最強黒魔導士によるウマ娘育成のススメ   作:エビフライ定食980円

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第19話 クラシック級1月前半・福寿草特別【1勝クラス】(京都・芝2000m)

 三が日も明けて、早々にナイスネイチャは京都にやってきていた。

 

 何のために? と問われたとしたら、一言で返すのであれば『レース』のためである。

 

 そう、本日の京都レース場第9レース……1勝クラスの芝・2000mの競走『福寿草特別』にナイスネイチャは出走登録を行っていたのだ。

 

「本日の3番人気、地方からの出走登録となります1枠2番ナイスネイチャ。昨年のJpnⅢ・JBCジュニア優駿でも好走を魅せたウマ娘ですが――」

 

「北海道のウマ娘――それも芝の中距離、と言いますと、GⅢ・京都ジュニアステークスにおいて見事に優勝を決めましたソーエームテキを想起しますね。……というか、手元のデータにおいては、その北海道時代に寮で同室同士の関係であったようです」

 

 

 曇り空の京都レース場にて、実況席の話を聞きながら、控え室に居るネイチャと黒ローブの男は確認を行う。

 

「いやー……ここでの3番人気は、まさかのソーエー効果ですか」

 

「『個』ではなく、所属している『組織』で価値を推し測るのは実に興味深い文化だと今更ながらに思うが、ただ考えてみればデビュー当初も『中央』のウマ娘として貴様は見られていたな」

 

 久方ぶりの異世界カルチャー・ギャップを発見した男は、若干テンションが上がり気味で話しているが、そんな男もついにレースの度に関係者であることを周知するクソダサゼッケンをつけて観客席に行かなくてもよくなった。

 

 ……まあ、管轄が北海道のレース組合からURAに変わったから、というのが一番大きい理由だったりするのだが。良くも悪くも中央は奇人・変人に慣れすぎだと思う。

 

 

 さて。この世界のナイスネイチャにとって公式戦では初めてとなる芝のレース。そんな京都レース場2000mは内回りコースであり、スタートの位置はホームストレッチ側の直線半ば。だからこそ、第1コーナーまでが比較的近く、序盤における位置取り争いは比較的シビアとなる。

 

 そして京都レース場内回りの最終直線の長さは328.4m。これまでネイチャが走っていたレースは全て門別の外回りコースであったが、こちらは330mあったことを考えれば、いかに門別が大きめのレース場とはいえ地方のダートコースよりも短い最終直線は小ぶりと言わざるを得ない。

 

 そして短い最終直線は、基本的には前残りが大きくなる……が。イレギュラーな要素として第3コーナーに高さ3.1mの坂を上って、すぐに降りるという関係上、そのままの勢いで突っ込むこともあり、割とごちゃごちゃしがちなレース展開となりやすい。

 

 

 ……と、そこまでの説明を男は遠見と透視の魔法を併用しつつ、更には『マナの邪眼』と呼ばれる視点を外に飛ばす魔法を重ね合わせることにより、コース上を実際に走っているようなビジョンをネイチャに提供していた。

 

 ただナイスネイチャの視覚野に魔法をかけることは、男は躊躇して、杖を使ったホログラム映像で見せただけであるが、それでも即席の映像とは思えない程のクオリティであった。

 

「おおー……本当に走っているみたい……。

 って! トレーナーさん、カーブに入るスピード、速すぎ速すぎ!」

 

「む……こうか?」

 

「もうちょい遅く……うん! いい感じ!

 いや、あのスピードで突っ込んだら絶対他の子にぶつかっちゃうからねえ……」

 

 映像のクオリティがなまじ高いと、どうやら速度感が合ってないと気になるようである。

 もしかするとウマ娘ではない方もこの作品を読んでいる可能性はあるので、一応注釈を入れておけば、これは例えるならば交差点に時速60kmのまま速度を落とさず曲がっていく映像を運転席視点で見るような感じと言えば良いだろうか。

 

 なお、映像はリアルタイムのものなので、芝コースでレース中にこのホログラムを投影すると他の子が映ってしまうので、ダートレース中などの時間を利用して作戦会議は行われていた。

 

 

 ……更に余談を言えば、『マナの邪眼』で見たものを男の杖(SIMフリー)に転送するために、携帯電話回線のデータ通信を利用しているので、この併用魔法は男の魔力以上にパケット通信料金が吸われていく、恐るべき魔法なのである。

 

 

 

 *

 

「――1着、シスタートウショウ! 次いで2着はスナークホワイト、ここまでは人気通りの着順でした!

 ……しかし本日3番人気のナイスネイチャが、6着であったわけですが、これはどういった理由が……」

 

「まあ序盤は後方2番手のかなり後ろ目に付けておりましたし、最終直線に入っても依然として後方でしたからね。かなり鋭い差し脚は見られましたが、流石にあの位置からでは届かないのは致し方ありません――」

 

 

 6着、ナイスネイチャ。

 まさかの着外というこれまでに無かった事態に、ナイスネイチャは動揺して――

 

(あっちゃー……、やっちゃったー……。

 まさか我ながらここまで位置取りをミスるとは思わなかったわ。どーしよ、トレーナーさん流石に怒るかなあ、これ……)

 

 

 ……いなかった。

 動揺などではなく、己のミスをしっかりと認識していた。

 

 

 そして控え室に戻れば、そこには黒魔導士の男が既に部屋に居た。

 

「……って、トレーナーさん、それアタシのスルメ!? なんで、七輪で焼いているの!?」

 

「あたりめだ」

 

「いや、それアタシの私物のスルメ……」

 

「あたりめだ」

 

「スルメ……」

 

「あたりめ」

 

「……」

 

 何故か頑なにあたりめ呼びを強制しようとする男に、ネイチャは何度か軌道修正を試みようとするも、全く折れない。

 というか観客の立場であれば、普通はレース場に火気類の持ち込みは禁じられているので、恐らくは七輪自体が男がこの場で『生成』したものなのだろう。なお、火はかつて手紙を燃やした黒魔導の火であり、全く熱くはなく火傷のすることのない安全な炎である。

 でも、何故かスルメ……あたりめを燻ることが出来ている辺り、物理法則を超越している気がするが、まあ部屋にある原子から七輪を自作している時点で我々の常識で推し測る意味はないのかもしれない。

 

 とはいえ、男から差し出された燻りたてのそれ(・・)を、拒む理由は無いし、触ったときのじんわりとした温かさは、レースで疲れ切った身体には食欲をそそるものではあった。

 

「……はあぁ~……温かいスルメも格別ですな~。これに七味マヨと濃いお茶があればもう言うこと無し! なんだけど――」

 

「あるぞ」

 

「……マジですかっ!?」

 

 その流れで何故か陶器の皿に盛られたマヨネーズと、木彫りの七味唐辛子の容器が出てくる。そして部屋に備え付けられている給湯器にはご丁寧にお湯が沸かしてある状態で、しかも収納魔法から茶葉すら出したのだから、男が寛ぐ気満々であったことは容易に察せられた。

 

「……まあ、茶葉は貰い物だがな」

 

 そう言って、部屋に備え付けの紙コップでは『雰囲気』が出ないと男は考えたのか湯呑みを魔法で生成する。なお男の脳内で湯呑みのデザインサンプル数が少ないので生成されたのは国宝級の逸品のレプリカなのだが、ネイチャはそれに気付くことなくお茶の方に着目した。

 

「いやー……トレーナーさん、気が利いておりますなー。

 冬の曇り空のレース後に、まさか暖かいお茶が飲めるとは、ちょいと贅沢すぎな……って! トレーナーさんに流されそうになったけれども、レース直後なんだから、もっとレースのこととかあるでしょ!!」

 

 そうぷりぷり怒りながらも、お茶はしっかりと飲むナイスネイチャ。まあ、レースの緊張と高揚感と走ったことでの火照りなどがあっても、1月は寒い。普段は北海道に住んでいるとはいえ、京都の、盆地の寒さを舐めちゃいけない。

 というか京都レース場が宇治川沿いにある上に、しかも今日は風が強かったというのが主要因かもしれないが、だからこそ暖かい飲み物をちゃんと飲んでおくというのはホント大事。

 

 閑話休題。

 ナイスネイチャからレースについて問われた男であったが、聞かれたのならばと単刀直入に答えた。

 

「まあ、ダートから芝への転換ミスかもしれんな。そういう意味では俺にも責任はある。データは取ったから、後で解析しておこう。

 とはいえ、貴様も位置取りについては反省しているだろう? 裏を返せば修正点はそこくらいだ。入着できなかったとはいえ、あの位置から6着まで上がれるのなら問題視するほどではない」

 

 『特に初の芝の公式戦だしな』と付け加えることも忘れない。そして男は恐らく敢えて口には出さなかったのだろう『呪い』の存在。

 これによって『3着になりやすい』との一方で、実際には門別でのレースで1着も取っていた。上限を確定させるものでないのならば、必然下限――つまりは絶対最低3着になれる、というものでもない。

 今日のレースで6着を取ったことで、かえって彼女のこれまでの『3着』が呪いによる押し上げという呪術的効果だけではなく、実力に多く依拠している、とネイチャ自身が気付くことが出来たのは、肯定的に捉えれば収穫とも言えるかもしれない。

 

 

 そうしたことを踏まえながら、男は未だに七輪で焼いていたスルメを口元へと転移させる。仰々しい仮面付けているから口元に持っていけないのだ。

 

「……ふむ。これは中々癖になる味わい――」

 

「でしょ? 『美味い珍味大会3年連続3位』で、久々に商店街寄ったらあったやつなんだけどさ……」

 

 

 そのまましばらく、お茶会ならぬ『あたりめ会』に舌鼓を打つ2人であった。

 

「……あ、スルメね?」

 

 

 ……失礼、『スルメ会』であったようだ。

 

 

 

 *

 

 中央のレースに出るようになったものの、所属は北海道なので、日々の授業やトレーニングは相変わらず門別において行っている。

 そして多くの同期のクラシック級ウマ娘は、この門別を離れ中央や他の地方トレセン学園へと既に転校している。その都合で、まだ来年度の生徒が入学する前だけれども、一度寮の部屋割りを再編成し直すこととなっていた。

 

 日本全国でも最も早いメイクデビュー時期となるホッカイドウトレセン学園は、新入生人気が高く、クラシック級・シニア級ウマ娘を含めても新たなジュニア級ウマ娘の数に比肩するほどだ。だから必然、人数的な都合もあって新入生同士の寮割りも行われる。

 

 ナイスネイチャもその意味では同期で組んでいたことになるからこれに該当する。まあ門別的にはシーズン開始後の転校となるので異例と言えば異例であったが。そしてソーエームテキが居なくなってしばらくは1人で部屋を使っていたナイスネイチャであったが、新たな同室がこの度決まったのである。

 

「あ、よろしくねーネイチャちゃん」

 

「まさか、アタシの同室がホシジョーになるとはねえ……」

 

 ナイスネイチャもナスノホシジョーも特に希望したわけでは無かったが、この2人は例外的に『特別措置』となった。本来であれば2人とも後進を導くのに適任であっただろうが、そこから除外されたのには勿論理由がある。

 というのも、ナイスネイチャは既に中央レースに出走していて、しかも目標レースを『NHKマイルカップ』に定めていることはあの黒魔導士の男がひけらかしているので、既に自明となっていた。定期的に遠征で居なくなる先輩と同室とか、相性次第ではあるだろうが、新入生側としても精神的にキツいと思う子も居るだろうし、何ならナイスネイチャ自身にも負荷がかかりかねない。ということで、まあまず仲は悪く無いだろうと学園側からも思われているナスノホシジョーが抜擢されることとなった。

 まあ中央挑戦しているネイチャがいつ中央に戻るか分からないから、その辺りのメンタルがしっかりしてそうな子、ということもある。

 

 更に逆の立場で考えるのであれば、『ジュニア級の覇者』だとか、地方重賞4冠だとかとんでもない実績を残しているナスノホシジョー相手に萎縮しない相手という意味合いもあって。

 

「そう言えばネイチャちゃん、中央のレースに出てるのに、よくウチに残ったね?」

 

「アタシのローテって、完全にトレーナーさんに任せているから、この先どうなるか全く分からないんだよね。

 いつ、どこに行くか分からないからホシジョーにも迷惑かけたらゴメン」

 

「いやいやー。ってかネイチャちゃんのトレーナーさんって、あの変な人だよね?」

 

「変な人って……。まあ、おっしゃる通りだけどさ……」

 

 

 まあ良くも悪くも悪目立ちするのは間違いない。いや、良くはないか。

 

「あの黒いローブの人……ウマ娘の出走ローテーションとか組めるんだね。何か、そういうイメージ全然無かったよー」

 

「ま、まあ、あの身なりで案外理論派だったりするというか……。ってか、ホシジョーのローテにぶつけていたのもトレーナーさんの指示だったから」

 

「あ、それもだったの? てっきりネイチャちゃんが希望しているものだと――」

 

 

 つまり、ナスノホシジョーには超強気に挑んでくる積極性のあるウマ娘だとナイスネイチャは思われていた。

 そして、それはきっと外から見たときには、大多数がそう感じるような……大胆不敵で果敢に強敵に挑むナイスネイチャ像が形成されているかもしれない、という事実に辿り着いたとき、ネイチャはげんなりとするのであった。

 

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