麦わら一味の日常   作:HIRANOKORO

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日常といえばこれなのに、今まで何を


掃除

 麦わらの一味の洗濯は完全に男女で分かれている。恥じらいや嫌悪とは無縁の、合理的理由によってそのように決められた。

 女物の方が値段が高くて扱いが難しいからである。

 下着一つとっても、連中のバカ力で洗われては一発でオシャカになるのは目に見えている。知り合う女性がことごとく立派だから忘れがちだが、それなりのサイズの上等な下着というのは貴重なものなのだ。

 単純に大きいというだけで、使う布や施される刺繍や加工の手間も増える。そこに性能まで乗せてしまえば当然だろう。

 とてもではないが任せようと思えない。

 また、量の問題もある。女性はタオルにすら拘るが、男どもは支障がなければ雑巾手前のボロ布でも平気で使う。

 使い捨てよりよいにしろ、どれだけ気軽に使っても、チョッパー謹製のよい香りがする柔軟剤を使ったタオルとでは、体積が違い過ぎて洗濯かごの容量に明確な差が出来てしまうのだ。

 なんだかんだ一緒の食卓を囲む関係で、臭いをそのままにしておけないきれい好きの支配する船。料理人に蹴り出され、航海士には見下され、年少組+ホネには囃し立てられ、船大工と学者が顔をしかめる。

 肩身の狭いことこの上ない。

 海賊船とはなにかを問い直したいほどである。

 よって人数差の関係でも、風呂の頻度の割に、実は男物の方が量が多いのが実情だ。

 数は少ないのに嵩張って場所を取るため、見た目はそうとわからないが、風呂をサボっている自覚もあって気がつかない船長と姑。

 そこを利用して得した気分になっている航海士を、微笑ましく見守る考古学者と料理人。

 専業主夫はかえって楽だと冷徹に計算し、パンツとアロハが普通の変態に興味はなく、骨格標本にとって服など人間であるためのアクセサリー。真面目な船医は疑わない。

 かくして船のルールは定められたわけだが、この少数一味にとって洗濯日和というのは貴重なものである。

 晴れているからと油断ならないのが、グランドライン。実は嵐を避けるために進路を変えて迂回していることもあるわけで、そうなると舵や帆の操作に忙殺されてしまう。

 そうして落ち着いて、労をねぎらい、風呂で汗を流すと、必然、さあ洗濯だとなるわけだ。

 分担はあれど、皆で甲板に揃ってタライを広げる。

 女性は二人並んで姦しく、その横でプロの顔をした狙撃手が洗濯板を構える。

 離れた場所では音楽家が掻き鳴らすバイオリンとともに、足揉みをする船長と船医。

 女性陣より軽いかも知れないこの3人は、まさにうってつけの人材である。

 盛大に水しぶきが舞うため、再び着替えることになるのは明白だが、楽しそうなので好きにさせる。

 ただし、距離は置いて。

 レストランや道場で修行した二人も、洗濯は慣れたものではあるのだが、器用で凝り性な狙撃手には敵わない。なんならウソップファクトリーは、ランドリーでもあるぐらい。

 なにげにキチンとしているのがフランキーだが、自分のブーメランを手揉みするのに忙しそうというか、哀愁が漂う。

 変態が普通のことをしたらいけないのだ。

 女房かという勢いで剣士の汗染みを始末するウソップ。濯ぎまで終えた洗濯物を、干すまでもないと固く絞る旦那。

 布が痛むため、頭をはたいてやめさせ、張り出したロープにかけていくサンジ。

 オシャレな一味を象徴するように、万国旗を張り巡らしたようなカラフルな甲板が出来上がる。

 そうなると、足揉みの終わった船長のワクワクが止まらない。

 ゴムの機動力を活かして、洗濯物をぶら下げたロープを高いマストや船首のたてがみに引っ掛けて、さらに船は賑やかになった。

 鷹揚な連中は笑っているが、航海士だけは大事な服が飛んで行かないかと気を揉んでいるようだ。アチラコチラの炎や修羅場をくぐり抜けた経験から、特に丈夫で見栄えのよい下着の大切さを身に染みているからである。

 切実ではあるのだろうが、船長にタンコブが増えただけだ。

 水滴を孕んで日差しを跳ね返す洗濯物を、同じぐらい晴々しく眺める狙撃手。

 こんなに輝く彼を知るのは、一味だけである。

 芝生の甲板は後片付けの労を少なくする。あとは天気任せと、それぞれに仕事へ戻っていく。

 一味総出の洗濯であるため、とめていた船を動かすべく、帆が広げられた。

 船長の機動力はここでも活かされ、あっという間に膨らんで船は走り始めた。

 実はこのセイルの少なさというのは重要で、帆が大きければ大きいほど、その船には力持ちで身軽な船員が揃っていることになる。一味の数が少ないこともあるが、傍から見るとこの帆のおかげで、麦わらの一味はものスゴい実力があるように見えた。

 間違ってはいないが間違っているのは、航行中の船を見ればわかる。

 船長が遊び倒す横で航海士と狙撃手が真剣に進路について話し合い、音楽家が煽り立てる後ろでは、夕食の下拵えが冗談のような量と速さで進められる。

 仲良くデッキチェアで寛ぐ医者と学者の向こうで、剣士はさっそく夢の中。船大工は船底に潜って職人仕事である。

 とんでもないスキルを持った一味であることは確かだが、船にとって一番メインである甲板員がいない。

 いないのである。

 なんならもっとも数が多くていいはずの人材なのだが。

 もちろん、能力者の乗る船であるから、一般的な海賊船と違っても当然ではある。

 見た目一番屈強な船大工が機関の面倒を見なければならないとしても、船医含めて一人で一つの帆を振り回せなくもない力の持ち主が揃っている。

 力は足りなくても、人手という意味でハナハナに勝る能力はないだろう。

 だが、仕方がないのだ。航海術も持たずに海に出る二人が結成した一味だから。

 当たり前に素人集団である。

 よそから見れば剣士が副船長のようだが、海賊団という船を基礎とした集団で考えると、長鼻の方が相応しいような気がしないでもない。

 なにせ、狙撃手として風を読み、航海士の指示を操船に反映しているのは彼なのだ。

 器用な手先を活かして、船大工の代わりに索具の管理をしたり、裁縫の腕を使って帆の修繕をしたり、よく気がつくので甲板に限らず率先して掃除をしたり。

 実質、一味の掌帆長は彼である。

 なんならルフィは麦わらの一味の司令官とか提督に押し上げて、サニー号の船長はウソップでいいんじゃないかと、みんな一度は考えた。

 ただ、この二人。今の関係がものすごく満足そうだし、幸せそうだしで、なんか大人の組織みたいな枠組みにはめ込むのが悪いような気もするのだ。

 だから、誰もなにも言わずに、眩しいぐらいの親友っぷりを愛でている。

 それでもたまに、両翼はウソップと膝を突き合わせて、この頼りがいのある弟分の価値とやらをわからせてやりたい衝動に駆られていた。

 望むのであれば自分が下についてもよいと言えるほどの男と認めているのだ。喧嘩の強さみたいな下らない理由で、風下にいるのが我慢ならなくなる。

 それを本職兄貴と、人生経験だけは豊富なはっちゃけコンビが牽制する。

 立場なんてものを自覚するのは、後でいいのだ。この船は夢を追う船である。それにその方が尊い。

 邪なだけの圧なら無視出来ても、流石にフランキーまでとなると行動に移せない。

 変態だし、変人だし、なんなら人間でもないかも知れないが、アレがダメだと言うことは本当にダメなことなのだ。

 別に話し合うわけでもないが、それが一味の共通認識だった。

 洗濯物を海賊旗よりも目立たせた船は、内情からして海賊らしくない。

 取り込むときにまた一悶着あるだろうが、それまではこの万国旗が麦わらの一味の象徴である。

 ブラジャーがデカい。 




キャプテン・ウソップはいつまでウソでいられるか
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