最強黒魔導士によるウマ娘育成のススメ 作:エビフライ定食980円
「まず俺たちは当面は、所属はホッカイドウトレセン学園のままにする。
が、年明けからは中央の芝のPre-OP戦――1勝クラスのレースに出ようと思う」
「……? まあトレーナーさんがそう言うならそうするけど……なんで?」
まずナイスネイチャは2勝している。このおかげで、『中央トレセンへの再転校』の条件自体はクリアしていることは、イノセントカップの前に男から伝えられていた。
だから、今からでも中央に戻ること自体は出来るが、所属は替えないというのが男の言である。
そして2勝しているが、中央の『収得条件』的にはナイスネイチャは『1勝クラスウマ娘』である。クラス名に反して勝利数ではなくポイントで条件を管理しているがために、こういうことは稀によく起こる。
そして。
中央のレースのうち、地方ウマ娘が出走できるレースは『指定競走』及び『特別指定競走』の2種類で、Pre-OP戦レースが存在するのは『特別指定競走』のみ。
その『特別指定競走』の地方ウマ娘の出走条件、それは。
――『URA認定ウマ娘』である、ということ。
……ナイスネイチャは、『URA認定アタックチャレンジ競走』に勝利しているので条件を満たしていた。
更に言えば未勝利戦のURA認定ウマ娘のナイスネイチャは上級認定を受けていないので、特別指定競走の出走申込要件に『直近の2走がいずれも6着以下ではない』という条件が付加されるが……なんてことは無い、これもあっさりとクリアしている。だって3着と1着しか戦績に刻まれていないのだから。
というところで、ネイチャの何故門別に残留するかの疑問に戻る……が。これも話を聞けばナイスネイチャもすぐに理解できるものであった。
「NHKマイルカップのステップ競走出走のために。
『北海道ブロック代表ウマ娘』となるためだ――」
「あっ……ホシジョーが言ってたやつ――」
地方ウマ娘に認められたGⅠのステップ競走への出走のためには、条件があった。
その中でも『ブロック代表ウマ娘』となるのは、制度的には認められている中であまり使われることは無いが、それでも地方からの中央出走としてはまだポピュラーな手法ではある。
そして、NHKマイルカップは5月。それのステップ競走なのだから4月にあるから、代表ウマ娘の選定は3月中くらいには決めておきたい……が、ここで『北海道』であることが効いてくる。
「……雪が積もるから、門別で冬のレースは……『存在しない』」
「そうだ。
つまりNHKマイルカップのステップ競走用のブロック代表ウマ娘選定競走などというものは、ここには存在しない。
『選考会』でイスネイが選ばれさえすれば――貴様が『北海道ブロック代表ウマ娘』だ」
そして『選考会』だけで見れば、ナイスネイチャ自身は戦績は普通に優秀なウマ娘だ。そもそもこの制度を利用するウマ娘自体がそこまで多くないことも重なり、まず競合相手は居ない、と言って差し支えないだろう。
そして万が一競合したときでも。
中央の芝の1勝クラスレースの実績を『選考会』での更なる交渉材料とすることができる。つまりこの冬の時期にPre-OP戦に挑むのはダメ押しの一手であり、保険の策でもあった。
つまりPre-OP戦の結果は勝てば万々歳ではあるが、そうでなくても即座に選考で落とされる、というわけでもない。そして現在の成績ならば早々それも起こらないだろう……つまりは、ステップ競走までの道はほぼ開かれている。
「で、だ。
NHKマイルカップのステップ競走はニュージーランドトロフィーとアーリントンカップの2つだが、いずれも『3着』以内に入ることが出来れば、NHKマイルカップへの『優先出走権』を得ることが出来る」
「……っ! そういう、こと……」
――既にナイスネイチャは、3着で。GⅠへの舞台までの道筋が確約されていた。
北海道の興行の短さを逆手に取り。
北海道にしか存在しないメイクデビュー・未勝利のURA認定競走を、ナイスネイチャの順位の特性すらも利用して。
『3着』がキーカードとなるステップ競走までの筋道を確実に整備する。
男は契約時点で既にそこまで考えて、門別でのデビューに固執したのだ。
それは契約の際に、ナイスネイチャに求めた唯一の条件が物語っている。
――イスネイ。まだメイクデビューもそれ以外の公式戦も一度も走ったことは無いよな?
これは、トゥインクル・シリーズレースの指定交流競走に出走する地方ウマ娘の出走制限である『地方ウマ娘登録以前に、中央トレセンで登録を行ったウマ娘』の補記、
『※ただしジュニア級以前で中央トレセンでの登録を抹消しかつ、当該抹消時に競走に出走したことの無い者を除く』
――という特別事項を満たすための質問だからだ。
ナイスネイチャが中央でメイクデビューを済ませてしまっていれば、この道を取ることはできなかったのだ。
「えっ……ウソ……。アタシ、本当に……GⅠに出られるの?」
「ああ。
――だが、心しておけ。貴様の『呪い』は別に『3着を確定させる』ものではない。
ニュージーランドトロフィーとアーリントンカップのどちらに出るかは決めてはおらんが……これは中央ウマ娘にとってはGⅠのトライアル競走だぞ。
生半可な覚悟では……貴様が喰われるぞ」
「……そっか。そうだよね!
……よっし! いっちょ、やったりますかー!」
こうしてナイスネイチャのジュニア級は終わったのであった。
*
年末は実家に帰省していたナイスネイチャであったが、新年早々の1月の初めの週に次走の予定が入ったことによって、実家での日々はトゥインクル・シリーズレースとしても、芝の公的なレースとしても初めてとなる次のレースの最終調整も兼ねるものとなった。
「いやー……気温的にはこっちのが暖かいはず……なんだけど。
門別の方が、しっかり暖房効いていたから、むしろちょっと肌寒いくらいなのは……不思議だねえ」
暖房の性能差も勿論あるとは思うが、そもそもの建物の構造からして防寒対策が施されているため、意外と外にさえ出なければそんなに極寒を感じることは少ないのが北海道である。
まあ一部でも開空間のある電車の駅とかだとその限りでは無かったりすることもあるし、飛行機で空港に降り立った瞬間などは屋内であろうと寒さを感じることもあるだろうが、それでも住んでしまえば基本的には割と何とでもなるものだ。
それに門別は、地域的にもあまり雪が積もらないこともあって『雪かき』とかいう『意に反する苦役』に不当に従事する必要もない。
……特に、ホッカイドウトレセン学園には、長さ900mの坂路コースが全面屋根張りとなっているので、これの『雪かき』などというものを想像するだけでも非常に恐ろしいことになる。
ということで、年が明けての1月1日、元旦。
「……なーんで、アタシの実家のコタツに集まってるのかねえ……」
そこにはコタツのそれぞれの面に、ソーエームテキ、ドラールオウカン、カネマサルビー、そしてイクノディクタスとその膝の上に座っているツインターボの姿があった。
大井転校組と中央ウマ娘の組み合わせで揃っていたのである。とはいえ、事前に初詣を一緒に行く旨は昨年中に連絡し合っており、一番近くの寺社が混まなそうなネイチャ実家集合ということになった。
ソーエームテキがちょっと詰めてくれたので、ネイチャは彼女とともに座る。
「……で、ソーエーは実家に帰らなくて良いの?」
「先々月まで、ネイチャと一緒に門別に居たからね。流石に1,2ヶ月足らずで帰省するのもなー……って話になって、こっちに残ることにしたよ」
聞けば、ドラールオウカンもカネマサルビーも同じような理由……というかこの2人に至っては、大井に転校してからまだ1ヶ月経っていないくらいである。だから元門別組のほとんどが東京の初詣スポットについて詳しく知らなかった。
なので、大井側の友達と一緒に行っても良かったのだけれども、ドラールオウカンが前の合宿で面識のあったイクノとターボを頼りカネマサルビーも相乗りして。ソーエームテキはまずはトウカイテイオーに相談していたものの、テイオーはテイオーで帰省するということで、この2つの話が合体するに至り、ネイチャの下への大合流となった。
ナイスネイチャは、お別れ会もしたのにこんなにすぐに会ったことで内心何か微妙な気持ちになっていたが、とはいえそれは表には出さずに受け答えする。
「というか、アタシ今週末にはレースなんだけど……」
「あ、ネイちゃんそうなんだ。私は明後日だよ」
「いや、のんびり初詣している場合じゃなくない、ドラール!?」
なおドラールオウカンのトレーナーと、イクノとターボのトレーナーの計3人は実は、ネイチャ実家のスナックの方で待機していて、初詣の際には6人のウマ娘の邪魔はしないけれども、少し離れた場所から同行してくれることになっていた。
*
「ありゃー……ちょっと並ぶかも。地元の小さなお寺なのに、良くこんなにお客さんくるものだわ」
「いや、これくらいの混雑なら元旦であれば空いている方なのでは?」
「あ!! ターボ、イカ焼き食べたい!!!」
「ターボちゃんがイカ焼き食べるなら、私は牛タン串にしよっかな」
「……ドラール、まずは参拝してからですわ。そんなに屋台に惹かれないでくださいませ……って。
……ソーエー、アンタは何を既に買っているのよ」
「あ、カネマサルビーも食べる? ベビーカステラ美味しいよ?」
結局、別行動のトレーナーたちが買い出し班となって6人が並んでいる間に、各々の希望の食べ物を買ってきてくれた。そして10分くらい並んでいる最中に、ネイチャがふと気付く。
「あ、アタシたち、今年が方位除けの年なんだ。イクノだけ違うっぽいね」
「そうですね。ですが……9年周期で4回巡ってくるというのは結構頻度が高い気がします」
「方位除け……?」
厄除け以外にある謎の『除け』、それが方位除けの印象だろう。ただ、周辺にあるお寺や神社の系統によっては、『方位除け』の存在すらも知らないというパターンもあるだろう。現に北海道ウマ娘の3人とターボは初耳だったようである。
ただそんな彼女たちも含む『三碧木星』の方角であるネイチャらの今年の運勢は、低迷が激しい方位盤の中央である『八方塞がり』。
競走ウマ娘としては、字面的に滅茶苦茶嫌なので知ってしまうとどうしてもお札を買ってしまうものだ。特に差しウマ娘だと塞がれるのは嫌すぎるし。
その『方位除け』のためのお札を買った後は、再び列に戻る。そしてお財布からお賽銭を用意して、賽銭箱へと投げ入れて、作法に則って礼と拍手をしつつ祈ってそのまま次の人の邪魔にならない場所に移動した。
「……みんなは何をお願いしたの?」
「ターボは、
「ってか、ターボはそろそろメイクデビューしなさいな」
「私はしばらく勝ち星に見放されているので勝利を、と」
「イクノって見た目に寄らず結構熱血だからねえ」
「私も……打倒トウカイテイオー……かな?」
「いやいや……ソーエーまでターボみたいなこと言わないでよ」
「じゃあソーエーはターボのライバルだ!!」
「ふふっ、そうだね」
「じゃあ、私は打倒ツインターボちゃんってことで~」
「おおっ!? ターボとやる気か!?」
「……ドラールはターボで遊ばないの」
「……あれ? カネマサルビーは?」
「私は……。まずはトレーニングの安全を――」
「確かに、そりゃ大事だわ」
それぞれのウマ娘の願った夢を聞いていくナイスネイチャ。
必然、誰が言ったのかは分からないが、全員の願いを聞いたネイチャに対しても同じことを聞かれる。
「えっ……アタシがさっき何を願ったのかって?
……意外と恥ずいな、これ。ねえ、笑わないでよ皆?」
ワンクッション置いたナイスネイチャは、一通り5人の反応を伺ってからおずおずと告げた。
「アタシの夢は……。
――ぬるっと『キラキラ』を掴み取るっ……。
……。やっぱ、ノーカン! 聞かなかったことにしてっ!」
顔を真っ赤にしたネイチャを5人のウマ娘はその後、夢については全肯定しつつも真っ赤になっている彼女の表情に対してただひたすらにからかい続けるのであった。