麦わら一味の日常   作:HIRANOKORO

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アッサムとは似ても似つかん


紅茶王子

 船で使う食器は丈夫でなくてはならない。なんなら木でよい。

 しかし、食に携わるなら拘りたいものである。バラティエで培ったノウハウと努力で、それなりに気に入った皿を並べているサンジだが、本当のお気に入りは棚の奥に厳重に梱包してある。 

 航海士に一味の財産と認められたそれを磨くために、今日は取り出した。

「見事なティーポットですね」

「だろう? 蚤の市でたまたま見つけた掘り出し物だ。十倍出したって本来、買えない代物さ」

 注ぎ口と取っ手に彩金が施され、胴の部分には彫金が嵌め込まれていた。波を越えていく船を象ったそれは、航海の無事を祈るものである。

 紅茶用の背の高いもので、セットで似たティーカップがついていた。買った当時は金属部分が曇りついて汚らしい印象だったが、こうして手入れをした後は高級感のある色合いの割に、ポップで親しみ安い佇まいがある。

 アンティークなのか、少し使い込まれた雰囲気もあって、しまっておくのはもったいないようにも思える。

 それらの手入れをしている横で、一応気を使っているのか触れないようにしつつ、でもかぶりつきで見つめるブルック。

 角度を様々変えるので、ぴょこぴょこ、フラフラ。しまいにはサンジの手の中にあるカップまで至近距離で眺めるに至って諦めた。

「使ってみるか?」

「いいんですか?!」

 白々しい。だが、喜んでいるのでいいだろう。天にも昇る気持ちを表現するのに成仏しかかるのはアレだが。

「しかし、カップは四つしかないのですね」

「別に取り上げやしねぇから、何度かにわけて全員に振る舞ってやりゃいいよ」

「いえ、ルフィさんにこのカップはまだ早いでしょう」

 ちょっと驚いてブルックを見上げる。

「人生とは道程。相応しい道具、似合う服、み〜んな違うものですよ」

 なるほど、わからん。だが、なにかあるのだろう。どうせ答えないのだから、やることだけやればいい。

「まあ、ティータイムの用意は任せな。オマエは客の招待と、茶葉だな」

「実はワタシも私物として、一缶ありますが。古くてちょっとどうしよっかな〜ってもの、あります?」

「ああ、基本、ウチではあんまり消費しないからな。茶として出すのはどうかってヤツもある」

「あ、そういうのってどうしてるんです?」

「デザートやなんかの香り付けとか、手入れにも使うな」

「へー、そんな使い方があるんですねぇ」

「オマエはどう使うんだよ」

「えー、ネタバレですかー?」

「めんどくさいな、このジジイ」

「ヨホホホ」

「笑ってないで、そら。用意しといてやるから」

「お願いしますね〜」

 ホネはふわふわと身軽に、ダイニングを出ていった。

 たまにちゃんと生きてんのかなという動きをするのは、わざとなのか天然なのか。

「しかし、ティータイムか。腕がなるな」

 料理人はさっそく、準備に取りかかった。

 

 

 カップの数に合わせて客を招待するといっても、同じ船内の共有ダイニングを使うのだ。

 しかもサンジが腕を奮って、本格的なティータイムを演出してくれるとなれば、間違いなく美味しいものも食べられる。

 もはや、ちょっとしたパーティーのようになっていた。カウンターとソファにわかれて、一味が座る。

「ズルいぞ。オレもティータイムしたい」

「ええ、ワタシもそっちがいいわ」

 ソファ側で文句を垂れるのは船長と考古学者。それに便乗する愉快犯たち。珍しくゾロまでいたが、酒を呑んでいた。

「アナタ方、あんまり紅茶好きではないでしょう?」

「苦いからな」

「コーヒー党なの」

「ミルクティーは美味しいけど」

「なんか、かたっ苦しい感じがしてよー」

「ま、そんなもんでしょう」

 カウンターにはナミ、サンジ、ジンベエと、今回は厨房の中にブルックがいた。

「ワシがこっちでよいのか?」

「布教ですよ、布教。少しでもお仲間を増やそうと」

 ほうじ茶を好むジンベエは、茶には親しみがあるだろう。

「気分で飲むけど、こんな本格的なのは初めてね!」

「手は抜いてないが、こういうもんは気分で変わるもんだ」

 少し高揚した気分のままに、笑顔を見せる二人。後ろの方でブーブー言っているが、ティースタンドやケーキスタンドはテーブルの方に広げられていて、なんならその手にはすでにサンドイッチがある。

「ご面倒でしょうが、ちょっとお付き合い下さい」

 そう言って出したのはオーソドックスなゴールデンルールに基づいた紅茶。いつもとは違うカップやポットで入れて気分を変えても、味そのものに大きな違いはない。

「美味しいけど」

 しかし、ちょっと気取ったホネはいつもの姿勢のよい姿で語り出す。

「実は紅茶ってお茶の中でも一番不味いんです」

「いきなりなに言ってやがる」

「そりゃそうでしょう。茶葉の甘みやなんかも全部なくなって、若々しい香りも吹き飛んだ完全発酵。苦味しかありません」

 どことなく高級店のギャルソンのような振る舞いから、三人の前に並べられたジャムやミルク。

「だからこそ、自由です。自分好みを探究するのに、これほど向いた茶葉もありません。ゴールデンルールが大事にされるのは、ベースが均一な方がよろしいから」

 さあ、やってみろとばかりに広げられた様々なフーレバー。なにか特別なおもてなしを受けるつもりでいたのに、苦笑いが溢れる。それを楽しんでいる年寄りには、なおさら。

「なるほどのぅ。格式高いと思っておったは勘違いか」

「あ、ジンベエさんには別にお試し頂きたいものが」

「ほう?」

「でも、確かに。全部、サンジくん任せにしてたかも」

「気分なんかに合わせて、自分でやるってのも楽しみ方なのか。こりゃ盲点だったな」

「カップなんかも、そうやって楽しむのね」

「色々揃えたくなるハズだぜ」

「ヨホホ、さあ、そちらの皆さんも。とっても甘いものを食べた後なら、紅茶の苦味もちょうどよい口直しに感じるはずです」

 飛ぶようにカウンターから飛び出したブルックは、ソファの面々にも紅茶を入れてやる。

「飲みながらじゃなくて、食べてから飲むのか?」

「それもいいですね」

「自分なりのカスタムっていいよな」

「ナイショでいくつか持っておくとカッコいいですよ」

「砂糖とミルクだけじゃないんだ」

「チョッパーさんの好きなシロップも、たっぷり入れちゃいましょうねぇ」

「粋な飲みもんだな」

「奥が深いんです。たまにはよいでしょう?」

「コーラと合わせてみよう」

「ヨホホ! 合う茶葉だってあるかもしれません」

「負けないわ」

「ええ、ずっと争い続けましょう」

「酒にもいいな」

「アナタの場合は紅茶の方がフレーバーですねぇ」

 楽しそうに一味の中を泳ぐと、ブルックはカウンターに戻ってきた。

「そりゃ古い茶葉か?」

「別になんでもいいんですがね」

「いや、参考になるよ」

「ヨホホ! 歳は重ねておくものです」

 空鍋にそのまま茶葉を入れ、強火で炙る。煙が出るほどになったが、火を弱めるだけでそのまま炒り続ける。

 ダイニングに香ばしい香りが広がった。

「いい匂い」

「紅茶のほうじ茶か!」

「こんなのもよろしいでしょう?」

 先ほどの紅茶と違って、さっと入れたお茶をジンベエのカップに注ぐ。

「ワシはこっちの方が好みじゃな。ちょいと気分を変えて飲むにはちょうどええわい」

「日々の潤いは、ささやかな違いから生まれるものです」

「ハハハ、無精ではおれんな」

「スゲェな、ブルック! オレにも飲ませてくれよ」

「ええ、すぐにお入れしましょう」

 もはや、最初にわけたのも無意味になるぐらい、みんなテーブルでワチャワチャしている。

 そんな様子を眺めながら、ブルックは自分のために入れた紅茶を傾けた。




おじいちゃん好き
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