最強黒魔導士によるウマ娘育成のススメ   作:エビフライ定食980円

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第22話 クラシック級2月前半・かささぎ賞【1勝クラス】(小倉・芝1200m)

「最終確認なんだけど、トレーナーさん?

 勝たなくちゃ……ってワケじゃないんだよね?」

 

 2月前半の小倉レース場、天気は晴れ、そしてここまで良バ場の好条件。

 メインレースの1つ前――第10レースでの発走となる1勝クラスのPre-OP戦、芝・1200mのかささぎ賞。

 

 前走・福寿草特別において6着であったにも関わらず、ナイスネイチャはこの場で1番人気に推されていた。

 

 いくつかの面で、このレースはナイスネイチャにとって確かに有利な条件が積み重なっているようにも見える。

 まず距離の面では、これまでナイスネイチャが出走した回数の最も多い1200mの短距離。

 そして前走とは異なり1度芝に慣らされているというところと、着外であっても後方二番手からの怒涛の追い上げを魅せたという点。

 

 レース場の規模感も京都よりかは小倉の方が小さく慣れ親しんだ環境に近いとも言える。

 更に、門別ではメインレースはナイターレースが基本で、それ以外も午後の時間にレースをしていた都合上、午前中からレースが行われて夕方に終わる中央日程においては極力遅い発走時刻であればあるほどに、ナイスネイチャにとっていつもの発走コンディションに整えやすい。

 

 最後に、この舞台――何よりも、他に有力ウマ娘が不在であった。

 戦績だけで考えてもJBCジュニア優駿というJpnⅢの舞台で3着を既に獲っている、重賞3着ウマ娘のナイスネイチャが最高戦績。

 

 一応、これだけの好条件が揃っているのだから、かつてのナイスネイチャであれば『これで負ければ、マジ笑えない』と思うくらいであったかもしれなかった。

 

 けれども、先の発言はそうしたプレッシャーの発露というニュアンスは薄く、むしろあの黒男に対しての確認事項としての趣きが強かった。

 

「ああ。俺たちにとって、必ず勝たねばならないレースなど存在しない。とはいえ、勝つに越したことはないのは当然だが。

 ――しかし、そうだな。それでは興が乗らないだろう――」

 

「おー、勿体ぶりますな、トレーナーさん」

 

 男は一旦、タメを作り、ネイチャの期待感を煽るようにしてから、次のように語った。

 

「Pre-OP戦の1勝クラスレースへの出走が今日で最後になるかは分からんが。

 俺の構想通りに進むのであれば。このクラスのレースが、イスネイ。貴様が『格上』として戦える最後のレースだぞ」

 

「……っ! ……あー、確かに。

 その考えは無かったなー」

 

 思えばメイクデビューのスーパーフレッシュチャレンジにおいては、『中央からの刺客』といったような評価から1番人気であり、その効果は栄冠賞出走時でも未だに1番人気ということで持続していたし。

 その栄冠賞という地方重賞の舞台で3着を取ってからは、紛れもなく門別ジュニア戦線の強豪としての位置付けに変わっていた。

 

 そして今のPre-OP戦においては、重賞3着ウマ娘としての肩書きから、確率論的にはネイチャよりも良い戦績のウマ娘が競合してくることは非常に低いと言わざるを得ない。

 というのも重賞で2着以上を取れば『収得条件』の加算が発生するので、まず間違いなくオープンウマ娘になって1勝クラスレースへの出走資格を失うからだ。

 

 だからこそ、1勝クラスに居る間はナイスネイチャは周りから頭一つ抜けたウマ娘として扱われる。が、オープンクラスにおいては重賞好走ウマ娘は決して珍しいわけではなくなるので、彼女の立ち位置は一介の地方ウマ娘として扱われることとなるのだ。その立場は、明確に挑戦者としての立場となる。

 

 そういうことを飲み込んだナイスネイチャは、ふと時計を見ればそろそろ準備を始めた方が良い時間になっていることに気付き、軽い口調でこう告げる。

 

「おっ、そろそろ時間ですなー。

 じゃ、行ってくるね」

 

 そう言って控え室を後にしたナイスネイチャに気負いはなく。貫禄すらも感じさせるような後ろ姿はまず間違いなく、この時期のクラシック級ウマ娘の精神性からは卓越しており、同時にこれまでの経験が垣間見えるものであった。

 

 

 

 *

 

(ま、今日アタシのことを知っている人はトレーナーさんくらい……って思ったけど、さ。

 そう言えば1番人気だったから、ちゃんとアタシのことを調べてきてくれた人はいっぱい居るんだよねえ。いや、ホント有難いばかりよ)

 

 パドックで落ち着いた様子で小倉レース場の観客に手を振るナイスネイチャ。『かささぎ賞』の一番人気であることもあり、手を振ればそれなりに歓声や応援の声は返ってくる。

 しかし、今日は次に控えるメインレースですら2勝クラスでオープンクラスのレースは無い。そのためお客さんの入りもややまばらではあったが、逆にそれくらいの人数の方がネイチャにとっては慣れ親しんだものに近い。

 

 これが例えば、GⅢの重賞の舞台となる『小倉記念』であれば、『自分たちのレース』という晴れ舞台を一目見ようと地元の人たちも沢山やってくるのだが、今日はそういう大事なレースがあるわけではない。

 だからこそ、落ち着いているウマ娘――ナイスネイチャに向けて、大きな声を送る人というのは居ない。それもあって歓声にあてられることもなく冷静に客席をゆっくりと見渡していたら、ナイスネイチャは気付いた。

 

(おっ、前に行った小倉の商店街の人も何人か居るじゃん! フグのカマボコを売ってた魚屋さんも……。いやあ、嬉しいけど、さ。

 こんな休日の繁忙期にレース見に来ちゃって大丈夫なのかな……)

 

 思わず疑問を抱いてしまったナイスネイチャだが、それを声に出すことは無かったので、答えは結局のところ分からず仕舞いなのであった。

 

 そして、パドックお披露目の後、しばらくしてからスタートへと向かう。

 

 

 それは、どこまでも冷静で落ち着いていた。

 ――既に、カンパイと呼ばれるスタートのやり直しすら経験した彼女にとって、初めて走る場所での1番人気という期待は、最早ナイスネイチャの肩に力を入れるような、過度の緊張をもたらすものではなかったのである。

 

 

 

 *

 

「――先頭一気に、1番人気のナイスネイチャに変わりまして、既にリードは1バ身半。2番手も粘っていますが、3番手争いは横一線に広がっての残り200m!

 大外からグイグイとアジサイゲッコウが差を詰めてきますが、中を突いて2番サウザンボルテール! しかし、14番ナイスネイチャがそのままゴールイン――」

 

 確定した掲示板を見た後に、ナイスネイチャはゆっくりとクールダウンしつつ観客に向かって控え目に手を振る。その後に一礼すると、拍手が起こったのでそのままターフを後にした。

 

 

「ただいまー……って、なにそのトロフィー!?

 虹色に光り輝いているんだけどっ!? トレーナーさん、何かした? ……って、これURAのものじゃないよね!?」

 

「安心しろ。俺の私物だ」

 

「良かったー……。って、いやいや。で、このトロフィーなにさ?」

 

 高さ2.5m程の、何故か光り輝く謎のクソデカトロフィーが控え室の中に置かれていた。地味に精巧なつくりとなっていて、喩えるのであればオーギュスト・ロダン作の『地獄の門』のような重厚さと威容を誇るトロフィーであった。しかし虹色に光り輝いてので割とその威厳が台無しになっている。

 

「なに、実績を積んだという確かな形になるものが1つでも拵えておけば、箔もつくだろうと思ってな。

 アンオブタニウムの鋼材を取り寄せて、作ってみたものだ」

 

「あー……トレーナーさん、前のレースのときとかでも湯呑み作ってたもんね。創造はお茶の子さいさいってことですか」

 

「いや。確かに金属加工と時間操作に魔法は使っているが、基本的にはこの世界の彫刻技術に近しいもので作ったつもりだ」

 

 なおロダンの地獄の門は、1880年に作成が開始され結局それから彼が死去するまでの37年間を経ても完成しなかったものであり、鋳造されたのも彼の死後という作品だ。サイズ感も半分程度で、全く同じものを作っているわけではなく男の異世界的な意匠が多分に含まれているものの、男もこのトロフィーを一朝一夕で作れるわけもなく、実は今日のレース後に、彼の中の時間では40年ほどかけて作成したものである。実時間としては時間操作のおかげで1秒足らずで完成したように見えるのだが。

 

 そんな超大型の虹色トロフィーに圧巻されているナイスネイチャは、それだけの時間がかかった大作であることは知る由もない。

 

「ははー……とんでもない趣味を持っていますなー。

 ケド……これは、流石に受け取れませんよ、トレーナーさんや」

 

「見慣れぬ材質が問題であったか?

 やはりこの世界で馴染みのある純金にしておくべきだったか……」

 

「いやいやいや!? このサイズの純金製のトロフィーなんて、絶対受け取れないしっ!? というか、トレーナーさんって純金も自作できたり?」

 

「まあ、出来る。

 が、先日フィリピンへ行った際に、ついでにセブの金鉱も寄ってきたから、そこで仕入れた金を収納魔法に保管してある」

 

「まさかの自己資産!?」

 

 ちなみにフィリピンは鉱業がそれなりに盛んでニッケルの生産量は世界でも1,2を争う程である。金鉱山も日本の2倍程度の採掘量を誇る。

 今でこそ、その金は男の収納魔法に保管されているが、現地で収納魔法に入れてそのまま持ってきたら当然関税法違反になるので、しっかりと申告した上で国内に持ち込みしている。

 

 

 とはいえ。

 どんなものにせよ。それは男がナイスネイチャのためを思って、わざわざ作ったものであることには間違いない。ネイチャに見えない40年という歳月の試行錯誤を経ている。勿論ナイスネイチャは知る由も無いが、これが男の手による自作、という話を聞いて、この精巧さの手間は尋常なものではないことくらいは理解していた。

 

 だからこそ、ナイスネイチャはそんな男の想いを汲んだうえで――

 

「……ヘロヘロの折り紙のトロフィーとかだったらまだしも、いくら何でもこんな価値も重量も凄そうなものは受け取れませんって、マジで」

 

 

 それは、そう。

 

 

 

 *

 

 丁重に断られたクソデカ虹色謎金属トロフィーは、男がそのまま持ち帰り、日高山中にある男の小屋へと放置されることとなった。

 

 それはともかく、クラシック級の夏までは2勝クラスのレースが始まらない都合上、かささぎ賞の勝利で収得条件を500pt(門別の獲得条件では404MP(門別ポイント))稼いだナイスネイチャは合計700ptとなり、春限定のオープンウマ娘へと昇格した。

 ただし、同時にこのままでは夏以降は2勝クラスウマ娘へとスライドすることとなる。

 

 ただし同じ現在のクラシック級オープンウマ娘の間では、ナイスネイチャは条件的には厳しい。というのもネイチャのポイント数は700ptなのに対して、順当に中央のメイクデビューもしくは未勝利戦で1勝、そして1勝クラスを突破するというオーソドックスな経歴を持つウマ娘であれば今の収得条件は900ptだからだ。

 

 なので今の時期のクラシック級限定のGⅡ、GⅢ競走ならまだ何とかなるものの、GⅠ競走に出走しようとか、夏以降から施行されるシニア級との混合重賞を狙おうとするのであれば、かなり心許ないポイントである。フルゲートを超過したときの出走者の選定手法は最もオーソドックスな部分ではこの収得条件が大きい順で決めるので、除外される可能性が極めて高いためだ。

 

 しかし、それを回避する手段を男はナイスネイチャに既に提示していた。

 

 

 ――優先出走権。

 

 GⅠ競走への出走のための条件には先に述べた収得条件由来のもの以外にも、この優先出走権が与えられる『トライアル競走』にて所定の着順を収めれば、収得条件が不足していたとしても優先的にGⅠの舞台に出ることが叶う。

 これを利用する、というのが男の考えであり。同時に、この『トライアル競走』への出走条件を満たすためにこれまで男は奮闘していた。

 

 

「……『選考会』から先程連絡があった」

 

「……っ! それで、アタシは……?」

 

「NHKマイルカップトライアルの北海道ブロック代表ウマ娘は――イスネイ、貴様だ」

 

 ナイスネイチャ以外の門別のウマ娘の中でNHKマイルカップへのトライアル狙いをしていた子は、最終的に誰も居なかったことから、恐らく先の『かささぎ賞』での勝利が無くても『選考会』は彼女のことを選んでいたかもしれない。

 実際にホープフルステークストライアル競走のときは、選定競走でナスノホシジョーが勝利したために獲得したブロック代表ウマ娘の権利であったが、同じくジュニア級GⅠの朝日杯フューチュリティステークスや阪神ジュベナイルフィリーズの2競走においてはこの権利を行使したウマ娘は存在しなかった。だから、この制度を利用する者はあまり多いわけではない。だから競合相手が出なかったのはよくあることである。

 

 けれども、芝でのレースの勝利が更なるひと押しとなったのは紛れもなく事実であろう。

 

「NHKマイルカップのトライアル競走――アーリントンカップとニュージーランドトロフィーの2競走に地方トレセン学園所属のウマ娘は3人までしか出走できん。が、しかし、今のところ伝え聞く限り他の地方トレセンからNHKマイルカップ狙いを公言しているウマ娘は居ない。

 まず間違いなく、地方から3人も出てくることはない」

 

 加えて言えばブロック代表ウマ娘の有するトライアル競走への出走権利は『優先出走権』ではなく、ただ『出走できる権利』なだけで、収得条件では他の子を上回る必要はあるのだが、これについては今のナイスネイチャは1勝クラスのウマ娘よりは上位に居る関係上、トライアル競走と言えどGⅠレースではない舞台ではおちおち除外される可能性も極めて低かった。

 

「……と、いうことは……トレーナーさん」

 

 

「ああ。この時点で概ね貴様のトライアル競走自体への出走はほぼ確定した、と言って差し支えない」

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