バーベキューは食事を楽しむものではない。それも含めた空間と時間を楽しむバカンスだ。
食べたいと思っても必ず焼くという工程を挟むため、その過程を楽しめなければ面倒なだけだ。
そのせいで、バーベキューには大きな悩みがある。量が足りるのか、余るのかだ。
ノッてしまえばいつもよりたくさん食べられるし、ゆったりおしゃべりを楽しんでいると余ってしまう。
気合を入れて用意はしてみたが、今回は少し余ってしまったようだ。
肉好きのルフィがいて何故と思うかも知れないが、自分一人なら生肉をそのまま食べるぐらい、彼は食に関心がない。
食べたいものを自分で用意するバーベキュー形式だと、いつもの積極性が鳴りを潜めてしまっていた。
もちろん、アレ食べたい、コレ食べたいとは言っていたが、それに付き合うウソップにも限界はある。もう食えねぇとなってゆっくりし始めると、ルフィもワガママは言わない。代わりにブルックが大回転だったが、彼のやり方では一串焼くのに二~三十分かかる。どうしても消費量は少なくなった。
「すまねぇな。余らせちまった」
「こんなもん、串に刺しただけだ。どうとでもなるよ。気にすんな」
想定外のことには対処しなくてはならない。
出来るだけ早めに消費しなくてはいけない食材が出たことは間違いなく痛手だが、食べてしまえばいいならそれだけのこと。
釣り上げたタイを刺し身にしたはいいが、ごっそり奪われて、残ったアラ汁と海鮮焼きでチビチビやってるアレが辛気臭いせいで、余ったのが肉や野菜だけではないのが悩ましいだけだ。
単にメニューをどうするかだけなのでどうでもいいっちゃいいのだが、なんか気にいらないのである。
確かに、釣り好きとしては獲物を余すことなく味わいたかったかも知れないけれども。実際、かわいそうだったけども。珍しくショボーンとしている剣士を笑ってはいたけれども。
「ご飯はあるのよね?」
「握り飯はハケたが、白米の方は残ってるよ」
「なんか作るのか?」
「ええ、久しぶりに」
考古学者が腕まくりをした。
剣士が抱え込む海鮮を取り上げ、キョトンとする彼にニッコリ笑顔を送る。さまよう右手も顧みず、揃った食材を小さく切る。
浅い鉄鍋にニンニク、オリーブオイルとそれらを入れて焼色を着けたら、一度上げてしまう。
炊き上げた米は水分が多いので、煮詰める手間を省くためにそのままの鉄鍋で飛ばしてしまう。
そこに再び具材を入れて、エビなんかを殻ごと突っ込む。
「パエリアか」
「そう、得意なの」
漁師めしであり家庭料理でもあるパエリアは、実を言ってコレといった作り方がない。
ないというより、どうやってもいいようなごった煮炊き込みご飯がパエリアだ。
水を入れて味を整え、出汁が出るのを待つ。匂いと音に釣られて、ロビンの周りには人が集まっていた。例外は、まだシェラスコしている音楽家。
「豪快だな」
「こんなものよ」
「へー、なんか面白いわね」
蓋をしないとか蓋をするとか、あーだこーだと拘りも深い伝統料理だが、だからこそ、その人やその時々で顔色が変わる。
本を読みながら出来る煮込みなんかをすることが多いロビンだが、この料理が好きだった。
「うまほー」
船長の関心も引けたようだ。すでにスプーンを持って臨戦態勢である。結局、あればあるだけ食えるのだ。
ジリジリとスープがなくなり、香ばしいお焦げの香りが広がる。鉄鍋を火から下ろして、ロビンは呼びかけた。
「さあ、お皿を出して」
一番に突き出した船長には、多めによそってやる。さっきまでお腹を抑えて満足げにしていた他のメンバーも、楽しそうに嬉しそうに皿を抱えていく。
「ん」
「ハイハイ」
剣士も同じだ。表情は仏頂だが、座った場所はさっきまでの片隅ではない。
「オレにもわけてくれるか? ロビンちゃん」
「一流料理人に出すのは恥ずかしいわ」
「イジワルを言わないでくれ」
口説いてくるコックをあしらいながら、鉄鍋にちょろっと骸骨分を残しておく。音楽家の方も、自分の焼き上げた串をクルーに配って回っていた。
「ロビンは食わねぇのか?」
「ワタシはいいわ」
「もったぃねぇ。コレ、すんげぇウマいのに」
作った本人である。だが、その言葉に嘘はない。
「オレのをちょっとわけてやるよ!」
医者が目を剥いている。大丈夫。熱はない。
「いいの?」
「みんなで食ったほうがウマいからな!」
それが全てだろう。スプーンに山盛りいっぱいが、ロビンの皿に盛り付けられる。
「オレのもわけようか?」
優しい医者に便乗して、次々と声がかかる。我関せずと、かき込んでいる変態とホネには見習ってほしい。剣士ですら手を止めて考えている。
「ええ、胸がいっぱいだわ」
楽しいバーベキューは、こうしてお開きとなった。
次行こ