「このままだとサンジが死ぬ」
船医よりもたらされた衝撃の事実。
疑うことを知らない一味は、その一言で神より驚いた。
「拘束!!」
「ラジャー」
「了解しました」
尤も、それを解決するための会議であるはずだ。さっそく、縋りつきに向かおうとした船長が直ちに無力化され、猿ぐつわをはめられて転がされる。
「どういうことかしら? いえ、自明ではあるわね」
「アイツはそんなヤワじゃないぜ?」
「それほどなの?」
「……スーパーだぜ」
「みんな、ルフィのせいだと思ってるかもしれないけど、そうじゃないんだ。なんなら健康そのものだし、悪いところがあるわけじゃない」
「なら、何が問題なんだ」
「アイツ、バカなんだ」
そっかー、という声なき声。
「この船は少人数で回してるから、みんなそれぞれ負担はあるし、オレは船医だけど、甲板員みたいな仕事をすることもある。別に、そのときは疲れたって思うけど、問題にならないようにみんなしてると思うんだ」
まあ、当たり前の話である。
「でも、サンジは料理を作るのが何より好きだから、疲れたら料理するんだ。それで、オレたちが食べる姿を見て癒やされてる」
「趣味の範囲なのね」
「筋金入りだな」
「仕事の疲れを仕事で癒やすのか。職人の鑑と言いてぇが」
「そういう人はえてして、何の前触れもなくポックリ逝くわ」
「ヨホホ! 素晴らしい人生!! と言えなくもありませんね。一人の人生ならば」
「どこがよ!! そんなの幸せじゃないわ!!」
「ええ、そうでしょうね。そうでしょうとも」
「問題はサンジがそれを幸せだって感じてることなんだ」
「それの何が問題なんだ?」
「このままじゃ死ぬからって、取り上げるのか? サンジから」
一味が顔を見合わせ、黙り込む。自然と視線は一つに集まった。剣士が、猿ぐつわを外す。
「オレはそんなことしねぇ」
「そんな?! ルフィ、わかってるの?」
「うるせぇ!!!! それがサンジの生き方だ!! オレはそれを曲げさせねぇ!!」
「でも!! それじゃ……」
「落ち着け。まだチョッパーの話は終わってねぇよ」
「何度も言うけど、今のところ身体に問題はない。逆に、問題がないことが怖いんだ。ルフィやゾロでさえ、疲れたらちょっとは表に出るのに!! それが幸せなだけで大丈夫だっていうなら、そんなの麻薬で無理矢理カラダを動かしてるのと同じだ」
「ヨホホ! 流石サンジさんですね~」
「ちょっと!! 何が可笑しいのよ?!」
「だって、あの海域でワタシが音楽に縋ったのと同じですもの。お嬢さん?」
「イジメてやるな」
「難しいわね。なら、その幸せという感覚が薄くなれば、一気に悪い方へ向かうのではなくて?」
「その可能性はある」
「そうなるでしょうね。保証します」
「何でそんな……」
「なんでとかそういうのはいい。サンジは助かるのか?」
「……休ませたり、仕事量を減らしたりってのは逆効果だと思う」
「もっとワタシたちで手伝えば」
「ありがたい話だが、なんにしても仕事が増えるだけだな。少なくとも、オレサマはそう考える」
「いいんだ。サンジは好きにしたら」
「それで死んでもいいなんて、アンタたちだけよ!!」
「落ち着けってば。死んでもいいなんて話はしてねぇよ、ナミ」
「でも!!」
「難しく考えることはありませんよ。サンジさんは人との付き合い方を知らないだけです。今は大好きな誰かの役に立つことに夢中ですが、そんなものワレワレで上書きしてやればいいんですよ」
「どういうことだ?」
「なにも? 手伝って差し上げたければ、手伝えばよろしい。頼りたければ、存分に頼ってあげればいい。遊びに誘い、おしゃべりして、音楽を聞き、この世に料理よりも、または同じくらい素晴らしいモノがあると知らせてあげればいいんです」
「……条件の上書き」
「犬なのか、あのクソコック」
「ヨホホ! 似たようなものでしょう! そりゃ、サンジさんは料理を作ってる時が一番幸せなんでしょうがね? ワレワレといて、そのままでいられるのか見ものでしょう? ワタシ、死者すら踊らせられるようになったんですよ」
「アイツが、アイツ自身を傷つけるなら、アイツからも守ってやるんだ」
「おや? 出来ますかね? 手強いですよ、ああいった方は」
「アイツを仲間にしたときから、そんなことわかりきってる!」
「いや、さっきエネルばりに驚いてたじゃない?」
「泣いて縋りに行こうとしてたな」
「どんな愁嘆場だよ」
「では、勝負ですね。頼られることが大好きなサンジさんが、その幸せを誰に分け与えるのか。ええ、ええ、楽しみですとも」
「もっと頼りになる女になればいいのね!」
「援護は任せろ」
「そこは前に出ろよ」
「それはそれとして、仕事量は減らしたいんだけど」
「今の話をしといてか?」
「致死量なんだ」
「仕事の話だよな?」
「趣味かもしれないんだ」
「どうしろってんだ」
「そうね。要はワタシたちと料理が直結しているから、そんなふうになるのよね?」
「まあ、趣味と仕事がピッタリ合致して、全力以上で働く感覚ってのはわからないでもねェ」
「それが毎日なのが問題なのよね?」
「サンジはいっつも、好きなモンをくれる」
「……よく考えりゃ異常だよな。別に嫌いなモンを出してほしいわけじゃないが、なんだかんだ全員の好みに合わせたメニューを毎日って」
「それ以上だ。ニクニク言ってるが、コイツは結構気分な部分も多い」
「食事は三食あるんですから、一つぐらいいいんじゃないですか?」
「航海の事情もあるが、朝食だけはバラバラになるよな?」
「もしかして、それぞれごとにメニューを変えて出してんのか? あのアホコック」
「じゃあ、みんなで一緒に起きる?」
「いや、それだと他と同じだ。もう、好きに寝起きすりゃいい」
「で、グルグルが合わせるんじゃなくて、オレらが合わせるのか」
「サンジ君の選んだメニュー固定。量も作り置き分だけでガマン!! ただし、何をどれだけ用意するかは、サンジ君が好きに裁量するのね」
「どういうことだ?」
「サンジの作るメシに文句があるか?」
「ない!! なんだ、やっぱ、サンジの好きにさせたらよかったんじゃないか」
「それはそうだけど……」
「まあ、ムカつくからつねっとこう」
「オマエら、オレが縛られてるからって」
「あら? 縛られてなくてもやったわ」
「じゃあ、仕方ねェな」
「仕方ないのか?」
「考えるな。感じるな。無視しろ」
「わかった!」
「教育的ね」
「ヨホホホ!」
「じゃあ、そういうことで!」
「誰がサンジに言うんだ?」
「一人しかいねぇだろ?」
「なんだ? どうした?」
「サンジ君に、みんな好きに寝起きするから、朝食は公平にって言える?」
「頑張る」
「オイ、アホコックの命に関わることだぞ」
「そうだな。ちゃんとやるよ」
「疑わしいな」
「そこはフォローしてやればいいだろ?」
「援護は任せろ」
「そこは前に出ろって。頼むから」
「ま、頼まれちゃ仕方ねェ。なんだかんだ一番頼りになるのは、このウソップさまだからな!!」
「オウ、気張れよ、勇敢なる海の戦士」
昔の社畜ってこう
もしくは推しのために破滅していくオタク
なんならヘルシングのローマ