとホシジョーかなり脚を溜めていることになるんじゃ……)

 

 

 平均ペースとして見れば。解説の言う通りやや高速気味の展開である。

 しかし、それは1800mというマイル戦最長距離のレースという前提の上での話だ。これまで短距離を主戦としてきたナイスネイチャにとって、今のペースはいつもよりも明らかに『遅い』立ち上がり。

 

 この、いつもより『遅い』ペースで走っているのに客観的にはハイペース気味という矛盾にナイスネイチャは気付いたわけでは無かったが、さりとて不気味に沈黙し続けているナスノホシジョーの様子をみて、ペース配分を変えない選択をした。

 

 

(あれ……この景色)

 

 その直後、ナイスネイチャは周囲の情景に既視感を覚えることとなる。それは別に何かの幻術や魔法にかけられた、というわけではなく、単に今まで3戦連続でスタート地点となっていた残り1200m地点をとうに通過して幾許か……ちょうど、加速局面が終わった辺りの距離に辿り着いたからである。

 

 つまり、これまでの600mと少しの距離は、今までのレースではアタックチャレンジ競走を除いて存在しなかった距離であり、普段はこの辺りからスタートしていたということをナイスネイチャは理解した。

 

 だからこそナスノホシジョーがずっと自分の後ろに控えっぱなしであったということに思い至ると同時に、ナイスネイチャは――気付いた。

 

(……あれ? もしかして、今日……いつもの第3コーナーから、さ。

 前走と同じように『ロングスパート』をもし……かけたら――それって、どうなるの?)

 

 

 マイル戦において、短距離戦と全く同じ仕掛け。

 前回のイノセントカップでは栄冠賞と既視感のある展開にしたことで他の全てのウマ娘にとって『バフ』となった選択であるが。

 

 距離の違う舞台においての栄冠賞、イノセントカップの再度の踏襲は一体何をもたらすのだろう。

 

 やっぱり中盤後半から終盤戦が似通って、これまでのレースの研究成果が出せるという意味では『バフ』?

 それとも異なる距離なのに短距離の情景を押し付ける、というのは『デバフ』?

 

 

「さあ、第3コーナーに入りまして、前は変わらず……っと、中団後方で動きがありました! ナイスネイチャが早い仕掛け! これはロングスパートでしょうか!?」

 

「これはイノセントカップでも見られた光景ですね。やや閉塞的な展開でしたので、ここで動きを作る、というのはナイスネイチャにとっても、他のウマ娘にとっても、面白い選択になるかもしれません」

 

「……さあ、ナイスネイチャ! そのまま単独で(・・・)前に向けて進出していきます!」

 

 

 ナスノホシジョーの必勝パターン。

 いつもの場所で、いつものようにナイスネイチャはロングスパートの仕掛けを行った。

 

 

 ――しかし。

 そこでナスノホシジョーが、ナイスネイチャのことを追走することは無かったのである。

 

 

 かくして。

 JBCジュニア優駿は、誰にとっても未知のレース展開へと突入することになったのだ。

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