エルデの王は迷宮で夢を見るか?   作:一般通過あせんちゅ

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正体不明(アンノウン)

「え?」

 

 ダンジョンで出会ったミストルテインという女性の情報を聞くために、ギルドへと訪れていたベル・クラネルは、向かいに座っているハーフエルフのギルド受付の言葉に上手く返事ができなかった。茶髪のハーフエルフであり、冒険者ベル・クラネルの担当者であるエイナ・チュールの言葉はベルには上手く理解できなかったのだ。

 

「……ベル君、その人とは本当にダンジョンで出会ったのね?」

「は、はい。間違いないですけど……どういうことですか?」

 

 険しい表情でベルの話を聞いていたエイナは、一度ため息を吐いてから資料を取り出した。そこには冒険者登録された人間の名前がつらつらと並べられている。名前の上に線が引かれている者は冒険者ではなくなった、あるいはその命を落としたかのどちらかである。

 

「ここには今、オラリオの冒険者ギルドに登録されている全ての冒険者の名前が記されているわ」

「名前、ですか」

「名前だけだから、所属ファミリアもレベルも性別すら載ってないわよ」

 

 見せられた資料は何枚も積み重なっていて、ベルが全ての名前に目を通すことはできなかった。しかし、エイナが何を言いたいのかだけはベルにも理解できていた。

 

「そのミストルテインという人は、少なくともギルドが認知している冒険者ではないの」

「で、でも……あの人はサポーターなんかじゃないですよ?」

「サポーター、ね……オラリオにいるサポーターの殆どがしっかり神の恩恵(ファルナ)を持っている冒険者登録された人間。つまり、サポーターもこの中には載っているの」

「じゃ、じゃああの人は……」

 

 ベルの震えたような声にゆっくりと頷いたエイナは、自身の予測を口にした。

 

「ベル君が出会った『ミストルテイン』という人物。ギルドに登録されていない神の恩恵を与えられた人間と考えるのが妥当よ」

 

 その言葉にベル・クラネルは息を吞んだ。オラリオの地下に存在するダンジョンに挑むために、必ずしも冒険者登録をする必要がある訳ではない。ただ、登録すればギルドの講習として知識を得られ、魔石を換金するにもギルドに出入りする必要がある以上、余計なトラブルを生まないために冒険者登録はほぼ必須となっている。

 

「ベル君の言っていることが本当なら、Lv.2に到達していてもおかしくない実力者。秘匿されているとなると、色々と問題だわ」

「……そうですよね」

 

 ベル・クラネル個人としては、ダンジョンで出会ったあの金髪の騎士が自分の存在を隠している冒険者にはとても思えなかった。ダンジョンを堂々と歩き、襲い掛かってくるモンスターを蹴散らす姿は、彼が憧憬を抱く少女と似たような姿であった。

 

「一応、容姿を細かく聞いてもいいかしら?」

「……はい」

「ふふ、安心してベル君。君を助けてくれた人を罰するとか、そういう訳じゃないんだから」

 

 実際、レベルアップした眷属を秘匿することはギルド的にはグレーゾーンだが、そもそも最初から冒険者登録されていない人間ならばレベルアップの報告をする必要もない。ルールの抜け道を使ったような術だが、全てのファミリアに対して中立であるギルドが明確な違反をしていない人間を罰することはできない。

 

「銅色って言えばいいんですかね……そんな色をした騎士みたいな鎧を全身に着ていて、兜を取ったら金髪に灰色の目をしてました」

「金髪に灰色の目、銅色の騎士風ね。それ以外は? 使っていた武器とか」

「武器……」

 

 エイナの言葉によってベルの頭に浮かんできたのは、銀色の細い杖と、ゴブリンやコボルトを一撃で消し飛ばした青い大弓の魔法であった。それをそのまま言葉にしたベルは、直後に固まったエイナの姿を見て自分がなにか変なことを言ってしまったのではと慌てていた。

 

「な、なんでもないよ、なんでも……そ、そうだ! ベル君はダンジョンから帰ってきたんだし、ステイタスを更新してもらうといいと思うよ」

「は、はい……え?」

「こっちはもう大丈夫だから。気を付けてね」

 

 急に態度が妖しくなったエイナに首を傾げながらも、ベルは言われた通りに【ヘスティア・ファミリア】のホームへと向かっていった。

 

「魔法も扱う非登録者、か。上に報告した方がいいかなぁ……」

 

 担当している冒険者であるベル・クラネルには罰することはないと言ってしまったが、その者がオラリオで活動する闇派閥(イヴィルス)の疑いが晴れない以上、エイナは完全にその人物を信用することはできない。しかし、ベル・クラネルの命を助けながら、彼の成長を全く邪魔しようとしなかったことからエイナ個人としては善性を信じたかった。

 

 


 

 

「……ギルドの換金って冒険者じゃないとできないのかな」

 

 ベル・クラネルと共にダンジョンを駆けていたミストは、少量の魔石を手にしながらギルドの前に立っていた。オルドビスのコスプレ装備を脱ぎ、黒き刃の装束を身にまとっているミストは、ギルドの受付と幾つか話しながら換金している冒険者たちを眺めていた。

 

「冒険者を統括しているのならば、できないのではないか?」

「やっぱりそうかな?」

「……この街の治安ならば幾らでも闇商人がいるだろう」

「あ、そっか」

 

 ラニの言葉に納得したミストは、資料を抱えたまま歩く茶髪のエルフとすれ違いながら裏路地へと入っていった。





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