「しまったな。あと先考えず、潰しちまった」
「オレが持ってきた資料と、アイツから聞いた話から推測しよう」
「面倒だ。だが、ヒントがないわけじゃない」
「鬼ヶ島かこの城に少しでも残ってないかな? 欠片でもいいんだ」
「探させましょう」
「要は中毒だ。パンクハザードのガキどもよりは楽だろ」
「えびす町のみんなをあの時みたいに切り刻むのか? 出来るならいいけど、この国の病巣はそれだけじゃないみたいだ」
「工場の廃液か。そっちも深刻だな」
「ウチのクルーも患者だ」
「なんでこの短い期間に」
「しかも自覚がないんだ」
「バカってスゴいんだな」
「鈍いのか無事なのか、診断が大変だ」
「まあ、仕方ねぇ。言っても無駄なのは理解した」
「トラ男は船長なのに、話をちゃんと聞いてエラいな!」
「比較対象がアレじゃあ、喜べねぇよ」
「なんでだ?」
「オマエ、ウチ来る?」
「トラ男こそ仲間になってくれたら嬉しい!!」
「アイツらの制御役は割に合わねぇよ」
「バカは治らないけど、ダメなら治せる気がするんだ。だから、きっと大丈夫だ」
「きっとの意味がわからないし、仲間になる気もねぇ。とにかく、探すぞ。鎖国してるなら、国内で自給出来なきゃな」
「量も、数も、期間も重要だ」
「しかし、ある意味、悪魔の実の効力を無効化するのか」
「不可能じゃないハズだ。オレのランブルボールはそこに働きかける。なら、逆も出来る」
「不可逆かも知れねぇ」
「それでも症状は抑えられる。どんな悪魔の実も、なにかを変化させることが基本的な効能なんだ。促進出来たんだから、抑制も可能だ」
「なるほどな。それはそうかも知れねぇ」
「なんにしろ、科学で生み出されたんだ。どんな形であれ、解決方法は見つかるハズだ。ウチの船長は、神だってブッ飛ばしたんだ。オレは悪魔ぐらい制御出来ねぇと」
「船長はともかく、オマエはいい医者だな」
「トラ男も、外傷の処置はスゴい勉強になったぞ。ルフィの胸の傷も、二年前じゃ手が出せなかったかも」
「まあ、これでも外科医だ」
「ウチのクルーは病気とは無縁だから、やっぱりトラ男の方がいいのかな?」
「馴れ合うな。この島を出たら敵に戻る。オマエがちゃんと医者をしろ」
「無理だぞ? 敵になったぐらいで、ルフィから逃げるのは」
「なんなんだ、オマエの船長は」
「世界で一番自由なヤツ?」
「ワガママっつうんだ」
「でも、たいがい、船長ってそんなもんだろ? マムもカイドウもそうだし」
「オレは違う」
「え?」
「心底、不思議そうにこっちを見んな!」
「キッドと合わせて、似た者同士だぞ?」
「一緒にするな!!」
「え?」
「だから、その顔やめろ」
「なあなあ、ここで別れるならペン交換しないか? それ、ベポか?」
「ダメだ」
「じゃあ、ウソップに見せてくれよ。多分、作ってくれるから」
「なんなんだ、オマエの一味」
「自慢の仲間だぞ!!」
万能の男が困惑する万能さ。
この国にはちょうどもう一人、名高い医者がいる。
「慢性疾患の治療かよい」
「一応、経験はあるだろうと思ってな」
「人がいいな。この国にゃ縁はあっても、義理はないだろうによい」
「でも、出来ることならしたいんだ」
そう言って見上げるトナカイを抱き上げ、肩車するマルコ。あまりに自然なお父さんムーブに、ローがびっくりした。チョッパーは、違和感すらもてない。
「治療法も大事だが、まずは治療院なり療養所なり、腰を据えて患者の面倒を見れる施設が必要だよい。長期治療なら、医者が生活を管理しねぇと」
「そうか! みんな言うこと聞かないもんな!」
「逃げ出す患者を閉じ込めるんだな?」
「物騒だな。苦労してんのはわかったが、そういうことじゃねぇよい」
心当たりがあるのか、楽しそうに笑う。
「長い治療ってのは、その間きっちり面倒を見てやらないといけねぇ。そのための体制は、費用から研究まで全部纏めちまうのがいい。オマエらもナワバリを持つようになるとわかるよい」
「なるほど。どうせオレたちはこの国を出る」
「薬だけ用意してもダメなんだ」
ちょっと落ち込んだ様子を見せる若い二人。こんなもの躓きでもなんでもないのに。
「その辺は新しい将軍に任せるとして。どんな症状なんだ?」
「心配してた重金属中毒は少なかったんだ」
「この国の鉱山は質がいい。余計なもんは混じってねぇし、なにより技術が高い」
「問題はスマイルだ」
「ああ、ひでぇもんだ」
「人造である以上、なんとか出来ると思うんだ」
「トニー屋も薬である程度、手を加えてる」
「急ぎ過ぎだよい。まず、病変はどこなんだ?」
不意を打たれたような二人。人造とは言っても悪魔の実。症状をただ現象として扱っていたことに気づく。または、原因物資から逆算しようとしていた。
「スマイルは体の一部を動物に変えるだけで、オレらみたいに好きに変身出来るわけじゃない。悪魔の実が起こす現象ってのはロギアに限らず、ある種の流動性があるんだよい。それが不完全なせいで固定化されてるなら、感情表現の固定化も似たメカニズムかもな」
診察によってデータを集め、そこから仮説を立て、検査によって確定する。内科診療の基礎だ。マルコは現場主義の職人型だが、この二人は研究者タイプかも知れない。
どちらがどうということもないが、そもそも内科は経験がものを言う。今回は時間がない焦りから、得意に流れたのだと思う。
「なんらかの麻痺と考えるには、たるみや不自然さもない。感情そのものは変わりなく存在する。だが、感情とは関わりなく、常に笑顔。カナヅチみたいに筋弛緩を伴う特殊な条件反射とも違う。単純な自律神経の失調ではないよな?」
「大脳基底核を調べるべきだな」
「笑いの発作だと側坐核だ。あそこが興奮状態だとそうなるって論文で見た」
「なんなら外科的に解決可能かもしれねぇ」
「だから、急ぐなよい」
ちょっとしたヒントから即座に仮説を組み立てていく二人に、笑いながら冷水を浴びせる。
「治療ってのは技術だ。オマエらだけが出来ても、オマエらしか救えない。そして、この国の人間を助けたいのは、オマエらよりもこの国の人間だろうよい」
不満そうな顔を見せるが、マルコは気にしない。
「ゆっくりやるしかないんだよい。オレら医者にとっちゃ、毒も薬も同じなんだ。一つずつ確かめて、そうやって積み重ねないとクイーンみたくなっちまう。どうだ? 安易にバラまいたウィルスと薬。どっちもヤバいだろう?」
「それは」
「だが、オレの能力なら時間を短縮出来る」
「じゃあ、助けてやんな。あんまり欲張るなって言ってるだけだ」
「そうだな。ちゃんと臨床もしないとな」
「ワリぃな不死鳥屋。少し、焦ってた」
「取り戻してやるのは、健康とか以前の生活だ。治療ってのはそのための方法でなきゃいけねぇ。年寄りの説教じみた話が役に立ったってんなら、嬉しいよい」
「とんでもねぇ。流石の見識だ」
「マルコはスゴいな!! これだけでだいぶ進むぞ?!」
どっちも育ちがいいなとは口にしなかった。チョッパーを手渡しすると、受け取った後に疑問を覚えていて笑った。
あれこれ議論しながら去っていく新時代を見送る。
ついに、自分の手では果たされないものを思いながら。
締めが気に入らないので加筆修正