この航海で船長は海賊王になり、剣士は世界一の大剣豪になる。きっと万能薬にも、勇敢なる海の戦士にもなれて、オールブルーも見つかる。
世界の果てで真実は知れて、約束も義理も果たされる。
そうに違いない。
だが、自分の夢だけは叶わない。
海図というのは、とても地道な作業の上に成り立つものだ。詳細な測量がなければ書けない。
サニー号はいい船だが、測量船ではない。
一度の航海どころか、何日も何回も、同じ場所をグルグルしないといけない。魚人の協力があって、彼らが求めていても、あの村の周辺が精一杯だった。
世界地図ともなれば、グランドラインだけを行っても仕方がない。故郷である東の海ですら、行ったことのない場所はいくらでもあった。
この航海で世界地図など書けるはずもない。
でも、構わない。自分はいい女だし、男の夢に付き合って、それを手助けする器量もある。世界を見る、そのついでに、その程度の夢など全部叶えてしまえばいいのだ。
そうすれば、文句も言わないだろう。引きずり回してやる。世界中を旅するのだ。
もちろん、この航海で何もしないわけではない。
海流や風の記録。渦潮の発生場所。鳥たちの軌跡。
海図を書くための材料はいくらでも集まる。
何より、その島で作られた海図が手に入る。これが重要だ。
どうして航海がこんなに難しいのか。
磁石が役に立たない。
天候が厳しい。
海流が不規則。
その通り。
だが、海図はそうした困難を乗り越えるためのものなのだ。だから、海図がないことこそ、世界がこんなに分断されている理由である。
助けを待つことすら出来ない、そんな世界の原因なのだ。
それでも、世界政府が成り立つのは、加盟国の間であればそれなりに行き来が出来るからだ。
行き来を支えているのは海軍である。
母が海兵、まあ、父が駐在である彼女は知っている。海軍の地図だけが、全てマリージョアを基準に書いていることを。
仕方がないのかもしれないが、それぞれの島の地図や海図というのは、その島を中心に、その島の基準で書かれている。ものスゴい簡単にいうと、北がみんな自分基準なのだ。
だから、ある島の海図とある島の海図を繋げても、実際は全然違う場所を示していることになる。
逆に基準点さえ揃えれば、その間が何もわからなくても繋がることが出来るのが地図だ。
クルーに説明しても無駄なのでかなり勝手だが、少なくとも図書室が出来るぐらいには資料が揃った。
後は自分の知識と腕で、それを海軍式に書き換えるだけだ。
そして、その海図さえあれば、ログポースなどなくとも航海してみせる自信がある。
だって、航海は方位磁石だけに頼るものじゃない。便利ではあるけど、方角を知る方法は一つじゃないし、自分の位置を知る術だって心得てる。
ログポースだけに頼る航海がおかしいのだ。
まあ、気がついてるクルーはいるかもしれないけど、世界を最も変革させるのは自分だと自負している。
技術も真実も、強さや便利さも、人の意志や覚悟が、きっと世界を変えるんだろうけど。
人の繋がりだけがこの世界を広げてくれる。
「ああ〜っ! 疲れたァ! ロビンー」
「お疲れ様。休憩にしましょうか」
気づいているだろう一人が、読んでいた本から顔をあげる。その笑顔に嬉しくなる。
「今日はどうしよう? 甘いカフェオレ? それともミルクティー?」
「好きなのをどうぞ、お姫様。きっと、どれも美味しいわ」
「だから迷うのよね〜」
姉のような、母のような、大切な親友と腕を組みながら部屋を出る。
甘えさせてもらうわ。
だってみんな、ワタシがいなきゃ目的地になんか着けないんだから。
せいぜい機嫌をとって。
助けてあげるから。
惚れる