公式三つ目の棚
夜のくじ当番がたまたま、女性二人になった。一応は待機ということで、男部屋に集まった野郎ども。
女っ気なく、この聖域に全員が揃うのは珍しい。そして何故か誰も寝ていなかった。
「流石にフランキーとジンベエが並ぶとデカいな」
「なにげにブルックも長いからな」
「そうだな。高いとか細いじゃなく、長いだよな」
「どういう意味でしょう?」
本人たちもわからない。ただ満足である。
「誰も寝ねぇのか? チョッパーは大丈夫か?」
「昼間寝たから大丈夫だ」
壁に背中を預けたゾロの膝の上で、なにやら医学書を見ながら答える。
どことなく、居心地の悪い空気があった。暇つぶしにゲームをしようと言い出すわけでもなく、話題がポツリポツリと消えていく。部屋の角に、サンジがいたからだ。
「グフフ、ワノ国の美女ってのは色っぽいな〜」
「邪な雰囲気じゃ」
「ブルックはいいのか?」
「ええ、今は生の気分です」
「生ってなんだ?」
「遠慮しろよ」
「今頃、お二人は仲睦まじくカラダを寄せあっているんでしょうか?」
「それは生なのか?」
「斬るぞ?」
「ナミとロビンは仲いいからな~」
船長に視線が集まり、ホネがちょっと浄化された。
「男が集まっても猥談って雰囲気じゃねぇな」
「エロガッパは一人で十分だ」
「サンジ、それおもしれーのか?」
「あ? まずは見てみろ」
「なんなら、見慣れてんだよな」
「バカだな、ウソップ。なんの遠慮もなく眺められる女体と、我らがご神体たるナミさん、ロビンちゃんを一緒にすんじゃねぇ」
部屋の隅に三人で固まる。女性陣にはナイショで、公然たる料理人のロッカー。その新たなコレクションが、クルーに披露された。
「ジンベエ、禁欲はあんまり体に良くないからオレに言えよ。医務室使っていいからな」
「そうなのか? ワシはこの歳じゃし、あんまり苦労はないんじゃが」
「歳ったって、まだまだだろう」
「そうですよ。むしろ、男盛りでは?」
「うむ、どう声をかけたもんかの?」
励ますように、煽るように白い歯を煌めかせるサイボーグと、キリッとした表情を作る骨格標本。どちらもそうしたことには無縁なようで、そうでもないというか。
「戯言だ。気にすんな」
「むしろ、テメェはどう処理してんだ? 筋トレのやり過ぎで勃たねぇか?」
「元気いっぱいだよ。言わせんな」
「ヨホ! 羨ましいですね~」
「オマエは、いや、いい」
文字通り、第二の人生を歩む音楽家が楽しそうならそれでいい。剣の勝負とは違って、踏み込んでも勝てない。
「俺やアホコックはアレだ。心配なのはアイツらだ」
明らかに妖しい雰囲気を垂れ流している料理人に比べれば、無関心な背中。片一方はそれなりにはしゃいではいるが、隣と比べればあまりに健全。
不思議である。どうにも納得がいかない。
「どっちも異常はないぞ?」
「じゃあ、なんなんだ?」
「さぁ? オレは季節で発情するから人間の感覚はわかんないし」
「まあ、そういうのが薄いヤツもいる。アイスバーグも若い頃からそうだった」
「へぇ? モテそうなのにな、あのおっさん」
「兄弟分が色男だと、苦労する。おかげで色々経験は積めたがな」
「わかる。ワシもそうじゃ」
「へぇ~、ジンベエこそモテそうだがな」
「おや? 良いのか?」
「取られた」
部屋の隅では女性のあられもない姿を題材に、なにやらウケまくっている二人。
「なんなんだ? アイツらは」
「気にすんな。興味がねぇのさ。それより、ジンベエだ」
「といってもな。ソイツはさっさと身を固めよったし」
「ああ、アイツか」
「ワシはなんならアーロンよりも怖がられておったしの。それより子供の世話が好きじゃ」
「オマエはどうなんだ?」
「どうなんだって言われてもよ。ジジイにレディへの扱いを叩き込まれる前は、アホだったし。それからも、まあ、長続きするような付き合いはなかったな」
「思ったより不器用ですね」
「自覚はある」
「で、ゾロは?」
「あ? オレ? 来る者は拒まねぇよ」
「ウソつけ」
「バカらしくなってきやがる」
「ま、ものの分別がついとるだけじゃろう。むしろ、好ましいと思うぞ」
「ヨホホ! 色男ですねぇ」
「オレは、ミンク族にドキドキした!!」
「アイツらより、よっぽど大人じゃねぇか?」
「レディの扱い方ならきっちり教えこんでやる」
「駆け引きもな!」
「贅沢ですね~」
「ま、まだそんなんじゃねぇけど、家族が出来たらいいなぁ」
「そうだな。出来るといいな」
「応援してやるよ」
「ウン!!」
ほっこりしたところで、部屋の隅から二人がバタバタと立ち上がった。
「ゾロ! 立って、立って!! ホラ、早く!!」
「なんだよ?」
「フランキーも! こっちに並んでくれ!」
「あぁ? なにをしようってんだ?」
「いいから!! ジンベエはこっち! チョッパーは、ゾロの肩に乗れ!!」
「え? なんだ?」
「ブルックは、どうする?」
「一緒に並べちゃえ!!」
なんだかよくわからないが整列させられ、なんならポーズを取らされ、服まではだけさせられれば、手にした雑誌を再現したいのだとわかる。
だが、この面子である。なにが楽しいのかわからず、戸惑いながら指示に従った。
「こんな感じでムキッとしてくれ!」
どう見てもムチッとしているが、なんとなく筋肉を盛り上げる。すると二人は床にうずくまり、彼らを見上げて言った。
「雄っぱい」
おそらく、迫力だけなら世界トップレベルのグラビアだろう。
年長組の顔に影が。両翼のコメカミに血管が浮かぶ。
「アンタらなにしてんの?」
そのタイミングで交代の時間がやってきた。いつか体験したロギアよりも冷えきった視線が注がれる。
その足元では笑い転げるバカコンビといかがわしい本。彼らは息も絶え絶えに、伝えた。
「雄っぱい」
ロビンが口元を抑えて走り去る。ナミは言葉もなく、ただその光景を眺めた。
「貧相なカラダですいません」
「そういう問題じゃねぇ」
よろしいか?