エルデの王は迷宮で夢を見るか?   作:一般通過あせんちゅ

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ラニ様を書きたかった


眠れる王(私の王)

「あー……この廃教会とかいいんじゃないかな?」

 

 オラリオをぶらぶらと歩いていた褪せ人は、誰が見ても人は住んでなさそうな教会を発見していた。なにせ教会自体は崩れていないが、周囲の建物がボロボロに崩れているのだ。しかも周囲に人の気配すらもなく、草木が生い茂っている。完全に人が住んでいなさそうな割に、しっかりと雨風を凌げそうな場所を発見できたことに安堵の息を吐いた。

 

「狭間の地にある教会はどれも酷かったからなぁ」

 

 狭間の地に点在するマリカ教会や竜餐教会は、どれも天井が全く存在していなかった。壁も穴だらけでまともに教会としての形を保っていたのは美しく作られた彫像だけ。彼女の知っている教会は雨風凌ぐこともできず、たまに誰かが侵入してきて命を狙ってくる場所である。

 ようやく腰を落ち着ける場所へとやってきた彼女は、教会の端っこに座り込んだ。黄金樹のない世界では祝福など存在しないため、安全に座って休めるところなどないと思っていたが、そもそもオラリオは治安が悪いと言っても狭間の地程ではない。旅をしていた最中でも、不戦の誓いが存在した円卓以外ではまともに休むこともできなかった褪せ人は、人気のない廃教会で目を閉じた。大いなる意志の身勝手な理由で走らされ、他の褪せ人と違って不死であった彼女にとっては、随分と久しぶりの睡眠だった。

 

「たっだいまー……て、誰もいないんだけどね」

 

 褪せ人が目を閉じて意識を飛ばしてからしばらくした後、麗しい黒い髪を二つ伸ばした女が廃教会へとやってきた。手には謎の食物を手に、上機嫌な足取りのまま廃教会の奥の扉に手をかけたところで、端っこで眠っているその存在に気が付いた。

 

「……人?」

 

 真っ黒なフードに真っ黒なローブで眠っている存在に、女性と呼ぶには少し幼い女は近づいた。彼女の名はヘスティア。褪せ人が迷宮で出会った少年の主神であり、この廃教会を拠点にしている【ヘスティア・ファミリア】の主である。根っからの善神であるヘスティアは、もしかしたら怪我でもしているのではないかと思いながら眠っている褪せ人に近づいて、手を伸ばしたところで止まった。

 

「私の王に触れる気か?」

「っ!? い、いつの間にっ!?」

 

 触れる直前に聞こえてきた声に振り向いたヘスティアは、真っ白なローブに魔術師然とした大きな帽子を被っている存在に驚き声を上げたが、目の前の存在が人間ではなく人形であることに気が付いて目を見開いた。

 

「に、人形が動いて喋ってる?」

「……不躾な視線だな。神たるお前が何故、私の王に触れようとする」

「わ、私の王?」

 

 ヘスティアの頭は混乱で満ちていた。いつも通りバイトから帰ってきたら、住んでいる教会に知らない人が眠っていると思えば、心配して手を伸ばすと全身から静かな怒気を放つ薄水色の喋る人形が背後に立っていたのだ。

 

「まぁいい……どのみち神など碌な存在ではない。消しておくか」

「ちょ、ちょっと待ってーっ!? 確かに下界(した)に降りてきてる神はロクデナシばっかりだけど、ボクはそうでもないよ!?」

「知らん。神など全て同じだ」

 

 目の前にいる存在はどうやら神に対して途轍もない嫌悪感があるらしい。ヘスティアは今までの会話で大体を理解した。動いて喋る人形が生物なのかは理解できないが、目を見て話せば下界の人間たちが嘘をついているのかどうかを見分けることができる神の目に、目の前の存在は引っかかっていない。正確に言えば、神にも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ? ど、どういうことだい?」

 

 嘘を見分けられない相手ということは、同存在である神以外には存在しない。しかし、ヘスティアは神の世界でも人形の身体をした神など見たことがない。

 ラニは目の前の神が慌てている様子を冷たい目で見降ろしながら、四本ある腕の一本を動かして魔力を集中させていた。冷たい星と月の魔女たるラニの扱う魔法は、カーリア王家の魔術である。腕の上に浮かび上がる冷たい青色の刃を目にして、ヘスティアは悲鳴を上げていたが、その背後にいる褪せ人がゆっくりと起き上がってヘスティアの肩に手を置き、自分の方へと引き寄せた。

 

「…………なにをしているのか、聞いておこう。私の王よ」

「悪い神じゃなさそうだし、まだ何もしてない」

「違う。何故、私以外の女を腕に抱いているのか……その言い訳を聞こうと言っている」

「あー……」

「え? え? そういう関係?」

 

 ヘスティアを腕の中に抱き、外敵から守るようにしている褪せ人を見て、ラニは表情が消えて冷たい殺気を放っていた。ヘスティアはラニの言葉を聞いて、二人の顔を何回か往復してから顔を赤らめた後、褪せ人は一先ずヘスティアを放した。

 

「まさかこんなボロボロな教会に住んでいる人がいるとは思わなかった。謝らせてくれ」

「ボロ……確かに人が住んでいるとは思えない……」

 

 褪せ人はラニから露骨に目を逸らしながら、ヘスティアに対して謝っていた。ヘスティアとしては自分の愛する眷属と過ごしている愛の巣なのだが、外から見れば人が住んでいると思えない廃墟であるのは間違いない。

 

「すまない。私たちはもう行くよ」

「う、うん……君も気を付けて……って、流石にボクの心が痛むよ。好きなだけいてくれて……も?」

 

 ヘスティアは根っからの善神であり、住む場所がないという事情を聞いてそのまま追い出すような精神はしていない。故にヘスティアはラニのことを怪しみながらも滞在許可を出そうとして振り向いた瞬間、固まった。なにせ、さっきまでそこにいて会話していたはずの存在が二人とも消えていたのだ。まさか幽霊だったのではと思い始めたヘスティアは、顔を青くしながら地下室へと入っていった。

 ここでヘスティアはあることに気が付いていなかった。ラニという理解不能な存在を前に困惑していた状況に、追加で殺気を向けられたから仕方のないことではあったのだが、彼女が『私の王』と呼んでいた人物もまた、嘘かどうか判断できない存在であったことに気付くことなく思考の隅に追いやったのだ。

 

 


 

 

「良かったの? 善神だと言うのなら住まいを提供でもしてくれそうなものだけど」

「遠慮しておくよ……ラニに嫉妬されると敵わないからね」

「……口を慎め」

「痛い」

 

 ラニは少しだけ頬を染めながら褪せ人の、自らの伴侶の腕を抓った。






(褪せ人に名前は)ないです

物語進めにくいからそのうち付けます

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