麦わら一味の日常   作:HIRANOKORO

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死の外科医、常識がクライシス


船長って?

 

「雑用だろ、どう見ても」

「ああ?」

 奇しくも同じ船に乗ることになった外科医は呟く。

 彼の目には、配下にしたはずの船員たちとロープを張り、狙撃手の指示であちこち走り回り、生えてきた腕と一緒にガム剥がしをする麦わらの姿が。

 時たま狙撃手や船員とイタズラしたり、事故を起こしたり、音楽に合わせて踊り狂うのは、まだ、別の船のことだと許容出来る。自分ところの船員と変わらないし。

 しかし、船員として見ればアレが船長とは信じられない。

 どちらかといえばボッチ気質の外科医が、今までこう、頑張って目指してきたというか、取り繕ってきたというか、背負い込んできたものが崩れていくのを感じる。

 かつてのような足元全てがなくなってしまう感覚とは違い、軽くなったような物足りないような頼りなさがあった。

「ロロノア屋も監視なら真面目にしろ」

「油断してるように見えるか?」

「ドヤ顔するなら筋トレ止めろ。気になるんだよ」

「暇なんだ」

「じゃあ、ちょっと離れろ!! そのデカいダンベル?! いや、バーベルなのか?! とにかく、そいつがオレの顔面をさっきからかすめてんだ!! つか、どうやってこの狭い部屋に入れたんだ、ソレ!!!!」

 自分の能力を使わないと無理そうな上、それを軽々と上下する様はなんとなく精神を削られる気がする。

「ウソップに頼んだら、こう……不思議扉だ」

「諦めんな!! もっと頑張れよ!!」

「おもしれーヤツだな。オマエ」

「バカは話が通じネェ!!!!」

 剣士大爆笑。外科医は絶望した。

「まあ、ウチの船長が役立たずなのは今更だ。オレらがいなきゃアイツは今頃生きてねぇのは間違いねぇ」

 似たようなもの同士な気がしたが、外科医は気を使った。

「二年前の戦争で大将に立ち塞がった海兵を覚えてるか?」

「新しい英雄か」

「アイツが海軍に入る前からの知り合いでな。あの時はオレらもアイツもまともに航海なんか出来なかった。今じゃ、あっちの方が腕はいいと思うぜ?」

「大佐クラスなら船を任せられることもある。よっぽど船長してるだろ」

「違いねえ」

 それで話が終わり、外科医は困惑した。

 なんか友達を自慢されただけで、疑問が何一つ解決されていない。皮肉のつもりが、どうも褒めたことになった感触がある。

 しかし、向こうがどこか満足げな雰囲気を醸すなかで、改めて蒸し返してよい話題なのか判断出来ない。

 年上か部下、話の通じない子供。そんなのばかりが外科医の人間関係である。一味の成り立ちとか、友人関係とか、ちょっと踏み込み先がわからない26歳。

 相変わらず、巻き込まれたら死にそうな筋トレの傍ら、酒瓶に口を付ける剣士は深く自分の考えに沈んでいるようだった。

「世界一の剣豪も、海賊王も、果てのねェ夢だ。命とか人生とか、そんなもん投げ捨てるような生き方で、海賊王に至っては他人を巻き込まずにはいられねェ。なのにオレたちは、海の渡り方も知らねえでそこを目指したんだ」

 自分語り。その、なんだ、困る。むず痒い。

「自分の力でそう成りたいとは思うけどよ。相応しい敵とか、行きたい場所とか、そういう、通過点みたいな、チャンスってヤツを与えて貰えんのは、有り難い話だとは思ってるんだ」

「自覚があるなら、航海術の一つも覚えりゃいいじゃねぇか」

 剣士は笑った。

「アレでも上達した方だ。この二年、海賊王の右腕と海賊女帝と海侠の3人がかりで仕込んだらしいからな」

 開いた口が塞がらない。ネームバリューもさることながら、その3人で歯が立たないとか逆にスゴい。むしろ、負けた気がする。気のせいだけど。

 しかし、確かに、船長の役割とは極論、進路を決断することだ。ふんぞり返っているだけで船を進ませるのはクルーの役割だ。

 今まで、手下どもを連れて行くという感覚だったが、実は連れて行って貰っていた、という視点は新鮮だ。

 そんなことを思う外科医は、真面目な男だった。その様子を肴に剣士は酒を呷った。

「とりあえず、筋トレか酒を止めろ。医者として気になる」

「なんか効果が薄まるんだっけか」

「知ってんなら、ヤメロ」

「ウチの船医がそんなことを言ってた」

「聞いてやれよォ!! 可哀想だろうが!!」

「飲みてぇ時に飲むんだ。誰かのために道は曲げねぇ」

「オマエのために決まってんだろが!! 医者ナメてんのか!!」

「病気になったこととかねぇし、怪我は自業自得だろ?」

「チクショウ!! コイツバカだった!!」

「オマエ、おもしれーな」

「嬉しくねぇよ!! 医者には従え!!」

「調子が狂ったらな」

「狂わせるかぁ!! 完璧に整えてやるわ!!」

「じゃあ、大丈夫じゃねぇか」

「こっちの調子が狂う!!」

 波、穏やかに、航海は順調である




麦わらという激流に角を削られていく死の外科医
こんな感じで仲良くなってく、剣士ペア
尊い
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