最強黒魔導士によるウマ娘育成のススメ   作:エビフライ定食980円

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第17話 それからの話

 JBCジュニア優駿から2日後に、今年の門別での興行は全て終了した。

 これは、それからの話。

 

 最終調整と小休憩と気分転換を兼ねつつナイスネイチャのレースを見に来ていたトウカイテイオーは、JBCジュニア優駿の翌日には帰りの便の飛行機に乗っていた。

 『無敗の三冠ウマ娘』になることを公言してやまないこの少女は、その志は変わらず、けれどもそれが改めて生半可な覚悟では成し遂げることのできないものだと認識できたのは、彼女にとっても大きな収穫と言えるだろう。

 隔絶した実力があれば、勝ちやすくはなる。が、それも確実ではない。事実、『無敗のクラシック三冠』を達成したシンボリルドルフも菊花賞の次走のジャパンカップで手痛い敗北を喫しているのだから。ナスノホシジョーという門別ジュニア級王者の敗戦を目の当たりにしたテイオーはスケールの違いこそあれど、それを自覚することとなる。

 と、同時に、それでも揺るがず普段通りであったネイチャに一定の答えを見出した彼女は、12月に入るや否やメイクデビュー戦に挑み、これに危な気なく勝利している。

 

 無敵のテイオー伝説はかくしてここに幕開けとなった。

 

 

 それ以外の門別の少女たちも見ていこう。

 

 

 一足先に中央トレセン学園へと転校したソーエームテキ。

 彼女は、その中央初戦で挑んだ11月後半の『京都ジュニアステークス』にて、下から2番目の人気であったのにも関わらず、番狂わせの勝利を決める。

 それを寮の共用ルームのテレビで見ていた門別ウマ娘一同は大盛り上がり。

 そのまま流れで同室であったナイスネイチャが何故か胴上げされることになったが、それはともかく芝の中距離重賞の舞台でソーエームテキが戦えることが分かったレースであった。

 

 

 ダンサーズクロス。JBCジュニア優駿において優勝した彼女は、大方の予想に反して北海道に残留することを選んだ。インタビューにおいては、

 

「勝ちはしましたが、あれが初の重賞挑戦でしたので、もう少しトレーニングを積んでから色々考えたいです」

 

 と殊勝なことを言っていたものの、門別のトレセン生の間では彼女が、翌年のクラシック級においてホッカイドウ三冠を視野に入れていることは周知の事実であった。それは挑戦者であり続ける選択肢でもあり、同時にここでの1勝だけで終わらせるつもりは毛頭ないという宣誓でもある。

 

 

 クラジョウオー。栄冠賞では4着、イノセントカップで5着、JBCジュニア優駿では10着でナイスネイチャとの対戦歴は地味に多い。

 そんな彼女は年明けから九州の佐賀トレセンへと転校することが決まっており、まずは現地に慣れていくつもり、とネイチャたちには言いつつ旅立って行った。なおナイスネイチャは『寒暖差には気を付けて風邪、引かないようにね』とやっぱり親みたいなことを言って送り出していた。

 

 

 カネマサルビー。栄冠賞2着、イノセントカップ4着のウマ娘。

 直前のレースで絶不調であったこともあり、JBCジュニア優駿への出走は見送った少女はこの冬シーズンを丸々コンディション調整に充てつつ、春からは大井トレセンで出走することを決めていた。

 そんなカネマサルビーからは、

 

「いつか、アンタを侍らせてウイニングライブをする!」

 

 と宣言されたが、ナイスネイチャは内心『多分アタシが大井のレースに出ることはないと思うんだけど……』とは、言えなかった。あの黒ローブの男のローテーションの組み方は未だにナイスネイチャも測りかねているところがある。

 無粋であるし、万が一を考えてもあって黙って頷くだけに留めていた。

 

 

 ドラールオウカン。ペリドット特別で5着、JBCジュニア優駿でも5着。

 まだ完全な本格化には至っていないらしい少女は、ネイチャにとってはターボとイクノの夏合宿のときの恩人である。一緒に遊びに行ったことは勿論のこと、それ以外にもネイチャが手が回らなかった地元ならではのローカルルール的な部分でサポートもしていてくれていたようで、そういう裏方染みた働きをとても評価するのがナイスネイチャという少女であった。

 なおドラールオウカンは黒魔導士の男のことを未だに嫌悪……というか敵視、危険視しており、その溝が埋まることは無かったが、これに関しては、しょうもない魔法を見せつけまくった男の方が全面的に悪い。

 

 そんなドラールオウカンも転校先はカネマサルビーと同じく大井。だが、彼女は既に南関東のティアラ路線に照準を定めており、その成績次第であるがJpnⅠのジャパンダートダービーも視野に入れているとのことであった。

 

 

 最後にナスノホシジョー。まだジュニア級ながらも地方重賞四冠ウマ娘。JBCジュニア優駿で2着と惜敗を喫したものの、それでも最有力ウマ娘であることには変わりない。

 そんな少女の次の目標は――GⅠ・ホープフルステークスであった。

 

 

「……いやいやいや! ホシジョー、スタミナ的に2000m大丈夫なの!? せめてマイル戦の朝日杯フューチュリティステークスにしなよ!」

 

 ロングスパートが必勝パターンであったナスノホシジョーがJBCジュニア優駿においては、それを仕掛けたナイスネイチャに一切追走せず、そして最終直線から仕掛けたものの先頭に届くことが無かったのは誰しもの印象に残っていた。

 そして、その展開を仕掛けた張本人だからこそ『ナスノホシジョーが先天的にはスプリンター』なのでは、という確信をナイスネイチャは抱いている。だからこそのお節介だった。

 

 これに対してナスノホシジョーは答える。

 

「あー……あはは。ほら、私、ネイチャちゃんと戦ったイノセントカップとJBCジュニア優駿の間に、サンライズカップに勝ってたじゃん?

 ……あれで、ホープフルステークスのステップ競走の『北海道ブロック代表ウマ娘』になっているんだよね。本当なら中央に転校してレースを決めようかなって思っていたけど……」

 

 地方ウマ娘が中央のGⅠに出走する方法はいくつかある。

 かなり複雑なので、今話題に出てきているホープフルステークスに限って話をすれば、これはまずは『ステップ競走』で2着以上か、『他の中央のジュニア級芝重賞』で1着のいずれかの条件とはなる。

 

 しかし、そもそもその両者ともに中央重賞であるために、中央GⅠの前提となるレースにおいてすら出走条件が別途設置されているのだ。

 その中で、ナスノホシジョーが勝利したサンライズカップは、ホープフルステークス・ステップ競走への『出走権』が得られる『ブロック代表ウマ娘選定競走』であり、これを勝利したナスノホシジョーは、ホープフルステークスに挑戦する権利……を得るためのステップ競走に挑戦する権利を得た。……回りくどい。

 なお、ブロック代表ウマ娘の選定競走が存在しない場合もあり、そのケースだと選考会で通過すれば出走可能である。

 

 あと地方ごとの『ブロック』なので必ずしも地方トレセン学園1つにつき1枠というわけではないが、北海道ブロックには門別のトレセン生しか居ないので、この点では若干他の地方トレセン学園よりはお得である。

 

 

 しかもこれはあくまで『出走権』であり『優先出走権』ではないので、実は条件次第では普通に除外されることもある。まあこの時期にこれだけ勝利を積み重ねているナスノホシジョーの『収得条件』的にはおちおち除外となることは無いのだが。

 そして『ブロック代表ウマ娘』以外にもステップ競走の出走手法は何パターンか存在するが、URA内部で一部改正の話もあるため割愛する。

 

 そしてナスノホシジョーが選択したホープフルステークスの地方ウマ娘用のステップ競走は『東京スポーツ杯ジュニアステークス』、GⅢ・芝1800mの舞台である。

 ……というかもう1つのステップ競走は京都ジュニアステークスで、ガッツリ、ソーエームテキが当初より出走表明していたレースだったので、流石にそこにぶつけるのは避けた、という意味合いもあるだろう。

 

 まあ、ナイスネイチャ的には『折角貰った代表としての権利を捨てるのは勿体ないよね……』と考えて納得はしていたが、実際のところ中央に転校するのと難易度的には大して変わらない気もする。

 

 そうしてホープフルステークス狙いで出走した『東京スポーツ杯ジュニアステークス』であったが、結果はまさかの下から2番目。

 ほぼ同時期、というかその後であったソーエームテキの京都ジュニアステークスの勝利と図らずも対照的になってしまったが、それでもナスノホシジョーは、ソーエームテキが勝ったときに、ナイスネイチャの胴上げに加わっていた。

 自身の初の中央挑戦で手痛い敗北をしたものの、それはナスノホシジョーにとっても友達であったソーエームテキの勝利を喜ばない理由にはならなかった。

 

「……そういうところは、やっぱりアンタがアタシたちの『王者』だよ」

 

「……? ネイチャちゃん、何か言った?」

 

「ううん、なんでも。

 ……というかホシジョー、来年からはどうするの? やっぱりまた芝のレースを狙うの?」

 

「もしかしたら私は芝は合わないのかもー、って気もするから、それはソーエーちゃんに任せることにしました!

 ってなわけで、ホッカイドウ三冠狙いかなー。まあ、それでも距離の延長を今から頑張らなきゃなんだけどねー」

 

 最終的にはナスノホシジョーは、門別に残り、そのまま冬シーズンはスタミナの強化と距離適性を伸ばしていく決断を下したのであった。

 

 

 

 *

 

 そして。最後に――ナイスネイチャ。

 

「――そんな感じでさー。本当に皆、転校しちゃってネイチャさんもびっくりですわ。いや、ホシジョーから聞いていた……ってか、その肝心のホシジョーはまさかの残留組だったワケなんですが……。

 流石にアタシも、来年以降どうするのか、そろそろトレーナーさんから聞きたいんだけど――」

 

 ホッカイドウトレセン学園の一角にあるトレーナー室にて、黒魔導士のトレーナーと向き合うナイスネイチャ。

 彼女は未だにジュニア級以後の予定を聞いていなかった。とはいえ、出走予定に関してはこれまでも完全にこの男に任せているために、異論を挟むつもりは皆無ではある。

 とはいえ、転校をするのであれば、また引っ越しをする必要がある。メイクデビューのときに、かなりドタバタな感じで門別に来たから、そこだけは早めに知りたかった、というネイチャの考えはごくごく自然なものであろう。

 

「ほれ」

 

 男は、そう言いながら、収納魔法から1枚の用紙を取り出し、杖を更に振るい無詠唱魔法を使ってネイチャの手元までその紙を飛ばす。

 

「……おっとと。えっと……『クラシック五大特別競走 第1回特別出走登録名簿』……?

 あの、トレーナーさんこれ、日付が10月末になっているんだけど」

 

「だから、ずっと言っていただろう?

 『JBCジュニア優駿』は構想していないレースだと」

 

 つまり男はイノセントカップとJBCジュニア優駿の間の期間に、中央のクラシック五大レースに出走登録を出していた。勿論、この第1回出走登録は登録費こそかかるものの『行けたら行く』レベルの登録に近い。

 

 でも、それであっても。男はこれらのいずれかのクラシック級の大舞台に出すことを決めて――

 

「――って、アタシの名前無いじゃん!?」

 

 

 ……居なかった。え、マジで?

 

 クラシック五大競走とは、即ち皐月賞・桜花賞・日本ダービー・オークス・菊花賞の5つ。

 男の脳裏には、これらのレースにナイスネイチャを出走させるつもりが無かったのである。

 

 いや、まだ第2回登録もあるし、最悪追加登録制度もあるんだから、そこは出した方が良いんじゃねえのか、この黒光りだけが取り柄の男め――

 

「……そこに貴様の名が無いのであれば、自明であろう?

 俺たちはGⅠ――『NHKマイルカップ』を狙うぞ、イスネイ」

 

「は、はい……?」

 

 

「これからのプランを説明する」

 

 

 ――そして、男の口から構想が語られる。

 

 

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