遺跡がなければ考古学が成り立たないわけではない。
ある出来事と、ある出来事。
場所と場所だけでなく、それらを時間軸で繋げて読み解くのが考古学だ。机上の二次元、フィールドワークの三次元に、こうした四次元の視点を加えるため、知識の反芻と整理は欠かせない作業である。
特にこの船が目指すのは、歴史の向こう側にある謎の島、ラフテル。どこにどんなヒントが隠されているかわからない。
まるごと百年という月日を空白にしても、時間の連続性は途絶えない。前後だけではない。なにも関連がないと見落とされたなにかが、必ず語りかけてくる。
それを信じて、今日も彼女は本を開く。芝生の甲板に、デッキチェアとパラソルを広げて。
服はビキニとパレオ。チョッパーのおかげで、日焼けもそれほど怖くはない。
下心満載なくせに、紳士で丁寧な料理人。意外にも慣れた気遣いを見せる、優しさに溢れた狙撃手。ニコニコと嬉しそうに手を貸してくれる船医。たまにしか承諾してくれないが、不器用な剣士。下手くそだけど、一生懸命な船長。
彼らにサンオイルを塗らせ、今日も優雅に人が紡いだ糸を解す。
年長組は巧み過ぎて腹が立つし、遠慮がなくてつまらない。ただ、新しく入った親分は面白そうだ。機会があれば試すとしよう。サングラスの奥で目を細めながら、彼女は考える。
本を手繰る手は止めずに。
こんなあからさまなまでに優雅に過ごすのも、理由がある。可愛くて頼りがいのあるクルーの誰かが、叱ってくれないかと密かに楽しみにしているのだ。
母に飢えた子供時代を過ごした彼女だが、あの島の考古学者たちは彼女を甘やかすだけで、父性を与えてはくれなかった。
船長の父親と知己になって、なんとなく生まれた憧れだ。船大工にも音楽家にもバレて、剣士も皮肉すら言わなくなった。
残るは船長か狙撃手か。彼女は狙撃手に熱い視線を送る。甲板を走り回る彼は、一味で一番の努力家だ。勇敢なる海の戦士として恥じない立ち回りをしながら、狙撃手としての仕事もする臆病で勇気ある男。
叱られたらどうしようか。剣士相手には露骨に感情を表にしてしまったものだから、悟られてしまった。
あまり怒ったり不満を言ったりしないので、想像だけが膨らんでいく。
もっとも、嫌われるのもイヤなので、能力でついつい手を貸してしまうことも多い。だからなのかちっとも叱られない。なんとなく寂しく思いながら、能力で咲かせた手に向かって礼を言うクルーたちを盗み見る。
本体ではなく咲いた手の方に笑顔を向けるクルーたちの横顔が、あまりに無防備で可愛くて、目的も忘れて手伝ってしまう。
手伝うことがないと、イタズラに手を染める。船長は麦わらを奪っても気にしなくなってしまったが、猫を誘うようにするとすぐに乗ってくる。
狙撃手はプンスカしながら飛んできてくれるし、料理人は一瞬裏切られたような顔をするのがクセになる。
船医も同じだが、船長と同じくムキになってくれるので面白い。
年長組は本当に甲斐がない。
剣士は隙があり過ぎてむしろつまらない。
やめないが。
本当に新人の親分が楽しみな逸材である。
遊んでいるようで、事実、遊んでいるのだが、彼女の研究は確実に進んでいる。もういくつかピースが揃えば、確信に至れる。
一つの航海が終わろうとしているのを感じる。
寂しさが広がるが、何事にも終わりはある。それに船長は死期を悟ったロジャーではない。無茶はしていても、まだ若いし、彼女も若い。少なくとも、ホネが本当にホネになるまでは、ずっとこのままでいられるだろう。
「ロビ〜ン。疲れた~。マッサージお願い」
なにより彼女がいる。海で隔てられた世界を地図で繋ごうとする、本物の天才が。
「ええ、いらっしゃい」
この甘えん坊は、勝ち気で、ワガママで、世話焼きで、姉であろうと背伸びをするくせに、すぐにカワイイ妹のようになってしまう。それに甘えてみたり、困らせてみたり、怒らせてみたり、そして存分に甘やかす。
なんて幸せだろうか。笑みが自然と溢れるのは。
母も故郷も失ったが、居場所はここにある。
いつか、あの優しい巨人に報告したい。
ワタシ、一人ぼっちじゃないわ。
楽しいとき